玩具王からの献上品2
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』書籍の9巻は10月10日発売予定です。随意製作中です。
書き下ろしもありますので、よろしくお願いします。
……しまった。早く遊びたいからと、トリエラ商会の会長を帰らせるんじゃなかった。
棒状のものを手に持って途方に暮れていると、バルムンクが箱から紙らしきものを手に取って広げた。
箱の中に入っていたということは、恐らくそこにこの玩具の遊び方が載っているのだろう。
経理担当しているだけあって数多の書類に日々目を通している彼は、要点を掴んで説明するのが上手いはず。
なので、声をかけることなく、彼に把握させる。
少しすると彼はすぐに紙を折り畳んで箱にしまった。
「そこには何と書いてあった?」
「これはバトル鉛筆といって転がして遊ぶ玩具だそうです」
「転がして遊ぶじゃと? こうか?」
「コマのように横に回すのではなく、普通にペンを転がすようにだそうです」
前回のコマのように回してぶつけ合う遊びかと思いきや、そうではないようだ。
バルムンクに言われた通り、普通にペンを転がす要領でテーブルの上に転がしてみる。
すると、バトル鉛筆とやらはカララララと軽快な音を立てて転がった。
もしかして、転がして音色を楽しむ玩具か? 確かに見事な音であるが、これではいささか物足りない玩具だといえるだろう。
玩具王の作品にしてはあまりにも普通だ。
「転がして一番上になっている面の文字が自分の行動となり、互いに攻撃し合うようです。プレイヤーの体力は百と定められ、それがゼロになれば負け。相手をゼロにすれば勝ちのようで」
「おお、ということは全員に十のダメージなどと書いてあるのは自分の攻撃ということか!」
「自分の派閥を示す●には★の攻撃は通らず、★には●の攻撃は通りません。さらにミスという攻撃の失敗もあり、毎回攻撃が成功するわけではないようですね」
「出た面によって攻撃ができるか、できないか変わるってわけか。こういう博打みたいなルールは嫌いじゃねえな」
「他にも体力を回復する行動もありますね。計算ができなければできない遊びだ」
なんという奥深い遊びか。
ただ転がして音色を楽しむ遊びなどと邪推していた自分が恥ずかしい。さすがは玩具王だ。
「早速、やってみるのじゃ!」
「こちらに陛下をモチーフにしたものがありますよ?」
「おお! それを使う!」
バトル鉛筆のルールに興奮してすっかり忘れていた。
そう、玩具王がワシをモチーフに作ってくれたものがあるのだ。
玩具王が作ってくれたとあれば、勿論それを使うに決まっている。
「ふおおお、これがワシの……ワシだけのバトル鉛筆」
バルムンクに差し出されたバトル鉛筆を手に取ると、そこにはスライムやゴブリンなどといった魔物のイラストではなく、ワシをモチーフにしたイラストが描かれていた。
玩具王の作った玩具に自らのイラストが描かれているということが、この上なく嬉しい。
「あー、これは見事に美化されてるなぁ」
「玩具王は偏屈な職人だと耳にしましたが、意外と世渡りが上手のようで……」
「うるさい! ケチをつけるでない!」
多少、美化されていてもいいではないか。確かに描かれているイラストは王都の設置されている銅像のように美化されている。
でも、十年くらい前のワシはあんな感じだったし、あながち嘘でもないのだ。
最近、ちょっと髪が薄くなり、お腹も出てきたけど……玩具の中でくらい幸せでいさせてほしい。
きっとバルムンクとレンブラントはワシをモチーフにした玩具が作られて羨ましいのだろうな。
そう心の中で思うことで、ワシは留飲を下げた。
「それでは私はこのスライムを使います」
「俺はゴブリンだ」
「では、こちらのアルキノコで」
自分のバトル鉛筆をニマニマしながら眺めていると、バルムンク、レンブラント、ヴィルムも使うものを決めたようだ。
「順番はどうします?」
「ワシからに決まってる」
「では、陛下。私、レンブラント、ヴィルムと右回りの順番でいきましょう」
順番も決まったところでワシは早速と自らのバトル鉛筆を転がす。
「…………ミス?」
「陛下の攻撃は失敗です。次は私の番ですね」
「いきなりこれはあんまりじゃろ!?」
「それがルールです。面に書かれた指示に従ってください」
「文句なら玩具王に言うんだな」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
記念すべきワシの一振りがこんなにしょうもない結果に終わるとは。
それが何とも悔しいが、それすらもこの遊びの醍醐味といえるだろう。
しかし、何もない結果というのはなんと歯がゆいことか。
モヤッとした気持ちを抱えながらも、ワシはバルムンクの転がすスライムのバトル鉛筆を眺める。
「『体当たり ●に二十のダメージ』です」
「俺のゴブリンは▲だから対象外だな」
「私のアルキノコは★なので違います」
「陛下の属性は●でしたね……」
「ワシにだけピンポイントの攻撃とは恨みでもあるのか?」
「日頃の行いを振り返ってください」
他に三人もいながらワシを狙い撃ちにしたかのような攻撃。
これも運だとわかっているが解せぬな。
「これでワシの体力は二十減って、八十か……」
「きちんと覚えておいてくださいね? 経理担当の前で数字の誤魔化しは許しませんよ?」
ぐぬぬぬ、数字に強いバルムンクがいるとやりづらい。遊びの中では権力も通用しないし、便宜を図ってもらうこともできぬからな。
「次は俺の番だな。『仲間を呼んだ 次からは二回転がす』だとよ」
「それはどういうことじゃ?」
「ゴブリンの仲間を呼んだから二体で攻撃するってことだろ?」
「あー、ゴブリンって繁殖力が強いですからね。魔物の特徴を生かした行動ですね」
「二回も振れるなんてズルくないか?」
「その代わり他の攻撃力は十ばかりと低いですし、今の行動を出せなければ中々にキツい感じですね」
「いきなり仲間を呼べた俺は運が良かったってことだな!」
いきなりミスをするような奴もいれば、いきなり最高の行動を起こす奴もいる。
このような遊びだとそういう結果もあるものか。
「次は私ですね。えっと『眠りの胞子 全員に二十のダメージ』だそうです」
「陛下の体力は残り六十ですね」
「わかっているからカウントするな!」
バルムンクの奴め。わざわざ口に出して数えるとはいやらしい奴め。
だから、いちいち細かいとか嫌味っぽいとかメイドに言われるのだぞ。
「次はワシだ! 『王の徴収 全員から十のダメージを与え、体力を回復』おお! なんという王に相応しい行動!」
「おいおい、俺たち三人に十のダメージを与え、自分は体力を三十も回復するだなんて壊れすぎだろう?」
「ワシは王じゃからな。下々の者から吸い上げるのは当然のことじゃ」
「その台詞、市民の前で言いでもしたら刺されますよ?」
「……怖いことを言うな。ちょっと調子に乗っただけじゃ」
「確かに陛下の攻撃は強いようですが、かなりリスクもあるようですね」
「なぬ?」
「革命を起こされたという面を引き当てると、下の段に移って弱々しくなりますね」
ヴィルムに指摘されて見てみると、ワシのバトル鉛筆は上下で二分割されていた。
【ジギル国王 ●属性】
ミス
徴収 全員から十のダメージを奪い体力を回復
全員に二十のダメージ
徴収 全員から十のダメージを奪い体力を回復
革命を起こされた。下に移る
全員に二十のダメージ
ここまでは王としての行動であるが、革命を起こされると途端に弱々しいものとなっている。
薬草を拾った。体力を二十回復
ミス
王座に戻った 上に移る
全員に十のダメージ
王座に戻った 上に移る
ミス
攻撃できる行動は一つだけ。玉座に戻らなければ一生、上の段には戻れない仕様らしい。
……おお、玩具王よ。なにゆえ、このような生々しいものを組み込んだのか。
「私としては是非とも革命を起こされてほしいものですね」
「俺もそれに一票だ」
「私もです」
「やめろ、お主たち! 縁起でもないことを言うでない!」
家臣の癖に王の革命を願うとはなんという謀反者だ。もし、現実での言葉であれば、反逆罪でひっ捕らえていたところだぞ。
しかし、さっきの行動でワシの体力は九十にまで回復した。まだまだワシは戦える。
◆
レンブラントのゴブリンが二回攻撃によって猛威を振るっていたが、アルキノコの眠りの胞子によって途中から行動ができなくなり、ワシやバルムンクの攻撃で最初に沈んだ。
これで残っているのはワシとバルムンクとヴィルムだ。
ワシの体力は六十、バルムンクが三十、ヴィルムが二十だ。
「次は陛下です」
「うむ」
アルキノコの眠りの胞子を食らうと、レンブラントのように何もできずに沈んでしまう可能性がある。
ここは何としても体力の少ないヴィルムを沈めておきたいところ。
「『全員に二十のダメージ』 これでヴィルムは負けじゃ!」
「残念です。もう少しいいところまでいくと思ったのですが……」
ワシの祈りは通じたらしく、ピンポイントで欲しい行動がきた。
「あとはお主だけじゃバルムンク」
「私と陛下の一騎打ちですね」
バルムンクのスライムの体力は十。それに比べてワシの体力はまだ六十もある。
最大攻撃の全員に三十のダメージがきても耐えられるので余裕がある。
バルムンクが額に汗を流しながらバトル鉛筆を転がす。
ここでバルムンクが最大攻撃を二連続で出してしまえば、ワシが沈むことになる。
できれば、最大攻撃だけはきてほしくない。
固唾を呑んで見守っていると、バルムンクが起こした行動は……
「……ミス!?」
「ぶわはははは! ここにきてミスとはバルムンクも運がないものじゃな! 残りの体力は十。次のワシの一手で葬ってくれるわ!」
悔しがるバルムンクを前にして高らかに笑いながらワシはバトル鉛筆を転がした。
「なっ! ここにきて革命じゃと!」
まさかのまさか。とどめを刺すはずが、ここにきての革命。チャンスがピンチになってしまった。
「ははっ! 陛下が革命を起こされてやんの!」
「ざまあないですね」
既に沈んだ外野がとてもうるさい。
「どうやらつきは私に回ってきたようですね」
絶望に染まっていたバルムンクの表情が強気なものに変わる。
先程ミスを出した時は間抜けな表情を晒していたというのに。
「じゃが、ワシの体力はまだ六十もある。すぐに玉座に返り咲いて目にものを――」
「『全員に三十のダメージ』です」
「なんじゃと!?」
ここにきてのまさかの最大攻撃。
おのれ、スライムの癖にワシよりも高い攻撃力もちよってからに。
玩具王よ、ちょっとパワーバランスおかしくないか? スライムだぞ?
「これで陛下の体力は三十ですね」
「わかっておる!」
問題ない。奴の体力は残り十。仮に玉座に戻れなくても『全員に十のダメージ』出せばいいのだ。
「ミス!?」
「よしっ!」
などと安心していたがバトル鉛筆の神はワシに微笑んではくれなかった。
絶望するワシとは対照的に落ち着いたバルムンクがいつになく興奮した声を上げる。
お前もそんな声を出せたのだな。
「次の一手でとどめです! 『体当たり ★に二十のダメージ』」
「はい、残念。ワシの属性は●なので無効じゃ」
「なぜ『全員に三十のダメージ』がこないんです!?」
最大攻撃がそんなにポンポンときてたまるものか。
もはや、玉座に戻らなくてもいい。バルムンクを沈めるだけの十のダメージさえ出れば。
ワシは創造神に……いや、玩具王に祈りながらも唯一下の段でダメージを与える行動が出るのを待つ。
すると、玩具王はワシに微笑んでくれた。
「『全員に十のダメージ』じゃ」
「くっそおお!」
ピンポイントで出た攻撃によってバルムンクのスライムは沈んだ。
「どうだ! ワシの勝ちじゃ!」
最初は余裕で勝てると思っていたが、相手や自分の行動によってひっくり返ることも容易にありえる。
どこかギャンブルのような刺激を与えてくれる遊びだ。
「陛下、もう一度やりましょう!」
「うむ、いいじゃろう」
「箱の中に、色々と違う種類のバトル鉛筆があるぜ!」
「ドラゴン! ドラゴンとか入ってますよ!」
一対一の戦い方もあるし、四人でやる時の戦い方というものもある。
単純なようでとても面白い。大人ですらも童心に返らせ、大はしゃぎさせるこの玩具は、まさしく玩具王の作品だ。
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