だって寒いから
書籍8巻は5月9日発売。
文庫版1巻は5月11日発売です。
両方とも書き下ろしついております。
電子版もありますのでよろしくお願いします。
しっかりと防寒服を着こんで準備を済ませた俺達は屋敷を出て、東の森へとやってきていた。
森の中は真っ白だ。生えている木々が降り積もった雪で彩られている。
僅かに積もっていない箇所が輪郭として浮かび上がって、切り絵のような美しさだな。
足を進める度に積もっている雪を踏む。柔らかい雪をサクッと踏み抜く感触が楽しい。
そして、踏み固められた雪によって足がストップする。
時々積もっている雪が深くて、かなり足が沈む時もあるがそれも愛嬌だ。
「坊主、できるだけ俺が踏み固めた場所を歩けよ? じゃなきゃ、思わぬところで足をとられて怪我するぜ?」
なんて雪を踏んで遊んでいたらバルトロに注意されてしまった。
「ごめんごめん、ちょっと雪の感触を楽しんでた」
「雪を踏んで楽しいの?」
「楽しいよ」
きっぱりと答えると、エリノラ姉さんは訳がわからないとばかりに小首を傾げる。
まあ、こういった楽しみを子供から見出すというのは難しいものだ。エリノラ姉さんも働き疲れて、のんびりしたくなったらわかる時がくると思う。
森の中はとても静かだな。雪が降り積もって、ほとんどの生き物が冬眠しているせいだろう。他の季節と比べてあまり生物の気配がしないな。
「あっ、鹿」
生物でもいないかなと周囲を見渡していると、エリノラ姉さんがポツリと呟いた。
視線を辿ってみるも鹿の姿は見当たらない。
「どこ?」
「あそこにある木々の間。雪をかぶってるから擬態して見にくいけど」
エリノラ姉さんにそう言われて目に魔力を込めてみると、本当に鹿がいた。
しかし、鹿は既にこちらに気付いているのか俺が視線をやると、遠くに走り去っていった。
いつものことながら、よくあんな遠くにいるものを見つけられるものだ。
よそ見はほどほどにして俺はバルトロの踏みしめた場所を辿って歩く。
バルトロの足はとても大きく、俺の足が二倍であっても敵わない気がするな。
まるで恐竜の足跡を追いかけているようだ。
「ん? よく見れば俺達以外の足跡もあるよね?」
雪が降り積もって微妙にわからなくなっているが、地面には俺達以外の足跡が微かに残っている。
「ああ、俺達と同じように村人もワラサビを釣りにきてるんだろうな」
「なるほど」
美味しい小魚が食べられる稀少な時期なのだ。村人達もこぞってやってきているのかもしれない。
そうなると三人だけで寂しく釣りとはならなさそうだな。
歩いていると不意に遠くにある雪がファサッと落ちる。そして、雪の重みで枝に張り付いていた氷柱も何本か落ちた。
それを見てバルトロが不意に立ち止まる。そして雪玉を作り始めたのを見て、大体何をやりたいのか察した。
バルトロは前方の木にある三本の氷柱めがけて雪玉を放り投げる。
剛速球として放たれたバルトロの雪玉は真ん中に当たり、直撃した氷柱が地面に落ちた。
「よし!」
どうやら真ん中だけを意図的に狙って撃ち抜いたらしい。
俺も前世で雪が積もった時にはよくやっていたな。雪玉での氷柱落とし。
他人の民家を駆け巡っては屋根についている氷柱を雪玉で落とし回ったものだ。たまに外れて窓や壁なんかに当たって、怒られたこともあったっけ。
「あたしもやる!」
バルトロのちょっとした遊びは、エリノラ姉さんの子供心を刺激した。
そして、童心を刺激された俺も黙々と雪玉を作っていた。
「じゃあ、嬢ちゃんは右で坊主は左だな。しっかり当てろよ?」
バルトロのそう言われて、俺とエリノラ姉さんは別々の氷柱を狙うことに。
ここで外せばバカにされることは目に見えているのできちんと当てたいところ。
だが、エリノラ姉さんにこういう競技で勝つのはあまりにも難しいな。
俺も当てて、エリノラ姉さんが当て続ければ、投げ続けるうちに俺が外すことになるだろう。
だから、俺は一つの策を講じることにした。
「俺が先に投げていい?」
「いいわよ」
これが俺の策略の第一段階とは気付かずに、普通に了承するエリノラ姉さん。
後は俺がしっかりと氷柱を当てることができれば勝ちだ。
俺は氷柱までの距離感をしっかりと目で測る。空間魔法で転移をするお陰か、俺の空間把握力は鋭敏だ。
氷柱までの距離をしっかりと把握して、後は氷柱のある部分に当てるだけ。
何度も軌道を脳内でシミュレーションしてから、俺は雪玉を投げつける。
俺の放り投げた雪玉がヒューッと飛んでいって氷柱の左側面に直撃。
氷柱は右側に飛んで、エリノラ姉さんの分の氷柱まで弾き落とした。
「おお、二本落としを狙うとはやるな、坊主!」
「よーし、俺の勝ち!」
「はぁ!? なによそれ!? あたしまで投げてないんだけど?」
二本氷柱を落として宣言すると、エリノラ姉さんが抗議の声を上げる。
「だって、エリノラ姉さんの倒す氷柱はもうないじゃん。結果としてエリノラ姉さんは倒せなくて、倒せた俺の勝ちでしょ?」
俺がそう告げてやると、エリノラ姉さんは綺麗な笑みを浮かべて雪玉を投げるモーションに入る。
ぶつけられると思って逃げると、エリノラ姉さんの投げた雪玉は見当違いな方向に飛んでいく。
この距離でエリノラ姉さんが外すなんておかしいな、と思って見上げると頭上から雪がドサッと落ちてきた。
「うわっ! 冷たっ!」
頭からもろに雪をかぶったせいか服の間から雪が侵入してきた。
慌てて服の中から雪を出そうとする俺の姿を、エリノラ姉さんは満足げに見ていた。
◆
雪道を進んでいくと湖にたどり着いた。以前は、草食動物などが水を飲みにくる憩いの場となっていたが、湖がすっかりと凍結しており今やその影はない。
「バルトロの言っていた通り、結構村人がいるわね」
「本当だ」
氷結した湖の上では村人が氷に穴を空けて、ワラサビ釣りをやっているようだ。
森の中はシーンと静かなものであるが、ここでは仄かな賑やかさがあった。
「きちんと凍っているみてえだな」
バルトロが凍った湖を確かめるように踏みつける。
バルトロ程の大男が踏みしめてもビクともしないのだ。湖はしっかりと凍り付いているのだろう。
バルトロに続いて、俺達は氷の上を歩く。
今なら魔法を使うまでもなく湖の上を歩くことができるな。もっとも、水の中の魚をじっくりと観察することはできないけど。
分厚い氷があるからか水中がどんな風になっているかはまったく見えなかった。
「さて、どの辺りでやるべきかな」
「どの辺りワラサビがいるか。それが重要だね」
「おー! アルにエリノラ様じゃねえか!」
なんてバルトロと釣りポイントについて話し合っていると、聞き覚えのある声が響いた。
振り返ると、そこには穴に釣り糸を垂らすトール、アスモ、エマお姉様、シーラの姿があった。
こっちに来いとばかりにトールが手を振っているので、俺達は近付いていく。
「おー、トールにアスモ。久し振りだね」
なんやかんだトールやアスモとは長い間会っていなかった気がする。
ここのところ収穫祭とかコタツ、バトル鉛筆の製作なんかで忙しかったからかな。
「それはアルが屋敷から出てこないから」
「俺達は何度も呼んでるってのによ。この引き籠りめ」
久し振りの挨拶だというのに随分と棘のある悪友達だ。
確かにトールやアスモから遊びの誘いは受けていた。だけど、俺は忙しさを理由に断っていた。
それをこの二人は根に持っているのだろう。
それを理解しながら俺はきっぱりと言う。
「だって、冬は寒いから」
悪びれもしない俺の言葉にトールとアスモは諦めるように肩をすくめた。
『今後に期待!』
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次のお話も頑張って書きます。




