王様だけのバトル鉛筆
『Aランク冒険者のスローライフ』コミック2巻、本日発売です! 書籍、電子版共々よろしくお願いします。
「アル、もう一回やらない?」
あれから勝負を続けて、二勝、三敗という成績を刻んだが、シルヴィオ兄さんの遊び欲は衰えることはない。
自分で作った玩具で遊べるのが嬉しいのか、シルヴィオ兄さんはいつになく興奮しているようだった。
「ちょっと待ってね。トリーと話をするから」
「あっ、ごめん。わかった」
トリーのことを思い出したのか、シルヴィオ兄さんは我に返ると一人で鉛筆を転がし始めた。
いきなり一人遊びを思いついて実行するとは、中々にレベルが高い。
俺も授業中によくやっていたけどね。
さて、五回も戦いを見せられれば大体の遊び方や雰囲気はわかっただろう。
早速トリーにバトル鉛筆の感想を尋ねてみる。
「こんな感じの玩具だけどどう?」
「いいっすね! 転がして出た面に従うという単純ながらも面白い体験。なにが出るかわからないギャンブル的な面白さ。これは間違いなくいけるっすよ。後は王様のための特別感さえ出せれば……」
「それなら王様のオリジナル鉛筆を作れば大丈夫かな」
「……オリジナル?」
「このスライムやアルキノコのように王様をモチーフにした唯一の鉛筆を作るよ」
王様をイラスト化し、その特徴や性格、地位をモチーフにした王様だけのバトル鉛筆を作ってあげるのだ。
これならば量産して渡しても、被ることは絶対にない。
「――ッ! それは絶対に喜ぶと思うっす! これならいけるっすよ!」
トリーの商人としての嗅覚は目を見張るものがある。彼がそのように言うのであれば問題ないだろう。
「わかった。なら、作っていいか王様本人に聞いておいてもらえる?」
王様をモチーフにしたものを作るのだ。本人の承諾もなしに作って、文句をつけられたくないからな。
とはいえ、トリーの話してくれた感じからそんな処罰をするような人ではなさそうだけど。
「任せてくださいっす! それじゃあ、申し訳ないっすけど準備があるので一足先にお邪魔するっす!」
「ほーい」
王様への報告、バトル鉛筆の浸透……トリーの頭の中では様々なことが浮かび上がっているのだろうな。
トリーは俺とシルヴィオ兄さんに元気よく挨拶をすると談話室を後にした。
「ねえ、シルヴィオ兄さん」
「なんだい?」
「王様の絵画とかってうちにあるかな?」
「いや、ないけど……」
突然の俺の質問にシルヴィオ兄さんは戸惑っているようだった。
言葉の最後にどうして? という疑問がついている気がする。
シルヴィオ兄さんは俺とトリーの会話に混じっていないし、理解ができないというのも当然だった。
「実は王様をモチーフにしたバトル鉛筆を作ろうと思っていて、似顔絵とかないかなーって」
「王様の!? アル、いくらなんでもそれは不敬だよ」
ぎょっとしたのも束の間、シルヴィオ兄さんは酷く真面目な顔で俺の両肩を掴んだ。
うん、それが普通の反応だよね。
「大丈夫。これは王様からの依頼だし、許可はこれからトリーがもらいにいくから」
「ちょっと待って。動きが付いていけないんだけど。いつの間に王様からそんな依頼がきていたんだい?」
「ついさっきだよ」
「それでトリエラさんと真面目に話していたんだ」
そう言うとシルヴィオ兄さんは、こめかみの辺りを指で押さえて頭が痛そうにした。
なんだか仕草がノルド父さんに似てきた気がする。
「僕は玩具のことはよくわからないけど、それは父さんと母さんに相談したのかい?」
「あっ!」
シルヴィオ兄さんの言葉を聞いて、俺はすぐにトリーを追いかけた。
◆
トリーを捕まえた俺は、ノルド父さんとエルナ母さんを談話室に呼んで状況の説明をしていた。
正確には俺ではなく、トリーがであるが。
だって、今回の話はトリーが持ってきたものである。請け負った本人が説明するのは当然だった。
決して、俺が一人で言うのが怖いとかそんな情けない理由ではない。それが筋というものだ。
「というわけで、アルフリート様の作っているバトル鉛筆を国王様に献上したいと思うっす」
「「…………」」
ひとしきりトリーから説明を聞いたというのに、ノルド父さんとエルナ母さんは無言だった。
せめて、怒るとか呆れるとか何かしらの反応をしてほしい。無反応が一番怖いから。
気分は無慈悲な圧迫面接である。
「な、なにか言ってよ」
重苦しい空気に耐えられず、思わずおそるおそる声に出す。
「はぁ……国王様が所望している以上、僕達が拒否することはできないよ」
そ、そうだよね。王様が言っているんだもん。俺達にはどうすることもできないよね。
「調子にのらない」
「……はい」
俺のそんな開き直りを察したのか、エルナ母さんがにっこりと笑いながら釘を刺した。
目がまったく笑っていないのに綺麗に見えるのが怖い。
微妙な空気の中、ノルド父さんが考え込んだ果てに改めて尋ねる。
「国王様と会うのは嫌なんだね?」
「うん。それをきっかけに起きる出来事が面倒だから」
ノルド父さんの瞳を真っ直ぐ見据えながら言った。
「……わかった。恐れ多くもこちらの意見を尊重してくれたんだ。期待には応えなければいけないよ?」
さすがはノルド父さん。俺の意思をしっかりと尊重してくれた。
玩具なんて作らなくていいから会ってこいとか言われなくてよかった。
「わかってる。喜んでもらえるようにやってみるよ」
「頑張りなさい、玩具王」
「その名前で呼ぶのは止めて」
エルナ母さんが茶化し、俺が突っ込んだことによって談話室の重苦しい空気はすっかりと霧散していた。




