スキーとスノボ
書籍8巻、発売中です〜
そして、コミック5巻は7月15日発売です。
「ふう、これで問題ねえな」
「うん、これなら扉も開かない」
村長の家にある出入り口を大きな雪玉でふさぐと、トールとアスモは一仕事終えたかのような爽やかな笑顔を浮かべた。
悪戯をしてここまで晴れやかに笑える子供は中々にいないだろうな。
伊達に悪辣なことをして雪合戦を出禁になってはいない。
「んで、これからどうするんだ?」
「確かやりたい遊びがあるって言ってたよね?」
悪戯をした罪悪感はまったくないのか、そこらへんにいる子供のような無邪気な表情で尋ねてくるトールとアスモ。
「うん、傾斜のあるところでできる遊びだから丘の方に移動しよう」
スノボを平地でやるには無理だからな。
俺は傾斜のついている丘にトールとアスモを伴って移動する。
「うん、ここら辺でいいかな」
本当はスノボをやるには山の傾斜を利用するのがいいのだろうが、さすがに険しい雪山を登るのは面倒だ。
だから雪の積もっている丘を利用し、氷魔法でゲレンデにしようという作戦。
到着した俺は氷魔法を使って雪を降らせていく。
「雪が冷てぇっ!」
「ちょっとだけだから我慢して」
凄まじい雪が魔法によって吹きすさぶ。
トールとアスモが寒そうに身を縮ませるが、少しの辛抱なので我慢してもらう。
雪を魔法で量産してドンドン積み上げると、緩い傾斜をしていた丘が起伏の激しいゲレンデとなった。
「おお、なんか地形が変わったぞ!」
「わかった。この傾斜を滑って遊ぶんだね?」
ゲレンデを見て、アスモが確信に近いことを言ってくる。
さすが遊び盛りな子供だけあって、すぐに俺がやろうとしている遊びの本質を当ててくるな。
「そうだよ。でも、ただ普通に滑るんじゃないんだよ」
俺はそう言いながら、土魔法でボードを作って両足を固定する。
そして、目の前にある傾斜を見事に滑り降りてみせた。
「こんな風に板の上でバランスを取りながら滑るんだ」
「おお、なんかすげえな! 速くて面白そうだ!」
「傾斜で座って滑る遊びはやったことがあるけど、雪の上で板に乗ってやろうなんて考えたこともなかった」
好奇心に目を輝かせる二人の言葉を聞きながら、俺はサイキックで浮遊して傾斜の上に戻る。
「俺達の分も作ってくれよ、アル!」
「いいよ。でも、二種類あるからどっちをやるか選んでみて」
滑ることができるのはスノーボードだけではない。砂漠でスキーをやるのは難しいが、ゲレンデであればスキーで滑ることは可能だ。
土魔法でスノーボードだけではなく、スキーの板、ストックも作り上げる。
「こっち長細い板は、それぞれに片方ずつ足を乗せるのか?」
「そうだよ。あと、そこにある二本の棒も手に持つのがスキー。俺のタイプがスノーボードっていうよ」
「どっちの方が滑りやすい?」
スキーとスノーボード、どっちが滑りやすいかと言われると少し悩む。
「うーん、どっちも一長一短だね。スキーの方が最初は滑りやすいけど、両手足を使うから複雑で難しいかな。スノーボードは慣れるまでが難しくてよく転んじゃうけど、そこさえ乗り越えられれば簡単かな」
「じゃあ、トールはスキーの方がいいんじゃない?」
「はっ? バカにすんじゃねえよ。俺はスノーボードをやってやらあ!」
アスモの挑発に見事に乗ってしまったトールがスノーボードをかっさらう。
アスモと比べると運動神経がそこまでよくないトールには、俺もスキーを勧めたかったのであるが、こうなってしまった以上聞いてくれはしないだろうな。
スノボって滑れるようになるまで転んでなんぼだからな。心が折れないといいが。
「じゃあ、俺はスキーにしよう」
新しいものに興味を引かれたのか、アスモはスキーを選択していた。
スキーは両足に板があって操作こそ難しいが、ブレーキのやり方は簡単だからな。滑るだけが目的であれば一番とっつきやすい。
ただ、なんとなくやっていれば型がつきやすいスノボと違って、上達すればするほど難しいのがスキーだ。
経験者が歪なフォームで滑っているという光景も前世ではよく見られたからな。
「ここに両足を乗せればいいんだな?」
「うん」
トールがボードの上に足を乗せたので、土魔法で固定してやる。
「よっしゃ! 行くぜ!」
「あっ、こらバカ!」
すると、トールは俺の見様見真似で半身になって勝手に滑り始めてしまった。
運動神経の突出しているエリノラ姉さんなら何も言わないが、トールは平凡かそれ以下だ。
そんな者がいきなり滑り出して上手くいくはずがない。
「なんだこれ! おわっ!?」
案の定、トールは傾斜の中頃で体勢を傾かせていた。
正しい転び方や受け身の取り方を知らないので、頭から後ろに倒れそうになっている。
俺はすぐにトールのボードにサイキックをかけて、その場で固定させた。
「……あ、あれ? 倒れてねえ?」
「俺が魔法で止めたんだよ。正しい滑り方や転び方も知らずに滑ったら危ないよ? これ、思ったよりも速度が出るんだから」
「おお、悪い」
俺が真面目な声音で言ったからだろうか、トールがいつになく素直に謝る。
こんなやつではあるが友達だ。楽しい遊びで怪我をしてほしくはないからな。
ひとまずトールをサイキックでこちらに引き寄せておく。
「珍しくアルに怒られてやんの」
「うっせ、デブ!」
アスモにおちょくられていつもの調子を取り戻すトール。
怒るというか注意だけど、こんな風に真剣な声音で窘めるのは初めてだったのでそう思われたのかもしれないな。
まあ、それで危険性が伝わってくれたのなら俺も嬉しい。
「それで俺の方は、どのあたりに足を置いたらいい?」
「少し後ろめのところかな」
「ここ?」
「そうそう」
アスモがそれぞれの足を板に乗せると、こちらも俺が魔法で固定してあげた。後はストックを持たせれば準備の完了だ。
「さて、準備ができたけどさっきトールが勝手に滑ってみせたように速度がかなり出る遊びだから、まずは止まり方や安全な転び方を学んでからやろうね」
「「へーい」」
いきなり危なかったがブレーキや受け身の必要性をわからせることができたのでよしとしよう。
「じゃあ、まずは基本的な滑り方と転び方を教えるね」
俺はスキーとスノボの基本的なやり方を説明し始めた。
◆
「う、うおおおおお」
傾斜を滑り降りたトールが、覚束ないながらも滑り降りていく。
「ふげっ!」
最初は速度を落としながら体勢を保っていたが、すぐにバランスを崩して転んだ。
距離にして三メートルも進めていない。
それを見てアスモが爆笑していた。
「……トール」
「なんだよ、そのダメな子を見るような目は! 板の上で立つだけでも難しいんだっての!」
「ああ、そうだったよね。前に教えた子はすぐにできていたから失念していたよ」
ジャイサールで教えたマヤは教えれば、すぐに習得する運動神経抜群少女であった。
たった数時間で見事に滑れるようになるマヤがおかしいのであって、普通の人はこうだよな。人によっては半日や一日をかけてようやく立てるようになる人もいるだろうし、トールに対して過剰な期待をし過ぎだったな。
「くっそ、その顔と言い方もムカつくぜ。見てろ、すぐにアルみたいに滑れるようになるからな――って、おおおおおおお! ちょっ待ってくれ、止まれ止まれ!」
そう言って立ち上がろうとしたトールはすぐにバランスを崩し、ヤンキー座りのまま滑っている。
いや、滑らされていると表現するべきか。何とも醜い滑り方だ。
立ち上がったらバランスを崩してしまうこともあり、体勢変えることもできないで滑り降りている。ジタバタと両手を動かして、ブレーキをかけようと必死だ。
とりあえず、危ないのでサイキックで浮かしてやってこちらに引き寄せる。
「助かったけど、なんかこの運ばれ方は屈辱的だぜ」
なんとなく森で捕獲された猿を彷彿とされるな。可哀想なので言わないであげるけど。
「とりあえず、前のボードを浮かせてみなよ。そうしたら、ボードが滑っていかないから」
「お、おう」
見る限り、トールはまだまだ基本が甘いのでそこを徹底してやらせてみよう。
「いやっほう!」
じりじりと滑っていくトールの横では、元気な声を上げて滑っていくアスモ。
スキー板に乗っているアスモは直滑降で滑り降りると、板をハの字にして見事にブレーキをしてみせた。
「いやー、スキーって楽しいね。普通に座って傾斜を滑るよりもかなり速度が出るや。ねえ、トール?」
「うぎぎぎぎ、あのデブ。ちょっと滑れるからって調子に乗りやがって」
露骨な挑発をするアスモにトールは悔しそうにしている。
アスモは持ち前の運動能力を発揮して、滑ってブレーキをするくらいのことをマスターしていた。
スキーの方がブレーキがしやすく、とっつきやすいとはいえ中々のセンスだ。
「アル、魔法で引き寄せてー」
「ほーい」
滑り降りて遠くにいってしまったアスモのスキー板にサイキックをかけて引き寄せる。
山であれば、そのまま自由に滑らせるがここは簡易的なゲレンデだしな。こうして引き寄せた方が早い。
とはいえ、度々引き寄せるのは中々に面倒なので、次にやる時は自分で固定を取り外しして、戻ってこられるようにしてもらいたいな。
アスモを引き寄せると、入れ替わりでトールが滑っていく。
俺の言ってた通りにブレーキを踏みながら、ゆっくりと滑っていっている。
その速度はかなり遅い。正直歩いた方が早いくらいであるが基本は大事だ。
そんなトールの姿を見て、アスモがニヤリと笑って滑り降りる。
アスモはブレーキを踏みながらトールの傍に寄っていくとストックでトールを突き始めた。
「ほらほら、もっと早く滑って滑って」
スキープレイヤーあるある、ストックでちょっかいかけだ。
つい、長い棒が二本あるとそれでちょっかいをかけたくなるのが子供心というもの。
それにイラっとしたトールは反射的にストックを掴んでみせた。
「捕まえたぜ! こんにゃろう!」
「あっ、こら引っ張るな!」
ストックを引っ張れば、当然それを持っているアスモも引っ張られてしまう。
通常時であれば、踏ん張りも効いだだろうが今はスキー板に乗っているので踏ん張りも効かずに滑ってしまう。
結果として倒れ込んだアスモに巻き込まれて、トールも転倒することになった。
「ふざけんなよ、アスモ! お前にのしかかられたらシャレにならねえだろ!」
「トールがストックを引っ張るからだろ!」
「……お前ら、本当に仲がいいな」
傾斜の先で両足が固定されているのに取っ組み合っている二人を見て、しみじみと思った。
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