天使の声
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翌日の朝。今日もサーラに監視されるように付き添われた俺は、ダイニングルームへとたどり着いた。
「おはよう」
「おはよう、アル。ちなみに席はあっちだからね」
朝の挨拶をしながらそれとなく下座に座ろうとしたら、流れるようにノルド父さんに身体を上座の方に回された。
なに今の? 椅子に座ろうとしたら身体が反対方向に向いていたんだけど。あまりにも鮮やかなノルド父さんの手つきに、自分の身体がどう動いたのかさえ理解することができなかった。
相手の勢いを理解して流す柔術みたいなものだろうか。しょうもないところでノルド父さんの体術の凄さを垣間見た気がする。
好奇心からもう一度やってもらいたくなるが、あまり悪ふざけが過ぎるとエルナ母さんに怒られるので大人しく奥から二番目の上座の席に。
テーブルの上に乗っているティーセットをサイキックで取り寄せて、カップに紅茶を注ぐ。
すると、エルナ母さんがジトーッとした視線を向けてくる。
「…………今だけだから」
さすがに公爵令嬢とのお食事の時に、サイキックで食器を取り寄せたりしない。
とはいえ、公爵令嬢の主催するパーティーでガチトングバトルをしたので信頼は低いかもしれないけど……あれ? 思えば俺ってば結構やらかしている問題児なのか?
いやいや、そんなバカな。俺はこの家族の中で至って温厚で大人しい普通の子供だ。エリノラ姉さんみたいな問題児ではないはず。
深く考えるといけない方向に向かう気がするので、俺は心を沈めるように紅茶を飲む。
ああ、朝から身体に染み渡る優しい味だなぁ。
ボンヤリと紅茶を呑んでいると、入り口の扉をミーナが開けて、そこからシルフォード家の面々が入ってきた。
「ノルド殿、おはよう。ここは空気が澄んでいてとても清々しいな」
「おはよう、目覚めがよかったようで何よりだよ」
「ナターシャさん、昨日はよく眠れたかしら?」
「はい、ベッドの布団がとてもフカフカで寝転がっているうちに眠ってしまいました」
朝から元気に挨拶を交わすエーガルさん、ノルド父さん、エルナ母さん、ナターシャさん。
さっきまで静かだったダイニングルームは、シルフォード家がやってくることであっという間に賑やかになった。
ルーナさんも昨日と同じ席に座ると近くにいるエリノラ姉さんとシルヴィオ兄さんに挨拶をしていた。
そして、エリックはこちらにやってくると無言で座った。
挨拶の声をかけてくるかと思ったが一向にそれはない。
「おはよう、エリック」
仕方なくこちらから挨拶をするも、エリックの反応はなく、何故か胡乱げな視線を向けられる。
「……貴様、ちゃんと顔を洗ってきたのか?」
開口一番にそんな台詞を吐くとは失礼な奴だ。
「ちゃんと洗ってるきたに決まってるじゃん」
「そうか。あまりに貴様の顔が酷いもので、ついな」
さてはこいつ朝から喧嘩を売っているな?
とはいえ、俺とエリックの挨拶なんてこんなものであろう。
エリックと朝から爽やかに挨拶を交わすなんて想像しただけで、顔が歪みそうだった。
シルフォード家がやってくると、しばらくしてブラムが執事と共に入ってくる。
ブラムはノルド父さん達に挨拶をすると、俺の斜め前に腰を下ろした。
すると、ブラムと目が合ったので俺は礼儀として挨拶をする。
「おはようございます、ブラム様」
「……昨日の約束はわかってるな?」
「勿論です」
「ならいい」
ブラムは俺の言葉に満足したかのように頷くと、両腕を組んで目を瞑った。
今の会話って地味に挨拶が返ってきてないよね? エリックといい、うちの屋敷にくる男は挨拶がひとつもできないのだろうか。
「アル、おはよー!」
なんて心の中で思っていると、入り口からラーちゃんが入ってきて元気に叫ぶ。
朝から失礼な奴とばかり喋って心が荒んでいた俺からすれば、それはまるで心を浄化する天使の声のようであった。
ラーちゃんは挨拶ができるなんて本当に偉い。
だけど、この場合は一番に挨拶するべき相手が他にもたくさんいる。
「おはよう、ラーちゃん。こっちに来る前に他の人にも挨拶してあげて」
「……あ、そうだった! えっと、おはようございます!」
挨拶をしながらそれとなく注意すると賢いラーちゃんは気付いたのか、ハッと我に返ってノルド父さん達にも挨拶をする。
後ろには一緒に入ってきたらしいアレイシアもおり、たどたどしく会話するラーちゃんをフォローしてあげていた。
なんだかこの生活を通じて、アレイシアがラーちゃんのお姉さんやお母さんのように見えてきたな。
何を考えているとわからないアレイシアだけど悪い子ではないんだよなぁ。
本当に彼女にはどう接したらいいか、未だによくわからないや。
一方、ノルド父さんとエルナ母さんは、無邪気な笑顔で挨拶をするラーちゃんを見て、自然と顔を綻ばせていた。
「うちの子供達にもこんな可愛らしい時期があったわね。懐かしいわ」
「本当にね」
「ちょっと待って。まだ可愛らしい息子が現役でいるよね?」
エルナ母さんとノルド父さんの懐かしむような台詞に、俺は突っ込まざるを得なかった。
ラーちゃんほどではないが、俺も目に入れても可愛い年齢のはずだ。
ちなみにエリノラ姉さんとシルヴィオ兄さんは成人年齢に近いので子供の範疇から除く。
「可愛らしい息子は図々しく現役とか言って子供の権利を主張したりしないわ」
「エリノラとアルは、気が付けばスラスラと言葉を喋っていたからね」
そういえば、エリノラ姉さんは早く立ち上がって、喋れるようになっていたと聞いていたな。それに俺だって前世の記憶を引き継いで、訓練していたお陰かかなり早く歩行や言語をマスターしている。
そう思うと二人が懐かしむようになる気持ちはわからないでもなかった。
な、なんか可愛がり甲斐の少ない子供で申し訳ない。
微かな罪悪感のようなものを抱いていると、アレイシアとラーちゃんが目の前に座る。
「おはよう、アル」
「おはようございます、アレイシア様」
「スロウレット家のベッドへのこだわりはすごいわね。ベッドも羽毛も布の出触りも、とても心地良かったわ」
「睡眠も人生の一部。人生の三分の一はベッドで過ごしますからね。そこに情熱を捧ぐのは当然ですよ」
「相変わらず貴様は睡眠のことになると、言葉が上手くなるな」
それでは俺が詐欺師のように聞こえてしまうのでやめてほしい。
「……改めてそう認識するとベッドに力をかけるのは当然かもしれないわね。私も自分の屋敷のベッドを見直すべきかしら?」
一見して普通の言葉であるが、気になる単語があった。
この人、さらりと自分の屋敷と言った。
アレだよね? 自分の部屋っていう認識でいいんだよね? まさかこの年で自分だけの屋敷とか持っていないよね?
「とってもフカフカだった」
ラーちゃんは俺の言葉の意味がよく理解できていなかったのか、笑って感想を言った。
昨日は遅くまで遊んでしまって体調が心配だったが、しっかりと眠って体力は回復できたようだ。
「俺としてはもう少し硬い方がいいかもしれん」
「ああ、エリックの家のベッドはちょっと硬めだもんな」
俺からすればちょっとどころではないが、アレに慣れているエリックからすればうちのベッドは柔らか過ぎるのだろう。
「もうちょっと硬いものに変えるか?」
「……今晩様子を見て判断する。無理そうならば頼む」
「わかった」
何でも柔らかければいいってものではない。その人が快適に眠れるものがいいベッドといいものだからな。
「さて、全員が揃ったことですので朝食をお持ちしますね」
ノルド父さんが涼しげな声でそう告げると、入り口からメイド達がワゴンを押して入ってきた。
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