白は黒に挟まれれば黒く染まる
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ラーちゃんを元気づけるべく、俺とエリックとラーちゃん、ロレッタは再びコリアット村にやってきた。
アレイシアが厚意でリーングランデ家の馬車を貸してくれようとしたが、さすがに申し訳なさすぎるのでスロウレットの馬車での移動だ。
収穫祭二日目を迎えたコリアット村は、今日も賑やかだ。
初日である昨日もすごかったけど、その熱気が衰えることはない。
むしろ、まだまだ祭りはこれからだと言わんばかりの勢いを見せていた。
「さて、これからどうしよう?」
ラーちゃんを元気づけようと、とりあえず村にきてみたものの具体的に何をするかは決めていない。というか、ラーちゃんが元気になるものって何だろう? 食べ物系は、ついさっき朝食を食べたところだしきついか。
「何か面白い催しがあるところに連れていけ」
試しにエリックに振ってみると、すごく不遜で投げやりな言葉が返ってきた。
そういう我儘な台詞を言うのは、うちの姉だけで十分なのだが。
「そうは言われても主な場所は昨日に回っちゃったしな」
俺としてもそうしてやりたいが、投球ターゲットも、キックターゲットも小魚すくいも昨日回ってしまった。
ターゲットについてはアレイシアとルーナの希望で屋敷の庭にも設置したし、村でなければできないものではない。
「おっ、アルじゃねえか! もう来てたのか!」
どうしようかと悩んでいると、トールとアスモがやってきた。
「……あっ」
あの二人を見て、昨日のショックな光景を思い出したのかラーちゃんが悲し気な顔をする。
「トールとアスモは本当にタイミングが悪いね。二人が近付くと、ラーちゃんが悲しむからあっちに行って」
「はぁっ!? なんでだよ? 俺達、その子になんもしてねえだろ!?」
「そうだそうだ。説明を求める」
近付いてきたトールとアスモを手でシッシと払うも、二人は納得できないのか引き返したりはしない。
仕方がないので、俺は昨日ラーちゃんがショックを受ける原因を話してやる。
すると、トールとアスモは驚愕の表情を浮かべた。
「…………なあ、アル。本当にこの子は女だよな?」
「コリアット村の女性と違い過ぎて信じられないのはわかるけど事実だよ」
「…………こんな優しい心を持った女の子は初めて見た」
「いくら、コリアット村の女性でも幼い頃はラーちゃんくらい純粋なんじゃないの?」
俺は村に住んでいるわけでもないし、皆と対等な平民というわけではないので詳しいことはわからない。だけど、幼い子供くらいは純粋なんじゃないだろうか。
俺がそんな淡い期待を込めた疑問をぶつけると、アスモとトールはどこか可哀想な人を見る目になる。
「アル、白は黒に挟まれれば黒く染まる」
「リバーシと一緒だ。まあ、黒が白になることはねえけど」
アスモとトールの言葉が痛いほどわかってしまうのが辛い。
純粋な白いものこそ汚れに染まりやすいって言うしな。どうやら俺の認識は甘かったようだ。
「ところで、そっちの人……そちらの人は昨日も一緒にいらっしゃった貴族様ですか?」
トールの視線が俺の傍にいるエリックに向かう。
昨日はラーちゃんを紹介したが、エリックを紹介してはいなかったな。
というか、トールの癖に丁寧に言葉を話すこともできるのかよ。
「うん、そうだよ」
「エリック=シルフォード。シルフォード家の次男だ」
会話の流れを読んでか、エリックが前に出て名乗る。
「俺はトール」
「アスモです」
「エリック様の爵位はなんです?」
「男爵家だが?」
「男爵? ということはアルと一緒か?」
「伯爵や公爵の人じゃないね」
どこか緊張の面持ちをしていたトールとアスモだが、エリックが俺と同じ男爵だとわかると気が抜けたものになったというか、舐めた感じになった。手の平返しが凄まじい。
「……おい、アルフリートと同じだからといって侮るのはやめろ」
何故、俺と同じだと侮られる前提なのか。
「でも、アルよりも雰囲気が貴族っぽいよな」
「うん、シャキッとしてる」
「そ、そうか? わかっているのならいい」
「「チョロイな」」
ムッとしたエリックであるが、トールとアスモのあからさまなよいしょで機嫌を良くした。
俺を引き合いに出して下げられたのが少しムカつく。
まあ、シルフォード領もコリアット村と同じく田舎で領民との距離が近いことはわかっているので、エリックも不快に思うことはないだろう。
きっちりとしたロレッタは複雑そうだが、ラーちゃんに対してはトール達も丁寧なので文句はないようだ。
「これで約束していた貴族の人と会わせるのは済んだね。それじゃあ、俺達はもう行くから」
「待てって。そのラーナ様を喜ばせるってやつ俺達に任せてくれよ!」
トールとアスモを置いて進もうとすると、トールが俺の袖を引っ張ってくる。
昨日までは可愛いラーちゃんが上目遣いに引っ張ってくれたせいか、とてもむさ苦しく感じられる。
「……トール、何が目的なんだ? お前はそんな優しい奴じゃないだろ?」
トールの正義感ある台詞というのが、あまりに聞き慣れておらず、縁遠いものだと思ったので鳥肌が立ってしまった。
俺が疑いの目を向けると、トールは気まずそうな顔をする。
「そうかもしれねえけど、俺たちのせいってこともあってバツが悪いんだよ。それに俺たちの周りにラーちゃんみたいな純粋な子なんていねえからよぉ」
あれ? このやり取りどこかで聞いたような気がする。具体的には屋敷で、俺とエルナ母さんの会話だ。
「悲しませた分、元気づけてあげたい」
申し訳なさそうに言うアスモ。
そうだよな。こんなに純粋で可愛い年下の女の子がいたら、誰もが元気づけてあげたいと思うよな。
普段、姉という存在の召使いである俺達は、庇護欲をそそる妹のようなラーちゃんに弱いのだ。
「わかった。とりあえず、意見を聞いてみようと思うけど、何かいい案はある? コリアット村らしい楽しめる遊びがいいんだ。キックターゲットとかじゃなく」
俺が要望を伝えてみると、トールとアスモは顔を見合わせて頷いた。
「あるぜ! この村らしい遊びがよ!」
「うん、アルは王道な中心部分しか回らないけど、収穫祭は端っこの方でも面白いことをやってる」
収穫祭は貴族が来訪したりと色々忙しいせいか、隅々まで回ったことはない。
村人の一部が知っている催しもあるのかもしれない。
「本当? 案内してくれる?」
「任せろって!」
俺が素直に乗っかってみると、トールとアスモが意気揚々と歩き出す。
「そういうわけで、トールとアスモのおすすめの場所に行ってみようか」
「トールとアスモのおすすめの場所? わかった」
事態はよくわかっていないが楽しいところに行けるのはわかったのか、ラーちゃんがどことなく顔を綻ばせた。
このままラーちゃんが笑顔になってくれるといいのだが。
次の話も近いうちに更新します。




