色々な遊び方
『Aランク冒険者のスローライフ』のコミック3巻が9月30日に発売です!
よろしくお願いします。
「アル、お待たせ!」
一度、宿に戻ったマヤは数分も経たない内に戻ってきた。その手には土魔法で作られたサンドボードがある。
「……それって前回、俺があげた奴だよね?」
「うん、これが一番よく滑るし使いやすいから取りに戻ってたんだ!」
にっこりと笑みを浮かべながらそう言うマヤ。
一応、あれから使い続けているらしい。土魔法で作った消耗品とはいえ、そのように言ってもらえるとは嬉しいものだ。
地味に足を固定するベルトもついているので、自分でつけたのかお父さんにやってもらったのだろう。
「それより、早く外に行こう!」
マヤに促されて俺は瞬く間にジャイサールの外に出る。
防壁から一歩外に出ると周囲は砂漠世界。途方もないくらいに砂が広がっている。
コリアット村にある土とは比べ物にならないくらいの柔らかさを誇る砂丘をマヤと共に上っていく。
周りに遮蔽物もへったくれもない砂丘では陰なんて一ミリも落ちていない。
どちらかというと、ジャイサールのオアシスでも眺めていたいところであったが、ご機嫌そうにボードを抱えるマヤを見ると、そのような情けないことは言えないな。
「おっ、砂漠を歩くコツを掴んだ?」
「前回あれだけ遊んだらね――おっとと」
「あははは、まだまだみたいだね」
などとしたり顔で言っていたのに、早速転びそうになったのでマヤに笑われてしまった。
こんなに砂が柔らかく、足に纏わりついてくるのにどうしてマヤは普通に歩けてしまうのか。
マヤ曰く、砂にも硬いところや柔らかいところがあるとのことであるが、俺にはまだその見極めができる境地に達してはいないようだ。
エリノラ姉さんなら、すいすいっと歩いてしまうのかもしれないな。
「今日はここの砂丘がいい感じ!」
なんて考えながら歩いていると、マヤの一押しの滑りポイントにたどり着いたらしい。
中々に傾斜の角度があって、距離が長いな。
前回は久しぶりにやったせいか若干ビビり気味だったけど、最近はエリノラ姉さんに山滑りへと連行されていた俺だ。この程度の傾斜でビビるわけはなかった。
手慣れた様子でボードを足ハメるマヤを横目に、俺は土魔法でボードを生成し、足に固定した。
「まずはひと滑りしよ!」
「いいよ」
俺が返事すると、マヤはその場でジャンプをして勢いをつけて砂丘を下った。
俺も続くようにジャンプし、勢いを利用して傾斜を滑り降りる。
「やっほおおおおー!」
マヤの気持ちの良さそうな声が砂丘に響き渡る。
前方では実に見事なフォームを維持して、一直線に下っていくマヤの姿が。
黒い髪が風でたなびいて、宙で軌跡を描いている。
マヤの方が一足先に滑り降りたとはいえ、すごいスピードだ。
きっと体重の全てを上手く使って、加速させているんだろうな。
ボードの接地面から伝わる、雪とは違った感覚。
雪だろうと砂だろうと傾斜を思いっきり滑り降りるのは中々に心地いい。
上から眺めると遠いように思えた傾斜も、速度を出して下るとあっという間に終わってしまった。
「はぁー、この風を切る感覚が最高!」
「滑っている時のマヤはすごく楽しそうだもんね」
「うん! でも、最近はちょっとマンネリ気味なんだ……」
爽快な表情を浮かべていたマヤであるが、言葉の途中でちょっと寂し気なものに変わる。
「どうかしたの?」
「ただ速く滑るだけに飽きてきちゃって。ねえ、アルの故郷ではただ速く滑る以外の遊び方はあった?」
てっきりサンドボードそのものに飽きてしまったのかと思ったが、そうでもなかったらしい。
かなりの運動神経を誇るマヤからすれば、ただ真っ直ぐ滑り降りるだけでは満足できないのだろう。
マヤはもっと多彩なサンドボードの遊び方や、難易度を求めているらしかった。
「色々あるよ」
「本当!? 教えて!」
前世でもボード系のスポーツや遊びは結構あったから、それを再現すればいい。
「じゃあ、まずは一番簡単な障害物滑りかな」
「それってどんなの?」
「ただ真っ直ぐに滑るだけに飽きたのなら、真っ直ぐ滑れないようにすればいいんだよ。障害物があればターンして避けないといけないし難易度も上がるでしょ?」
そう言いながら、土魔法を発動して傾斜の途中に砂柱を立ててみせる。
これで真っ直ぐ滑り降りるのは不可能だ。この障害物を越えるには、キレのあるターンを決めないといけない。
「……言われてみればそうだけど、ぜんぜん思いつかなかった! アルはすごいね!」
「すごいのは俺じゃなくて昔に考えた人だよ」
あくまで知っている競技を再現しただけだからな。別にぜんぜんすごくない。
「ねえねえ、ちょっとやってみていい?」
「いいよ」
俺が頷くなり、マヤは我慢ならないとばかりに走り出して砂丘の上に向かう。
別に俺がサイキックで運んでもよかったのだけど、身体を動かさずにはいられなかったのだろう。
俺はちゃんとマヤが滑れるか見守るために、下にいることにした。
別に上に向かうのが面倒とかいうわけではない。
「やってみるから見ててねー!」
マヤの声に手を挙げて答えると、彼女は勢いよく砂丘から滑り降りた。
障害物があるにもかかわらず、少し速度が出ている気がする。
それでもマヤは見事に一つ目の柱を体重移動によるターンで躱す。
二つ目の柱も細かくターンで回避。しかし、三つ目のところで大きなターンをしてしまったのか、バランスを崩して柱に激突。
砂でできた柱がザバーッと崩れて、マヤの身体に覆い被さった。
「大丈夫か、マヤ?」
一応、砂で作った柔らかい柱とはいえ、あのようにド派手にぶつかって崩されると心配になる。すっかりと砂で埋まってるし。砂柱を大きく作り過ぎたな。
こちらが駆け寄ると、マヤは勢いよく身体を起こして笑った。
「あはははは! ちょっとスピード出し過ぎちゃった!」
こちらの心配する気持ちを吹き飛ばすかのような晴れやかな笑顔だ。
どうやらどこにも怪我はないらしい。
「そりゃ、そうだよ。障害物を躱さないといけないんだから、ある程度は減速しないと」
「でも、それじゃあ遅くなっちゃうでしょ?」
「まあね。そこがこの遊びの難しいところであり奥深さだね」
減速を最小にしながら、どれだけ速く滑れるのかがこの遊びの肝だ。
マヤは初めてながらも、そのことに気付いているようだ。
「ねえ、他にも面白い遊びはある?」
「一人ではできないけど、面白いのがあるよ」
「なになに?」
立ち上がって興味津々のマヤの目の前で土魔法を発動。
しかし、今度は先ほどのように砂柱を立てるわけではない。
八メートル×五メートルの範囲くらいの砂を操作して、波のように動かしてあげた。
シルフォード領の浜辺で再現した平面エスカレーターの応用だ。
「うわわわ! すごい! 流砂だ! この上をボードで滑ればいいの?」
「そうだよ。そう簡単に滑らせはしないけどね」
「よーし、滑りきってみせるから!」
俺の挑発を敢えて受けて立ったマヤは、意気揚々とボードを持って流砂に入る。
さすがに慣れていないと、速い流砂のまま滑るのは無理なので出だしだけは緩やかにしてあげる。
「いいよ!」
マヤが緩やかな流砂の上で、しっかりとバランスをとれたら速度を上げる。
「すごいこれ! 勝手に砂が流れてずっと滑っているみたい! 楽しいー!」
人工的な波乗りでも、波に乗ってバランスを保つのは中々に難しいはずなんだけどな。
さすがは運動神経抜群少女。魔法による多少の流砂では余裕のようだ。
楽しそうに笑いながらバランスを保っている。
じゃあ、もう少し難易度を上げてみせる。
俺は流れる砂の速度を早くする。
「おっと……よっ!」
それでもマヤは器用にバランスをとっているので、さらにレベルを上げてうねるような流砂を引き起こしてやる。
「うわっ、ちょっと無理! へぶっ!」
すると、さすがのメアも不規則な流砂には対応できなかったらしく、流砂に呑み込まれてしまった。
魔法の範囲外にボードと共にザザザーッと流されるマヤ。
まるで、海に打ち上げられた魚――いや、遭難者のようだ。
近付いていくと、マヤはむくりと起き上がって頭を左右に激しく振る。
口の中に砂が入ってしまったのか「ぺっぺ」としていた。今日のマヤは砂まみれだな。
「どうだった?」
「……楽しかったけど、あんなせり上がるような砂は卑怯」
「それもこの遊びの醍醐味だからね」
どれだけ自然に荒らしい波を作りだせるかは、まさに魔法使いの技量といっていいだろう。
砂に慣れているマヤを警戒させないために、魔法の発動は最小限にして不意をついてあげた。
「やっぱり、アルは性格が悪いなぁ」
「えー、こんなにも真摯に遊びを教えているのに?」
「うん」
なんて言い合って、俺たちは砂丘のど真ん中で笑い合った。
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