姉弟対決
すみません、投稿ミスしてました。
ラーちゃんとカンナの対決前の話です。すいません。
「……エリノラ姉さん?」
「アル、こんなところで何を――あら? もしかしてあんた達、腕相撲大会に参加するの?」
こちらに来たエリノラ姉さんは、俺の持っている参加用紙に気付いてニヤリとした笑みを浮かべた。
「いや、どうしようかなーって悩んでいてね」
もし、俺達が参加するとわかって、エリノラ姉さんが参戦してきたら勝ち目がない。
というか、お茶会という名目でアレイシアやルーナさんの面倒を任せてしまったので、対戦することになったら報復で何をされるかわからない。
腕相撲にかこつけて骨の一本へし折られてしまう可能性だってある。
なんとか誤魔化してエリノラ姉さん達から離れなければ――
「あれ? 腕相撲に参加するって言ってたよね?」
なんて狡いことを考えていると、ラーちゃんがあっけなくばらしてしまう。
う、うん、ラーちゃんは純粋なだけで何も悪くない。悪いのは俺なんだ。
「そうですよね? だって、参加用紙に名前だって書いていますからね」
この姉、俺が確実に参加すると見抜いた上で質問してきやがったな。
くそ、用紙に書いている名前が見えていたのか。咄嗟に体で隠したというのに鋭い。
参加用紙に名前を書いておきながら参加しないとは言いにくいな。
「おいおい、アル。今更変なこと言うんじゃねえよ」
ラーちゃんとエリノラ姉さんに言葉に冷や汗を流していると、トールが割って入ってくる。
おお、トール! 助け船を出してくれたのか。
そうだよな。お前も姉であるエマお姉様とは戦いたくはないよな? だとしたら、ここは腕相撲を不参加ということにして――
「俺達も腕相撲に参加するに決まってるだろ!」
「そうだ。子供の混合部門に出ると言っていたではないか!」
違う、全然助け船じゃなかった。
というかトールだけでなく、何故かエリックも参加するような強い意思を見せている。
なんだ、この違和感は。
特にエリックの妙に説明口調な様子が気になる。
二人の様子をじっくりと観察してみると、トールの視線はエリノラ姉さんに。エリックの視線はアレイシアに向かっていた。
「……お前達、腕相撲で合法的に好きな人と手が握れるとか考えてるだろ?」
「「…………」」
俺がジト目で告げると、トールとエリックはあからさまに目を泳がせて動揺を露わにした。
「狡い」
「「う、うるさい!」」
トールとエリックの現状を表すにはこの一言に尽きる。
「いくら気になる異性がいるとはいえ、腕相撲で手を握ろうとするのはどうなの? 男として恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくねえ。最良の結果が出るならどんな手を使っても成し遂げんだよ。冒険者と一緒だ」
ルンバか旅の冒険者に聞いたのか知らないが、こんなところで重みのある言葉を使われても困る。
俺が微妙な眼差しを向けていると、トールが肩を組んで小声で囁いてくる。
「別にアルにとっても悪いことじゃねえだろ。もしかしたら、姉ちゃんも参加するかもしれないしよ」
「――っ!」
それはつまり、俺もエマお姉様と手を握れるかもしれないということか!
「いや、俺はエマお姉様を敬愛しているだけで、お前達のような恋愛感情とは違うから」
俺はエマお姉様を理想の姉として敬愛しているのだ。
穏やかな会話をしたり、優しい姉として可愛がってくれるのがいいのであって、そんな思春期の男子が抱くようなことは望んでいない。
一瞬、いいなと思いはしたけど。
「前々から思ってたけど意味わかんねえよ」
「とにかく、そういうことだから参加するぞ」
「……わかったよ」
さすがにこれだけ敵がいる状況で覆すというのは難しい。
俺は諦めて名前を書ききって、トールに参加用紙を回した。
「俺達は参加するよ」
「へえ、そう。堅苦しいお茶会が終わって、ちょうど軽く体を動かしたかったのよねぇ」
意味深な視線をこちらに送りながら伸びをするエリノラ姉さん。
あの場にいたし、誰が余計な提案をしたかもご存知のようで。
「それだったら投球ターゲットか、キックターゲットがいいかもね。的を射抜けば、いい発散になるし」
「でも、それは昨日も行ったし、今日はアレイシア様に村の様子を見せたいから」
俺が暗にどっか行けと言うも、エリノラ姉さんは公爵令嬢であるアレイシアを釣り合いに出してきた。
アレイシアをもてなす以上、全ての行動の決定権は彼女にあるといえる。
アレイシアさん、今朝みたいにここは尊重してくれますよね? ほら、俺達はラーちゃんを楽しませるという役割があるから。
縋るような視線を向けると、アレイシアはにっこりと笑った。
「面白そうね。参加しましょうか」
「そうですね! せっかくですからね!」
アレイシアの言葉に嬉しそうに賛同するエリノラ姉さん。
もう、アレイシアがわからない。こちらに気を利かせてくれたと思いきや、今度は苦しめるような立ち位置についたりする。
一体、彼女は何を考えて行動しているというのだろう。
「腕相撲なんてやるの久しぶりだね~」
「自警団で鍛えられた成果を発揮ね」
細腕を上げて力こぶポーズをするシーラとエマお姉様。
エリノラ姉さんやルーナさんも、そんな風に和やかに参加してくれたら……。
「アル、当たったら覚えときなさい」
「……エリックも」
「「…………」」
なんてことはあり得ないようだ。
エリノラ姉さんとルーナさんは俺達の耳元で囁くと、参加用紙に名前を書いた。
◆
腕相撲には子供部門があり、その中でも男女別に分かれているものや、混合になっているものもある。
俺達は男女混合に参加することになり、エリノラ姉さん御一行もそれに参加することになった。
とはいえ、参加者は俺達貴族以外にも何人かの子供がいる。それにカルラさんやセリアさんが参加者の年齢を考慮して振り分けてくれる仕組みだ。
俺は七歳でエリノラ姉さんは十三歳。冷静になればどう考えても年齢の差が大きいので、俺とエリノラ姉さんが当たるような確率は低いだろう。
トールやエリックが思い描くような調子のいいことはないだろうな。
精々トールやアスモ、もしくは村の子供かラーちゃんが俺の相手になるに違いない。
くそ、もっと早くこの事に気付いておけば説得できたかもしれないな。
「今年は貴族様が何人も参加するだなんて豪華だね。ここに対決表を書いたよ」
セリアさんがそう言って、食堂の壁に対決表を引っかけた。
第一試合、ラーナVSカンナ
第二試合、アレイシアVSハンナ
第三試合、トールVSエマ
第四試合、アスモVSシーラ
第五試合、エリックVSルーナ
第六試合、アルフリートVSエリノラ
待って。この対決は絶対におかしい。
「セリア! 絶対仕組んでんだろ!?」
「は? 誰に向かって言ってんだい?」
感情的になったトールの台詞に、セリアさんがドスを効かせた声で返事した。
「す、すいません。え、えと、なんか対決表に作為のようなものを感じるなーなんて……」
セリアさんの威圧に一瞬で態度が縮こまるトールだが、それでもエリノラ姉さんと手が握りたいがためか必死に食らいつく。
「そうさね。姉弟対決とか面白そうだから仕組ませてもらったよ。こっちの方が会場も盛り上がるだろ?」
セリアさんがニヤリと笑いながら対決表に視線をやる。
「おっ! トールとエマが腕相撲だってよ!」
「アスモとシーラにアルフリート様とエリノラ様もありやがる。姉弟対決ってやつか?」
「なんだそれ! 面白そうじゃねえか!」
そこでは大人の参加者や見物客がわらわらと群がって興味を示していた。
公平性というものは一体どこにいってしまったのだろうか。
しかし、セリアさんの狙い通りに話題が広がり、続々と見物客が食堂に入って酒や料理を注文していく。
……これはもう逃げられないな。




