事件の黒幕
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』コミック5巻は7月15日発売です! よろしくお願いします。
村の子供たちの指導を終えた帰り道。サイキックでスキー板やスノボードを浮かしながら、俺とエリノラ姉さんはいつもの一本道を歩く。
「はあ……結局、ほとんど俺が教えることになって疲れたなー」
今日のあまりの疲労感に思わずぼやいてしまう。
「あたしはちゃんと教えていたわよ?」
「あんな感覚的な教え方じゃ無理だって……」
男子は俺が担当し、女子はエリノラ姉さんが担当して指導することになった。
しかし、エリノラ姉さんの指導は剣の稽古の時と同じく、感覚的なものだった。
『ここで体重をグッと寄せて、そのままガーッと滑るの』
そう言った時の女の子たちのポカーンとした表情は印象に残っている。
本人によると、これがブレーキを教えていると言うのだから驚きだ。
そんなわけで途中からエマお姉様に泣きつかれて、女子の方も俺が担当することになって忙しくなったのである。
「……あたしからすれば、あれでも丁寧に教えていた方なんだけど……」
しかも、本人はあまり自覚がないときた。感覚的な才能を持っている人も大変なのかもしれないな。
とはいえ、エリノラ姉さんがしっかりと他人に指導できれば、俺がこうも疲れなかった。
「ねえねえ、もっと思いっきり滑ってみたいんだけど? 誰もいない広くて傾斜が長いところ!」
エリノラ姉さんの中では指導の話は、既に終わったらしい。とても無邪気な表情でそんなことを言ってくる。
「それなら山にでも行けばいいんじゃない? 山なら長い傾斜があるし、人気もないから気楽に滑れるよ」
「本当ね! いいじゃない山! ということで、明日は山で滑るわよ!」
「え? それ俺も行くことになってる?」
「当然よ。一人で滑っても退屈だし、ちゃんと滑れるのアルしかいないじゃない」
完全に他人事のように提案したのだが、いつの間にか俺まで連行される流れになってしまった。
しまった。こんな風になるのであれば、山で滑ればいいなんて提案するんじゃなかった。
他人がいる以上、転移魔法で向かうわけにはいかないし、自分の足でわざわざ頂上付近まで向かうことになる。
俺自身も思いっきり滑りたい欲望はあるのだが、リフトという便利な機械もなく、転移魔法が使えない状況でやりたいものではなかった。
非常に面倒くさい。
だけど、エリノラ姉さんのお供を務めるにはエマお姉様やシーラの技術では難しいわけで。エリノラ姉さんの願望を満たせるのは俺しかいない。逃れることはできないな。
後悔と諦めの境地に浸る中、エリノラ姉さんはとてもご機嫌そうだった。
屋敷にたどり着くと、俺たちはスキー板やスノボを置いてくるために部屋に戻る。
部屋の端に適当にかけると、一休みをするべくリビングに向かう。
今日はずっと外にいたので、温かい紅茶がとても飲みたい気分だ。
ミルクを入れるべきか、スライスしたレモンを入れてもらうべきか。
そんなことを考えながらリビングに入ると、シルヴィオ兄さんがソファーで本を読んでおり、エルナ母さんとノルド父さんが和やかに談笑していた。
いつもの我が家の光景だ。
「ただいまー」
帰宅の声をかけて入ると、不思議と部屋の空気が張り詰めた。
……おかしい。部屋の空気はパチパチと弾ける暖炉の空気で暖められているはず。
寒い外から帰ってきた俺はホッとするのが当然であって、このような悪寒を抱くはずはないのだが……。
「おかえり、アル。ちょっといいかい?」
いきなりのノルド父さんのお呼び出し。この流れは何か知らの詰問を受けさせられるような気がする。
俺、何か悪いことしたっけ?
思い当たらず、シルヴィオ兄さんに視線を向けるも苦笑されただけだった。
「暖炉の前で身体を温めるから、ちょっと忙しい」
「それじゃあ、僕たちがそっちに行くよ」
「温かい紅茶も淹れてあげるわね」
嫌な気配がしたので逃れようとしたが、ノルド父さんとエルナ母さんはグイグイと退路を塞ぐようにやってきた。その優しさが逆に怖い。
不気味に思いながら暖炉の火で温まる。
「紅茶にミルクは入れる?」
「あ、はい。お願いします」
エルナ母さんににっこりと言われて素直に頷いた。
温かな紅茶の中にミルクが注がれて、丁寧に混ぜられたものを頂く。
まろやかなロイヤルフィードとミルクの相性は抜群だ。エルナ母さんが入れただけあって、その味は絶妙だ。俺が自分で淹れてもこのような味にはなってくれない。
冷えていた身体にミルクティーがとても染み渡る。
「アル、村で奇妙なものが流行っているようだね?」
「奇妙なもの?」
「買い出しに行ったバルトロの話では、変な板のようなものに乗って滑っていたと聞いたわ」
「ああ、スキー ……」
スキーかと言いかけて、俺は慌てて口を閉じる。
そうだった。その場のノリでスキーやスノボを始めたけど、ノルド父さんに何も言っていなかった。
ノルド父さんは明らかに俺に探りを入れてきている。
温かいミルクティーを飲んでリラックスした瞬間を狙うとは中々に性格が悪い。
「奇妙な出来事の裏にはアルがいる」
「そんな事件の黒幕みたいな……」
ノルド父さんの言い方がおかしくて思わず突っ込んでしまった。
どこぞの名探偵アニメの組織でもないんだから変な言い方をしないでほしい。
「で、その変なものにアルは関わっているの?」
概要は既にバルトロから聞いている模様。仮に俺が関わっていないと発言したところで、一緒に滑っているのを見たとか言われたら終わりだ。
ここは潔く話す方がいいだろう。別にやましい想いがあって隠していたわけじゃないのだから。
「うん、そうだよ。トール達と遊んでいたらエリノラ姉さん達も来て一緒に遊んでいただけ。商品として作ったわけじゃないけど、結果として想像以上に人気になっただけ」
子供の遊びだということを主張しておきながら、さりげなくエリノラ姉さんの名前も出して巻き込んでおく。
別に今回はスキーやスノボはリバーシのように商品化しようと思って再現したものではなく、普通に遊びたかったからやっただけだ。
「やっぱり、アルの仕業なのね」
「ただのその場での思い付きだったんだって」
仕業って、別にやらかしたわけじゃないと思う。
「ふむ、アルの言い分はわかった。バルトロとの情報との食い違いもないみたいだしね」
やっぱり、バルトロから大まかな報告を受けていたか。下手に誤魔化そうとしなくてよかった。
「遊びの名前はどんなものだっけ?」
「スキーとスノボだよ」
「何か板のようなものに乗って滑ると聞いたけど、実物があれば見せてくれないかい?」
「どんなものか気にな――村で流行る以上、どんなものか確かめておくのも私たちの務めよ」
エルナ母さん、本音が漏れてる。貴族の威厳が台無しだよ。
というか、ノルド父さんの瞳もどことなく輝いている気がする。
ここ最近は雪が降って屋敷に籠ることが多かったしな。
二人とも外でできる冬の遊びに興味があるのかもしれない。
「わかった。ちょっと取ってくるよ」
俺は部屋に戻ってスキー板とスノボ板を取ってくることにした。
お読みくださりありがとうございます。
『今後に期待!』
『続きが気になる!』
『更新頑張れ!』
と思われた方は、ブックマークと下にスクロールして☆を押していただけるとすごく嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!




