運動神経の起源
コミック5巻は明日発売! 早いところでは今日からお店に並んでいます。是非、よろしくお願いします。
「こっちの二つに分かれたものがスキーで、こっちの細長い楕円形みたいな板がスノボだよ」
部屋からそれぞれの板をとってきた俺は、ノルド父さんとエルナ母さんに見せてあげる。
「……もうエルマンに作ってもらったのか」
「最初は土魔法で作っていたけど、着脱に不便だったから」
「この子、こういう時の行動力は無駄に高いのよね」
既にプロの木工師によって完成された物を見て、ノルド父さんとエルナ母さんが呆れる。
エリノラ姉さんやトール達がハマらなかったら、一人で土魔法のもので満足していたんだけどな。
「この板にそれぞれ足を乗せて滑るのか」
「微妙に板が反っているわね? 雪の上で滑りやすいようにかしら?」
「なになに? もしかして、父さんと母さんもスキーをやりたいの?」
ちょうどリビングに入ってきたエリノラ姉さんが、感心している二人を見て直球な台詞を投げる。
「領主としてアルが作ったものがどんなものか確かめているのさ」
「ふーん、それなら実際にやってみた方が早くない?」
「それもそうね。ちょっと外で試してみましょう」
エリノラ姉さんの言葉に乗って、エルナ母さんが言う。
エリノラ姉さんって別に空気を読むのが上手いわけではないけど、エルナ母さんと妙に馬が合う時があるような。これが母と娘の絆なのだろうか。
早速外でやってみる流れになったので、板を持ってぞろぞろと外に出ていく。
「僕も見てもいいかい?」
「うん、いいよ」
会話にこそ混ざっていなかったが、どのように滑るか興味はあるのだろう。
シルヴィオ兄さんだけ仲間外れにする理由もないので、防寒着を羽織って一緒に外に出る。
中庭は変わらず雪が積もっており、外では冷たい風が吹いていた。
「やっぱり、外は寒いね」
「それなのにエルナ母さん達は元気だよね」
身をすくめる寒がりなシルヴィオ兄さんや俺と違って、エルナ母さんやノルド父さん、エリノラ姉さんは生き生きとしていた。
「冬は娯楽が少ないからアルの考えた遊びが楽しみなんだよ」
「色々と室内でできる遊びはあるけど、身体も動かしたいってことなのかな」
リバーシ、ジェンガ、けん玉、人生ゲーム、卓球と色々あるが、人は新しいものに弱いみたいだ。
「ここに足を置いて、ベルトで絞めて固定するの」
「あら? 私の足じゃ入らないわ」
エリノラ姉さんがスキー板の装着を教えているが、子供サイズのものを大人が装着するのは無理がある。
前世の物のように足幅を変えることができればいいのだが、そのような進化にまでは辿り着けていない。
「これは俺とエリノラ姉さんに合わせて作ったものだからね。でも、シルヴィオ兄さんならエリノラ姉さんと足のサイズが同じだし入るかも」
「僕?」
シルヴィオ兄さんを呼んで試しに装着させてみるとピッタリだった。
「あたしはあんまりスキーを使わないから貸してあげるわ」
「う、うん、ありがとう」
やってみるつもりはなかったのだろう。シルヴィオ兄さんが戸惑いつつも頷く。
「エルナ母さんとノルド父さんは魔法の物でやってみるのがいいかな。スキーとスノボ、どっちがいい?」
「スキーの方がやりやすくて簡単よ」
「……一つの板に乗るのは不安だし、エリノラの言う通りスキーにするわ」
「僕もエルナと同じで」
二人ともスキーを希望したので、土魔法でスキー板を作ってあげる。
「板の少し後ろに足を乗せて。その後に固定するから」
エルナ母さんとノルド父さんの足を見ながら調整すると、ベルトで巻くかのように土魔法で固定。そして、ストックも作って渡してあげる。
「相変わらず器用なことをするわね」
「板と足が一体化しているような感じだ」
足を持ち上げながらペタペタとその場で足踏みする二人。
ペンギンの子供を見ているようで可愛らしい。
「それじゃあ、滑るための傾斜を作るね」
俺はいつものように氷魔法を使って、中庭に小さな傾斜を作ってみせる。
「遊びでこんなことをするなんて、最早突っ込む気すら起きないわ」
「同感だよ」
エルナ母さんとノルド父さんが何だか呆れている気がする。
でも、魔法は生活を便利にするために使うものだ。遊び如きで大袈裟だと思われているかもしれないが、使えるものはドンドン使わないとね。
「ここから滑り降りるんだけど、まずはブレーキのしかたを教えるね。止まれないと危ないから」
そうやって俺はエルナ母さんとノルド父さん、シルヴィオ兄さんにブレーキのやり方を教える。
子供達に散々教えた内容だったので、説明して教えるのも慣れたものだ。
今なら、スキーやスノボのインストラクターになれるような気がする。
俺が教えると、ノルド父さんもエルナ母さんもさすがの運動神経でブレーキしながら降りていく。
今日、子供に教えていた苦労はなんだったのかと思うくらいだ。まあ、二人は冒険者として活躍していたし、剣や体術の心得もあるから当然か。
「思っていたよりも簡単ね」
「そんな簡単に滑れていいの? ノルド父さんに支えてもらうシチュエーションは悪くないと思うけど?」
どこか自信ありげに滑っているエルナ母さんに囁くと、ハッと表情を変えた。
「ノルド、ちょっと怖いから傍にいてくれる?」
「わかった。僕が後ろ向きで滑るから、ゆっくり滑ってみよう」
ノルド父さん、もうそんなことができるくらいに慣れたの? 実はインストラクターなのでは?
少し不安に思っていたが、ノルド父さんはブレーキをかけながら実に余裕のある後ろ滑りをする。
「エルナ、おいで」
「ええ」
エルナ母さんも滑り出し、互いに向かい合うようにして滑る。
一歩間違えば、中々の大惨事であるが運動神経のいい二人がそんなことに陥るはずもない。
互いにこの状況を楽しんでいるだけだ。
そして、二人は仲良く滑りきって最後には軽く抱き合っていた。
俺が勧めたんだけど、目の前で両親がいちゃついていると見ていて恥ずかしくなる。
胸やけしそうになったので視線を逸らすと、シルヴィオ兄さんとエリノラ姉さんが滑っていた。
「うわわっ! 思ったよりもスピードが出る!」
「シルヴィオ、そこは足にグッと力を入れてブレーキよ!」
「グッて、どこに入れるの!?」
エリノラ姉さんの感覚的な指導がわからず、加速してしまって最後には転ぶシルヴィオ兄さん。受け身の取り方は教えているし、剣の稽古でも習っているので問題ないが危なっかしい。
それとは正反対にサイキックで引き寄せた、エルナ母さんとノルド父さんはターンしながら二人で優雅に滑り始めていた。
まだターンまで教えていないのに自力で曲がる方法を見つけてしまったようだ。
もう、俺がいる意味はないんじゃないかな。
エリノラ姉さんの化け物じみたセンスの原点を目にした気分だ。
「このスキーっていう遊び、中々いいわね」
「雪が積もっていてもこれがあれば移動も便利そうだし、冬の運動としていいよ」
「ねえ、私達もエルマンに板を作ってもらいましょう?」
「そうだね。アルに毎回魔法で作ってもらうのも申し訳ないし」
二人もスキーが気に入ったんですね。
見せる展開になってから、こうなるんじゃないかって思っていたよ。
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