腕相撲をしよう
作者からのクリスマスプレゼントです。
「もうちょっと、ラットンレース観たかったー」
リックの裏庭から離れるなり、ラーちゃんが名残惜しそうに呟いた。
「ダメです。ラーナ様ってば、どんどん熱が入って大金を賭けようとするんですから」
俺たちはあれから三回ほどレースを観戦してお金を賭けた。
ラーちゃんが賭けたラビはなんと三連続で優勝し、ノリに乗ったラーちゃんはもしもの金貨を賭けようとしたのである。
それを急いでロレッタに止められることによって、俺たちのレースはお開きになってしまった。
「えー? でもロレッタも夢中だったよね?」
「そ、そんなことはないですよ」
ラーちゃんにじっとりとした視線を向けられて、ロレッタが若干視線を泳がせる。
最初のレースであれだけ必死になって応援していたので否定をしても無意味な気がするが。
「あーあ、これからが盛り上がるところだってのなぁ」
「なぁ?」
つまらなさそうに言うトールの真似をしてか、ラーちゃんも同意するように言う。
「ほら! ラーナ様のお言葉が乱れているじゃないですか! これもラットンレースの影響ですよ!」
これはラットンレースの影響というより、トールと会話した影響だと思われる。
確かにこれはよろしくないな。
ラーちゃんにはトールのような品のない奴の影響を受けてほしくない。
「お金の大切さや、危うさについてはあれで十分でしょう。これ以上レースを観戦するのは私が許しません!」
どうやらレースが終わって、ロレッタも冷静になってしまったようだ。お目付け役として自覚を取り戻している。
「じゃあ、次はもっと健全な遊びならいいんだろ?」
「次はどこに行くつもりですか? ここで教えてください」
どうやら先程の一件でトールの信用が大幅に下落したようだ。ロレッタがどこか警戒した眼差しを向けながら尋ねる。
「村の食堂で腕相撲大会があんだよ。小さな女部門もあるから、そこなら子供らしく楽しめるだろ?」
おお、確かに悪くない。
セリア食堂で行われている腕相撲大会は収穫祭で毎年行われている。
大人から子供、男女混合などと幅広い層を受け入れてやっている。
小さな子供だけの大会もあるので、ラーちゃんや俺たちでも楽しめるだろう。
このような催しは貴族では絶対にやらないので、新鮮に感じること間違いない。
「腕相撲って、手をグッて握って倒すやつだよね?」
「そうそう、力比べのやつだよ」
「面白そう! やってみたい!」
俺の腕を取って、腕相撲の再現をするラーちゃんが可愛い。
すごく手が柔らかいし、小さかった。
だけど、腕相撲をした時にポッキリ折れてしまわないか心配だな。
「村の食堂とか言いつつ、また賭博場みたいなのでは?」
「いや、あそこにはちゃんとした人達がいっぱいいるから」
「そ、そうでしたか」
ラットンレースの影響で印象が悪くみられるのは嫌なので、そこだけはきっぱりと俺が告げておく。
レース会場にいた村人はちょっとダメなギャンブラーってだけで、決して素行の悪い奴等ではないからな。
「まあ、アルフリート様がそう言うのであればいいでしょう」
「んじゃ、決まりだな。セリア食堂に向かうぜ」
ロレッタの許可が出たところで、俺たちはセリア食堂に向かうことになった。
◆
「ここがセリア食堂だぜ!」
村はずれから中心部に戻っていくと程なくしてセリア食堂にたどり着いた。
セリア食堂は収穫祭でも営業しており、料理やお酒を提供するだけでなく、イベント会場としても機能している。
「普通の大衆食堂のようですね」
ごく普通の場所に来て、どこか神経質になっていたロレッタも安心したようだ。
「今日は腕相撲大会とあって色々な人がきているね」
「ちょっとむさ苦しい」
俺が言葉を濁して言ったのに、アスモがキッパリと述べてしまう。
腕相撲大会だけあって、力自慢の大柄な男性が多めだ。
店内や店外には腕相撲をするための酒樽が置かれており、村人達が腕相撲をしていた。
「……ここって食事するお店?」
セリア食堂の中に入ると、ラーちゃんが呆然としたような顔で言う。
「そうだよ」
「すごい、賑やか!」
なるほど、ラーちゃんのような公爵令嬢はこのような平民向けのお店にこないからな。
普段通っている上流階級のお店と比較して、あまりに違いすぎて驚いてしまったのだろう。
自分も知っているようで知らない世界を見て、ラーちゃんは驚いているに違いない。
「貴族の使うような上流階級のレストランじゃない限り、普通の食事処は大体こんな感じだよ」
「へー、そうなんだ」
「こういう人が多くて騒がしい食事処は苦手かな?」
なんとなく尋ねてみたが、ラーちゃんは首を横に振った。
「ううん、こっちの方が好き。いつも行くお店は空気がピリッとしててお話しづらいから……」
そんな風に話すラーちゃんをロレッタが少し複雑そうな顔で見ていた。
俺やエリックとは違って、ラーちゃんは王国でも歴史ある公爵家に生まれて教育を受けてきている。
物心つく前から貴族として教育を受けているに違いない。でも、それは小さな子供には堅苦しすぎるわけで……。
ラーちゃんが堅苦しいものを苦手とする理由が少しわかる気がする。
「家に帰ったらシェルカに連れて行ってもらうといいよ。彼女も学生だし、一緒に友達と買い食いしたり、出かけたりで王都のこういう店に詳しいはずだから」
「うん!」
他人の家の事情や教育方針に口を挟むことはできないが、ラーちゃんが過ごしやすいように助言をすることくらいはできる。
シェルカは魔法学園に通っているみたいだし、学生でも気軽に入りやすいようなお店の一つや二つくらい
知っているだろう。
なんか後ろではロレッタが「え、シェルカ様はご友人が……」みたいな不穏な呟きをしていたが、可愛い妹
のためならばしっかり調べてくれると思いたい。
「おーい、カルラ! 俺達も腕相撲に混ぜてくれよー!」
トールが威勢のいい声を上げて、取りまとめているカルラさんを呼んだ。
すると、カルラさんは一直線にこちらにやってきてトレーでトールの頭を軽く叩いた。
「いてっ、なにすんだよ?」
「カルラさんって呼びなさいよ。あたしの方が年上よ?」
「他の奴も呼び捨てにしてるじゃねえか!」
「他の人はいいけどあんたはダメ。トールには呼び捨てにされると腹立つから」
「「ああ、わかる」」
カルラさんの意見に激しく共感できる俺とアスモは深く頷いた。
「んだよそれ!」
まあ、理由はトールだから。それに尽きるな。
俺もトールの年上だったなら、呼び捨てで呼ばれたくない。
「アルフリート様たちを含めた六人が腕相撲に参加でいいんですよね?」
「あ、いいえ。私はラーナ様を見守るので不参加でお願いします」
「えー? ロレッタやらないの?」
「私は大人ですし参加しても混ざれませんので」
ロレッタは大人枠になってしまうので参加してしまうと離れ離れになる可能性がある。それに参加すると夢中になってラーちゃんの面倒が疎かになると気付いたらしい。
「では、子供部門に五人が参加ですね。こちらにお名前をお願いします」
「わかったよ」
カルラからメモ用紙とペンを貰うと、参加者一覧のところに名前を書いていく。
……ふむ、子供部門も結構な数の子供がいるようであるが、特に危険そうな人物はいないな。
こんなところにエリノラ姉さんとかがいたら、本当に無双状態になってしまうからな。
「ここがセリア食堂? 随分と賑わっているのね?」
「セリア食堂ではリバーシ大会や腕相撲といった催しがよく行われていて――あっ、アル」
「……エリノラ姉さん?」
用紙に名前を書き込んでいると非常に聞き覚えのある声で呼ばれたので振り向く。
すると、そこにはエリノラ姉さん、アレイシア、ルーナさん、エマお姉様とシーラがいた。
メリークリスマス




