お手伝い
もう450話ですね。
書籍8巻は五月九日に発売予定です。
朝食を食べ終わると、俺はすぐにダイニングルームを後にしてリビングにやってきた。
そして、中央に配置されているコタツに足を入れる。
「ああ、暖かい……」
下半身が暖かな空気に包まれ、ホッとするように声を漏らす。
朝食の前に魔力をきちんと注いでおいたので、コタツの中はぬくぬくとしている。
コタツの中に足を入れて、暖まるのを待つほど虚しい時間はないからな。
「誰もいないしコタツの中に入っちゃえ」
手足を暖めた俺は、そのまま布団をめくってコタツの中に入ってしまう。
大人であれば身体が大きくてできないか、足が出てしまうのだが小さな身体である今の俺には造作もないこと。
すっぽりとコタツの中に全身が入ってしまうのだ。
コタツの内部は火の魔道具が赤く光っていることで僅かな光源があった。
完全に密閉された空間では少し暑いので、火の魔道具を弄って熱量を下げる。
これで完璧。
ああ、全身が暖かい。今の俺は胎児にでもなったかのようだ。
このままコタツと一つになってしまいたい。俺にはベッドという恋人がいるのだが、思わずそんなことを思ってしまうほどに最高だった。
このままコタツの中で二度寝しちゃおうかな。
「――見つけました」
などと目を瞑ってまどろんでいると、突然布団がガバッと捲られてサーラが覗き込んできた。
サーラの端正な顔と突然の出来事にドキドキした。
「本当にここにいました!」
「サーラの予想通りだね」
「坊主は猫かよ」
思わず顔だけ出すと、そこには驚いた顔をしたミーナと呆れた顔をしたメル、バルトロがいた。
「え? なに?」
「坊主、ちょっといいか?」
「ダメ。コタツでぬくぬくするのに忙しいから」
面倒ごとの気配がしたのでバルトロを拒絶して、俺はコタツの中に引っ込む。
バルトロだけならまだしも、サーラやミーナ、さらにはメルまで揃っているんだ。面倒なことに決まっている。
料理を作ろうだなんて微笑ましい用事ではないだろう。
「そこをなんとか頼むぜ」
「うわっ!」
コタツの中に引きこもっていると、バルトロが布団をめくって顔だけ入れてくる。
バルトロの強面が目の前に出現すると、いろいろな意味できつい。
「アルフリート様、お願いします!」
「別に厄介なことを頼もうとしてるわけじゃないさ」
姿勢を変えて顔の位置を逸らすと反対側からはミーナの間抜けな顔が。
その隣からは気怠そうなメルの顔が。
そして、最初の場所にはサーラの端正な顔があった。
四方向すべて顔で包囲されている。
もし、この場に第三者がいたら大の大人四人がコタツに頭だけを突っ込んでいるというシュールな光景が見られただろうな。
「ちょっと顔で塞がないでよ。というか、皆必死過ぎ」
「アルフリート様が協力してくれるか、しないかで私達の忙しさが大きく変わるんです!」
「わかったよ。ひとまず、話を聞くから顔を引っ込めて」
「わ、わかりまし――」
よし、ミーナ達が顔を引っ込めた瞬間、サイキックでコタツを固定して、布団を強固に閉じ切ってしまおう。
そうやって閉じこもれば、四人も諦めてくれるはず。
「いいえ、それはできません。ここで引っ込めると、アルフリート様は魔法を使って引きこもる可能性がありますから」
「そ、そうですよ! 話をしっかりと聞いてもらうまでこのままです!」
サーラの言葉を聞いて、油断していたミーナが顔を戻した。
普段俺を起こしにくることが多いせいかサーラには思考が見抜かれているようだ。
ちっ、鋭いな。
「わかった。話を聞くよ」
観念した俺はミーナの顔を押し退けて、コタツから出ることにした。
さすがに四人に顔を突っ込まれた状態ではゆっくりすることもできない。
それに布団が捲られているせいか、コタツの中の熱がすっかりと逃げてしまっているしな。
「それで皆してどうしたの?」
「実はちょっとした大掃除をしようと思ってな。坊主にはそれを手伝ってほしいんだ」
「ええ、俺が掃除をやるの?」
「とはいっても、坊主にやってほしいのは魔法で家具を持ち上げることだ。リビングにあるソファーやイス、テーブル、食器棚も坊主の魔法にかかれば簡単だろう?」
「あー、そういうことね」
スロウレット家は使用人がかなり少ない。
普段の業務などは各々が優秀なことや、俺達が無駄な雑事を振らないことで上手く機能しているが、こういった力作業が必要な時はどうしようもないな。
リビングにあるソファーひとつでも中々の重さだ。バルトロが持ち上げることはできるだろうが、一人でやっていてはかなり時間がかかるだろうな。
サイキックで家具を浮かしてあげることくらい造作もないが、今日はコタツの中でぬくぬくとしていたい。
二度寝をするとさっき決めたんだ。そういう気分になってしまうと、中々それ以外のことをする気にはなれないな。
「今じゃなきゃダメなの?」
「今日は都合よく皆が外に出かけているからめ。屋敷の中を掃除するチャンスなのさ」
暗に今は気が乗らないと言うと、メルが今じゃなきゃダメな理由を述べてくれた。
「え? 嘘? 今って屋敷に誰もいないの?」
「エリノラ様は自警団の稽古に。ノルド様、エルナ様、シルヴィオ様は村の視察に行かれました」
妙に屋敷の中が静かだと思ったら俺一人だったのか。
「朝食の時におっしゃっていましたよ?」
「聞いてなかった」
ミーナが小首を傾げながら教えてくれるが、俺はその時コタツに入ることにしか意識が行ってなかったので耳をすり抜けていたんだろうな。
「そういうわけで坊主、手伝ってくれ!」
バルトロが両手を合わせて拝むように頼み込んでくる。
大掃除で一番負担かかるだけにバルトロは特に必至だ。
「お礼にしばらく飯のメニューを坊主の好きなものにしていいぜ?」
「いや、それで喜ぶのはミーナだけだから」
「それもそうか」
「なんか私バカにされてます!?」
「じゃあ、どうしたら引き受けてくれる?」
驚愕を露わにするミーナを全員がスルーして、バルトロが真摯な瞳で尋ねてくる。
「……今回みたいな方法で俺の剣の稽古を一回休ませるっていうのはどう?」
寒い冬になっても剣の稽古は外で続く。
俺がいくら寒いからやりたくないと主張してもノルド父さんは聞き入れてくれないので、バルトロ達を引き合いに出してスキップさせる作戦だ。
「んー、ノルドの稽古を休ませるかー……わかった。やってやろう!」
少し悩んだ後にバルトロはハッキリと頷いた。
「できるの?」
自分で頼んでおいてなんだがノルド父さんの稽古を休むのは中々に難しい。
貴族などの来客があった時や、余程の用事や病気などにならなければ認められないのだ。
そして、姉弟の中で俺の判定については特に厳しい傾向がある。
「ああ、いくつか坊主がいてくれると助かる仕事があるからな。それを理由に適当に連れ出してやるぜ」
「おお、さすがはバルトロ。期待しているよ」
稽古という鎖から解き放ってくれるバルトロが爽やかな王子に見えてしまった。
「バルトロさん、頑張ってくださいね!」
「よろしくお願いします」
「期待してるよ」
「いや、お前達も手伝ってくれよ」
早くも保身をかけようとするメイド達とそれに突っ込むバルトロを見て、俺は少しだけ心配になるのだった。
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次のお話も頑張って書きます。




