二人のこだわり
お待たせしました。続きも近いうちに更新します
「……あの、アレイシア様。そろそろキックターゲットに行きませんか?」
投球ターゲットをやりはじめてから三十分くらい過ぎたところ。
エリノラ姉さんのグループは投球ターゲットに満足したのか、次のキックターゲットに移っていた。
投球ターゲットの方が村人的に馴染みやすいらしく人気も高い。俺達が占領している間にも列に並んでいる村人は増えている。
そろそろ俺達もキックターゲットの方に移りたいところ。
「ちょっと待って。一枚だけ。あと一枚だけ抜いたら止めるわ」
勿論、アレイシアも俺のそんな意図には気付いているだろうが、彼女はまだ粘る。
この三十分間、アレイシアは一枚しか板を抜けていない。もう一枚抜くにはさらに三十分かかるかもしれない。
ない。
ラーちゃんは既にすべての板を抜いたので満足しており、次の興味はキックターゲットをしているエリック達の方に向いている。痺れを切らすのは時間の問題かな。
「五番よ!」
アレイシアは無言でボールを手にして、ターゲットへと投げる。
エリノラ姉さんの投げ方を見て、試行錯誤を重ねていたからかアレイシアのフォームや球威は申し分ない。
しかし、それは五番に当たることなく、上にあった二番を抜いた。
「おめでとうございます! 見事に撃ち抜けましたね!」
「さすがです、アレイシア様!」
見事に板を撃ち抜くことができたのでもう終わりだろう。そんな喜びも湧いてきて、自然と俺とロレッタの口から称賛の言葉が出てくる。
アレイシアは板を抜けたことが嬉しかったのか一瞬表情を緩めるが、すぐに曇らせた。
「いーえ、宣言した通りの番号を抜くことができなかったんだからノーカウントよ」
アレイシアのその台詞を聞いた瞬間、俺とロレッタは心の中で「えー」と叫んだ。
ロレッタも口にはしていないが顔を見ただけでわかる。
確かに宣言した通りの板ではないけど、一枚抜いたのは事実だ。
なんとか宥めてキックターゲットを提案しようにも、アレイシアは真剣な表情をしながらリムからボールを受け取っている。
そんなアレイシアを見た瞬間に俺は悟った。
――ああ、これはダメなやつだな。
ああいった真剣な顔は稽古中にエリノラ姉さんがしていたのをよく見かけた。
エリノラ姉さんは、少しでも自分にとって納得のいく動きができないと、それができるようになるまで意地でもやり続けるのである。
ボールを持っている今のアレイシアの顔は、そんなエリノラ姉さんの顔とまるで一緒だった。
きっと外から声をかけようが、自分の納得のいく結果ができるまでやり続けるだろう。
文武両道で何事もそつなくこなすようなアレイシアも、このように完璧でいるために努力をしているのだな。
収穫祭を一緒に過ごしている内にアレイシアのそんな一面が知れた。
にしても、これは遊びなのにぁ。別に完璧でなくても楽しければいいと思うけど、それを言っても無駄なことはアレイシアの性格から理解できる。
ならば彼女ができるまで付き合うしかないな。ここでアレイシアを放り出して、俺とラーちゃんだけキックターゲットに行くのも悪いし。
俺にできることはせめてラーちゃんが退屈しないようにもてなすだけだ。
俺はキックターゲットの方を眺めているラーちゃんに声をかける。
「ラーちゃん、ちょっと俺と投球ターゲットで遊ばない? ただし、魔法を使って」
「え、魔法? どうやって遊ぶの?」
魔法を使って遊ぶというキーワードのお陰か、ラーちゃんの興味がこちらに移る。
やはり、ラーちゃんは魔法貴族だけあって、魔法が大好きなようだ。すぐに食いついてきた。
「今度は手で投げるんじゃなくて、サイキックを使ってボールを飛ばして板を抜くんだ」
俺とラーちゃんの退屈しのぎだけで、もうひとつのターゲットを借りるのは申し訳ないので、空いているスペースに土魔法で新たなターゲットを作ってやる。
投球ターゲットの造りをエルマン達に教えたのは俺なのだ。図面にも書いたし、構造は詳しいのでこれくらい容易だ。
ただし、俺達にとって腕力でターゲットに当てることよりも、魔法で当てることの方が簡単。
投げるときと同じ距離にしては意味がないので、手始めに三十メートルくらい離して設置した。
ターゲットとの距離感を目視して測ると、俺はサイキックを使って傍に落ちているボールを浮かせる。
「……五番」
撃ち抜くべき板の番号を宣言して、サイキックでボールを飛ばす。
ボールはギュンッと急加速すると、一秒程度でターゲットに到達。
土魔法でできた五番の板を見事に撃ち抜いた。
「え、ええ? 私にはほとんど軌道が見えなかったのですが……?」
ロレッタが唖然としながらなにかを呟いている。
秋を過ぎると冬になって雪が降る。
そうなるとコリアット村では雪合戦の季節がやってくるわけで。
屈強な村の男やエリノラ姉さんとやり合う以上、雪玉をこれくらいの正確さと速さで飛ばすことができなければ勝負にもならないからな。
このくらいの技術は必要だ。シェルカと同じように学園に通って魔法使いになるとなれば、なおさら必要だろう。
「どう? こんな感じだけど、ラーちゃんもできそう?」
「んー、これだけ遠くまで飛ばすのはやったことがないからわかんない! でも、面白そうだからやってみる!」
うんうん、チャレンジ精神があるのはいいことだ。
俺はサイキックで撃ち抜いた板を元の位置に戻し、散らばっているボールを集めてバトンタッチ。
「『我は求める 意思に従い 念動せよ サイキック!』」
身近に詠唱をして魔法を使う人が少なかったせいか、久しぶりに詠唱を聞いた気がした。
ラーちゃんはサイキックでボールを支配下におくと、目の前に浮遊させる。
そして、遠くにあるターゲットを必死に見つめて距離を測る。
意外と遠くにある物体を魔法で撃ち抜くのは難しいので、距離感を把握するのが大事だ。
「……うーん、これくらいかな? 五番!」
そう呟くと、ラーちゃんはサイキックでボールを飛ばす。
それは見事に加速して真っ直ぐに飛んでいく。しかし、途中で魔力が足りなかったのかイメージが足りなかったのか、ボールは速度を減衰。さらに空気の抵抗を受けてなのか、徐々に左に逸れてターゲットの五メートル手前で落ちた。
「あー! 全然届いてないし、ターゲットからも外れてる!」
そうはいっても、四歳児がサイキックで二十メートル以上も物を飛ばすことができたのだ。素養は十分である。
「ちょっと遠かったみたいだし、もうちょっと近付いてみようか」
「や! アルもここからやってたし、私もここからやる!」
手で投げる時は、ダメ元でも一度遠くから投げれば満足していたラーちゃん。
しかし、魔法のことになるとどうも素直に引き下がれないよう。それだけ魔法に関しては拘りがあるということだろうか。
上達する上でその心は大切なので、俺はこれ以上何も言わずに尊重することにした。
ラーちゃんは真剣な表情でサイキックを使いボールを射出。
しかし、それは先程と同じようにターゲットから外れた手前で落ちてしまう。
ラーちゃんは首を傾げながら、次のボールを淡々と射出して試行錯誤を繰り返す。
その隣ではアレイシアがフォームのチェックをしながらボールを投げる。
最初のほんわかとした空気は一体どこにいってしまったのだろう。
「気軽に遊ぶつもりが、ラーちゃんまで真剣になっちゃった……」
「ラーナ様は魔法に関しては負けず嫌いですから」
俺のぼやきにロレッタさんが苦笑いしながら答えた。
俺としてはきゃいきゃいと言いながら気軽に楽しめたらいいなと思っていただけなんだけどなぁ。
なんとなく二人を止められる雰囲気ではなかったので、俺はサイキックを使ってボールを集めたり、板を元の位置に戻したりと、フォローに徹することにしたのであった。




