王冠ポロリ
「アル、最近コタツに籠り過ぎじゃないかしら?」
「そういうエルナ母さんこそ、かなりの頻度でコタツに入ってるよね?」
俺にそんな言葉を投げかけたエルナ母さんは、目の前にいる。
それはエルナ母さんもコタツに入っていることをしっかりと表していた。
「話をすり替えないで。今はアルの話をしているのよ」
「いや、でもコタツに入っている人が、人のことをずっとコタツにいるとか指摘しても説得力がないよ」
「私はアルほどコタツにズブズブじゃないからセーフよ」
ギャンブルにハマったみたいな表現はやめてもらいたい。
というか、どういう基準でセーフかアウトなのか俺にはさっぱりわからなかった。
それよりもコタツが今日も暖かい。コタツの中にある魔道具は今日もしっかりと仕事をしてくれているようだった。
「アルフリート様、トリエラさんからお手紙がきています」
そんな風にエルナ母さんと言葉遊びのような他愛のない会話をしていると、サーラが一枚の手紙を持ってきた。
「ああ、トリーだね」
「ちょっと待ちなさい。王家の紋章が入っているのよ? 丁寧に開けなさい」
無造作に手で開けようとすると、エルナ母さんが待ったをかけた。
裏面を確認してみると、そこには王家の紋章らしい大仰な紋章がついている。
「別に手紙の封筒にそこまで気を遣わなくても良くない?」
「なにかあったときに手紙を改められでもしたら困るでしょ。その時に王家の紋章の部分が破れていたら不敬と見なされるわ」
ええ、なにそれ。この世界の王族って本当に怖い。
サーラがペーパーナイフを持ってきてくれたので、俺は丁寧に封を開ける。
紋章なんて傷つけようがない位置にあるが、エルナ母さんに恐ろしさを説明されたので手が少し震えた。
「エルナ母さんが読む?」
「玩具王宛てって書いてあるんだもの。私が一番に読むわけにはいかないわ」
「へいへい」
封の中にはトリーからの手紙と王様からと思わしき手紙があった。
それらを丁寧に広げて文字に目を通していく。
「手紙の内容は?」
「トリーからは王様の許可を貰ったからバトル鉛筆を作ってほしいってことと、王様からは感謝の言葉があるね」
トリーの方は、王様から許可を貰ったので急ぎでバトル鉛筆を作ってほしい旨が書かれており、王様からの手紙はやたらと仰々しい言い回しで感謝の言葉が綴られていた。
「……少し見せて」
俺が内容を要約して伝えてあげたにもかかわらず、手紙を渡せと言うエルナ母さん。
俺の言葉だけでは安心できなかったのだろう。
それなら最初に読んでくれてよかったのに。
エルナ母さんはじっくりと時間をかけて目を通すと、俺にそっと手紙を返した。
「特に問題はないみたいね」
「そう言ったじゃん」
まったく、エルナ母さんは俺が字が読めないとでも思っているんだろうか。
エリノラ姉さんでもあるまいし、俺は仰々しい言葉でも意味を取り違えたりしないのだが。
「……手紙を読んだわよね?」
心外に思いながらもコタツでぐでっとしていると、エルナ母さんが当たり前のことを言う。
「うん、読んだけど?」
「国王様に献上する玩具なのだから早くとりかかりなさい」
「えー、今はそんな気分じゃないから明日から取りかかるよ。どうせ手紙の到着日時なんて相手にはわからないし、一日くらい誤差――」
「アル?」
「わかりました。今すぐとりかかります」
さすがに長年息子をやっているのだ。エルナ母さんが本気で怒りそうな気配くらいわかる。
エルナ母さんの綺麗な笑みという圧力を受けた俺は、素直にコタツから出て作業にとりかかることにした。
◆ ◆ ◆
エルナ母さんにコタツを追い出された俺は、早速バトル鉛筆の製作にとりかかることにした。
素体となる木の棒は前もって発注しているので、既にに完成しており手元にある。
すぐにでも作業に入れる状態だ。
今回作るのは王様をモチーフにしたバトル鉛筆。
しかし、俺は肝心の王様を見たことがなかった。
うちには王様の肖像画なんてないし、顔が載っている書物もない。
これでは王様をモチーフにしたバトル鉛筆が作れないではないか。
今更ながらそんな事実に気付いてしまったことに愕然とする。
「いや、でも待て。前回、王都の上空から王城を覗いた時に、それらしい人がいたような?」
あの時の光景を思い出すと、偉そうに胸を張っていた老人と、こそこそと逃げるように移動した王冠を頭に乗せたおじさんがいた気がする。
王冠をしている方が王様なのだと思うけど、王様があんな風にこそこそとするだろうか。
俺には判断ができないし、もう半年以上も前の出来事だったので顔立ちも曖昧だ。
「……王都に行ってみるか」
もう一度上空からミスフィリト白を覗いてみよう。そこからまた見えればいいし、見えなかったら適当に肖像画を探せばいい。
そう決めた俺はエルマンの工房に行くと理由をつけて外出し、適当な場所で転移を発動させた。
全身に魔力が包まれて視界がぐにゃりと捻じ曲がると、一瞬にして俺は王都の建物の屋上にいた。
以前、エリックと一緒に上空から降り立った建物である。
出来事が濃厚だったために自然とイメージが焼き付いている。
人気も少なく、見通しもいいために王都に転移でやってくる際はここが無難だろう。
この辺りは住宅地だから静かだが、商店街や大通りの方からは微かに喧騒が聞こえてくる。
ここ最近は長閑なコリアット村で過ごしていたために、ちょっとした賑やかさや密集した建物が新鮮だった。
周囲に誰もいないことを確認すると、シールドを階段のように出現させて上っていく。
ひとまず地上から目視されないように上に上に。
高度が上がれば、地上から目視されたとしても点にしか見えない。まず、見つかることも気にされることもないだろう。
そうやってシールドを足場に移動して高いところに移動すると、そびえるミスフィリト城がしっかりと見えた。
魔力で視力を強化すると、中庭では食料を納品する出入りの業者と、それを確認する女騎士とメイドが見える。
なんてことのない城の日常を確認しながら視線を移動させると、廊下でだらりとしているおじさんの後頭部が見えた。
それだけならおじさんが仕事中にだらけているだけと流すのであるが、その頭には王冠が載っていた。
多分、前に見たこそこそとしていたおじさんではないだろうか。生憎と後頭部しか見えないので断言できないが、そんな気がする。
なにか悩み事でもあるのか、おじさんは窓枠に背中を預けて天井を仰いでいるように見えた。
そんな高いところでだらけていていいのだろうか。というか、随分と反った体勢をしているが王冠が落ちたりしない?
そんな心配をした瞬間、おじさんの頭に乗っている王冠がポロリと窓の外へ落ちた。
頭上に載っている物が落ちたと気付いたのか、おじさんは慌てて手を伸ばすがもう遅い。
おじさんの王冠は中庭へと無慈悲にも落ちていく。
その先は食料を確認する女騎士がおり、その傍に落ちるかと思いきや――女騎士が目にもとまらぬ剣閃で叩き切った。
女騎士は満足げな様子で剣を鞘に戻し、叩き切った物に視線をやって目を剥いた。
まったく関係ない俺でも目を覆ってしまいたくなるような事故だ。
仕方のない状況だったとはいえ、王冠を叩き切るとか絶対にヤバイだろう。
女騎士やメイドが騒ぎあっという間に中庭には人が集まる。
間接的な原因であるおじさんは青い顔でそれを見下ろすと、そっとその場を離れた。
地味に最低だ。
女騎士達は王冠が上から落ちてきたと理解しているので、一生懸命に上を見やる。
なにかを探そうと一斉に上を見る騎士達の視線が怖くなり、俺は観察を中止して上空から降りることにした。
『今後に期待!』
『続きが気になる!』
『更新頑張れ!』
と思われた方は、下のポイント評価から評価をお願いします!
今後も更新を続けるためのモチベーションになりますので!
次のお話も頑張って書きます。




