ブラムとの決闘
『Aランク冒険者のスローライフ』の小説3巻とコミック1巻が8月30日に同時発売です。
Amazonでも予約がはじまっていますので、よろしくお願いいたします。
ブラムとの決闘のために部屋に戻った俺は、壁にかけている木刀を手に取った。
「む? それは木刀だろう? まさか、それを使うのか?」
案の上、違和感を覚えたエリックももっともなことを尋ねた。
シルフォード領での合宿でも俺が使っていたのは木剣だからな。当然、それを使うと思っていたのだろう。
「うん、その通りだよ」
俺はブラムとの決闘で木剣ではなく、木刀を使おうと思っている。
「貴様にそれが扱えるのか?」
「いや、全然。剣もロクに扱えてないのに刀なんて使えるわけないよ」
エリノラ姉さんやノルド父さんであれば、感覚的に使いこなすことができそうではあるが、生憎俺にそのような才能はない。
剣道齧りの振り方をしてトールとチャンバラをするので精いっぱいだ。
「それでどうして木刀を選ぶのだ?」
「駆け引きをするためさ」
俺はそう言って、壁にかけているもう一本の短めの木刀を手に取る。
右手に持った短い方を前に突き出し、左手にもった長い方を引いて持ち、腰を下ろして構える。
「とりあえず、俺の本気は木刀の二刀流って設定で合わせてね」
「……よくわからんがわかった」
構えをとりながら念を押すとエリックは頭が痛そうにため息を吐いた。
「ところで、どう? 俺の二刀流は様になってる?」
「滑稽だ」
その台詞にカチンときて俺は飛びかかったが、慣れない二刀流のせいか相手が無手にも拘わらず容易に木刀を叩き落とされた。
◆
木刀を二個持った俺は、エリックと共に集合場所である屋敷の外にやってきた。
そこには既に木剣を手にしたブラムが待ち構えるようにして立っている。
ブラムはこちらを見るなり満足そうな笑みを浮かべた。
「ククク、今回は逃げなかったようだな」
また逃げたらしつこく追いかけてきそうだからね。
「それじゃあ、散歩に行きましょうか」
「おい」
なんて言うと、ブラムが真に受けて不満の声を漏らす。
「言葉の綾ですよ。戦いやすい場所に移動するだけです」
「そこにちょうどいい中庭があるではないか?」
「家族とか他の皆が駆けつけても面倒なので」
「……それもそうだな。ならば、早く案内しろ」
アレイシアやラーちゃんが乱入してくる未来を想像したのだろう。ブラムが苦そうな表情をすると素直に言う通りにしてくれた。
俺としてもラーちゃんに決闘なんて見せたくはないしな。勿論、決闘から想像する殺伐なものや物騒なものはするつもりはないけど、ラーちゃんには綺麗な世界だけを見てほしいから。
とりあえず、遠すぎない場所で広い場所といえば屋敷近くの平原だ。
案内するのは勿論俺なので先導するために前を歩き出す。
中庭を出て門をくぐり屋敷の外へ。そこからはコリアット村まで延々と道が続いており、遠くでは山々や森が見えている。
空は青く澄み渡っており、気温も秋に相応しいほどよいもの。まさに、お散歩日和だ。
俺としてはこのままお喋りでもしながら散歩でもいいのだが、それではブラムも納得してくれない。
ブラムは自然豊かな景色に目もくれず、決闘に集中するべく前だけを見据えている。
エリックは審判を請け負ってはくれたが、面倒なブラムとは出来るだけ関わり合いになりたくないのか無言を決め込んでいた。
牧歌的な風景が広がっているにも関わらず、俺達の空気はとても重い。
なんだか歩いているだけで気が滅入りそうだったので、歩くペースを上げて平原へと向かった。
「この辺りですね?」
「ああ、これだけ広ければ問題もない」
屋敷から程よく離れたここであれば、他の皆が気付いてやってくることもないだろう。
ブラムが早速とばかりに腰に佩いた木剣を抜いて構える。
それに対して俺は、腰にぶら下げた二本の木刀を抜く。
「ちょっと待て。よく見ると片刃の剣ではないか! 貴様、なんだそれは!?」
俺の武器が木剣ではないと気付いたのか、ブラムが突っ込みを入れてくる。
よかった、ちゃんと気付いてくれて。気付いてくれなかったら、二刀も持ってくる意味がないからね。
「これはカグラにある片刃の武器を模したもので木刀というんです」
「それが異国の武器であることはわかったが、二本も貴様に扱えるというのか?」
武器が二本あるということはリーチや手数が増して強いように思えるが、単純な動作が増えることから扱いがさらに難しくなる。
常に左右で違う動きをしながら動き回ることを想像すれば、それは誰にでも想像ができるだろう。剣一本ですら満足に扱えない俺は、そのことをよく知っている。
だけど、ここでそんなことは言わない。
「勿論です。俺がこの木刀を使う時は本気の証ですから。なあ、エリック?」
「ああ、そうだな。うちの稽古でも、ここぞという時は木刀を使っていたな」
「そ、そうなのか!?」
エリックの言葉を聞いて半信半疑だったブラムが信じ込んでくれたようだ。
構えでは迫力が出ないので第三者の意見を使って信憑性を高める作戦はどうやら成功のようだ。
ただ、審判役として見守っているエリックが詐欺師でも見るような目をしている。自分だって何くわない顔で嘘を吐いた癖に。
「まさか、ブラム様は異国の武器は怖くて認めないなどとは言わないですよね?」
「そんなことは言うものか! その木刀とやらを二本使うのを認めてやろう!」
ちょっと煽るとすぐに乗ってくれるブラムがチョロい。
よし、これで作戦の第一段階はクリアだ。
「さあ、本気の二刀流とやらをみせてみろ!」
「そうは言いましたがブラム様を相手に二刀も使うまでもないですよ」
「何だとッ!?」
ブラムが怒りを露わにする中、俺は短めの木刀を前方に放り投げた。
それはブラムの頭を越えていって、地面を転がっていく。
「……今すぐに拾え」
顔が真っ赤になるのを通り越して真顔になっているのでとても怖い。
だけど、今後ブラムに決闘を吹っ掛けられないようにするためにもこれは必要な事なのだ。
俺はブラムの気迫に内心ではビビりながらも、動じていない風を装う。
「いえ、一刀で十分です」
「負けた時の言い訳を作るつもりか?」
「そんなことはありませんよ。本当にこれだけで十分ですから」
「いいだろう。だがその言葉を後悔させてやる!」
これ以上説得するつもりはないのか、ブラムはそう叫んだ。
「両者、武器を構えて」
審判役であるエリックがそう言うとブラムは、怒りの炎を目に灯しながら剣を両手で構える。
その構えはとても様になっていた。王都で一瞬対峙した時よりも気迫も増している。
きっとエリノラ姉さんや俺に勝つべく鍛錬を欠かさなかったのだろう。
恐らく真正面からぶつかれば間違いなく負ける。
まあ、それはわかっていることなので真正面からぶつかるつもりはさらさらないんだけどね。
対する俺は腰を深く卸して、腰の辺りで溜めるかのように刀を構える。
いわゆる居合の動作だ。
本来の居合であれば刀が鞘に収まった状態で構え、そこから刀を抜いた勢いで一撃を加える神速の一刀……だと思う。
鞘にも収まっていないし木刀なのでできるはずもないが、ブラムはカグラ文化に詳しいわけではないので気にしない。
カグラにいる小次郎や楓さんならできたりするのだろうか。
「最初に宣言しておきます。俺の間合いに入った瞬間がブラム様の最後です」
「――っ!?」
いつになく真面目な口調と雰囲気を醸し出して、俺はこの構えから繰り出される技があたかも必殺の一撃であるかのようにみせる。
ブラムは普段とは様子の違った俺を見てか警戒心を跳ね上げたようだ。真剣な表情でこちらを見ている。
それに対してこちらは動じることなく待ちの構えで微動だにしない。
しばらく睨み合うような時間が続く。
それでも俺は自分から動くメリットはまったくないので、どれだけ時間がかかろうとも動く気はさらさらない。
ブラムはこちらの一撃を最大限に警戒しているようで、戦術の組み立てをしているのだろうか。
どれだけ考えようと無駄だけど、早く片をつけたいのでフッと笑ってブラムを挑発。
すると、ブラムは顔を真っ赤にして、
「いいだろう! お前の一撃を見切ってやる!」
ブラムがそう言って接近してきた。
その速度はエリノラ姉さんんも足元にも及ばないが十分な速さ。
そして、ブラムが刀の範囲に入ってきたところで、あたかもものすごいカウンター技を繰り出すような気迫で叫んだ。
「――稲葉流、壱ノ型・居合い斬り」
構えた木刀を引き抜くと同時に、俺は視界に移っている短めの木刀をサイキックで引き寄せる。
ブラムが俺に向かって木剣を振りかぶる瞬間、俺が素早く引き寄せた木刀が戻ってきてブラムの後頭部に直撃。
「ごはっ!?」
木刀が当たって一発で気絶するブラム。
気絶したフリをしていないか確かめるために、俺は離れてサイキックで操作した木刀でブラムを突く。
反応はないし、動き出す様子もない。
「よし、これで俺の勝ちだね」
今回の作戦はこれで成功だ。
決闘の結果を見て、エリックがおそるおそる尋ねてくる。
「き、貴様、魔法を使わないのではなかったのか?」
「いや、そんな約束はしていないし、使っちゃダメなんて取り決めはしてないから」
俺が木刀を持っているのを見て、魔法は絶対に使わないだろうなどと思い込むのがおかしいと思う。
正直。いきなり魔法で倒してもよかった。
しかし、決闘で魔法は卑怯などと後でいちゃもんをつけられても面倒なので、ブラムの望む通りに剣術で正面から倒したという構図にしたのだ。
魔法による奇襲ではなく、異国の武術によってなすすべもなくやられたというのが今回の筋書き。
さすがに剣術であっけなくやられたとあっては、ブラムも安易に再戦を挑んできたりしないだろう。仮にもし、そのような事態が起こればエリノラ姉さんみたいに、俺を倒す前にシルヴィオ兄さんを倒せ作戦を発動するのもやぶさかではない。
「木刀が本気の証とか二刀流だとか、ほざいたりしていたのは全ては相手を欺くためだったのか」
合ってはいるけど欺くとは言い方が酷い。
「それよりエリック。俺は今回の決闘で魔法なんて使っていない。異国の武術を使ってブラムを倒した。そうだよね?」
「いくら、何でもこのようなだまし討ちは……」
「……マヨネーズの借り」
「うむ、互いに死力を尽くしたいい勝負だったな。勝者はアルフリートだ」
言い淀むエリックに魔法の言葉をささやくと、ころりと態度を変えて試合の結果を宣言。
こういうのやると、エリノラ姉さんやノルド父さんは絶対にうるさいのでエリックが審判でよかった。
面白い! 頑張れ! と思って頂ければ、感想、ブックマーク、評価してもらえますと嬉しいです。励みになりますので!




