家族でコタツ
「……なにしてんの?」
エルナ母さんもコタツに入ってほっこりしていると、外からエリノラ姉さんが帰ってきた。
リビングに入ってきた俺達を見るなり怪訝な顔をしている。
木剣を手にしていることから外で自主稽古をしていたらしい。
白い頬が寒さで微かに赤く染まっていた。
こんなに寒いというのに元気だな。
「コタツの中で暖まってる」
「コタツ?」
「アルの考えた暖房器具だよ」
「これが暖かいの?」
シルヴィオ兄さんがそう言うと、エリノラ姉さんはおそるおそるコタツにやってくる。
そして、空いているところがあるのに何故か俺の隣にやってきた。
「ちょっと寄って」
「はいはい、わかったから足で腰をグリグリしないで」
エリノラ姉さんのおみ足が骨と骨の間に食い込むようにきてすごい。
色々と突っ込むところはあるが、文句を言っても仕方がないので素直に横に寄る。
すると、エリノラ姉さんは満足そうに頷いて、コタツの中に入った。
「あったかい……っ!」
エリノラ姉さんが目を見開いて感想を漏らす。
コタツの布団をめくりあげて、無造作に手を突っ込んで温もりを享受している。
「手を暖めたい気持ちはわかるけど布団をめくったら熱気が逃げるから」
「わかったわよ」
さすがに熱気が逃げるのは嫌なのだろう。俺の忠言にも関わらずエリノラ姉さんは素直に従ってくれた。
捲り上げていた布団を下ろして、深めに腕を入れて座り直す。
その時、エリノラ姉さんのひんやりとした手が俺の手に触れた。
「冷たっ!」
驚きの声を漏らして即座に手を離すと、エリノラ姉さんがニヤリと笑った。
これ、絶対にロクでもないことを考えている顔だ。
危険を察知して離れようとするも、エリノラ姉さんの動きの方が早かった。
「ちょっと体温をよこしなさいよ」
エリノラ姉さんの腕がにゅんと伸びて、俺の首元に入り込んでくる。
「冷たいし、くすぐったい! コタツがあるからそこで暖めればいいじゃん!」
「こっちの方が暖かいし、面白いわ!」
ひんやりとした手がどんどんと俺の体温を吸い取っていくようだ。
くそ、俺が生意気にも忠言した仕返しだな。
俺が冷たさとくすぐったさで喘いでいるのをエリノラ姉さんは楽しそうに見ていた。鬼だ。
やられっぱなしというのも性に合わないので、俺はくすぐったさに耐えながら氷魔法を発動。
エリノラ姉さんの襟元に氷を入れてやった。
「ひゃあっ!?」
服の中に氷が入って驚いたのか、エリノラ姉さんが女の子みたいな悲鳴を上げて飛び跳ねた。身体がコタツにガンと当たり、テーブルの上にあるコップが倒れそうになる。
「こら、二人とも暴れないでちょうだい」
恥辱に顔を赤くしたエリノラ姉さんが覆い被さろうとしたところで、エルナ母さんがぴしゃりと言い放った。
「「はーい」」
正直、俺が悪いとは思えないが、反論しようものなら二人ともコタツから追い出される可能性がある。
それはちょっと嫌なので、俺とエリノラ姉さんは不服ながら反省の返事をした。
シルヴィオ兄さんは本を読み、エルナ母さんはドライフルーツを食べ、エリノラ姉さんは身体を温めることに徹する。
俺はうつ伏せになって寝転がっていた。
四人もコタツに人が入っているとこういう体勢はしにくいが、今の俺の身体はとても小さいので何のそのだ。
はあー、暖かい。まるでお風呂にでも浸かっているかのようだ。
もうここから出られる気がしないな。俺はここでコタツと一つになるんだ。
そんな決意を抱きながら目を瞑っていると、隣からくうーとした音が響いた。
皆がのんびりと静かに過ごしている中、その音はくっきりと聞こえてしまった。
「……お腹空いた」
お腹を鳴らした張本人は特に恥ずかしがることなく真顔で言ってのけた。
こういう時にご飯の催促をしてやるのは主に俺の役目だ。
「昼食はここで食べるのはどう?」
「いいわね。たまにはいつもと違う場所で食べてみるのも悪くないわ」
俺の言葉にいち早く返事するエルナ母さん。
もっともらしい台詞を述べているが、コタツから出たくないという本音が駄々洩れだった。
でも、その意見には皆も賛成なので、誰も反対することはない。
「アル、ベルを鳴らして」
「はいよ」
リビングのテーブルに置かれてあるベルをサイキックで浮かして慣らす。
チリーンとよく通る音がして、廊下からミーナの返事の声がした。
いつもならメイドが控えていなければ自分達で動くことの方が多いスロウレット家だが、コタツの魔力の前には屈してしまう。
「はい、お呼びで――って、なんですかこれ?」
リビングにやってきたミーナはコタツに入っている俺達を見るなり小首を傾げた。
「コタツっていう暖房器具だよ」
「暖房器具ですか!? ちょっとお邪魔しても?」
「「ダメ」」
ミーナのお願いを俺達は却下する。
「どうしてです!?」
「ここに入ったが最後、ミーナは出られなくなるから」
「そ、そんなぁ……暖房器具……」
コタツの魔力に堕ちて、働かなくなるミーナが容易に想像できてしまうからである。
「ミーナの頑張り次第ではメイドの控室にコタツが配備される可能性も……」
「なんなりとお命じください!」
コタツの配備だけで、なんなりととか言ってしまって大丈夫なのだろうか。
ミーナの性格上、餌をぶら下げる方が頑張れると知っていたものの少し心配になってしまう。
「今日の昼食はここで食べるわ」
「こちらでですか? そうなるとあまり品数の多い料理では厳しそうですね」
ダイニングテーブルと比べると、俺の用意したコタツはかなり狭い。
いつものように品数を用意してしまうと食べるのが大変になることは想像できた。
「どうする?」
「じゃあ、鍋がいいんじゃない?」
夏場に俺の部屋で鍋を食べた時があった。
あの時は氷魔法で部屋をキンキンに冷やして、その中で温かい鍋を食べたものだ。
今回はちゃんと冬に食べたい。俺の提案はそんな願望からきていた。
「そうね。あれなら持ってくるのも簡単で皆で食べられるものね」
「わかりました。では、バルトロさんにそのようにお伝えしますね」
最大権力の持ち主であるエルナ母さんの認可が得られたことで、昼食は見事に鍋になった。
「後、ノルドもここに――いえ、何でもないわ」
「よろしいのですか?」
「私が呼んでくるから」
なんと! あのエルナ母さんがコタツの魔力に屈することなく離れることができるなんて信じられない。
エルナ母さんの怠惰な性格を考えると、それはあり得ないことだった。
暖かいコタツから出てまでノルド父さんを呼びに行くなんて。
それ程、驚くノルド父さんを見たかったのだろうか。
恋のパワーはコタツすらねじ伏せてしまうのだろうか、恐ろしい。
しばらくすると、エルナ母さんはノルド父さんを伴って戻ってきた。
「これがアルの作ったコタツかい?」
「ええ、そうよ。とても暖かいの」
何故か自慢げにそう言うエルナ母さん。
別に誰が作ったかはどうでもいいので気にしない。夫婦が円満なら何よりだ。
エルナ母さんが腰を下ろして、隣にノルド父さんも腰を下ろす。
「本当に暖かいや。足先までぬくくて気持ちがいいね」
「でしょう?」
相槌を打ちながらノルド父さんの近くに寄るエルナ母さん。
そうか。ノルド父さんを呼びに行ったのは確実に自分の隣に座らせるためか。
普通に呼んだらノルド父さんは広い空いている方に座る可能性が高かったからな。
さすがエルナ母さん、強かだ。
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次のお話も頑張って書きます。




