祭りの光景
コミック四巻が11月26日に発売です。
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トールとアスモと一度別れた俺とラーちゃんは自分達のところに戻る。
「なんだか愉快そうなお友達だったわね」
すると、アレイシアがにっこりと笑みを浮かべながら言ってくる。
目元が笑っていないわけではないので、皮肉を言っているわけではないようだ。単純な話題としての興味だろう。
「すいません、騒がしい奴等で」
「トールとアスモ面白かったよー」
「あいつらはバカなだけだよ」
純粋なラーちゃんが優しくそう言ってくれるが、俺としてはどこに出しても恥ずかしい友達なので、素直に肩を持ってやれないのが本音だったり。
「会話も聞いていたけど、村のお友達に関しては遠慮がないのね」
俺の言葉を聞いて、アレイシアがクスリと笑う。
あいつら相手に遠慮なんかしても無意味だからね。二人が俺に容赦しないように俺もあいつらに容赦はしない。
「まあ、あいつらのことは放っておいて、小魚すくいをしましょう」
「それもそうね」
なんとなく俺とトール達の関係を言われるのは、気恥ずかしかったので話題を転換する。
すると、アレイシアはそれ以上追求することなく、素直に頷いた。
てっきり、トールとアスモに会いたいなどと言い出すと思ったが、そんなことはない様子。
ちょっと警戒していただけに拍子抜けだが、助かった。
幼いラーちゃんならともかく、アレイシアとトール、アスモという組み合わせはどう考えても危険すぎるんだよな。
あの二人が粗相をしてアレイシアの怒りを買う未来しか見えないし。
「エリノラさんと店主から大体のやり方は聞いたわ。このポイというやつで小魚をすくうんですってね」
「はい、そうですよ。水で破れないよう、小魚の重みに負けないように慎重にーー」
「ていっ!」
なんて注意点を言っている傍から、隣にいるラーちゃんが勢いよくポイを水の中に沈めた。
そして、そのまま強引に小魚をすくい上げると、そこには見事に穴の空いたポイが完成だ。
「あれ? 穴が空いた?」
「ラーナ様、アルフリート様がおっしゃったようにゆっくりと水に入れませんと」
「そうなの?」
ラーちゃんは俺の方に付いてきてしまったので、説明を聞いていなかったようだ。
俺は小魚すくいの基本的な注意点をラーちゃんに改めて説明。
「なんで水の中に入れるのに、水に弱くしちゃったの?」
幼く純粋故にもっともなことを言ってしまうラーちゃん。
……本当にそれね。
「簡単にすくえたら面白くないでしょ? 敢えて難しくなっているのを楽しむものなんだよ」
「敢えて難しく?」
ラーちゃんにはあまり理解できなかったのか、首を傾げている。
「サイキックを使って投球ターゲットを楽しむと同じだよ。普通に近くでやれば余裕なのに、遠くから難しい魔法を使って楽しんでいたでしょ?」
「あっ! アルの言う、敢えて難しくするってのがわかった気がする! 魔法でもやってみたら面白そう!」
実際にやってみた魔法を例に出すと理解ができたようだ。
でも、これって汚い大人の詭弁っぽくもあるよね? いや、楽しむことが大事なのだ。そういうところは考えないようにしよう。
「アル、もう一回やりたい!」
「お兄さん、ポイをちょうだい。お金は後で俺がまとめて払うから」
「「「助かる」」」
「ちょっと破るの早すぎでしょ!」
俺がまとめて支払うと言った途端、エリノラ姉さん、ルーナさん、エリックまでもが破れたポイを突き出した。
俺とラーちゃんが会話をしている間に、三人とも綺麗に破ったらしい。
というか、エリノラ姉さんについては、屋敷でも遊んでいたよね?
「お兄さん、破ったらポイを渡してあげて……」
「わかりました」
破ってしまう速度に思わない点があるでもないが、ここにいる貴族が個別にポイの料金を払っていたら大変なので了承する。
俺が頷いたことでお兄さんは、ポイを皆に配っていく。
「ふふ、皆ダメね。屋台のお兄さんの言った通りにやれば――あっ」
アレイシアが自信ありげにポイを水につけた瞬間、小魚がちょうどポイに突撃して穴が空いた。
なんとなくそういう事が起きるんじゃないかと予想していたけど、アレイシアにどう言葉をかけたらいいのかわからない。
「あ、穴が空いてもまだ残っている部分が……」
などと言うが、そんな上級者向けの技を初心者のアレイシアができるはずもなく、残りの部分も水の藻屑と化した。
枠だけになってしまったポイを見つめるアレイシア。
屋台のお兄さんもポイを渡していいのか、渡したらダメなのか判断がつかないよう。
「新しいポイを頂ける?」
「は、はい。どうぞ」
アレイシアは綺麗な笑みを浮かべながら言うが、その目には闘志のようなものが宿っていた。投球ターゲットの時と同じ匂いがする。
「そこだ! ……むっ、またポイが破けてしまった」
「……エリックはバカ。こういうのは追いかけるよりも待つ方が水の力が加わらなくて効率がいい。小魚がポイの上に乗ったところで、すくえば――ほらっ」
ポイの上にやってきた小魚を見事にすくってみせたルーナさん。
一番に小魚を獲得できたことにより、周囲から自然と感嘆の声が漏れた。
表情をあまり表に出すことのないルーナさんだが、微かに口角が上がっていてどや顔らしきものをしている。
「……エリノラはやったことがあるのに一匹もすくえてないの?」
「上等よ。これからすくってみせるから」
これみよがしなルーナさんの挑発に即座に乗って、腕まくりをするエリノラ姉さん。
新しいポイを手にして前かがみになる。
その獰猛な瞳はまるで獲物を狙う狩人。その殺気を動物的本能で小魚達は察知したのか、エリノラ姉さんの前からサッと離れていく。
「ちょ! どうしてどっか行くのよ! こっちにきなさいよ!」
そんなに殺気とか飛ばしたら小魚も逃げるに決まってるよ。
「ねえ、アル。お手本見せて」
「いいよ」
ラーちゃんに袖を引っ張られてお手本を要求された。ここは経験者として応えるべきだろう。
「まずは狙うべき小魚を見定める。中央にいる小魚を動き回るから壁際の水面近くの小魚が狙いやすいかな」
壁際では小魚の動きが制限されるために予測もしやすいからだ。
「そして、スライムの皮に水圧がかからないように斜めに入れる」
そう言って、ポイを水面に対して斜めになるように入れると、ラーちゃんも真似をするように隣で実践。
しかし、全部濡らすことで皮が弱くなると思っているのか、半分しか入れていない。
「この時に大事なのが勿体ぶらずにスライムの皮を全部濡らすことだよ」
「全部入れたらすぐ破れない?」
「大丈夫だよ。逆に全部入れずに濡れている部分と濡れていない部分の境目を作る方が破れやすくなっちゃうんだ」
これはポイを濡らすことを恐れる初心者にありがちなことだ。
意外とポイは水に強いので全部濡らしてしまっても大丈夫。
それから優雅に泳いでる小魚の進路を予測して、斜めにポイを移動。
「狙い定めた小魚の進路を塞いで、壁とポイで小魚を挟むようにすれば、こうやってすくえるよ」
「すごーい! アルの言う通りにしたらすくえた!」
俺が説明しながら小魚をゲットすると、すぐ隣のラーちゃんも見事にすくっていた。
大事そうに持っている瓶の中には赤色の小魚が一匹泳いでいる。
「おー、真似してすぐにできるなんてすごいね」
まさか一発でできてしまうとは。相変わらず遊びに関するラーちゃんの呑み込みの早さが半端ない。
「次は青いのをすくってみる!」
今のでコツを掴んだのか、ラーちゃんが再びチャレンジ。
端にいる青い小魚に狙いを定めて、水の中に斜めにポイを入れる。
それからゆっくりと進路を塞いでいき、先程と同じように壁と挟んで持ち上げる。
「あっ!」
しかし、小魚もただですくわれたりはしない。
ポイの上に乗った小魚はビチビチと暴れて、ポイに穴を開けて落ちた。
「ああっ、惜しいです!」
ラーちゃんだけでなくハラハラしながら見守っていたロレッタも残念そうな声を上げる。
「魚は尾びれを使って泳ぐから、尾びれの力が一番強いんだ。だから、すくう時はできるだけ尾びれだけを枠の外に出してやると破られにくいよ」
「へー、そうなんだ!」
ただ、これは中々に難しいこと。小魚だって実際に暴れたりするしね。
無理そうなら諦めることが、ポイへのダメージを減らすコツかな。
「ただ、小魚をすくうだけと思っていたが意外と奥が深いのだな」
「想像していたよりも技術が必要そうね」
俺のアドバイスを聞いていたのか、エリックとアレイシアが感心したように呟く。
これは小魚と人間の戦いだからな。奥が深いのである。
「……今度はアル君のアドバイス通りにやってみる」
「せっかくだもの一匹くらいはすくいたいものね」
ポイを手にしながら真剣な表情で水面を覗き込む、ルーナさんやアレイシア達。
その光景はまさに前世で見た夏祭りの金魚すくいそのもの。後は浴衣なんかがあれば完璧だな。
今度カグラに行った際は、春や修一達とやってみるのもいいかもしれないな。




