小魚すくい
皆さんのお陰で少しの間とはいえ、日刊ランキングに表紙入りすることができました。ありがとうございます。
明日も頑張って更新したいところです。
広場の休憩スペースで喉を潤し、十分に休憩をとると、俺達は小魚すくいの屋台へやってきた。
ちなみにブラムは満腹でダウン、シルヴィオ兄さんはその介抱のために広場に残っている。
「おっ、思ったより人気だ」
小魚すくいが行われている屋台は全部で四つほど。投球ターゲットやキックターゲットに比べて派手さがない上に、獲物となる魚の輸送の手間がかかるのでこれくらいの規模でやるのが限界。
身体を動かすのが苦手な人に楽しんでもらえればいいや程度に思っていたが、屋台の周りにはたくさんの子供と、それを見守るように大人もいる。
「ここが小魚すくいの場所?」
「そうだよ。ちょっと見てみようか」
屋台の中でも比較的空いてるところ目掛けて、俺達は歩いていく。
「うわー、綺麗な小魚がいっぱい泳いでるー!」
水槽を泳いでいる小魚を見て、ラーちゃんが目を輝かせる。
川の水が入った水槽には、赤色、青色をしたたくさんの小魚が優雅に泳いでいた。
赤と青が入り乱れる様は、まさに色の色彩乱舞。
「こうして上から眺めるだけでも綺麗ね。貴族の中には魚を飼育する人もいるって聞くけど、少しだけ飼育したくなる気持ちもわかるわね」
「……確かに綺麗だけど飼育するっていう発想には脱帽」
「うむ、俺達にとって魚は食べるものだからな」
感傷的な表情で眺めるアレイシアの横で台無しなことを言ってしまうシルフォード姉弟。
まあ、エリック達は領地が海に面しており、食卓に魚が上がるのは日常茶飯事。
魚を見て楽しむというような感性よりも、美味しいか美味しくないかにいってしまうのは仕方のないことだろうな。
「結構客入りはいいみたいだね」
なんとなく空気を変えたくて、俺は屋台をやってくれている村人のお兄さんに話しかける。
「はい、アルフリート様の考えた催しですからね。掴むでもなく、釣るでもなく、ポイとかいうやつですくうのが新鮮みたいです」
「へー、そうなんだ」
「だあーっ! ちっきしょ! また皮が破れた! おい、オヤジ! 俺達のポイだけ破れやすいように細工してねえだろうな!?」
お兄さんの話を聞いて頷いていると、近くの屋台からどこか聞き覚えのある怒声が響き渡る。
そちらに視線をやると、トールが屋台のおじさんにいちゃもんをつけている。
「……まあ、トールみたいに人のアドバイスを素直に聞かず、堪え性のない人には不評ですけどね」
普通に屋台をやっている人のアドバイスを聞けば、すくえないことはないと思うけどな。
傍にはアスモもいるみたいだが、トールを止めるつもりはないようで、真剣な表情で水面を見つめてい
る。
「あいつは本当にしょうがないな。ちょっと注意してくるから、エリノラ姉さんがやり方を教えてあげて」
「しょうがないわね」
エリノラ姉さんに説明を頼むと、俺はトールとアスモのいる屋台に歩き出す。
「ほら、本当のことを言ってみ? 実は皮に針で穴あけるとか、あこぎなことやってんだろ?」
「誰がそんなことするかバカ野郎! そんなことしたら、領主様とアルフリート様に怒られるわ!」
「そうだよ、バカ」
「いってぇっ!」
ひっそりと接近した俺は、トールの額に小さく凝縮したショックボールを撃ち込んだ。
すると、悶絶して額を擦るトール。
「何しやがんだよ、アル!」
「人の催し物にケチをつけるから注意しにきたんだよ」
「それはオヤジが一匹もすくえないようにしてるに決まってるからっ!」
「してるわけねえだろ」
根拠のないトールの文句を即座に否定するおじさん。
勿論、そんなことをすればノルド父さんからきつい叱責がいくはずなので、村人がそんなことをするはずもない。
「もしかして、まだ一匹もすくえてないの?」
「ああ、そうだよ!」
「すくえなくてイライラするのもわかるけど、おっちゃんのアドバイスはちゃんと聞いて、言うとおりにやってみた?」
「……し、してねえ」
試しに聞いてみると、トールは気まずそうに視線を逸らして言う。
まあ、中々すくえなくてつい感情的になってしまうのはよくあることだ。
「上手い人のアドバイスを聞くのも大事だよ? ほら、アスモなんか五匹もすくってるし」
アスモが手にしている瓶を見てみれば、そこには五匹もの小魚が入っている。
おじさんのアドバイスを聞き入れられなくても、友達のアスモなら――
「ぷくく、本当にトールは下手だね。手先が不器用だからだよ」
「んだと、コラぁっ!」
ああ、そうだよな。お前達は悪友だからそうなるよな。
多分、アスモはトールが上手くいかなくて意地になっているのを横で楽しんでみていたんだろうな。
エリックがいるとはいえ、多少なりとは気を遣う貴族達との生活をしていたせいか、この雑なやり取りに懐かしさすら覚えるな。
とはいえ、ここで暴れられると小魚も怯えてしまうし、周りの人の迷惑だ。
トールとアスモを止めようとしていると、俺の服の裾を引っ張って声をかけてくる者が。
「ねえ、アル。もしかして、村のお友達?」
振り返ってみると、そこにいたのはまさかのラーちゃん。
エリノラ姉さんに小魚すくいをさせるように頼んでおいたのだけど、こっちが気になってやってきてしまったのだろうか。
後ろには苦笑いしながら追いかけてきているロレッタもいる。
「あっ、ラーちゃん。ああ、うん……まあ、恥ずかしながら友達みたいなものかな」
「「おい、なんで言い淀むんだよ」」
ラーちゃんに気まずそうに告げると、トールとアスモから突っ込みが入る。
そりゃだって小魚すくいにいちゃもんつけて、喧嘩してるような奴等を堂々と友達とは言いたくないだろ
う。
「というか、見ねえ顔だな。服も妙に綺麗だし、もしかして収穫祭を見に来ている貴族様か?」
貴族を紹介しろとは言われていたが、トールとアスモには会わせたくなかったんだけどな。適当にエリックでも紹介するつもりだったのに、ラーちゃんと先に出会ってしまうとは。
まあ、ここまできた以上、紹介しないわけにはいかないな。
「うん、そうだよ。ラーナ=ミスフィード様。ミスフィリト王国の公爵家の方だよ」
「うおっ、すげえっ! 本物の貴族様にはじめて会ったぜ!」
「……おい、本物の貴族様ならお前の目の前にもいるだろ」
トールの言い方だと、まるで傍にいる俺が偽物のように感じるじゃないか。
「ラーちゃんだよ! お名前を教えて?」
「お、おお……いえ、はい。俺はトールっていいます」
「あ、アスモです」
「トールにアスモ! アルの友達ってことは私の友達でもあるよね? よろしく!」
「「は、はい……」」
自ら手を差し出してきて、純粋な笑顔を振りまくラーちゃん。
ラーちゃんの可愛らしさと無邪気さに当てられたのか、一言話せば毒を吐くようなトールやアスモも素直な反応。
「なあ、アル。貴族の令嬢って、こんなにいい子が多いのか?」
「これはラーちゃんが特別いい子ってだけで、本来の令嬢はもっと癖のある人が多いよ」
パーティーで出会った貴族はこんなに優しい子はいなかった。あの値踏みするような視線と上から目線の言葉は中々にきつい。
まあ、俺が爵位の低い男爵家の次男ということもあったからだろうけど。
「なんかコリアット村にいる女性と全然違うね」
そこに関してはアスモに同意。だけど、ここで不用意に発言すると、周りにいる女性になにを言われるかわかったものではないので、回答を控えさせてもらう。
「アルー! 先に小魚すくいはじめちゃっていいの?」
エリノラ姉さんの方では説明が終わったのであろう。全員がポイを手にして瓶を持っていた。
「あ、ごめん。すぐそっちに戻る! というわけで、今は貴族の人を案内してるから、また明日に時間をとるよ」
「お、おお、わかった」
さすがに貴族の集まりの中にトールとアスモを混ぜても気まずいだけだろう。今日は軽い顔合わせにして、明日改めて時間をとって遊べばいい。
トールとアスモもエリノラ姉さんの周りにいるアレイシアやルーナさんに気後れしたのか、素直に頷いた。
「ラーちゃん、戻ろうか」
「うん、わかった! ばいばーい、トール、アスモ!」
手を振りながら元の場所に戻るラーちゃんに、トールとアスモは無言で手を振るのであった。




