サルバ=ラズール
「やあ、少年。俺の名はサルバ=ラズール。この国の第二王子だ。広大な砂漠でこうして会えたのも何かの縁。俺たちと仲良くしようじゃないか」
どこか胡散臭い笑みを浮かべながら堂々と名乗ったサルバという男。
貴族かそれに準じる地位にいる人かと思いきや、もっと上の王族だった。
なんでよりによって王族なのか。どうしてこんな砂漠のど真ん中に王族がいるのか。色々と突っ込みたいことがたくさんあるが、相手が名乗った以上はこちらも名乗らないと失礼に当たる。
「アルといいます」
「うん? ただのアルなのかな?」
「はい、ただのアルですよ?」
「……そうか。なら、そういうことにしておこう」
今の会話は意訳すると、「お前、平民じゃなくて貴族だよな?」「いいえ? 私はただの平民ですよ?」ということになる。
どうしてバレたんだろう。
俺はエリノラ姉さんやシルヴィオ兄さんのように気品に溢れているわけでもないので、パッと見て貴族に見えないはずなのになぁ。
初対面から油断のならない男性だと感じた。
「こっちは護衛のシャナリアだ」
「シャナリア=キルフシュールだ」
シャナリアと名乗る女性は、サルバと違って警戒心を解いていない。
どこか硬い口調で述べた。
「さっきはシャナリアがいきなり剣を向けて悪かった。なにせ、俺が王族な上に、彼女がまったく感知できなかったからな」
「……あんな距離にいたのに気付かなかったとは不覚」
おかしそうに笑うサルバと、どこか悔しそうに呟くシャナリア。
王子の護衛として評価するなら、すぐ傍にいた俺に気付かなかったは失態だろうな。
それが本人もわかっているから悔しいのだろう。
うーん、俺は寝転んでいただけで、別に隠れていたわけじゃないんだけどなぁ。
いきなり妙なわだかまりができたような気がするがしょうがない。
「ここにはたくさんの遺跡があるんですか?」
「ああ、この辺りには大昔の文明があってな。そのほとんどは壊れ、砂で埋もれてしまっているが、ここのようにいくつか綺麗な状態で残っているものがあるんだ」
ほう、やはりこの辺りには文明があったようだ。自分の推測が当たっていて少しだけ嬉しい。
「へえ、そうなんですね。いいですね、遺跡調査」
「まあ単なる暇潰しだがな。遺跡を調査しているとでも言っておけば自由に出歩けるし、何か発見でもあれば功績にもなる」
適当に相槌を打っていると、サルバがぶっちゃけた。
傍にいるシャナリアは頭が痛そうにしているが、もはや注意することもなかった。
ということは、これがサルバの通常運転なのだろう。
……この王子、思っている以上に自由で適当だな。
「それでアルは何をしているんだ? おっと、日陰で涼んでいるのはわかっているぞ?」
「香辛料を買うためにラジェリカに向かう途中でした」
「……ほう? 一人でかい?」
「そうですけど?」
「そうかそうか」
そう答えると、サルバの笑みが一層と深くなった気がする。
なんだか非常に嫌な予感がする。
正直、転移でやってきているので、あまりお偉い人の目には止まりたくない。王族なんかとかかわってしまったら、今後どのような影響があることやら。
「それじゃあ、俺は行きますね」
「待て待て」
面倒ごとを避けるためにさっさと退去しようとしたが、サルバに呼び止められてしまう。
「なんです?」
「俺たちもちょうどラジェリカに戻ろうと思っていたところだ。せっかくだから一緒に行こうではないか? 砂漠は子供が一人で歩くには危険過ぎる」
にっこりと人のいい笑みを浮かべながら提案してくるサルバ。
正直、迷惑以外のなにものでもない。俺には転移で移動することができるからだ。
しかし、人目があるとなれば別だ。転移を使って移動することはできず、サルバ達に合わせて移動するハメになるだろう。
向こうは砂漠に慣れているし、時間だってたくさんある。
しかし、俺は屋敷を抜け出して、やってきているのだ。夜までには戻らないと、家族に怪しまれることになる。
この展開は非常にマズい。
「いえ、お気持ちだけで結構ですので……」
「いやいや、砂漠で出会った少年を一人で行かせたとあっては、第二王子としての評判に傷がつく。ここは俺のためにも同行してもらおう」
「ええー」
確かに俺は戦えるように見えないし、砂漠の中を横断するには危険だと思うがそれは自己責任だ。
王族としての評判云々も、目撃者もいない中で出回るものなのだろうか?
正直、この人の考えていることがわからない。
一つ、わかることがあるとすれば、どんな理由をつけてでも俺に付いてこようとしていることだ。
多分、ここで反論してもなにかと理由をつけてくるんだろうな。下手したら王族の権利とか使われそうだ。
「わ、わかりました」
「うむ。なら、早速と向かおう」
俺が頷くと、サルバは機嫌良さそうに笑って歩き出した。
どうにかして夜がくるまでにコリアット村の屋敷に戻らないと。
◆
サルバとシャナリアに同行されることになった俺は、ギラギラと日光が照りつける中、砂漠の中を進んでいく。
勿論、今までのように転移ではなく徒歩だ。
にしても、しまったな。まさかこんな砂漠で人に会うことになるとは。
しかも、相手はこの国の王族ときた。お陰で転移を使うこともできない。
こんな途方もなく広い砂漠の中を徒歩で縦断なんてゴメンだったというのに。
夜がくるまでに屋敷に帰れるだろうか?
まず確かめるべきことは、ここからラジェリカまであとどれくらいかかるかだ。
「シャナリアさん」
「なんだ?」
「ここからラジェリカまでどのくらいの時間がかかります?」
見たところサルバもシャナリアもズオムに乗ってきていないと言う。となると、ラジェリカまではそう遠くない距離にあるのではないかという俺の推測だ。
半日で行ける程度の距離であれば、夜までに屋敷に戻るのも不可能ではない。
街についた途端に王族相手にすぐ別れられるかという疑問はあるが、そこはもう無理矢理にでも離れて転移すればいい。
まあ、今でもやってしまえばいいんだけど、できれば怪しまれるような事は避けたいもの。
「直線的な距離にすると一日もかからんが、天候や魔物の数によって左右されるな」
「つまり?」
「半日から場合によっては三日以上かかることもある」
「なるほど」
砂嵐や魔物のことを考えると、最短距離を突っ切るわけにもいかないか……。
しかし、これは朗報だ。なにせ、ここからラジェリカまで最短距離で半日程度ということ。
つまり、迂回したりしなければ夜までには屋敷に帰ることができるというわけだ。
「何故、そのような事を聞く? 砂漠を一人で旅していたのなら、それくらいわかるだろう?」
うっ、それもそうだ。砂漠を一人で移動するのであれば、その程度の計算はできて当然だ。
さっきの俺の問いかけは、あまりにも平和ボケし過ぎたものである。
「ラジェリカまでの道は初めてだったもので」
「砂漠で初めてのルートを一人で突き進もうとするとは、アルは中々に胆力があるな」
などと言い訳をしてみると、サルバがそんな風に笑う。
「というより、無謀に近いかと。言っていることが本当であれば、相当な実力者ですね」
……もしかして、ラズール王国の砂漠って俺が考えている以上に危険なのか?
魔法のお陰で暑さの影響もなく、転移ですぐに移動していたので全然実感がないんだが。
でも、サルバやシャナリアの言い草から考えると、俺はかなり度胸のある事をしている奴になるのか?
などと考え事をしていると、地面が振動した。
「アル、下がるぞ!」
「うん」
突然の出来事に動揺していたが、サルバの声に反応してすぐに後退。
すると、俺達の進行方向にあった砂がドッパアンと盛り上がり、地中から巨大な植物が出てきた。




