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転生して田舎でスローライフをおくりたい  作者: 錬金王


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ローガンの玉子焼き

『転生したら宿屋の息子でした。田舎街でのんびりスローライフをおくろう』が宝島社より9月13日に発売です! 来週です! Amazonで予約できますので、よろしくお願いします!


「へい、いらっしゃい! 我が家の特性スパゲッティはいかがです?」


 俺が最初に案内した屋台は、村人達の独創的なスパゲッティ屋台。


 元々スパゲッティは俺が調理法を広めたものであるが、村人達は日々の生活の中でその味付けを進化させ

ている。


 今やスパゲッティはコリアット村の特産にもなっているので、最初に紹介しておいて間違いはない屋台だ。


「ほお、スパゲッティとな。一体どんなものがあるのだ?」


 やはりスパゲッティが気に入っていたのだろう。ブラムが興味深そうにおじさんに尋ねる。


「俺のおすすめはニンニクオリーブとアカラスパゲッティです!」


 おじさんの説明を聞いてみると、ニンニクオリーブというのはニンニクやオリーブオイル、アカラの実を使ったペペロンチーノもどきだった。


 アカラスパゲッティの方はアカラの実をふんだんに使ったソースと絡めたパンチのあるスパゲッティらしい。


 後者はともかく、前者の方は完全にペペロンチーノだな。


 まだ俺が広めていないものを開発してしまうとは、恐ろしい食への探求心だ。


「ほお、どちらも美味そうだな。では、ニンニクオリーブを――」


「ちょいと待ちな、貴族の坊ちゃん。そんなスパゲッティより、うちの具沢山スパゲッティの方が美味しいさね!」


 そう言って、隣の屋台のおばちゃんが見せてきたのは、キャベツやもやし、ニンジン、ピーマン、ウインナーなどが混ざったスパゲッティ。


 もはや、焼きそばかと思うそれは意外にもいい匂いをしていて、とても美味しそうだった。


「いやいや、ワシの特製ハーブスパゲッティの方が美味いぞ?」


「お、おお。こっちも独特なスパイスが効いていて美味そうだな」


 一人が名乗りを上げると、また一人、二人と家庭自慢のスパゲッティを持ってくる村人達。


 貴族は他の村人よりもお金を持っているので、彼らがターゲットにするのは当然だろう。


 わらわらと自分の家のスパゲッティを自慢したく、買わせたい村人が集まってくる。


「なんだかすごい数ね」


「そうですね。ちょっと移動しましょうか。シルヴィオ兄さん、ブラムは任せたよ!」


「ええ、僕っ!?」


 村人にもみくちゃにされる前に、俺達はスパゲッティの屋台から避難。


 去り際にシルヴィオ兄さんに一声かけると、素っ頓狂な声が聞こえてきたが彼ならなんとかしてくれるはず。


「……ここの人達はたくましい。貴族相手にあれだけ売り込みができるなんて」


「そうね。もうちょっと控えめでもいいと思うけどね」


 エリノラ姉さんの言う通りだ。相手は伯爵だぞ? もうちょっと物怖じしてもいいと思う。


 とはいえ、アレイシアとラーちゃんには無理な客引きはしないことから、ちょっかいをかけてもいい相手を選んでいるのだろうな。


 ――あれ? ということは、客引きしてくる村人は俺を舐めているのではないだろうか?


「次はもうちょっと落ち着いた屋台がいいわね」


 なんて考えていると、アレイシアからそんな注文の声が。


 先程のスパゲッティ屋台は公爵令嬢を連れていくには、少しレベルが高いからな。


 とはいえ、落ち着きがあって面白みのある屋台とは無茶を言う。


 俺は脳を回転させて変わった屋台を検索させる。


「ねえ、アル。あそこ、変な形のフライパンがいっぱい並んでる!」


「変な形のフライパン?」


 ラーちゃんが指さした方を向くと、屋台ではローガンがいた。


 屋台では玉子焼き専用の四角いフライパンが五つほど並べていた。


「ああ、あれは卵焼き用のフライパンだね。あそこの屋台では玉子焼きを作ってるんだよ」


「それって朝食べたやつ!?」


 そう説明すると、ラーちゃんが食い気味に反応。


 ラーちゃんは今朝食べた玉子焼きがお気に入りだったからな。興味があるのだろう。


「うん、今作っているみたいだし見てみる?」


「見る!」


「いいわね。どんな風に作られているか興味があるわ。行ってみましょう」


 ラーちゃんが強く興味を示す姿を見て、アレイシアも微笑ましそうにしている。


 今度はちゃんと目も笑っていた。


 そういうわけで俺達はローガンのやっている屋台に行く。


「やっ、ローガン」


「ああ」


 屋台に着くなり挨拶をすると、いつも通り不愛想な返事をするローガン。


 客商売をしているというのに愛想がない。そのせいでローガンの屋台の周りにはお客が誰もいなかった。


「ねえ、玉子焼き作って!」


 そんないかついローガンを前にして、ラーちゃんは無邪気にもローガンに玉子焼きを作れと頼む。


 さすがにローガンでも、今年の収穫祭では貴族がやってくること自体は知っているはず。


 愛想はなくても丁寧な対応くらいは……。


「なんだ、この子ど――」


「今日は貴族のお客人を連れてきたんだ! いくつか買うからちょっと見ていっていい?」


 できなかったので、ローガンが無礼を働く前に言葉を割り込ませた。


 すると、ローガンは少し目を見開いて、驚きの表情を見せる。


 うん、どこかそうじゃないかと思っていた。


 ローガンは村のはずれに住んでいるし、セリア食堂にもたまにしか顔を出さないし、顔を出しても誰かと長話をするタイプじゃない。


 どうやら本当に貴族がきているという情報を知らなかったようだ。


「……お好きにどうぞ」


 そのことをようやく把握したローガンは、ぶっきらぼうにそう言うと調理を始めた。


 ローガン、もうちょっと友達を増やしておこうな。危うく公爵令嬢にため口をきくところだったから。


 まあ、そんなことをこの二人は気にしないだろうけど、俺がヒヤヒヤする。


 ローガンはフライパンに油を敷いていくと、ボウルに溶いていた玉子を一気に流し込んでいく。


 ローガンは薪を入れて火加減を調整し、様子を見ながらフライパンの位置を微調整。


 その表情たるや、まさに職人で火加減のばらつきさえ許容しない。


 普段、台所でここまでの数のフライパンを並べることがないので、五つも並べている姿は壮観だな。


 というか、この横に長い竈みたいなのも自分で作ったのか。


 鍛冶師だからこそできる技。ローガンの玉子焼きにかける熱い思いが、料理器具だけで伝わってくるよう

だ。


 やがて、玉子に空気が入り、固まってきたところでローガンは菜箸で少しかき混ぜる。


 それを順番通りに全部にやったところで、最初にかき混ぜた玉子を器用に手元にひっくり返す。


 菜箸で突きながらせせこましくやるのではなく、フライパンの勢いを使って一回で決めた。


 その動作もかなり手慣れており、家でもかなりの数をこなしているものと思われる。


「わあー!」


 ローガンの見事なひっくり返しに傍で見ていたラーちゃんは感激している。


 玉子焼きを作れる俺としてもローガンの技術力の高さには、素直に畏敬の念を抱かざるを得ない。


 だけど、ラーちゃんからこんなにも純粋な尊敬の眼差しを受けているローガンが、少しだけ羨ましい。


 そんな俺の嫉妬も知らずローガンは残りの四つも手際よくひっくり返す。そのどれもが失敗はしておらず、綺麗な四角い形を保っている。


「……ねえ、エリノラ。この人は料理人?」


「いや、鍛冶師よ」


「……鍛冶師なのになんでこんなにうまいの?」


 ルーナさんの疑問はもっともだろうな。


 料理人でもないのにローガンは上手すぎる。


 とはいえ、肝心なのは味だ。いくら形がよくっても味がダメならば意味はない。


 評論家のような面持ちで見守っていると、ローガンは空いているスペースの油を敷いて、そこに溶いた玉子を流し込む。


 そして、最初と同じように少しかき混ぜ、焼き上がったらドンドンとくるんでいく。


「無駄のない職人の動きというのは綺麗なものね。同じ動作を繰り返しているだけなのに不思議と目が離せないわ」


 アレイシアの言葉には同意だ。ただ玉子焼きを作っているだけなのに延々と見ていられる。


 職人の技というのは、それだけ人に感動を与えるものなのだろう。


 そうやって五分ほど眺めていると、ついにフライパンの上で玉子焼きが完成する。


 フライパンの上で形を整えると、それをまな板の上に乗せて包丁で丁寧に切る。


 すると、玉子焼きがぱっかりと割れて、熱々そうな蒸気が漏れ出た。


「わぁ、おいしそう!」


 食べてもいないのにラーちゃんの意見に同意見。


 ローガンは切った玉子焼きを串に刺すと、それをラーちゃんに差し出した。


「……どうぞ」


「いいの?」


「熱いので気をつけて」


「えへへ、ありがとう」


 ラーちゃんは礼を言うと、玉子串を受け取ってフーフーと息を吹きかける。


 それからゆっくりと小さな口で一口。


「んー! おいしい!」


「当然だ」


 ラーちゃんの純粋な賛辞にローガンは腕を組んで頷いた。


 それからローガンは切った玉子焼きに次々と串を刺して、俺達に渡してくれた。


 目の前で湯気を上げている玉子焼きを俺も口に含む。


 ふわっととろける玉子は、とてもまろやかで口の中で溶けていくよう。


 そして、なにより砂糖や醤油といった調味料の具合が抜群だった。玉子の味を壊すことなく、自然と旨味を引き上げている。


 このバランスに至るまで、一体どれほどの道程を経てきたのか。


 こんな玉子焼きは広めた俺でも、料理人のバルトロでさえも作れはしない。


 認めよう、ローガン。君の玉子焼きは形だけではなく、味も完璧だということを。


「味も素敵ね」


「……美味しい」


「うむ、プロの味だな」


 これにはアレイシア、ルーナさんやエリックもご満足の様子。


 三人ともあっという間に玉子焼きを平らげていた。


「さすがだね、ローガン。お代はいくら?」


「このフライパンと料理はお前が教えてくれたんだ。金はとらん」


「そういうわけにもいかないよ。仮にそうでも、ここまで美味しいものにできたのはローガンの力だからね」


「銅貨二枚と賤貨五枚だ」


 普通の玉子焼きにしては高めであるが、これだけの美味しさと技術があれば納得の値段だ。


 ローガンの掲示した値段のお金を俺が払う。


 そして、最後にラーちゃんがローガンの下に寄り、


「おじさん、美味しかった! ありがとう!」


「……ああ」


 ローガンの返事はいつも通り不愛想なもの。


 しかし、その表情はいつもと比べて柔らかいような気がした。





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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
[一言] ラーちゃんは天使だ
[気になる点] 誤字脱字報告です。 文頭の 「へい、いらっしゃい! 我が家の特性スパゲッティはいかがです?」 の特性スパゲティは特製ではないですか?
[気になる点] >>菜箸で突きながらせせこましくやるのではなく、フライパンの勢いを使って一回で決めた。 すげえ…… オムレツならともかく巻いたり押さえたりしなきゃダメな卵焼きで出来るとは…… 流石ロ…
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