表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生して田舎でスローライフをおくりたい  作者: 錬金王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

455/616

トマト丸ごと味噌汁


 シルヴィオ兄さんが塗装を仕上げて国王様、オリジナルのバトル鉛筆は完成した。


 勿論、一本だけでは遊べないので、他の魔物をモチーフにしたものも複数添えている。


 これで文句はないだろう。


 連絡用に村で待機していたトリエラ商会の従業員にバトル鉛筆を渡すと、すぐに王都に輸送を開始してくれた。


 会社で働くような仕事というわけではないが、やはり強制力の発揮される物事は苦手だな。


 それが自分のためであるならば苦でないが、他人のためとなると骨が折れる。


 仕事があるというだけで気が散って、いつもの日常も心から満喫できないのだ。


 それは俺の染みついた社畜精神のせいかもしれないが、できればこのような面倒ごとは今後も避けたいな。


 まあ、これで国王様から頼まれた依頼は終わりだ。考えるのはここまでにしよう。


 肩の荷が下りてゆっくりしていると、いつの間にか秋から本格的な冬へと移行した。


「……寒い」


 ベッドで目を覚ますと、部屋を包み込む冷気で意識を覚醒された。


 温かいのは自分の残っている布団の中だけ。


 しかし、それもいずれは冷気に浸食されてしまうだろう。


 冬場は寒いからベッドから出たくない。結果としてそのまま二度寝する。なんてパターンがよくあったものだ。


 それで貴重な祝日の午前中を幾度となくして潰したことか。


 まあ、俺は寝て過ごすことも大好きなので、それはそれで充実した時間なんだけどね。


 何はともあれ二度寝をするにも寒いのはいけない。


 俺は即座に火球を複数浮かべて室内温度も上昇を図る。


「はぁ……暖かい」


 空中でメラメラと燃える火球は低温と化した室内の温度を即座に上げてくれた。


 それが心地いい温度になったところで火球の勢いを弱めて維持。


 やはり、人間は適温の中で生きるのが一番だな。


 部屋の温度が適温になったところで、俺は瞼を閉じて再び意識を闇に沈める。


「アル! 稽古の時間よ!」


 しかし、それを阻む存在が侵入してきた。エリノラ姉さんである。


 相変わらずノックをすることなく自分の部屋のように入ってくる。


 狸寝入りを決めてやろうと思ったが、やめて素直に目だけを開いた。


 何故かエリノラ姉さんやエルナ母さんには通じないので無駄だと悟っているからだ。


 それにこちらが無抵抗なのをいいことに接近されて力づくの話し合いに持っていかれる確率が多いしな。


「寒いし、まだ早いよ」


「冬になるとアルは動きが鈍くなって準備に時間がかかるでしょ? だから、あたしが早めに起こしにきてあげて――うわっ、冬なのにここだけ暖かい。ちょっと気持ち悪」


 俺が文句を言うも聞かず、エリノラ姉さんは部屋に入ってきて顔をしかめた。


 廊下の温度と俺の部屋の温度差を不快に思ってしまったのだろう。


 気持ちはわからなくもないが、部屋に入ってこられるなり気持ち悪いと女性に言われると妙に傷つく。


 というか冬になると動きが鈍くなるって、体温を維持できなくなる爬虫類みたいだな。


「大丈夫。準備はもたつかせないから」


 だから、稽古の時間ギリギリまでは俺をベッドにいさせてほしい。


「あたしが部屋に入ってきたのに身体を微動だにさせていないじゃない」


「エリノラ姉さん、俺を信じて……」


「真面目な声を出してもダメ。ほら、早く一階に降りるわよ」


「えええええ」


 俺のシリアスな表情と声音にまったく反応することなく、エリノラ姉さんは俺をベッドから引きずり出した。


 その時に布団が妙に絡みついてきたのは、きっと布団も俺を恋しく思っていたからに違いない。




 ◆




 寝間着から普段着に着替えて一階に降りる。


 リビングでは暖炉が稼働しているお陰か自分の部屋よりも空気が暖かかった。


「おはよう、アル」


「シルヴィオ兄さん、おはよう」


 コタツにはシルヴィオ兄さんがいた。


 さすが我が家の良識人。きちんと朝の挨拶をする。ノックも挨拶もせずに部屋に乗り込んでくる姉とは大違いだ。


 稽古の時間までまだ時間はある。ひとまず俺は身体を暖めるべくコタツへと入る。


 が、最短ルートの場所はエリノラ姉さんに入り込まれてしまったので、仕方なく空いている遠い場所に入る。


 コタツも既に起動しており暖かい。これはお布団を上回る暖房力だ。


「ねえ、シルヴィオ兄さん」


「なにかな?」


「こんな寒い日だっていうのにコタツから出て、外で稽古をしたいと思う?」


「したいしたくないじゃなくてしないとダメだから」


「そういうことよ。ウジウジ言わない」


 優等生の模範解答に便乗して、エリノラ姉さんがここぞとばかりに言ってくる。


「このコタツは外に出たくないって俺の惰性的な欲望から作られた暖房器具なんだけど?」


「それとこれとは話が別。論点を逸らさないで」


 ふてぶてしくコタツに居座るエリノラ姉さん。


 くっ、エリノラ姉さんの癖にエルナ母さんみたいなことを言っている。


 エリノラ姉さんがこのような賢い対応をできるはずがない。きっと俺が丸め込もうとする時の対処法をエルナ母さんに教えてもらったのだろう。


 なんかちょっと悔しい。


「おお、もう揃ってるな!」


 俺が歯噛みしていると、リビングにバルトロが入ってきた。


 その手には小さな鍋が抱えられており、優しい味噌の香りがする。


「もしかして、味噌汁?」


「ああ、こんな寒い日に稽古なんて大変だろう? だから、少しでも温かいものを飲んで力を出してくれ!」


 バルトロ、お前はなんて心がイケメンなんだ。


「バルトロ、ありがとう!」


「味噌汁を飲んだらいつもより力が出そうだよね」


「ちょうどお腹が空いてたの!」


 バルトロの優しい心遣いに俺、シルヴィオ兄さん、エリノラ姉さんの表情が感動に染まる。


「へへ、今日の味噌汁はちょっと派手だぜ」


 派手? 具材がたくさん入っているとかだろうか? それとも高級な食材が入っているとか?


 気になって身を乗り出すようにバルトロの開けた鍋を覗く。


 すると、鍋のど真ん中に真っ赤なトマトが鎮座していた。


「丸ごとトマトの味噌汁だぜ!」


「「おお」」


 想像していた方向とは違うが確かに派手だ。


 まさか大きなトマトが丸ごとぶち込まれているとは誰が予想していようか。


 味噌汁の優しい香りが立ち昇る中、バルトロが配膳してくれるのをジッと待つ。


 見ただけでわかる。絶対に美味しい。


 味噌汁に鎮座しているトマトは一目見ただけで柔らかいと断言できた。


 全員の茶碗にトマト丸ごと一つの入った味噌汁が配られると、俺達は揃ってスプーンに手をつけた。


 具材はシンプルにネギと白菜だけ。メインにトマトがあるのでそれだけで十分だ。


 トマトは事前に薄皮が剥かれてあるのかとても柔らかい。スプーンでとても簡単にすくうことができた。


 微かな湯気を息で冷ましてからゆっくりと口の中へ。


「……美味しい」


 柔らかくなったトマトが口の中でほろりと溶けた。


 そして、トマトの甘みが広がっていく。


「暖まるね」


「このトマト、いつもより甘いわ!」


「トマトは熱を通すことで甘みが増すからな。そのお陰だろう」


 うん、バルトロの言う通りだ。きちんと加熱されているお陰でトマトの甘みが増している。


 このトマトこそが主役であることに納得の美味しさとボリュームだ。


 トマトの甘みと酸味が味噌に溶け出しており、美味しいな。


 汁を飲むと身体の中から暖まる。コタツで外からも暖まる。最高だな。


「はあ、美味しかった」


「身体がとても温まったね」


「うん、温まってお腹も膨れたし稽古はやめとこうか」


「ダメに決まってるでしょ」


 シルヴィオ兄さんとそんな風に会話していると、エリノラ姉さんに怒られた。


「えー、こんな美味しいもの食べてコタツで温まったら、もう外になんて出たくないよ。このままコタツでぬくぬくしていようよー」


 せっかくいい朝を迎えているのだ。わざわざ自分を虐めにいきたくない。


 このままぬるっとだらりとした時間に突入したい。


 駄々をこねる俺をシルヴィオ兄さんは苦笑いで見守り、エリノラ姉さんはスルーする。


 俺がどう訴えようが二人に稽古をやめるという選択肢はないようだ。


 落胆のため息をついた俺は食器を片付けるバルトロを見て閃いた。


「そうだ、バルトロ! 今こそアレを頼むよ!」


 そう、俺は少し前に取引をした。それは俺が掃除を手伝う代わりに、バルトロが俺の稽古を免除するというもの。


 そのカードを切れば、俺は稽古に行かなくて済む。


「アレ?」


 エリノラ姉さんが訝しむ中、バルトロがこそっと寄ってくる。


「おいおい、坊主。確かに約束したが、急にするのは無理だって言ったろ?」


 バルトロが理由をつけるにも前もって言っておく必要がある。


 当日に言って成功したとしても、バルトロに大きな負担がかかるだけだ。


「くっ、そういえばそうだった」


「安心しろ。前もって言っておけばちゃんと回避させてやる」


「じゃあ、次の稽古の時は頼むよ?」


「わかった」


 最近、冬の寒さが厳しくなってきたのだ。次こそは稽古を回避させてもらおう。


 バルトロがしっかりと頷いたのを確認した俺はほくそ笑む。


「さあ、そろそろ外に行くわよ」



 しかし、すぐにエリノラ姉さんに外に連れ出され、余裕の笑みは崩れ去った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
↓スローライフってご存知?
[一言] 毎回毎回、グズグズで鬱陶しいスローライフじゃないくて怠慢ライフじゃないか!稽古嫌々展開もう飽きた!転移出来るからもっと冒険しろや!魔法が凄いんだから魔獣との闘い入れろや!ワクワクしない!途中…
[気になる点] 冬にトマト??
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ