ラットンレース
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トールとアスモがおすすめの場所を教えてくれるとのことなおで、俺とエリックとラーちゃんは付いていく。
巨大カボチャの入り口、いい匂いがする屋台街を通り抜け、休憩場となっている広場すらも通り過ぎる。
ここまでくるとまばらにしか屋台は開かれておらず、行き交う村人の数も緩やかだ。
人の多さに疲れた人が立ち話をしていたり、屋台で買った料理を持ち寄ってのんびりと談笑しながら食べている人もいる。
「住宅地っぽいところにやってきたけど、ここに面白い屋台が本当にあるの?」
「俺達の目指すところは屋台ではやってねえよ。そんなところでやったら、うるせえ奴等がくるからよ」
口うるさく言われるということは、なにかやましいことがあるからじゃないだろうか。
今更ながら付いてきたことを不安に感じていると、民家の方から賑やかな声が聞こえてきた。
「着いた。リックの家の裏庭が会場」
なるほど、リックと言われる村人の裏庭でやっている催しなのか。
やけに白熱した声が上がっていることから、何かしらの催しをやっているのだろう。
不安と期待を半々の気持ちで抱きながら付いていくと、トールが家の扉をノックした。
「リック、俺達も混ぜてくれよー!」
「おおー、トールか! 今日はちゃんと金を持ってきただろうな?」
すると、猿顔をした陽気な青年がすぐに出てきた。
ちょっと待って。いきなりお金があるか尋ねられる催しって大丈夫か? 商売をするなら、こんなわかりにくい場所でやるはずがないし。
「お猿さん?」
ラーちゃんが見たまんまの事実を告げる。
あまりの直球な言葉に俺達は笑ってしまった。
「誰が猿だよ――って、貴族様!? おいおい、トール! 後ろにいるのは領主の息子様と客人の貴族様じゃ
ねえか! さすがにダメだろ!」
リックは俺達を見るなり焦った表情を見せた。
俺達が貴族であることは服装や、お付きのメイドであるロレッタを見れば一目瞭然だ。
「大丈夫だって。ここにいるアルと俺の噂は知ってるだろ?」
「……まあ、領主の息子ながら村の悪ガキトリオに入ってるくらいだしな。破天荒な噂も聞くし」
「待って。どうして領主の息子なのに村の悪ガキトリオに入ってるのさ!?」
そんな情報は初めて聞いた。俺がトールとアスモのような悪ガキと同じカテゴリーに入れられているのは非常に納得できない。
「まあ、そんなことはどうでもいいじゃねえか」
いや、俺としては全然よくないんだが。下手したらトールとアスモとの関係を見直す必要があるかもしれない。
「だがなぁ……」
リックは俺やエリック、ラーちゃんを見ると渋い顔をする。
貴族である俺に見られたら困るものがあるらしい。
「こいつはチクったりする奴じゃねえよ」
「アルフリート様はそうでも後ろの人達は……」
「ラーナ様は他領の人だし村の女と違って純粋だ。それで、エリック様はアルの友達だからよ」
「なるほど、この坊ちゃんも悪ガキってわけか。なら、いいだろう」
「「その理由で納得されるのは不愉快だ」」
トールとリックの言葉に我慢ならず、俺とエリックの突っ込みが重なる。
どうして俺の友達=悪ガキになってしまうのか理解できない。
「ラーナ様、ここはやめておきましょう。貴族に秘密にしたい催しだなんて怪しいです」
リックが扉を開けて中に促すが、ロレッタが静止を促した。
「そう思うんなら来てもらわなくて結構だぜ?」
ロレッタの言葉にリックは気にしない。むしろ、その方が助かるとでもいいたげだ。
さすがに俺も悪ガキの集会に案内されるのはなぁ。
そう迷った瞬間、裏庭の方から歓声が上がった。
「第三レース終了! 優勝はラビちゃん!」
「よっしゃー! 俺のラビちゃんが一番だぜい!」
緊張感の溢れる空気の中、場違いな台詞と楽しげな声が響く。
不安もあったが、この裏で何が起きているのか逆に気になる。
それはラーちゃんも同じだったのか、見るからにソワソワしていた。
「ロレッタさん、少し中の様子を見るくらいならいいんじゃない? 変なことがあったらすぐに外に出れば大丈夫だよ」
正直、今は不安以上に何が行われているかの方が気になる。
「ですが……」
「ラーちゃんが興味を示しているんだよ? 元気づけるためにもね?」
「ロレッタ。私、見てみたい」
俺がそれとなくラーちゃんの肩を叩くと、ラーちゃんは潤んだ瞳をロレッタに向けた。
「……わかりました。変なことがあればすぐに出ますから」
ラーちゃんに頼まれると、案外弱いのかロレッタは渋々と了承した。
多分、王都で見たおっかないメイドだったら通用しないだろうな。
ロレッタが許可をすると、俺達はリックに付いていって裏庭に回る。
すると、そこでは木を組んで作られたレース台があり、そこにネズミのような見た目をした動物が区切られたコースに並んでいる。
村人達は長椅子に座って動物を眺めながら、どいつが速いだのと真剣に会話している。
この光景を見ただけで俺はここで何が行われているか理解した。
「あっ、ラットンだ! 可愛い!」
ラーちゃんの言う通り、あの動物はラットンと言う。
ネズミを少しふくよかにしたようなずんぐりとした動物で、森の中をてけてけ歩いている姿をたまに見かける。人間を襲ってくるようなこともない穏やかな動物で、木の実などの餌をチラつかせれば簡単に寄ってくるので子供からも人気だ。
どうやらラーちゃんも知っているらしい。
「ラットンをあのように並べて何をするのだ?」
「皆で撫でるの?」
ラーちゃんのあまりに純粋過ぎる問いかけに、リックは一瞬動揺したが持ち直した。
ラーちゃんの汚れのない瞳を見れば、そこにふざけやからかいといったものがないのは一目瞭然だからな。動揺する気持ちはわかる。
「い、いえ、違います。ラットンを走らせて競わせるんです」
「ラットンレースって言うんだぜ?」
「それってギャンブルじゃないですか!?」
リックとトールの説明からここで何が行われているか察したのか、ロレッタが非難の声を上げた。
「いいえ、違います。俺達はただここでラットンを走らせているだけですよ」
「とかいいながら、後ろの村人が硬貨を集めてるじゃないですか!?」
「あれは個人で勝手に行っていることですよ。俺はただ飼っている可愛いラットンを皆に見せているだけですって」
などとリックはのたまっているが、きっちりと番号札を用意していたり、テキパキと金銭のやり取りをしていることから彼らの行動が組織的であることは明らかだった。
この世界ではギャンブル自体は厳しく規制されていないからな。
公然と賭けをするのはよろしく思われないみたいだが、別に違法というわけではない。
やり過ぎた内容や事件が起こるようであれば取り締まるが、迷惑をかけずにひっそりと楽しんでいるならスルーだ。
「ここはラーナ様に相応しくありません、帰りま――」
「面白そう! ラットンレース見たい!」
ロレッタが手を引こうとするが、ラーちゃんはこれ以上ないほどに目を輝かせて長椅子に座っていた。
「ラーナ様!? エリック様、止めてください」
「ふむ、面白そうだな。俺も見ていくか」
ロレッタはエリックに助けを求めるが、エリック自身も興味津々で席に座った。
「じゃあ、俺も」
ロレッタからすがるような視線がくるが、それを敢えて無視して着席した。
元気のなかったラーちゃんが、すごくいい表情をしているのだ。できれば邪魔はしたくない。
それに前世ではパチンコや競馬をしたことがなかったので、どんなものなのか気になる。
「へへ、アルならそうくると思ったぜ」
「エリック様も意外とノリがいい」
「よし、それじゃあ第四レースをはじめるぞ!」
リックの声に村人達が熱のある声で応える中、ロレッタは呆然と立ち尽くしていた。
リックという村人は書籍2巻の書き下ろし部分で地味に出てます。書籍をお持ちのかたは探してみるとニヤッとするかもです。
次の更新は25日です。




