馬車でコリアット村に
『Aランク冒険者のスローライフ』のコミック1巻と小説3巻が本日同時発売です!
店頭で見かけたら、そちらのスローライフも是非よろしくお願いします。
あと本日から『転生して田舎でスローライフをおくりたい』の電子書籍が発売です。
kindleで読めますので、今まで電子派の方はこれを機会に是非、書籍版をお楽しみいただければと!
「あっ、アル! どこ行ってたの?」
ブラムとの決闘を終えて屋敷のリビングに戻ると、ラーちゃんが駆け寄ってきた。
「ちょっと男同士でお散歩にね。なあ、エリック」
「ああ」
「ええ、お散歩なら私も行きたかったー」
エリックが同意して頷くと、ラーちゃんは少し残念そうに言った。
「ごめんごめん、次のお散歩には誘うから」
「うん、絶対だよ?」
次のお散歩の約束を交わすと、ラーちゃんは嬉しそうに笑った。
ああ、本当に可愛い生き物だな。このままうちの子になってくれないだろうか。
なんて思いながらソファーに腰を落ち着けて一休み。
すると、対面に座っているエリノラ姉さんがジットリした視線を向けてくる。
「なに?」
「あんた、顔が気持ち悪いわよ。ああいう小さい子が好みなの?」
そういう言い方をされると、俺がユリーナ子爵みたいに幼女を好きだと勘違いされそうになるのでやめて
ほしい。
「そういうんじゃないよ。ラーちゃんは俺の周りにいる人が持っていないものを持っているからさ。つい、可愛がりたくなるだけだよ」
「周りの人が持っていないものって?」
心の綺麗さって言ったら、エリノラ姉さん以外の人も敵に回すことになるだろうな。
「あっ、サーラ。紅茶をお願い」
「わかりました」
俺はサーラに紅茶を淹れるように頼むことでエリノラ姉さんの質問を聞かなかったことにした。
「あら、誤魔化したわね?」
「……誤魔化した」
「逃げたわね」
だって、エリノラ姉さん以外にも傍で見ているアレイシアとかルーナさんとかエルナ母さんとか怖いんだもん。
ほら、こんな風に会話に参加していなくても聞き耳立てて、追い打ちをしてこようとするし。
もうちょっとラーちゃんみたいに穏やかで無邪気な子がいてもいいと思うんだ。
「シルヴィオ殿、少しいいか?」
「どうかしましたか? ブラム様」
そんな風に俺を追い立てていた女性陣であるが、ブラムがシルヴィオ兄さんに話しかけるという珍しいシチュエーションにより興味が移った。
ブラムはエリノラ姉さんや俺に絡むことはあるが、シルヴィオ兄さんに絡むようなことは始めてだ。
どうやらブラムは俺の小さな願いを叶えてくれるらしい。
「今度、俺と決闘をしろ」
「え、ええ? どうして僕と決闘を?」
突然の決闘予告にいつも冷静なシルヴィオ兄さんも思わず戸惑う。
「お前を倒すことができなければアルフリートに再戦を挑むことができないからだ」
「再戦? え、ちょっと待ってください」
訳がわからないが俺が絡んでいるとわかったらしいシルヴィオ兄さんは、ブラムの前から離れて強引に俺を連れ出す。
そして、リビングの端に行くと小声で、
「ねえ、アル。ブラム様の言ってる決闘って、エリノラ姉さんの婚約の話だよね? あれってアルが身代わり――じゃなくて、エリノラ姉さんが自分で解決することになっていたよね?」
誰が身代わりだよ、酷いなシルヴィオ兄さんも。
「うん、でもブラムが俺に勝ってからエリノラ姉さんに挑むって言って聞かなくてさ」
「それでどうして僕に決闘が回ってくるんだい?」
ブラムとの決闘は不本意であるが、俺の担当になっていた。
それなのに、挑まれることになったシルヴィオ兄さんが疑問に思う点は、まさしくそこだろう。
「勝者の特権として俺に挑戦したいならシルヴィオ兄さんを倒してからにしてって言ったから」
何故そうなったかと言うと、決闘に勝ったというのにブラムが諦めてくれなかったからだ。だから、俺は以前から考えていた俺に挑戦したければ先にシルヴィオ兄さんを倒せ作戦を発動したのである。
それがブラムに頼んだ小さな願い。ブラムもこれには渋い表情をしながら頷いてくれた。
「そこでどうして僕を巻き込むの!?」
「兄弟とは苦悩さえも分かち合うもの。シルヴィオ兄さんも俺の苦悩を味わう――じゃなくて、共に背負ってもらいたんだ」
「それはただの押し付けじゃないか」
「大丈夫。シルヴィオ兄さんなら負けることはないから!」
防御力の高いシルヴィオ兄さんであれば、ブラムの攻撃をしのぐことができる。勝てるかどうかまでは実力も見てないのでわからないけど、負けることはないはずだ。
「ええ? それじゃあ、ずっと僕が決闘を挑まれる気が……」
「その時は俺と同じように違う人を倒してから挑むように言えばいいんだよ」
エリノラ姉さんから俺。俺からシルヴィオ兄さん。という風にドンドンバトンタッチしてブラムを遠ざける。
プライドの高いブラムであれば、勝者の小さな願いを叶え続けてくれるはず。
シルヴィオ兄さんが何とか勝ったら、次はルンバとか銀の風のメンバーにバトンを渡してあげればいい。
その旨を熱説すると、シルヴィオ兄さんは苦笑いし。
「……アル、酷いことを考えるね」
「理不尽に決闘を挑んでくるブラムが悪いんだよ」
エリノラ姉さんと婚約したいがためとはいえ、巻き込まれるこちらの身にもなってほしい。
面倒なブラムに気を遣っていては、こちらが疲弊するだけだから。
「ねえ、アル! そろそろお祭りに行こう?」
なんてシルヴィオ兄さんと話し込んでいると、ラーちゃんがやってきて裾を引っ張ってくる。
ナイスタイミングだ、ラーちゃん。
「そうだね。そろそろ収穫祭も始まっているだろうし村を案内してあげなさい」
シルヴィオ兄さんはまだ納得いっていない様子だったが、ノルド父さんがそう言っているのだから行動に移さないと。
「それじゃあ、村に向かおうか。案内するよ」
「うん!」
そんなわけで俺達は村に向かうために立ち上がる。
大人達は後でゆっくり来るつもりなのか、特にソファーや椅子から立ち上がる様子はない。
「私の馬車を使えば全員が乗れるわね」
「アレイシアの馬車は広いもんね!」
屋敷の外に出ると、アレイシアとラーちゃんが当然のように言う。
「え? 馬車?」
「あら? 村に馬車で行くのは何かマズいかしら? 祭りで道が規制されていたりする?」
「いや、そんなことはないですよ。いつもは歩いていっていたので、つい驚いて」
コリアット村までは一本道を歩いて十五分ほど。これまで転移を使って移動するか、のんびりと歩いていっていたので、馬車に乗って向かうという発想がなく、つい驚きの声を上げてしまった。
「私もあまり長距離を歩ける服装じゃないし、ラーちゃんもいるからね」
それもそうだ。公爵令嬢を村まで歩かせるのはさすがに失礼だ。
それに幼いラーちゃんもいるので、道中の負担はかけないに越したことはない。
そういうわけで俺達はリーングランデ家のメイドが、用意してくれた馬車に乗り込むことに。
リーングランデ家の馬車はとても大きく、装飾もとても凝っている。
赤と金を基調とした馬車は、高貴さだけでなくどこか畏怖を与えるような印象だ。
さすがに十人程度の人数が一つの馬車に入りはしないので、連結されている馬車とで別れることにする。
一台目には俺とラーちゃん、エリック、アレイシア、ロレッタさんが乗り、二台目にはエリノラ姉さん、ルーナさん、シルヴィオ兄さん、ブラムが乗り込むことになった。
なお、アレイシアのメイドであるリムさんは、いつの間にか御者席に座っていた。
そこはメイドが座るべき場所じゃないと思うのだが、護衛のような意味合いも兼ねているのかもしれない。リムさんは身のこなしからしてただのメイドじゃないから。
「リム、出して」
「はい」
全員が無事に乗り込むと、御者席にいるリムさんが鞭をしならせる。
すると、馬車を轢く二頭の馬がゆっくりと歩き出した。
リーングランデ家の馬車は中庭を進んで、屋敷の外へ。
門の前では屋敷で待機しているアレイシアのメイドやラーちゃんのメイド、ブラムの執事さんがうやうやしく頭を下げて見送ってくれた。
こんな大勢の人に見送られて出発するのはカグラの旅館以来な気がする。
高級宿であれば違和感はないが、いつもの自分の屋敷でそれをやられると面はゆい感じするな。
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