バトル鉛筆の試遊
『Aランク冒険者のスローライフ』コミック2巻が30日に発売です。
是非ともよろしくお願いします。
「ということは、俺は王様と会わずに済むんだよね?」
落ち着いたところで俺はトリーに肝心なことを尋ねた。
「はいっす。でも、相手はこの国の一番の権力者。本来なら召喚を蹴るなんてあり得ないことでさすがに無条件とはいかなかったっす」
まあ、そうだよね。相手はこの国で一番偉いんだもの。招集を回避できただけでも特例過ぎる。
王様が俺の熱烈なファンでいてくれて本当によかった。
「代わりに何か新しい玩具でも渡せばいいの?」
「その通りっす! アルフリート様は話が早くて助かるっすよ!」
ファンである以上、次の作品を欲しがるのは当然のことだ。
「うーん、王様が喜ぶ玩具かー。何がいいだろう? ジェンガ、けん玉、投げ輪、投球ターゲット?」
「ちょっと待ってくださいっす。投げ輪や投球ターゲットは収穫祭で出たのは知っているっすけど、他のは俺も知らないっすよ!?」
しまった。余計なことを言ってしまった。
ジェンガとかはトリーには隠していたというのに。というか、収穫祭で出した遊びについてはしっかりと情報を仕入れているんだな。
「まあまあ、今は王様への玩具だから」
「……そうっすね。今は置いておくっす」
優先度が高いのがどちらか理解しているからか、トリーは今のところは放置してくれた。
きっと機会を伺って蒸し返してくるだろうけど、その時はその時考えよう。
「王様が喜ぶ玩具ってなんだろう……」
「そうっすね。コマのような子供向けのものよりも、リバーシのような上流階級の人が嗜めるものの方がいいっすね」
となると、けん玉や投げ輪は却下だな。体を派手に動かす投球系や輪投げも相応しいとはいえない。ジェンガは個人で持っていても遊び難いだろうし……意外と難しいな。
「王様以外にも遊べるけど皆とは違う特別感があるとなおいいっすね」
「難しい注文をつけるなぁ。そんな都合のいい玩具なんて……」
要求された条件を満たす玩具を思い出していると、つい最近作っている玩具のことを思い出した。
「――あっ、あった」
あれなら上流階級の人でも遊べるし、王様だけの特別感も出せる。
「どんなものっすか!?」
商売人の顔をしたトリーが前のめりなって食いついてくる。
「ちょうど、それの試遊をシルヴィオ兄さんとするところだったからシルヴィオ兄さんを呼んでもいいかい?」
「勿論っす!」
口で説明するよりも見せた方が早い。
俺は談話室を出て、シルヴィオ兄さんを呼びに行った。
◆
「ほうほう、これがバトル鉛筆ってやつっすね!」
シルヴィオ兄さんが持ってきた玩具を説明すると、トリーがテンションを高めながらまじまじと眺めた。
「六角形、五角形に生成した木の棒によくここまで精巧なイラストを描くことができたっすね! アルフリート様は相変わらず器用っすね」
トリーには悪気はなく、今回の塗装も俺がやったと思っているのだろう。
しかし、それは大きな間違いなので、しっかりと訂正しておく。
「描いたのは俺じゃないよ。シルヴィオ兄さんだから」
「ええっ? これはシルヴィオ様が描いたっすか!?」
その事実にトリーはかなり驚いているようだ。
「は、はい。僕はアルが形にしたものに少し手を加えてみただけですが」
「いやいや、少しって……これはすごい才能っすよ!」
「あはは、ありがとうございます」
真正面から褒められて照れくさいのか、シルヴィオ兄さんはいつもとは違う苦笑いを浮かべた。
俺もシルヴィオ兄さんが褒められると嬉しいな。
「で、このバトル鉛筆という木の棒を転がし、上になった面に従ってお互いに攻撃し合うんすね?」
「うん、体力は百まであって攻撃でゼロになれば負け。相手をゼロにすれば勝ちって感じ」
「なるほど、それは面白そうっすね。早速見せてくださいっす!」
興味津々なトリーに見つめられる中、俺とシルヴィオ兄さんはバトル鉛筆を選ぶ。
「じゃあ、僕はスライムで」
「じゃあ、俺はアルキノコにするよ」
シルヴィオ兄さんがスライムを作ったので、俺はアルキノコを使うことにした。
【スライム ●属性】
全員に十のダメージ
薬草を丸呑み 体力を二十回復
全員に三十のダメージ
体当たり ●に二十のダメージ
体当たり ★に二十のダメージ
ミス
【アルキノコ ★属性】
キノコの胞子 全員に二十のダメージ
眠り胞子 全員一回休み
●に二十のダメージ
▲に二十のダメージ
ミス
全員に十のダメージ
それぞれの種族や攻撃内容はこんな感じである。どちらも六角形だ。
前世にあったものの内容を参考にし、この世界にいる魔物の特性として落とし込んでみた。
まあ、どちらもそれほど強い魔物でもないので、これぐらいの強さが妥当であろう。
じゃんけんで勝敗を決め、俺が先行になったので早速バトル鉛筆を転がす。
カラララッとテーブルの上を転がり、面が表示される。
「全員に十のダメージ」
「百から十減るから、僕の残り体力は九十ってことだよね?」
「うん、それで合ってる。次はシルヴィオ兄さんだよ」
なんだかんだ二人で遊ぶのが初めてなのでルールを確かめるように進行する。
シルヴィオ兄さんがわくわくとした様子でバトル鉛筆を転がす。
「えっと……ミス? ミスってどういうことだい?」
「失敗ってことだから何もないよ」
「ええ! そんなの酷いよ!」
初っ端から出鼻をくじかれているシルヴィオ兄さんを見て思わず笑ってしまう。
「いや、俺にもミスはあるから。六分の一の確率で出ちゃうんだ。シルヴィオ兄さんの番は終わりだから俺
が振るね」
不満そうにするシルヴィオ兄さんをよそに、俺は自分のバトル鉛筆を転がす。
鉛筆の回転もとても綺麗で見ていて気持ちがいい。
「眠り胞子 全員一回休み」
「僕は眠っちゃったから一回休み」
「うん、だから俺がもう一回振るよ」
釈然としない顔をしているシルヴィオ兄さんを無視して、俺はもう一回振る。
「あっ、ミス」
「失敗ってことだから何もないね」
シルヴィオ兄さんがどこか嬉しそうな口調でバトル鉛筆を転がした。
「体当たり ★に二十のダメージ。やった! アルは★だよね」
「いんや、●だよ」
「真面目な顔で嘘をつかないで。アルキノコは★属性だから」
「ちぇっ、これで俺の体力は七十か」
くそ真面目に答えれば、勢いで誤魔化せるがそうはいかなかったようだ。
それもそうだ。シルヴィオ兄さんが属性をしっかり描き込んでくれたんだからな。
「気になっていたんすけど、この●とか★というのはなんなんすか?」
舌打ちしながら数字のカウントをすると、ずっと見守っていたトリーが質問をしてきた。
「それぞれに●、★、▲と属性分けをしているんだ。●属性には●属性の攻撃は通用するけど、★や▲を対象に
した攻撃は通じないってルール」
「どうしてそんな属性分けをしているっすか?」
「攻撃と失敗だけじゃメリハリがないんだよね。当たるかもしれないし、当たらないかもしれない攻撃があるとわくわくするじゃん?」
「なるほど、ギャンブルのようなものっすね!」
「わかるけどイメージが悪くなるから同じにしないで」
感心しているトリーに思わず俺は突っ込みながら、俺は鉛筆を転がす。
「くっ、▲に二十のダメージ」
「スライムは●だから無効だね」
俺の攻撃結果にシルヴィオ兄さんが上機嫌になる。
くっ、誰だ。属性とか考えたやつは。
自分で作ってしまったルールを早速覆したくなるような結果が出た。
「えっと……体当たり ●に二十のダメージ」
「俺は★だから当たりませーん」
煽るように言うとシルヴィオ兄さんが悔しそうにする。
この属性ルールは最高だな。攻撃が通じないとは大変結構じゃないか。
嬉しい結果に俺は早速手の平を返す。
「全員に十のダメージ」
「これで残りの体力は八十だから、まだまだ!」
そう言ってシルヴィオ兄さんが鉛筆を転がす。
「ああっ!」
「薬草を丸呑み 体力を二十回復……回復ってことは体力が二十増えるんだよね? じゃあ、僕の体力は百に戻ったよ!」
「こうやって自然に遊びながら数の計算もできるとはすごいっす」
「ずるい!」
「いや、攻撃内容を設定したのはアルじゃないか」
それもそうだけど、こんな風にせっかく与えたダメージが全快されてしまうと心が折れるぞ。
「むむ、それでもまた減らしてやる。こい三十ダメージ! ……あっ、ミス」
結局、このバトルはシルヴィオ兄さんにしつこく回復をされて負けた。




