バトル鉛筆
冬になると気温が低くなり、外に出るのがいつもより億劫になる。
そうなると一日のほとんどを屋敷の中で過ごすようになるわけで、少し暇を持て余し気味だった。
部屋の中にはリバーシ、ジェンガ、卓球、人生ゲーム、けん玉と中でできる遊びも色々あるが、どれも最近やりまくったものばかりだしな。
「……よし、新しい玩具でも作るか」
今までの遊びに飽きたのなら作ればいい。
こういう外に出なくなる季節、俺はどうやって暇を潰していだろうか。
ゲームや動画といった現代っ子の遊びはこの世界では再現が不可能なので、もっと昔ながらの遊びだ。
前世の記憶を振り返っていると、ふと学校の休み時間にやっていた遊びを思い出す。
バトル鉛筆だ。
鉛筆を転がして上向きになった面を乱数として使用するゲーム。
それぞれのメーカーによってデザインやルールは変わるが、大半は二人で交互に自分の鉛筆を転がして、出た面に書いてある文章に従って勝敗を決めるものが多い。
比較的安価で鉛筆としても使える実用性のある遊び道具だ。
これならば木を削って、その中に木炭や鉄芯でも入れてやれば簡単にできる気がする。
最悪、木炭、鉄芯は入れずして、転がるように六角形か五角形に加工してやればいい。
後は自分で鉛筆をデザインし、区切って文章や簡単なイラストを描けばできるだろう。
「うん、いけそうだね」
そうと決まれば早速と作業に取り掛かろう。
空間魔法で亜空間から大きな布を取り出し、カーペットの上に敷く。
それから同じく取り出した木材を風魔法による風の刃でカット。
鉛筆のような六角形へと形成していき、あっという間に手軽な鉛筆に……。
「ならないな」
目の前にあるのは歪な形をした細長い木材だ。
試しにテーブルの上で転がしてみると歪な転がり方をして不自然に止まってしまった。
自分の思い描いた六角形ではないし、転がり方も違う。
これでは鉛筆を転がす爽快感が味わえないじゃないか。
やはり、魔法によるカッティングでは難しすぎるな。
大まかなカットこそこなせど、こういう細かい部分は俺の魔法コントロールを以ってしても難しい。
今からその気になって練習することもできるが、いつ頃完成することだろうか。
これなら魔法の練習に時間を費やすよりも、プロの職人に頼んでしまった方が早い気がする。
「エルマンに頼んじゃおう」
魔法は確かに便利だが時と場合によるものだ。手作業でやった方が良い場合は遠慮なく手作業でやってしまえばいい。
そうと決まれば早速エルマンの工房に転移しよう。
――あれ? でもこれって結果的に外に出ることになっていないだろうか? 外に出なくても楽しめる遊びを開発していたのに、結局外に出ることになるとはどういうことだろうか。
そんなことに気が付いたのは、服をすっかりと着替えた後のことだった。
◆
転移を使った俺はコリアット村の外れにあるエルマンの工房にやってきた。
「寒っ!」
一瞬とはいえ、外に出るとやはり寒い。
いつもならば工房から聞こえてくる音を楽しんだり、風景を眺めてから入るのであるが、寒さから一刻も早く逃れたい俺は駆け込むように工房に入った。
木工業は冬であろうと問題なくできるために、工房内にいる職人達は今日も仕事をしていた。
渇いた空気の中で木材を加工する音が気持ちよく響き渡っている。
俺に気付いて会釈をしてくれる職人にこちらも会釈しながらエルマンを探す。
すると、工房の中央で何かを囲むように座っているのが見えた。
そこにはエルマンもおり、職人達と談笑しながら手作業をしているよう。
「やあ、エルマン」
「アルフリート様! お出迎えもせずすいません! どうぞ、こちらにお座りください」
俺に気付いたエルマンは慌てて立ち上がってイスを譲ってくれた。
「いや、いいよ。こっちが勝手に入ってきただけだから。それより、これはもしかして火の魔道具?」
先程から気になっているのは目の前にある魔道具らしきもの。
円柱のような形をしており、中では火球が発生しており空気を暖めている。
「あっ、はい。トリエラ商会の人に頼んで買ってきてもらいました。冷え切った工房内で作業をするのは堪えますから」
「ほう、魔道具を買う余裕がでてきたんだね?」
「アルフリート様の考えた遊び道具のお陰ですよ。投球ターゲットやキックターゲットがあるので、冬の手作業は困りませんね」
増長することなく、それとなく俺をよいしょしてくれるエルマン。
さすがは落ち着きのある大人だ。
「あれ? うちって追加で投球ターゲットとかの発注をしたっけ?」
「はい、ノルド様から演習場で子供達が遊べるように設置の依頼がありました。それと村の皆さんから簡単に庭先でも遊べるように縮小したものをいくつかですね」
「へー」
ノルド父さんがそんな政策をしていたんだ。なんだか町に公園を作ろうとしている政治家みたいだ。
「もしかして、ノルド様から聞いていませんでしたか?」
「……多分、聞いていたと思う」
「多分……ですか」
リビングにある暖炉の前でゴロゴロしている時に、ノルド父さんが何回か声をかけてきた覚えがある。
リラックスしている時に小難しい話をされると聞き流してしまうもので適当に返事をした記憶だけはあった。
多分、村人のために設置してもいいかとか、うちの家に入ってくる割合の話だったと思う。
その辺の話はトリーとやりとりしているノルド父さんが一番詳しいので完全に任せっきりだった。
「ところで、今日はどうされましたか?」
「ああ、少し作ってもらいたいものがあってね」
「「ええっ!?」」
俺が早速とばかりに本題を述べようとすると、エルマンと周りにいる職人達が驚きの声を上げる。
ちょっと待って。そのええってなに?
「……それは新しい遊び道具ですか?」
「そうだけど?」
エルマンの問いに答えると、職人達の顔が絶望で歪んだ。
どこかで見た事のあるような顔と雰囲気だ。
そう、これは仕事で手一杯の社畜達がワンマン社長によって更に仕事を上乗せされた時のような顔。
「大丈夫! これは俺、個人の遊びだから皆の仕事を増やすものじゃないよ!」
「リバーシを作る時もそう言われた気がするのですが……」
それは否定できない。
あの時はまさかリバーシがここまで広まるとは思っていなかったんだ。
「今回こそ大丈夫だと思う! それに今回のものは作るのがそれほど大変じゃないはず」
俺がそう宣言するもエルマンや職人達の視線は懐疑的だ。まるで、怪しい壺売りを見るような目だ。
「……ひとまず、話をお聞きしましょう」
「う、うん。わかった」
どこか警戒した面持ちのエルマンに俺はバトル鉛筆の説明をする。
どのように遊んで使うものか、どのような形にしてほしいか土魔法で再現をしながら。
「つまり、六角形と五角形の形をした棒を作ればいいのですね? きちんと転がるように」
「そうそう。それぞれ五本ずつあると嬉しい」
本当は中に木炭や鉄芯を入れて文字が書けるようにしてほしいけど、自分で使う遊び用だし、転がして遊べればそれでいいと思う。
「確かにこれならばアルフリート様の言う通りすぐにできますね。新人の課題として良さそうなので、任せてみてもいいでしょうか?」
「いいよ。エルマンに任せる」
貴族への仕事を新人に任せるのは荷が重いだろうが、職人を育てるのも責任者の務めだ。
新人にやらせようともエルマンがきっちりと監修をしてくれるので問題はないだろう。
「ライル、ルウ、きなさい」
「「はい!」」
俺が承諾すると、エルマンは二名の若者を呼びつけた。
金色の髪をした少年と緑の髪をした少女。年齢は十四歳くらいだろうか。
ルウと呼ばれた少女は貴族である俺や親方であるエルマンの前にやってきてビクビクとしている。逆にライル少年の方は物怖じせず堂々と立っていた。
互いの性格が見えていて何とも微笑ましい。
「二人にアルフリート様の仕事を任せたいと思う。やってみるかい?」
「や、やります!」
「引き受けたいですが、どのような物を作るんです?」
「そうだね。まずは仕事内容を把握してからじゃない具体的な返事はしづらいね」
エルマンの言葉を聞いて、何も聞かずに前のめりな返事をしてしまったルウは顔を赤くした。
仕事を引き受ける際には、具体的な内容や条件などを詰めるのが先だからね。
エルマンはそう説明すると、改めて今回作るものをラエルとルウに説明した。
「というものだがいけそうかい?」
「はい、やらせてください」
「私もです!」
「それじゃあ、この仕事は二人に任せるよ」
エルマンがそう言うと、ラエルとルウはこちらに向き直り頭を下げた。
「「よろしくお願いします!」」
「うん、よろしく」
初々しい二人を見て、俺はどこか懐かしさを抱いてしまうのだった。




