そうだ。犬ゾリをしよう
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』コミック5巻が本日発売です。よろしくお願いします。
翌日の朝。ノルド父さんとエルナ母さんもスキーにハマってしまったせいか、俺は二人の注文に付き合わされてエルマンの工房にきていた。
お陰で本日のエリノラ姉さんと行く山スキーは回避できたのだが、結局は家族全員で行くことになってしまい回避になっていなかった。
というか、既に設計はエルマンがしてくれているのに俺が付いてくる意味があったのだろうか?
「ノルド様! それにエルナ様!? 本日は一体どうされましたか?」
やはり、領主の息子と娘がくるのと、領主夫妻がくるのではインパクトも意味も違うのだろう。
エルマンが大慌てで駆け寄ってくる。
詰めかけていた村人は自然と道を空けて、作業をしていた職人達は思わず手を止める。
ただ付き添って歩いているだけなのに、皆が道を空けてくれるのが爽快だ。
これが領主のオーラというものか。やっぱり次男坊と長女では迫力がまったく違うな。
「お忙しい中、急に押しかけてごめんなさいね」
「いえいえ、滅相もありません」
完璧に外行きの笑顔で話しかけるエルナ母さんと、すっかり恐縮した様子のエルマン。
美男美女が目の前にいるせいか、圧迫感は半端ないよな。
「今日はアルの考えたスキーを作ってほしくてね。僕とエルナの分も作ってくれるかい?」
「……承知しました。それと売り上げの一部は後ほど纏めてお支払いさせて頂くつもりでした。ご報告が遅れまして申し訳ありません」
ああ、そういえばこれは俺が考えた遊びになっており、それが商品として形になっているのでうちに収益が入ってくるのは当然か。
ついこの間作ったばかりだし、商売のことなんて全く考えていなかったのですっかり忘れていた。
ハッと我に返っていると、エルナ母さんがにこっとした笑顔を向けてきた。
遊びでも、そういうところはしっかりしておけという意味だろう。
エルマンがきっちり作ってくれるのに、どうして俺まで付いてくる必要があるのか疑問に思っていたがこういう事だったのか。
「謝らなくていいよ。工房内を見れば、急に動き出して忙しかったのはわかるから。逆にいつも突然巻き込んでしまって悪いね」
「いえいえ、こちらこそご配慮いただき感謝しております。では、早速採寸をさせて頂きます」
きっちり纏めなかった俺の落ち度でもあるし、エルマンも俺とエリノラ姉さんの注文の作成で身動きができなかった。
それがわかっていたから責めることなく、穏便な対応をするノルド父さん。
さすがだ。こんな風に理解のある上司がいれば、前世でも働きやすかったに違いない。
ノルド父さんがラエルに。エルナ母さんがルウに採寸をしてもらう。
後から来た二人が優先的に作業に入ってもらっているが、領主夫妻なので文句を言う人もいないだろう。
でも、付き添いでやってきた俺は暇だ。事前にエルマンにスキーについての説明はしてあるので口を出す必要もない。
異様な工房内にあまりいたくなかったので空気を吸うために外に出る。
魔導具で暖められた工房内と違って、外の空気は冷たい。だけど、その温度差が気持ちよかった。
真っ白な雪景色を眺めてボーっとしていると、狩猟人と思わしき村人が森から出てきた。
その傍には相棒の犬も歩いている。シベリアンハスキーのような犬種だ。モフッとした白黒の毛並みに細長い尻尾が可愛らしい。
「アルフリート様。こんにちは」
じーっと犬を見つめている俺に気付いたのか、狩猟人が挨拶をしにくる。
「こんにちは。獲物は獲れたかい?」
「見回りも兼ねてだったんですが、獲物はいませんでしたね」
「やっぱり、これだけ寒いと動物も動いていないよね――って、うわ」
「ワンワンッ!」
なんて会話をしていると、犬が構ってとばかりに突進してきて俺を押し倒した。
ボフッと雪に押し倒されると、そのまま犬の顔がずいっと覆い被さってくる。
そして、俺はあっという間にぺろぺろの刑に処されてしまう。
「あっ、ちょっとこそばゆい!」
対抗するようにモフモフの身体を押し返すが、猟犬だけあって中々のパワーだ。
というか結構な重さがある。こいつ、俺より重いんじゃないか? 微妙にピンチだ。
されるがままになっていると、狩猟人がようやく引き離してくれる。
「助かったよ」
「すみません。まだまだ子供で。こら、勝手に人を押し倒すなって言ってるだろう」
飼い主である狩猟人に怒られて、シュンとしている犬。
そんな顔でも可愛らしいので動物というのは反則的だな。
「名前は何ていうの?」
「あっ、俺はニコルといいます」
「……ごめん、聞き方が悪かったよ。この犬は何ていう名前かな?」
「ああっ、そっちでしたか! こいつはラグです」
俺の聞き方が悪かったけど、今のやり取りは恥ずかしい。
ニコルは顔を赤面させながら犬の名前を教えてくれる。
「おいで、ラグ」
少し屈んでそう言うと、ラグはすぐに反応してやってきた。
さっきと違って今度はちゃんと構えていたので無様に押し倒される心配はない。
だけど、俺の身体に体当たりしてきたり、頭をこすりつけてきたり、周りを飛び回ったりの暴れん坊っぷりだ。
身体をモフモフしようにも動きを捉えることができないので難しい。
「……動きが激しいね」
「どうやら、まだまだ動き足りないようです。今回は追いかける獲物もいませんでしたから」
ロクに獲物がいなかったせいで思いっきり走れなかったのだろう。ラグの中では不完全燃焼なのかもしれない。
とはいっても、ラグに付き合ってそれを発散させられるほど俺はアグレッシブでもないし、目の前で跳ねているテンションを見ると付いていける気がしない。
ラグが走り回って、なおかつ俺が楽をできる方法を考える。
すると、この季節だからこそできる事を思いついた。
「そうだ。犬ゾリをしよう」
「犬ゾリですか?」
ニコルが首を傾げる中、俺は土魔法で大きなソリを作る。
俺一人がゆったりと座ることができ、ラグに引っ張ってもらいやすいように脚はスキー板のようにして
ある。
スキーやスノボを作った経験が生きているな。
「もしかして、これをラグに引っ張ってもらうんですね?」
「そういうこと。ラグをリードするための紐とかない?」
「ありますよ」
ニコルから首輪につけるリードを貰って、ラグとソリに括り付ける。
そして、俺はソリにゆったりと腰かけると威勢よく声を上げる。
「よし、ラグ。走れ!」
「…………」
しかし、ラグは走り出してくれない。
指をさして大きな声で命令しただけにかなり恥ずかしい。
「あの、すみません。俺が許可しないとダメです」
「……さすがは猟犬。こういうところはよく訓練されてるね」
人のことを勝手に押し倒す癖に、そういうところはしっかりしてるのか。
ラグは一応猟犬だ。その辺で飼われている犬や猫とは違うということか。
気を取り直して俺はニコルに命令を頼む。
「ラグ、行け!」
「ワン!」
ラグが吠えて走り出すと、それに引っ張られる形で俺のソリが進んでいく。
「おおおおっ! 思っていたよりも速いや!」
スキーやスノボで雪を滑るのとはまた違う感覚だ。ラグの力強い走りでソリがぐいぐいと引っ張られ、雪の道を進んでいく。
犬一頭が引くことができるのは、大体自分の体と同じくらいの体重まで。
ラグは体も大きく、間違いなく俺よりも体重があるので一頭でも楽に引っ張ることができているようだ。
ソリが滑り、気持ちのいい風が肌を撫で――いや、これはちょっと寒いかもしれない。
意外とスピードが出ているので顔や耳に当たる風も冷たい。まだ耐えられるレベルであるが、しっかりと帽子や耳当てを付けてくるべきだったと少し後悔。
それでも座っているだけで進んでいくというのは快適だ。
「他人の力で移動するのは最高だな」
つい、最近転移で移動しまくったので痛感する。どれだけ便利な力があろうとも、自分で移動するのは面倒臭いのだ。
こんな感じで座っていたら、勝手に移動しているとか、望む場所に着くっていうのが一番望ましい気がするな。
目の前で揺れるラグのプリティな尻尾を眺めながらそんなことを思う。
「結構な距離が離れたな。そろそろ、戻って――あっ」
工房からかなり離れたところで俺は気付いた。ラグはニコルの言う事しか聞かないということに。
ということは俺一人だけでは止まれないんじゃないか? もしかして、ラグの気が済むまで走り続けることになる?
「ニコルー! 助けてくれ! 俺の命令じゃ止まってくれない!」
俺はすぐにニコルに助けを求めた。
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