待て
コミカライズ、最新話更新されました。
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「ふう、無事に止まれることができてよかった」
「はぁ、はぁ、ぜえ、ぜえ……そ、そうですね」
目の前で荒い息を吐きながら相槌を打ってくれるニコル。
そして、どこか満足そうな顔で「はっはっはっは」と舌を出しながら息を吐くラグ。
ラグを止めるためにニコルは雪の中を全力疾走して止めにきてくれた。
ソリを引っ張っているとはいえ、ラグに追いつくまで全力疾走をさせてしまったので非常に申し訳ない。
「本当にありがとね?」
「い、いえ。どういたしまして」
息が落ち着いたところで改めてニコルを労う。
こういう感謝の気持ちをきちんと伝えるのは大切だからな。
「次はニコルも一緒に滑ろう。そのためにはもう何匹か犬がいてくれた方がいいんだけど……」
「それならうちに二匹いますので連れてきます! ラグ、お前はここで待機だ!」
そう言うと、ニコルは軽やかな足取りで村の方に走り出した。
瞳がキラキラとしていたしニコルもソリで引っ張ってもらいたかったのかもしれない。
「ワンワン!」
ニコルが戻ってくるまでの間、ラグを撫でていようかと思ったが、ソリの周りを走るので撫でられない。まるで、大人がいなくなった途端に遊び出す子供のようだ。
お前、ニコルにちゃんと待機してろって言われてたじゃないか。
でも、ソリを引っ張って走り出さない辺りは、最低限の命令は守れているといえるな。
「アル、そこで何をやっているんだい?」
ソリに座りながらラグを見つめていると、工房の方からノルド父さんとエルナ母さんが出てくる。
多分、工房での注文を終わったのだろう。
「また見慣れない物ができているわね。スキーでもスノボでもないじゃない」
俺が座っているソリを見てエルナ母さんが呆れた声を出す。
昨日、今日で新しい遊び道具を作ったのに、ちょっとした時間でまた新しい物を増やしてしまった。エルナ母さんが呆れるのも無理はないと自分でも思う。
「……ちょっと暇潰しに遊んでいただけなんだ」
「次から次へとよく思いつくわね」
弁明のしようもなく、ただの言い訳しか出てこなかった。
「見たところ犬に引っ張ってもらう乗り物かな?」
「うん、犬ゾリだよ。犬に引っ張ってもらって雪の上を進んでいくんだ」
そう説明すると、ノルド父さんとエルナ母さんが感心した様子でソリを眺める。
「ちょっと走ってみてくれるかい?」
「見せたいのはやまやまだけど、この犬は村人の猟犬だから他人の言う事は聞かない――」
「ワン!」
「……おいおい、ラグ。なんで走る気満々なの?」
ノルド父さんに頼まれて、すっかりと走る気になっているラグに突っ込む。
さっき待機してろって言われていたよな? ニコルという飼い主がいながらそれでいいのか?
俺が頼んだ時はうんともすんとも言わなかったじゃないか。
「可愛らしい犬ね」
「ワフッ」
エルナ母さんに撫でられて、気持ちよさそうに鳴いているラグ。
こいつ俺のことは最初に押し倒してぺろぺろしてきた癖に、二人に対しては偉く従順でお利口さんじゃないか。もしかして、野性の本能として誰に従うべきか理解しているというのか? 犬に舐められているようでちょっと悔しい。
でも、人類としての強さがトップクラスの二人なので、ラグを強く責めることもできないな。
「行け、ラグ!」
「ワン!」
ノルド父さんの命令に従って本当に走り出してしまうラグ。
俺の乗っているソリがラグのパワーで引っ張られる。
「うわっ!?」
「あら、意外と速いのね」
いきなりのスタートに身体が背もたれに持っていかれる。後ろの方からエルナ母さんの呑気な感想が微かに聞こえた。
とりあえず、ずり落ちないようにしっかりと深く座り直す。
「いや、待って! こいつ俺の言う事聞かないから一人で止まれないんだけど!?」
二人の命令は聞いても俺の命令を聞いてくれないのがこの犬だ。
つまり、俺が乗ったまま走り出すと、俺の意思で止まることが非常に難しいのである。
ノルド父さん達に追いかけてもらうか?
いや、ダメだ。あの二人ソリの観察に夢中で、そんなことに気付きそうもない。
どうしよう。横転する危険性があるのでやりたくないが杭でも打ってブレーキをするか?
いや、それでラグに怪我をさせたらニコルに申し訳がない。別にラグが満足したら止まってくれるわけだし、このまま身を任せておくか。
そんな覚悟を決めて滑り続けていると、ちょうど村の方から同じような犬種を二匹連れたニコルがやってきていた。
おお、どうやら神は味方してくれたらしい。
「おお、ニコル! ちょうどいいところにいた!」
「アルフリート様? おい、ラグ!? なんでお前走ってるんだ!? 待てって言ってたよな!?」
ラグが走ってソリを滑らせていることにニコルは動揺していた。
そりゃそうだ。自分の相棒である犬が言いつけを破って走っているんだからな。猟犬にあるまじき失敗だ。
「ラグ、止まれ!」
ニコルがそう叫ぶと、ラグはゆっくりと走るのをやめてソリを停止させた。
うん、ノルド父さんにそそのかされたとはいえ、主従の絆は失っていないようだ。
「こら、ラグ! どうして命令を守っていないんだ!」
「くうん」
ニコルに怒られてしょんぼりしているラグ。
社長の命令に従ったら、上司の部長にそれを咎められてしまったかのようなやるせなさを感じる。
かつては企業で板挟みになっていた俺は、無性にラグと自分を重ねてしまった。
「なんかノルド父さんの期待に応えちゃったみたいで……」
「ええっ? 領主様が?」
俺が指さした方を見ると、ニコルが驚く。
「本当だ。ノルド様とエルナ様がいる」
「野生の本能として強者に従っちゃったのかな?」
「まあ、ノルド様とは見回りや狩りで一緒に行動をする時もありますし、そこまで強くは責められない部分もありますね」
どうやらノルド父さんとは普通に面識がった様子。
外で魔物退治とかしていると臨機応変に動かないといけない時があったのかもしれない。
「ワン」
俺がフォローしたことを理解しての感謝か、ラグが足に体を擦り付けてくる。
こういう時だけ体を擦り付けてきちゃって……なんて思うがモフモフは正義なので細かいことは気にしない。
撫でられなかった分まで思いっきりモフモフとしてやる。
「ワンワン!」
「ワン!」
すると、可愛がってくれると思ったのか、ニコルが連れてきた二匹の犬も甘えてくる。
突然やってきた犬のモテ期。モフモフパラダイスだ。
ラグ達の毛皮はふさふさで体温も高くて心地いい。ただ、雪がところどころ乗っていたので、ちょいちょい冷たかった。
撫でるついでに体についている雪を軽く払ってあげる。
「とりあえず、あの二人のところに行こう」
「そうですね」
ラグ達を撫でて満足したところで俺はそのままラグに引っ張ってもらい、ニコルは犬と一緒に走ってくる。
「こんにちは、ノルド様、エルナ様」
「やあ、ニコル。遊び心でラグに命令を出して悪かったね」
「ごめんなさいね。つい、犬ゾリがどういうものか見たくて」
他人の猟犬に勝手に命令を出すことが、あまりいいことではないとわかっていたのだろう。ノルド父さんとエルナ母さんが気まずそうに謝る。
「いえ、ノルド様とエルナ様でしたら、それ程問題はありませんので」
「そう言ってくれると助かるよ」
「なんだか二人がやらかすのって新鮮だね」
謝る二人を見て率直な感想を漏らすと、エルナ母さんに頬をつねられた。
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