豪胆な少女
姉弟対決が先の話で割り込み投稿しました。
そちらを読んでいない方は、お手数ですが戻って読んでいただけたらと思います。
「子供混合部門、第一試合の人はこちらへどうぞ」
カルラさんの声が上がり、俺達の腕相撲の第一試合が始まることになる。
「ラーちゃんの試合だね」
「うん、行ってくる!」
ラーちゃんは頷くと、てってってとカルラさんのいる場所に駆け寄る。
そこには腕相撲に使うための子供用テーブルが置かれており、ラーちゃんの対戦相手である少女もいた。
金髪をサイドテールにしている。
身長はラーちゃんより少し大きいので、年上だと思われるが身体つきはかなり華奢だ。恐らく、ラーちゃんの次に幼い子供なのだろう。
名前はカンナというらしい。どこかで聞いたことがあるようなないような名前だな。多分、記憶にないということは、俺とさほど関りのない子供なのだろう。村の子供とはトールとアスモくらいしか交流がないからな。
にしても、対戦相手が可愛らしい普通の少女でよかった。
エリノラ姉さんのようなゴリゴリな相手だとラーちゃんが怪我をする恐れがあるからな。
安心しながら見守っていると、サイドテールの少女がラーちゃんに手を差し出す。
「あたし、カンナ。よろしく」
カンナはラーちゃんが公爵令嬢だと知らないのだろうか? いや、事前に通達されているし、明らかに見慣れない少女がいれば村の子ならば気づくはずだ。
ラーちゃんの服装を見れば、村人ではないということは一目瞭然だ。それに後ろにはメイドであるロレッタもいるし。
恐らく、知っていて気にしていないのだろう。中々に豪胆な少女だ。
「私、ラーナ! よろしく」
ラーちゃんはそんなカンナの態度にも気にすることなく、笑顔で握手に応じる。
相変わらずうちのラーちゃんが天使過ぎるな。
「六歳だけどラーナは?」
「私、四歳! でも、もうすぐ五歳だよ!」
「ふーん、そうなんだ。年下だからって手加減しないよ?」
「…………」
勝気な笑みを浮かべるカンナにラーちゃんは呆けたような顔をする。
「え? どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ! 全力でお願い!」
困惑するカンナをよそに、ラーちゃんは心底嬉しそうに頷いた。
恐らく、公爵令嬢である自分相手でも全力を出してくれるというカンナに驚き、それが嬉しかったのだろう。
ラーちゃんはどうしてもその地位と年齢によって、周囲の人々からは一歩引かれてしまう。勝負事となれば譲られることも多いだろう。
俺だってそうだ。可愛いラーちゃんを容赦なく負かせられるかというと少し怪しい。どうしても悲しませたくないなどの感情が入って手加減してしまう。
幼いながらにラーちゃんはそういう事に気付いていたのだろう。
しかし、カンナという少女は平民でありながら、それを気にすることなく全力でぶつかると言ってきた。
ラーちゃんにとってはそれが嬉しかったのだろうな。
「それでは腕を置いてください」
カルラさんがそう言うと、ラーちゃんとカンナは向かい合ってテーブルに置いてあるクッションの上に肘を置いた。
腕が倒れるであろう左右にもクッションが置かれており、勢いよく倒されても痛めることはなさそうだな。
「このクッションに腕が付いてしまえば負けです。爪を立てたり、つねったり、足を大きく動かしたりはしないでくださいね」
「「はい!」」
カルラさんが念入りに言うってことは、既にやった奴等がいるってことだろうな。
子供だけでなく、大人も負けたくなくてやってしまった試合が簡単に想像できた。
ラーちゃんとカンナがしっかりと腕を組み、カルラさんが握り込みを微妙に補助してやって準備が整う。
そして、ラーちゃんの後ろにメイドであるロレッタが立ち、カンナに向かって視線を向ける。
うわー、ロレッタ大人げない。あからさまにカンナを威圧している。
「……えっと、気が散るんだけど」
「お構いなく」
「え、ええ?」
ハッキリと言っても退こうとしないロレッタに思わずカンナも戸惑う。
さすがにあれはダメだと思い、ロレッタを引き剥がそうとするとラーちゃんから無慈悲な一言が下された。
「ロレッタ、邪魔。あっち行って」
「じゃ、邪魔……っ!?」
ラーちゃんがきっぱりと告げた言葉を受けて、ショックを受けてしまうロレッタ。
まるで、娘に臭いと言われたお父さんのようだ。
普段純粋で可愛らしいだけに、拒絶の言葉を受けた時のショックは計り知れない。
俺があんな風にラーちゃんに冷たくあしらわれてしまったら、転移の旅に出てしまうくらいの衝撃がある。
「エリノラ姉さん、ロレッタどかすの手伝って」
「しょうがないわね」
呆然としたロレッタを一人で引っ張るのは辛いので、エリノラ姉さんの手を借りて退場させる。
ロレッタは先程の衝撃が抜けていないのか抵抗することもなかった。
「それではいきますよ。レディ……ゴー!」
カルラさんが腕を離した瞬間、ラーちゃんとカンナが力を込めた。
「う、うううううう!」
「ふぬぬぬぬぬぬぬ!」
両者とも力が拮抗しているのか、テーブルの中央から腕が動くことはない。
これはいい勝負になっている。
ラーちゃんかカンナか。どっちが勝つのだろうか。
「ラーちゃん、頑張れー!」
「ラーナ嬢、踏ん張りどころだ!」
「ラーナ様、カンナなんてやっつけろー!」
俺とエリック、トールは精一杯声を張り上げてラーちゃんを応援する。
その声援に応えるようにラーちゃんは顔を真っ赤にしながら腕を曲げていく。
お、おお、これはいける! いけるぞ!
ラーちゃんの腕が徐々に相手を押し込んでいくが、カンナもそれに堪える。
「ふんがぁー! 負けるかぁ!」
顔がちょっと形容しがたいダメな感じになっているが、必死に腕相撲をしているので何も言わないでおこう。
ラーちゃんが相手を押し込もうとして、カンナがそれに堪える時間が続く。
大して時間は経過していないはずなのに、時間が長く感じられる。
三十秒? 一分? もはや、どれくらいが経過しただろうか。これ以上、続くと攻めているラーちゃんにも限界が。
俺が懸念していたことは現実になったらしく、攻め続けたラーちゃんに疲労が出てきた。
「ここだぁ!」
それをカンナはジッと待っていたらしく、威勢のいい声を上げて爆発的な力を発揮した。
疲労により集中と力が切れたタイミングを狙われたラーちゃんは、それに対抗することができず呆気なく腕を倒されてしまった。
まさか、本当に公爵令嬢を相手に勝利をもぎ取ってしまうとは思っていなかったのだろう。周囲で見ていた大人も思わず声を失ってしまう。
しかし、本人はそんなことを気にしていないのか堂々と勝利の声を上げた。
「よっしゃぁ! あたしの勝ち!」
「……しょ、勝者。カンナ」
カルラさんも戸惑いながらも審判としての務めを果たす。
「ふふん、どうよ?」
接戦をしたものの最終的に負けてしまったラーちゃんは大丈夫だろうか。泣いたり、癇癪を起してしまうのではないだろうか。
食堂内が緊張に包まれる中、ラーちゃんは清々しい表情で、
「負けちゃった。すごいね、カンナ」
「まあね。ラーナもあたしより年下なのに、あそこまで踏ん張るなんてやるじゃない」
ラーちゃんの素直な反応と笑顔に毒気を抜かれたのか、カンナは照れながらも称賛してみせる。
そうだよな。ラーちゃんが全力を尽くした勝負で癇癪を起したりするはずがないよな。
王都でシェルカに怒られた時とは状況も全く違うのだ。
ラーちゃんを子供扱いしていたけど、彼女も成長するよな。
「あぁ~! カンナのバカー! なんで勝っちゃうの!?」
少女二人の友情に感動していると、カンナと非常によく似たサイドテールの少女が飛び込んでくる。
瓜二つなところを見ると双子だろうか。
「ちょっとハンナ、どうしてあたしが勝ったのに喜んでくれないの?」
「だって、その子貴族だよ? しかも、公爵令嬢! 勝っちゃダメだよ!」
「……え? 嘘? ラーナ様ってば貴族?」
「そんなの綺麗な服を見ればわかるじゃん!」
「えええええええええ!?」
ああ、どうやら豪胆というわけじゃなく、単なるアホの子だったようだ。
「え、えっと、ラーナ様……」
「ラーナでいいよ。気にしないで」
「えっ、ホントに?」
「カンナはもうちょっと気にして!」
ラーちゃんの懐の深さにあっさりと甘えるカンナに、ハンナが突っ込んだ。
シーンとしてしまった食堂内であるが、微笑ましい少女達の会話で和やかになるのであった。
嬉しいことに転スロはもうすぐ二億PVを突破します。
一億PV突破記念でSSを投稿したので、今回も二億突破記念でSSを執筆しようかと思います。
読者の皆様にはまた要望を書いていただけたらと。
第三王女の閑話が読みたい、春の話が読みたい、メイドの話が読みたい、違うキャラ視点の話が読みたいなど。
本編に影響が出る内容や、いずれやる予定のものは書けませんが、どしどし感想に書いてもらえたらと思います。
次回は年末に投稿予定です。




