平和な世界を目指して
トール達とスキーで遊んだ三日後。
俺とエリノラ姉さんは、エルマンの工房に発注したスキーとスノボを取りにやってきた。
俺の土魔法で作ったものを見本として使い、造りもそれほど難しいものではないので時間はかからないとのことだった。
そんなわけで意気揚々とやってきたわけだが、静かなはずの工房にはたくさんの村人が押し寄せて賑やかだった。
「……なんだか人が多いわね」
「うん、どうしてだろう?」
この辺りは村外れなので人口も多くはないはずだ。収穫祭で使った投球ターゲットやキックターゲットの製造も落ち着いたと言っていた。
このように賑やかになる理由がわからない。
群がっている村人達の脇を通り抜けて工房に入ると、職人達が必死になってスキーやスノボの土台を加工しているところだった。
「「…………」」
……ああ、これリバーシの時と同じだ。外で満足に動くことのできない村人達が格好の娯楽を見つけて群がっているのだ。
「スキーを二人前頼む!」
「うちはスノボを三人前」
「こっちはスキーとスノボを二人前ずつ頼む!」
「しょ、少々お待ちください!」
「注文を終えた方はこちらに! 身長を測らせてもらいます!」
工房内では注文の声を飛ばす村人にルウとラエルが必死になって対応をしていた。
頑張れ、新人達よ。
「エリノラ様、アルフリート様、ようこそいらっしゃいました」
心の中でエールを送っていると、エルマンが慌てて出てきた。
エリノラ姉さんの名前を先に出してくる辺り、ちゃんと序列を理解しているみたいだ。
「この忙しさって、俺達が遊んでいたのを村人達が真似て……?」
「はい、そうみたいです。エリノラ様とアルフリート様達の後に、押しかけるように村人がやってきて、ずっとこんな状態です」
「……なんかごめんね?」
収穫祭で色々なものを作ってもらったり、最近エルマンに対する負担が大きい気がする。
本来なら冬場はそこまで仕事は多くなく、まったりとした進行だったろうに。
「いえ、激しい雪合戦よりもアルフリート様の遊びの方が健全なので、一刻も早く量産して広まって欲しいです」
そんな申し訳なさを抱いていたが、意外とエルマンは暗くなっていなかった。
むしろ、新しい希望を見出したかのような明るい表情をしている。
「あの雪合戦に混じるよりスキーやスノボの方が安全だもんね」
「まったくです」
俺の言葉に心の底から納得とばかりに頷くエルマン。
コリアット村の雪合戦はガチすぎるのだ。最近は軍隊のような統率のとれた動きになっているし、雪玉もガチガチに硬い。
そんな雪玉の砲火に巻き込まれるくらいなら、和やかに斜面を滑るスキーやスノボの方が何倍も安全だろうな。
エルマンはそんな優しい世界を原動力に頑張っているようだ。
とはいえ、それはエルマン個人の考えだし、他の職人は不満に思っているかもしれない。
あまり職人を振り回しすぎると、俺が恨まれてしまいそうだ。
「なにかお礼をしたいと思うんだけど、欲しいものとかない?」
「いえ、そのようなものは不要です。収穫祭の時に領主様から臨時で報酬を頂いていますから」
「そうだけど俺が申し訳ないから……」
「……では、新鮮なお肉を頂けますか? ここのところあまりお肉が取れず、塩漬けのものが多かったので。それを頂けると皆が喜びます」
別にお金でもいいのだけど、それじゃあエルマンは申し訳がないと思ったんだろう。
妥協点として冬場に新鮮な肉を用意する。中々悪くないと思う。
「というわけで、エリノラ姉さん。今度、自警団の演習で肉を獲ってきてあげてよ」
「えー? あたし?」
自分に振られるとは思っていなかったのか、エリノラ姉さんが眉を顰める。
普段ならこんなことは頼めないが今は貸しがある。
「スキーとかスノボとか作ってあげたし教えてあげたじゃん。料金も俺が支払っているし」
「まあ、ついでだから別にいいけど」
「ありがとうございます」
そう言われると弱いのかエリノラ姉さんは引き受けてくれた。
こうやってできる人に頼むのも、立派な俺の功績だと思う。たとえ、他人の力でも俺が頼み込んでやってもらえば俺の功績にもなる。
理不尽な姉であるが、こういうところを突かれると意外と弱い。それに村人の前ということもあって、駄々をこねるのは情けないしな。
でも、やり過ぎると思わぬ反撃を食らうので程々にしよう。俺にエリノラ姉さんをコントロールするなんて無理だから。
「それであたし達のスキーとスノボはできているの?」
「はい、こちらに用意しております」
エルマンが案内したテーブルには俺達が注文したスキーとスノボが乗っていた。
俺達の足のサイズと身長に合わせて作られたオーダーメイドだ。
固定具とベルトが付いており、そこに足を置けばしっかりと固定してくれる造りになっている。
「試着してもいい?」
「勿論です。違和感などがあれば、すぐに調整いたしますので」
エリノラ姉さんが凛とした口調で言って、試着をしてみる。
ああいう言い方も俺がやると野暮ったくなるのだが、エリノラ姉さんがやるとすごく自然でかっこいい。これが貴族の気品というやつだろうか。
俺が言うとダサさが浮き彫りになりそうなので、無言で自分のスノボに足を固定。
試しにその場で動いてみるも、すぐに外れることもなくしっかりと固定されている。
それでいて外したい時はすぐにベルトを外せば着脱可能だ。
「うん、窮屈過ぎずいい感じ」
「滑りもいいし問題なさそうね」
「ありがとうございます。雪が詰まると締め付けが悪くなったりしますので、詰まっていたら適宜取り除いてあげてください」
「わかったわ」
スキーの方も試しに履いて、外で平地を軽く滑ってみたが問題なかったのでお金を支払って工房を出る。
「いたいた! アル、手伝ってくれ!」
「エリノラ様、助けてください!」
村人達をかき分けて外に出ると、トールやエマお姉様が多くの子供を引き連れてやってきた。
「どうしたんだ?」
白い息を吐いて慌てた様子でやってくるトールに俺は尋ねる。
「村人達に滑り方を教えているが、俺達だけじゃ無理だ! アルが教えてくれ!」
「「アルフリート様、教えてください」」
思わず「ええ……」という言葉が漏れかけたが、トールの後ろにいる子供達に頭を下げられては呑み込まざるを得ない。
トールのニヤッとした笑みからして、それがわかっていて連れてきたに違いない。
トールだけが頼み込んでいたら面倒くさがって断っていただろうし。
「エリノラ様、こちらにもお願いします。私とシーラはあまり上手くないので」
「「エリノラ様、お願いします! どうかご教授を!」」
エマお姉様の後ろにはたくさんの少女達がいて、健気に頭を下げて頼み込んでいた。
そりゃ、そうだよね。これだけやる人がいれば、教える人も必要だろうし。
俺の広めた遊びで怪我をされたら寝覚めも凄く悪いし。
俺とエリノラ姉さんは顔を見合わせて、観念したような表情をした。
「わかった。教えるよ」
「さすがはアルフリート様! 領主様の息子だけあるぜ!」
こういう時だけ調子のいいトールに少しイラっとしたが、皆の前なので叩けもしない。
「わかった。あたしが教えてあげるわ」
「ありがとうございます、エリノラ様!」
エリノラ姉さんが頷くと、あちらでは黄色い悲鳴が上がっていた。
それだけ村の少女から人気がある証なのだろうな。
そのまま俺とエリノラ姉さんは村の子供達に連れられて、一日中指導をやることになった。
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