丸投げ失敗
ケニーと適当に周囲をうろつき、礼を言って別れると俺は石造のある広場に戻ってきた。
空いているベンチに腰掛けるとスケッチブックに国王様を描いていく。
イラストとは美化するもの。だから、本物の国王様のだらしない部分を知っていても、そこをリアルに描いてはいけない。
だから、この石像を見た通りに、忠実に描くのが正解だろう。その方が喜んでくれるに違いない。
これが穏やかな春であれば、じっくり描くのも良かったんだけどなぁ。
王都の広場で火球を浮かべていたら目立っちゃうだろうし我慢するしかない。
風邪を引かないように、できるだけ特徴を捉えてササッと紙に描いてしまう。
「うん、こんな感じでいいよね」
スケッチブック上には石像と同じポーズをしたジギル国王様が描かれていた。
大雑把であるが、大体の特徴は捉えてある。
細かい装飾品などのディティールは後で描き込めばいい。
久し振りの王都だが寒空の中であまり長居はしたくないので、スケッチブックを畳むとそそくさと人通りの少ない場所へ。
周囲に誰もいないことを確認すると転移を発動させる。
視界がぐにゃりと曲がると、一瞬にして俺は屋敷から少し離れた一本道に戻ってきていた。
緑に囲まれたいつもの風景を見ると、やっぱり落ち着くな。
さっきまで人がたくさんいる場所にいたせいか余計にそう思える。
火球を浮かべて周囲の空気を暖めながら屋敷の中に入る。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
玄関を拭き掃除しているサーラに挨拶をして、自分の部屋へ。
そのままベッドにダイブしたくなるが、だらけてしまうとディティールの描き込みが面倒になりそうだったので、意志を振り絞ってイスに座った。
王都にあった石像を思い出しながら、ラフだったらイラストの完成度を仕上げる。
「よし、できた」
小一時間ほど経過すると、紙面上に立派な国王様のイラストができた。
イラストができたら後は面の攻撃表記を考える。
とはいっても、そちらは以前から考えていたので悩むことはない。
イラストの端にサラサラッと文章表記を書いておく。
これで後はシルヴィオ兄さんに丸投げ――じゃなくて、任せるだけだ。
俺はスケッチブックを持ってシルヴィオ兄さんの部屋に移動する。
「シルヴィオ兄さん、俺だけど入ってもいい」
「いいよ」
シルヴィオ兄さんの返事が聞こえたので中に入ると、室内には絵の具などの道具がおいてあった。
色鮮やかなたくさんの色が作られ、細かく筆が並んでいる。
まるで絵画の工房のようだ。
床にはシートが敷かれており、その上には髪を後ろに結んだシルヴィオ兄さんが座っていた。
どうやらエルマンから貰った素体を使って、追加のバトル鉛筆を作っているようだ。
「ごめん、この塗り込みだけ終わらせたいから待っててくれる?」
「うん、わかった」
シルヴィオ兄さんが集中しているのを理解して、俺は端にあるソファーに腰かけた。
小さな木の棒にあれだけの彩色をするんだ。並大抵の集中力ではできないだろうな。
真剣な表情で小さな筆を動かしているシルヴィオ兄さんは、もう立派な職人だった。
男性にしては華奢なはずの小さな背中が、何故かいつもよりも大きく見える。
「ふう、待たせてごめんね」
「全然いいよ」
「それでどうしたの?」
「国王様をモチーフにしたデザインができたから持ってきたよ。これを元に作ってくれる?」
「塗ることはできるけど、僕は一から絵を描くことはできないよ?」
スケッチブックを見せると、シルヴィオ兄さんは苦笑いして言った。
「ええ? あれだけ綺麗に塗ることができるのに?」
「形あるものに色を塗ることと、線で形を作ることはまったく別だよ」
線で描くことは得意だが、着色することは苦手だって絵師の話はよく聞く。
「となると、俺が下書きしないとダメ?」
「うん、アルに下書きをして欲しいかな」
つまり、俺が線画担当、シルヴィオ兄さんが着色担当というわけか。
「えー、シルヴィオ兄さんに全部丸投げできると思ったのに……」
「アル、心の声が漏れているからね?」
おっと、衝撃の事実によって心の声が漏れてしまったようだ。
「うーん、六角形の鉛筆にこんな細かいイラストは描ける気がしないな」
「多少、単純化する必要はあるね」
前世のような印刷技術や着色技術があれば別であるが、手作業となると無理だ。
シルヴィオ兄さんの繊細な技術があれば可能だと思っていたが、それが無理なのであれば仕方がない。
「じゃあ、もうちょっと描きやすくするよ」
「うん、お願い」
自分の部屋に戻るのも面倒なので、俺はシルヴィオ兄さんのテーブルを借りて、デザインを見直すことにした。
威厳あるリアルな国王様そのものを描くのは厳しいので、特徴を捉えつつ単純化するのだ。
それならば、しっかりと石像を描き込む必要はないと思うかもしれないが、単純化するにも特徴をしっかり捉える必要があるので後悔はしていない。
むしろ、しっかりと描き込んでいて助かった。
お陰で国王様の特徴はしっかりと把握することができている。
王冠を描いて顔の輪郭は面長に、髪型もしっかりと輪郭を表現。
「これでも鉛筆に描くには厳しいな」
一つ描いてみたが、まだまだ鉛筆の上部に描くには難しい気がする。
もう少し単純化できるはずだ。
「んんー、これはさすがに可愛すぎる気がする」
次に描いたものは三頭身くらいの国王様だ。これならば簡単に描けるとは思うが、国王様の威厳がまったくない。
息子や娘から贈られた似顔絵ならともかく、モチーフにしたバトル鉛筆でこれを貰っても嬉しくはないだろう。
そうやっていくつも単純化したイラストを描いて、ちょうどいい塩梅を模索していくと七つ目のデザインでようやく納得できるものが完成した。
「よし、これなら描けそう」
デザインが人心地ついたので気晴らしに会話でもしようかなと思っていたら、シルヴィオ兄さんは真剣な眼差しでバトル鉛筆に着色を施していた。
俺がデザインを始める前からやっていたが、まだやっているらしい。
すごい、集中力だと傍から見ていてよくわかる。
さすがに俺の気晴らしでそれを途切れさせるのは可哀想だな。
俺もデザインが完成したのだし、このまま下書きをやってしまおうかな。
面倒くさいが、逆にそれさえ終われば後は完全にシルヴィオ兄さんに丸投げできるのだ。
俺の作業はほぼ終わりと言っていい。
面倒くさい仕事はさっさと終わらせて、のんびりとしよう。
そう自分に言い聞かせて俺は怠けることなく、素体を手に取って下書きを始めた。
◆
「ふう、これで終わりかな」
「お疲れ様、アル」
素体への下書きを終えると、シルヴィオ兄さんが傍にいて労いの言葉をかけてくれた。
「ありがと。これで後はシルヴィオ兄さんに塗ってもらうだけだよ」
「国王様に献上するものだけあってか、すごく緊張するけど頑張るよ。後は任せて」
後は任せろ。その台詞が社畜からすれば、どれだけ心強いものだろうか。
こういうことを平然と言えるシルヴィオ兄さんは、っとの人の上に立てる才能を持っているのだろうな。きちんと労いの言葉もくれるし、俺が部下なら心酔したことだろう。
「そっちはもう終わったの?」
「うん、ついさっきコーティングが終わって乾かしているところさ」
そう言われて見渡してみると、室内が少し暗くなっているのがわかった。
ライトの魔法で明るくなっているが、窓の外を見ると夜なのがわかる。
「あれ? っていうか、もう夜じゃん」
「気付かないで魔法を使っていたんだね。アルの言う通り、もう夜だよ」
クスリと笑いながら言うシルヴィオ兄さん。
どうやら俺は無意識の内にライトを使って、部屋の中を明るくしていたようだ。
自分でも魔法を使った覚えが全くなかった。
光源が必要だと思って無意識に使っていたのだろう。
「夕食の呼び出しがないなんて珍しいね」
「あったけど作業中だから戻ってもらったんだ。僕達の分はあそこに持ってきてもらったよ」
シルヴィオ兄さんが指さすところには、俺達の夕食らしきトレーが二つ置いてある。
この時間になっているのなら他の家族は全員食事を終えている頃だろう。
ダイニングルームまでわざわざ持っていって食べるのも面倒くさい。
「今日はここで食べようか」
「うん、僕の部屋で二人で食べるってなんだか新鮮だね」
どうやら国王様のためのバトル鉛筆製作は夕食の呼び出しを免除できるほどの効果があるらしい。さすがは国王様だ。すごい。
「少しスープが冷めてるね。俺が魔法で温めるよ」
「お願い」
いつもの全員で食べるような賑やかさはないが、こうしてシルヴィオ兄さんと二人きりで食べる食事も悪くない。
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