お金の大切さ
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』のコミック4巻が明日発売です。
店頭で見かけた際は是非ともよろしくお願い致します。
「よし、それじゃあ第四レースをはじめるぞ!」
リックが威勢のいい声を張り上げると、長椅子に座る村人達は熱のある声で応える。
レース台には一番から五番と番号がついており、ラットンがそれぞれのスペースで待機している。
走りださないように区切られた板で区切られているが、やんちゃな個体もいるのかしきりによじ登って脱走を図るラットンもいる。
それを世話係の村人が必死にスペースに押し返すという、微笑ましい戦いが繰り広げられていた。
「ラットン、可愛い!」
ラーちゃんの言う通り、ちょろちょろと動き回るラットンが可愛い。
ネズミのようなシルエットであるが、毛色も柔らかな茶色でずんぐりとしているので忌避感もない。モルモットやイタチのようにも見える。
手で触ってみるとモフッとしてそうだな。
「遅れて参加した人のために、走るラットンの簡単な紹介をしておくぜ!」
ほっこりしながらラットンを観察していると、リックがそれぞれの紹介をしてくれる。
一番コースにいるのはラビ。先程のレースも見事に優勝した成績持っている俊足の持ち主。好奇心旺盛で突然、違うことに興味を示すこともある。
二番はエカテリーナ。気まぐれ気味な性格であるが足の速さは一番。しかし、体力が少ないために終盤で歩くことも。
三番はレンタ。やんちゃな性格で一番の体力を持つが、時折コースから脱走してしまうことも。
四番はヴァリオン。安定した走りを見せるが、他の個体に比べて足の速さは劣る。しかし、レースを放棄することはほとんどない、素直な性格。
五番はドッド。おっとりとした性格でスタートの反応が遅い。しかし、終盤力がとても強く、最後の追い上げに強い。
コースに配置されたラットンの性格は大体こんな感じのようだ。
リックの説明を聞いたエリックが深刻な表情で悩む。
「ふむ、誰が優勝するかわからないな……」
どれもこれも癖が強い個体なので、誰が一位になるかわからないな。リックは敢えて癖の強い個体を集めたのだろう。
「ラーちゃんは誰が一位になると思う?」
「ラビ! さっき優勝したし名前が可愛い!」
どうやらラーちゃんはラビが気に入ったようだ。
確かにラビは前回一位をとったので信用が高いのも納得だ。
「アルフリートは誰が一位と予想する?」
「ヴァリオンかな。安定した走りをする彼がなんやかんやで一番いい成績をとりそう」
ヴァリオンのレースを放棄しない安定した走りというのはすごく好感がもてる。前世に例えるならば、給料がよく、充実した福利厚生を得ている公務員のようなもの。
「アルは安定が好きなの?」
「うん、安定しているのはいいことだよ」
現代社会を生きていた俺は、安定という言葉に不思議と惹かれてしまう。
「平凡なとこいったな」
「こういうところで人の性格や価値観が出る」
俺の答えを聞いて、つまらなさそうにため息を吐くトールとアスモ。
「そういうトールとアスモは誰を選んだの?」
「俺は一番足の速いエカテリーナだ! レースにおいてこれ以上わかりやすいものはねえ!」
「ドッドかな。他の個体と比べて終盤力がすごいから応援のし甲斐がある」
見事に癖の強いところにいったな。この二人はそういうのを選ぶと思っていたよ。
「ロレッタは誰が一位だと思う?」
「え? 私ですか? どの子も長所と短所を併せ持っていた、予想が難しいですね。アルフリート様のようにヴァリオンを選んでもいいのですが、突出したものがないとキツいような気も……」
ラーちゃんが尋ねると、後ろで見守っていたロレッタはブツブツと呟きながら真剣な表情で考え込む。
……気持ちはわかるけど真面目か。
「で、誰なの?」
「レンタにします! 第四レース目になっているので、ここからは体力のあるレンタが有利なはずです!」
ラーちゃんが率直に尋ねると、ロレッタはようやく思考を纏めることができたようだ。
確かにこれから回を重ねるごとにレンタは有利になるな。しかし、あの脱走をしようとしていた様子を見ると、俺はいまいち信用できないな。
「よし、俺はエカテリーナだ」
「へー、エリック様がそこを選ぶのはちょっと意外だな。ヴァリオンかドッドかと思ったけど」
「確かにそこに惹かれたが、こういうレースくらい長所の大きい奴を応援したいではないか」
「おお、エリック様はわかってんな! 足の速い奴が突っ切って優勝する! これがロマンだろ!」
へー、もしかするとエリックは賭けなどになると意外と熱くなるタイプなのかもしれないな。
誰を一番と予想するか決めると、村人がさりげなく皮袋を持って回ってくる。
賭けをしたい人はお金を入れろということだろう。
村人達が次々と銅貨を入れて、自分の推しの番号札を手に取っていく。
トールとアスモも当然のように銅貨二枚を入れて、二番と五番の番号札を貰っていた。
子供ながら大人に混じって賭け事をやっているとは本当に悪ガキだ。などと思いながら、俺も銅貨を二枚ほど入れて、四番の番号札を貰った。
眺めているだけよりも、こうやって賭けに参加した方が面白そうだからな。
エリックも同じように銅貨二枚を入れて、二番の番号札を貰う。
「あっ、私も!」
「ラーナ様! それはもしものための大切な金貨です! 賭けに使ってはいけません!」
ラーちゃんがポケットから金貨を取り出すと、ロレッタに止められてしまった。
うん、いきなり金貨を賭けるのはリスクが大きすぎるからね。
「ラーナ様はギャンブルはなしです!」
「えー、私も皆と同じがいい!」
あ、ヤバイ。ラーちゃん以外の全員が賭けたから、真似したくなった感じだろうか。
この年頃で自分だけ仲間外れにされるというものは、結構堪えるものがある。
ロレッタのジットリとした視線が向けられ、俺とエリックは露骨に視線を逸らした。
しまった。これじゃあ、どう考えてもラーちゃんの教育に悪い。つい、ギャンブルという未知の世界に興味を示したが故に、ラーちゃんの前でやってしまった。
「まあまあ、銅貨を少し賭けるくらいいいじゃねえか? ギャンブルの怖さを教えずに頭ごなしに注意するよりも、体験させて注意する方が本人も納得できるもんだぜ?」
「トールの癖になんかいいこと言うね」
何故だろう、トールの言葉には不思議と重みがあるように感じられる。
「へっ、やらないよりもやって後悔ってやつだな」
「ここの村人なら誰もが通る道。初めはトールも無茶したけど、失敗して落ち着いた」
そうか、トールも既に体験済みだったということか。道理で言葉に重みがあるはずだ。
ここの村人はこうやって失敗を繰り返して、たくましく今を生きているのだろう。
「まあ、貴族としてお金の大切さは学んでおくべきだな」
ラーちゃんの目の前でやましいことをしている自覚があるからか、エリックがトールとアスモの肩を持つ。
「確かにそうかもしれませんが……」
周りにいる全員がギャンブルを肯定するせいで、正常な判断ができなくなったのだろうか、ロレッタの態度が若干軟化する。
冷静に考えれば、ギャンブルをやらせてお金の大切さを学ばせるっておかしいと思うんだけど、それを言うと自分の首を絞めるだけなので黙っておく。
もう一押しすればいけそうなので、ラーちゃんの肩を叩いてあげる。
すると、ラーちゃんは意図を汲み取ったのか、上目遣いでロレッタを見る。
「銅貨でいいから、私も皆と一緒に遊びたいな?」
「……仕方がありません。銅貨一枚だけですよ? それ以上はダメですから」
「うん、ありがとう。ロレッタ!」
ロレッタも真面目ではあるが、なんやかんやラーちゃんのお願いに弱いな。




