水売りは稼げる
書籍8巻、文庫1巻発売中!
朝食を食べ終わった俺は、再び草原にやってきていた。
昨日は転移を繰り返すことでラズール王国の国土に入ることができた。
時間と疲労の兼ね合いで何も散策していないので、今日はゆっくりと見て回るのが目的だ。
「寒いから早く行こうっと」
今日は雪が降っているし風も吹いている。いつまでもこんなところでボーっとしていたら風邪を引いてしまうので、俺は転移を発動させる。
昨日の大岩の頂上を思い描くと、次の瞬間にはその場所に立っていた。
かなりの遠距離転移であるが魔力量も問題はないし、座標も正確だな。
やはり、カグラまで転移できたのが自分の中で大きな自信になっているようだ。
「暑い暑い」
コリアット村では冬真っ只中であるが、こちらでは夏並みの気温。
防寒着を着ていては汗がダラダラなので、すぐに防寒着を脱いで亜空間へと収納する。
半袖半ズボンになるとかなり過ごしやすくなって一息つく。
身に染みる寒さの地から暖かい場所にやってこられるなんて転移様様だな。
さて、このまま本を読んだり、物作りをしたりと自由に過ごしていいわけだが、俺の眼下には小さな街がある。
オアシスを中心に人々が集まって発展した街なのだろう。
ラズール王国といえば、香辛料が有名だ。ここにしかない香辛料や美味しい食べ物があるかもしれない。
俺の生活をより豊かにするためにも、食のレパートリーを増やすことは重要だ。
せっかくなのであの街を観光してみることにしよう。
俺は大岩の頂上から道へと転移。
入り口には槍を持った兵士がおり、街に入る人をチェックしているようだ。
手ぶらだとさすがに怪しまれるよな。俺は街に入ろうとする人達の服装をチェック。
ずんぐりとしたカバのような生き物に乗っている人が多いな。
なんだろう? あの生き物は?
よくわからないが広大な荒野や砂漠を移動するための生き物なのだろう。それも暑さや渇きに特化した。前世でいうラクダみたいな位置付けだろう。
あれに乗っていないとマズいのかと思いきや、乗っておらず歩きの人もいる。
アレに乗っていなければ怪しまれるということはなさそうだ。
旅人の服装は頭を布で首から足まである長袖のトーブっぽいものを着ている者や外套を羽織っていたり、ローブを着ている人もいる。
いずれにせよ肌の露出を抑えて、太陽の光から守る感じの服装のようだ。
トーブのような服装は持っていないので、亜空間から遮光性のある薄い長袖やローブを取り出して着こみ、背嚢を背負ってみた。
ひとまず肌の露出は少なくしてあるし、これなら問題ないだろう。
俺は道を歩いて街の入り口の列に並ぶ。
前に並んでいる人がカバみたいな生き物に乗っているので前がまったく見えない。
短い豚のような尻尾が揺れるのを眺めていると、前の人が呼ばれ、次に俺の番になった。
男性はエリックよりも肌が浅黒く、ラズール人であるのが一目でわかった。
「一人か?」
「はい、日用品や食料を買いにきました」
「そうか。通ってよし」
用件だけを告げると、特に荷物の確認をすることもなくあっさりと許可が出た。
「え?」
そのあまりの軽さぶりに戸惑いの声を上げてしまう。
「どうした?」
「いえ、すんなりと通してもらえたなと」
「こんなところで変なことをする奴もいないしな。それにお前は小さな子供だし」
「なるほど」
王都だと貴族相手でももう少し厳しいのであるが、ここは結構緩いようだ。
まあ、こんな砂漠一歩手前の地で何かやらかす人は少ないのだろう。
ここの人達が陽気というのもあるが、この街の治安は良さそうだ。
すんなりと入り口をくぐると、『ようこそ、ジャイサールへ!』という看板が見えた。
どうやらここはジャイサールという街らしい。
砂や泥で作ったレンガや土魔法のレンガが多く、それを積み上げて家を作っているようだ。
そのため街全体が茶色い。でも、そのお陰か澄み渡る青空がやたらと映えて見える。
素材に統一感があるために遠目から見ても、非常に良い景観だった。
どこに何があるかはまったくの不明だが、とりあえず奥に進んでみる。
建物にはよく見ると彫刻が施されている。土だから掘りやすいのか、かなり繊細だ。
入り口を守っている兵士の様子から、大雑把な人が多いのかと思いきやこんな繊細な技術を持つ人がいるらしい。
店頭に派手な布を広げているのは布屋だろう。赤や緑といった派手な染色のものが多いが、とても装飾が細やかだ。
王都の高級店でもここまで細かな装飾をしている店は少ないだろう。
「お、うちの布どうだい?」
チラリと眺めていると、ぽっちゃりとしたおじさんが見事な営業スマイルで声をかけてくる。
買って帰ったらエルナ母さんが喜びそうだけど、どこで買ってきたと問い詰められるだろうな。
「いえ、手持ちがあまりないので」
「そうか。なら、少年のために少し勉強しよう。いくらなら出せそうだい?」
適当な言葉で退避しようとしたが、店主はまだ食いついてきた。
そう言われると、こちらとしては非常に困る。
人のいい笑みをしているが意外と商売上手なのかもしれない。
このまま主導権を握られると布を買わされる気がしたので、俺は逃げるようにその場を後にする。
「よう、少年。おつかいか? そろそろ喉が渇いたんじゃないか?」
すると、その先でもラズール人のおっちゃんが声をかけてきた。
友人を労うかのような気安い声音に警戒していても何故か反応してしまう。
「ジュースですか?」
「水だよ」
この街の特産ジュースとかなら買うつもりもあったけど、ただの水ならいらない。
どこでも飲めるし、魔法でだって出せるしな。
「ならいらないです」
「おいおい、マジか。この暑さでいらないって言うのか? ぶっ倒れても知らねえぞ?」
「水ならたくさんありますので」
そう言って去ると水売りのおじさんは肩をすくめていた。
露店売りがたくましい。でも、不思議と王都の店員さんのようなプレッシャーはない。
フレンドリーという言葉がぴったりだろうか。国が違えば、商売の仕方がまったく違うのだと実感させられた。
などと感心して歩いていると、また水屋らしき店があったので離れて歩く。
「水を樽に入れてくれ」
「あいよ、銀貨五枚だ」
高っ! 王都でも樽いっぱいの水なんて銀貨一枚程度だ。その五倍だなんて。
しかし、買いにきた男性はそれに文句をつけることなくお金を支払っている。
そうか。ここは厳しい暑さと乾燥のある砂漠地帯。コリアット村や王都よりも水の需要が高いのか。
こんな砂漠地帯では水を手に入れることが難しく、生きるために何よりも重要なんだ。
水に関してはケチケチしている場合じゃないんだろうな。
でも、それなら水魔法が使える人は元手なしでぼろ儲けなんじゃないだろうか?
これなら仕入れも必要ないし、魔力さえあればいくらでも提供できる。
重い水であっても転移で運んでくることができるし、好きな時に売って金を稼げばいい。
「……氷室の管理者と同じくらい魅力的な仕事かもしれない」
自分の村で管理する氷室と違って、こっちは転移で自由なタイミングで営業できるのが利点だな。
将来、楽に安泰に稼ぐ方法を見つけてしまった。
「水売りもいいね」
思わぬ収穫に俺は上機嫌でジャイサールの観光を続けるのであった。
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