この後、めちゃくちゃスキーした
「異世界のんびり素材採取生活」が8月26日に書籍が発売します。コミカライズも決定しておりますので、そちらも是非!
なお、転スロ9巻は10月または11月頃の発売を予定しております。
シルヴィオ兄さんとのほほんと滑りながら流れる景色を楽しむ。
標高が高い場所にいるお陰か遠くで山が見えている。そのどれもが雪で白く染め上げられており美しい。
動物や魔物は雪のせいで住処に隠れているのか気配はまったくしない。俺達がシャーッと雪を滑っておく音だけが辺りに響く。
「おっと」
静かな山を堪能していると、シルヴィオ兄さんのスキー板が少し浮いた。
地面を見ていると、ところどころ雪が盛り上がっていて起伏ができている。
今のシルヴィオ兄さんでは、これを綺麗に避けてルートを選ぶのは難しいだろう
「ちょっとこの辺りは起伏が激しいから魔法で誘導するね。ブレーキもいらないから立っているだけでいいよ」
「わかった。お願いするね」
シルヴィオ兄さんのスキー板にサイキックをかけて制御権を貰う。
サイキックでスキー板を動かして前方に広がっている起伏を回避しつつ、自分もターンして移動していく。
「わあ、本当に立っているだけでいいから楽ちんだ」
いいなぁ。俺もただ立っているだけで滑り降りてみたい。でも、それをするとスキーの意義がなくなってしまうしな。
シルヴィオ兄さんは俺がフォローすると言い切ってしまったために、変わってくださいとも言えない。
このままただ楽をさせるのも面白くないので、俺はちょっとした遊び心を発揮することにした。
シルヴィオ兄さんをサイキックで引っ張りながら、俺達は斜面を滑り降りる。
その途中でジャンプ台になりそうなコブを見つけると、速度を上げてそこに突撃。
「行くよ、シルヴィオ兄さん」
「え、アル? なにをするつもり?」
戸惑いの声を上げるが無視をして、俺はそのままシルヴィオ兄さんをサイキックで引っ張って雪のジャンプ台に突入。
勢いに乗った俺達はそのまま空中へとジャンプ。
「うわああああああ~~っ!!」
そして、俺のスキー板にもサイキックをかけて横へと回転。
スキーのグラトリ技のコーク720というやつだ。
空中五メートルのところで720度回転を決めると、そのままサイキックを駆使して柔らかく地面に着地した。
魔法を使用してなんちゃってグラトリであるが心臓がバクバクだ。思っていた以上に高かったし怖かった。
「アル! 何をするのさ! なんか今空中で回ったんだけどっ!?」
「ごめんごめん。つい、遊び心で」
「……すっごく怖かったよ」
シルヴィオ兄さんが少し涙目になっていた。
わかっていてやった俺でもかなり怖かったんだから、知らずしてやらされたシルヴィオ兄さんはもっと怖かったよな。
うん、さすがにあれはやり過ぎたと反省だ。
昔、プロのスキーヤーが回転しているのを見ていたけど、あんな景色だったんだな。
怖かったけど、少しのスリルと爽快さを得ることのできた俺だった。
「ねえ! 今すごい飛んで回転していたわよね!?」
さっきのグラトリを見ていたのだろう。エリノラ姉さんが少し速度を落として、傍にやってきた。
興奮しているのか寒さで頬が赤くなっているのかは知らないが、その声音だけでとても興奮している事がわかる。
「斜面の起伏を生かしてジャンプしたんだよ。あとは空中で回転しただけ」
「へー! ちょっとあたしもやってみる!」
説明にもなってない説明であるが、エリノラ姉さんはそれだけで十分だったらしい。
やってみたくなったらしく速度を上げてジャンプ台となる起伏を探しに加速する。
その時、ちょっと起伏でエリノラ姉さんはスノボが浮いたが、すぐに体重を操作して跳ねることでバランスを崩すことなく加速していった。
既に今やった技がスノボのグラトリ基礎技のオーリーっていう奴なんだよな。それを誰に教えられたわけでもなく、瞬時に身体を動かしてやってみせることが尋常じゃないレベルだ。
エリノラ姉さんの運動能力だから変な落ち方はしないだろうが、一応怪我をさせないためにもサイキックの準備をしながら見守る。
すると、ジャンプするに相応しい天然の起伏を見つけたのかエリノラ姉さんが腰を低くし、上半身をしっかりと使って二回転。
空中でしっかりと回るとバランスを崩すことなく、そのまま地面に着地した。
なんだか色々とすごい光景だったけど、とりあえずエリノラ姉さんが怪我する様子がなくて安心した。
エリノラ姉さんがジャンプをミスることはないと心で思ってはいたものの、目の前で派手に飛ばれるとヒヤッとするものである。
「これ楽しいわね! 他にも色々とできそうだわ!」
こちらのそんな心境もまったく知らず、エリノラ姉さんは実に楽しそうな表情だ。
やっているのは俺達がやったコーク720のスノボバージョン。
しかし、俺のように魔法を使わずに生身で、それも一発で成功させてしまった。末恐ろしい運動神経を持った姉である。
「へー、ああいった技があるんだね。勢いを利用すれば、地上でも再現できそうだね。よっと!」
「あら、本当ね。意外と滑りながらでもできるわ」
エリノラ姉さんのジャンプ技に感化されたのかノルド父さんとエルナ母さんも滑りながらグラトリを始めた。
ジャンプ、ターン、ジャンプとターンを織り交ぜたものといったものを即興で組み上げ、見せ合って楽しんでいるようだ。
うん、ノーズバター360とかやっちゃっているよ。
色々とハイスペックな事をしでかす家族であるが、皆とこうやって和気藹々と滑る山滑りというのも楽しいものだね。
そうやって思う存分に山を滑り降りていると、いつの間にか俺達は麓の方まで落ちてきていた。
斜面が緩やかになってしまい加速していた俺達の板も自然と止まった。
「ふう、なんだかあっという間にだったね」
「本当ね。一時間も経過していないくらいかしら?」
ノルド父さんとエルナ母さんが満足げな表情を浮かべて、ゴーグルをずらす。
多分、経過した時間はそれくらいだが、スキーの時間が濃密過ぎてそれ以上経過しているのではないかと思えたくらいだ。
俺はゴーグルだけでじゃなく、帽子も一旦取ってしまう。
空気は寒いとはいえ、ずっとスキーをしていたので身体に熱がこもっている。
それらを外すと頭のこもっていた熱気が逃げていくようで気持ちがよかった。
ゴーグルを外したお陰で視界もクリアだ。雪が太陽の光に反射して輝いている。
「ありがとう。アルのお陰で僕も山滑りを楽しむことができたよ」
「気にしなくていいよ。ちゃんとフォローするって言ったのは俺だから」
「ちょっと! 何、終わりみたいな空気出してるの? こんな楽しい遊び、一回じゃ終われないわ! また山に登って滑り降りるわよ!」
どこか満足感漂う空気を醸し出していると、エリノラ姉さんが抗議してきた。
俺達と違ってゴーグルや帽子をかぶったままの臨戦態勢。
どれだけ山滑りが気に入ったというのか。
「少し疲れたけど、アルの魔法で移動している間に十分休憩できそうね」
「僕ももうちょっと滑りたいかな」
エリノラ姉さんだけでなく、エルナ母さんやノルド父さんもそのような事を言う。
まずい、二人ともすっかりとハマってしまっている。これってもしかして、エリノラ姉さんと二人で滑り降りるだけの方が良かったんじゃないか?
つやつやとした顔立ちをしている三人を見て、俺はそのような事を思った。
この方法を回避するには、初心者であるシルヴィオ兄さんが疲れたというしかない。そうすれば、ノルド父さんとエルナ母さんが気を利かせて終了、あるいは休憩を指針として出してくれるはずだ。
「シルヴィオ兄さんはどう? そろそろ疲れたんじゃない?」
疲れたよね? 疲れたって言ってくれ。
そんな思いを込めて熱いを視線を送ると、シルヴィオ兄さんはにっこりと笑い。
「僕はアルの魔法で滑った箇所も多かったし、ほとんど体力は消耗していないから大丈夫だよ」
「それならもう一度山に登るわよ!」
シルヴィオ兄さんのある意味空気の読めた発言により、もう一度すぐに山に登ることが決定された。
別にまたサイキックで登っていくからいいんだけど、その気楽さがかえって何度も登る原因になりそう
だ。
明日の朝には太ももが筋肉痛になっているに違いない。
結局、この日は山に五回ほど登って滑り降りた。
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