これも縁
報告が遅れましたが、本作品の漫画版が再びLINEで配信されています。公開終了している序盤などが読めるので是非目を通して頂けたらと。
「とりあえず、俺とラーちゃんは結婚したから同じ馬車で進むことになるよ」
ラーちゃんの駒を取って、俺と同じ馬車に乗せる。
御者席では俺とラーちゃんの駒がちょこんと並んだ。
「ほう、不自然に馬車が大きい理由はこのためか」
「子供ができたら後ろの馬車にも乗せていくという感じなのね。凝ってるわね」
興味深そうに自分達の駒を眺めるエリックとアレイシア。
そんな中、ラーちゃんは首を傾げて、
「これで私も貴族?」
「そうだよ。魔法使い兼、男爵夫人。爵位が低くてごめんね」
現実ではラーちゃんの爵位は公爵。そんな彼女からすれば男爵家などでは満足できないかもしれない。
「いいよ、気にしない」
にも拘わらず、ラーちゃんは屈託のない笑顔で言った。
そんなラーちゃんに癒される。
もしかして、ユリーナ子爵とリナリア夫人の恋愛もそんな感じだったのだろうか。
ちょっとだけ、ユリーナ子爵の気持ちがわかった気がする。こりゃ、結婚するために頑張りたくもなるね。
魔法使いとしてバンバン稼いでいたお陰もあり、俺達の財産は結構なものになったが、アレイシアにはまだ届かない。
あっちは商人ルートでバンバン稼いでいるんだもんな。
まあ、人生お金を稼ぐばかりが全てではないし、のんびりと不労所得でいい位置についているとしよう。
家族が増えたことにより、領民から貰える税金も増えたことだしね。
「さて、新婚ルートで改めて出発しようか!」
「うん!」
結婚したので新婚ルートに駒を移動させて、俺とラーちゃんは再スタートだ。
ちょうど次は俺の番だったので、意気揚々とルーレットを回す。
出た、数字は六。
それに従ってマスを進めていくと、ある場所で止まる。
『新婚生活は絶好調。無事に子宝を授かり、一子誕生。皆からお祝い金として銀貨五枚をもらう』
おいおい、もう子供ができちゃったよ! この人生ゲーム作ったのは誰だ!? さすがにちょっと早すぎるんじゃないだろうか? 俺は七歳でラーちゃんは四歳だよ?
ダラダラと冷や汗を流していると、エリックやブラムから冷たい視線が突き刺さる。
その瞳は「幼女を孕ませた」とでも言っているようだった。
ラーちゃんは一体どのような反応をしてしまうのだろうか。
恐る恐る確認すると、ラーちゃんはマスに書いてある字を見つめて首を傾げていた。
「ねえ、子宝って何?」
どうやら四歳児のラーちゃんには子宝という意味がわからなかったようだ。
どう説明しようと悩んでいると、アレイシアがにっこりと笑いながら言った。
「簡単に言うと子供ができて生まれたってことよ」
「ええ!? 私、もうママになったの!?」
齢、四歳にして一児の母になってしまったことに驚愕するラーちゃん。
「いつの間に? どうやって孕んだの?」
「ら、ラーナ様、そのような言葉を使うのはおやめください」
ラーちゃんの口から出たとんでもない単語に、静観していたメイドのロレッタが慌てて注意。
「え? でも、ママがよくパパに誰を孕ませたとか聞いて――」
「あああああああああ! 気のせいですよ! そんなわけありませんから!」
ラーちゃんの口から出た、さらにとんでもなさそうな言葉をロレッタが大声で遮る。
シェルカやラーちゃんの口ぶりから、父親が中々に破天荒な気はしていたが、これは予想以上だった。
思わぬ場面でミスフィード家の複雑な一面を知ってしまった気がする。
アレイシアは元々何かを知っていたのか、いつもと変わらぬ微笑み。ブラムは貴族のこういった事情には慣れているのか腕を組んで目をつぶって知らないフリ。
一方、エリックは唖然としていた。
とにかく、この話題に触れるとロクなことにはならなさそうだ。
万が一、子供ってどうやって作ったの? アルは私に何をしたの? とかでも聞かれでもしたら、俺が死んでしまう。
そんなことを聞かれる前に、俺は微妙な空気を振り払うように明るい声で話題転換。
「ラーちゃん、子供は男の子か女の子か選べるけどどっちがいい?」
「えーっとね、最初は男の子がいいらしいから男の子!」
多分、家を継ぐ意味で男の子の方がいいらしいというのは知っているのだろうな。
俺としては、可愛い娘が欲しかったのだがラーちゃんが望むのであれば男の子にしよう。
ということで、事前に作っておいた男の子の駒を馬車の後ろに置いてあげた。
「名前はどうする?」
前世でも人生ゲームで子供に名前までは付けたことがなかったので面食らってしまう。
とはいえ、子供に名前などいらないなどと冷たいことは言えない。
「……んー、何にしようか?」
結婚して子供を持った経験がない故に、いざ子供の名前を決めようと言われると悩んでしまう。
「ラートルはどう?」
「ラートル? ああ、二人の名前からとったんだね」
「うん! いいでしょ!」
「いいね。ラートルにしよう」
そんなわけでラーちゃんと俺の子供はラートルに決まった。
「じゃあ、そういうわけで子供ができたからお祝い金をちょうだい」
ちなみにこの世界でも、子供が生まれたらお祝いの品を贈るような習慣はある。
子供用の服や靴下であったり、遊び道具であったり。親族であればお金を贈ることもあるが、大体は子供にまつわる物になる。
しかし、この人生ゲームではそのような細かい仕様には対応できないので、今までで手に入れたお金を渡すことにしている。
アレイシアは実に手慣れた様子でお金をくれて、エリックは実に微妙な面持ちで渡してきた。
遊びなんだからそんな変態を見るような顔をしないでほしい。
「何故俺が貴様の結婚などを祝わなければいけないのだ」
「悔しかったら、ブラム様も結婚してみてくださいよ」
とはいえ、ブラムは見習い騎士ルート。結婚マスにたどり着くには、そこを脱出して騎士になる必要がある。
「くっ、貴様……ッ! 今に見ていろ! すぐに見習い騎士など脱出してくれるわ!」
歯噛みしながらもブラムはルーレットを回す。
出た数字は二。
『雇用のチャンス! 貴族のプレイヤーがいれば、騎士として雇用してもらえる。いなければ、そのまま見習い騎士』
この中で貴族は俺とラーちゃんしかいない。つまり、ブラムは必然的に俺の雇用される道しかないわけで……
「よかったですね。慈悲深い貴族である俺が見習い騎士であるブラム様を騎士と雇ってあげますよ。仕方なく」
「ぬおおおおおお! 何故に伯爵家である俺が男爵家の貴様なんぞに仕えねばならんのだぁぁぁっ!」
ため息を吐きながら告げると、ブラムが頭を掻きむしりながら叫んだ。
俺としてもブラムのような面倒くさそうな奴を騎士として雇用するのは嫌であるが、爵位が明らかに下である俺にこき使われるという図式はブラムにとっても屈辱であろう。
今日は好き放題に絡まれたので、ちょっとスカッとした気分だった。
「えー、この人雇わないとダメなのー?」
「マスのルールは絶対だから仕方ないよ」
ラーちゃんとしてもブラムを騎士として雇うのは好ましくない様子。
ごめんよ、マスのルールは絶対だからね。
そんな感じにラーちゃんと俺が結婚し、ブラムが部下の騎士として雇われながらも人生ゲームは進んでいく。
俺とラーちゃんは貴族としての領地を発展させて、民を増やし、税収を増やしながら着実に収入を上げながら進んでいる。
ブラムは魔物にやられて怪我をしたり、詐欺師に騙されたりしているが、俺とラーちゃんから賃金を貰うことでギリギリの財産を保つことができるという屈辱の生活。
エリックは近衛騎士として戦果を挙げて、着実に名誉や財産を獲得。
そして、アレイシアは……
『競争に勝ち、ライバル商会を買収。年収が二倍に増える』
「またね。これ以上お金ばかりが増えても……」
孤高に仕事を成功させて、お金持ちになっていた。いくつもの屋敷を建てており、複数の商会を所持。
もはや、自分の手番が終わるだけで金貨が何十枚も入るというぶっ壊れ仕様となっている。
「……おい、アルフリート。商人ルートだけおかしいのではないか?」
「いや、そうは言っても隣のマスは破産とかだよ?」
俺もトリーの苦労話などを聞いているので、商売が絶対に儲かるなどという都合のいい現実ばかりではないということを知っている。
だからこそ、盗賊による窃盗や魔物による被害。リサーチ不足による破産、収益の赤字マスも設定しているのだが、アレイシアはそのことごとくを踏まないんだよね。
こういうのを天運とか、持つべき者の宿命と呼ぶのだろうか。
しかし、あまりに順風満帆過ぎる成果に、本人はどこか退屈そう。
「せめて、遊びの中でくらい刺激のある人生をおくりたいわ。結婚とかいいわね」
アレイシアは見事に結婚マスを迂回して進んでしまったので、独身だ。せめて人生ゲームの醍醐味として、疑似的な結婚生活を歩んでみたいと思ったのだろう。
そんなアレイシアの気まぐれな台詞にピクリと反応する男が一人。
「ならば、俺がアレイシア嬢を射止めてみせましょう!」
「あら、本当かしら? でも、エリックの駒は結婚マスまで遠いわよ」
エリックの駒の位置を見れば、結婚マスまでは八マスほど離れている。
ルーレットの最大値である、数字を叩き出さなければならない。確立にして八分の一。
「大丈夫です。俺は八を出してみせますから」
「期待しているわ」
アレイシアが悠然と微笑む中、エリックはルーレットへと手を伸ばす。
「現実では無理でも、遊びの中でくらい結婚してみたいよね」
「うるさい」
俺の言葉にちょっとイラつきながらも、エリックはルーレットを回す。
ここで数字が足りなくても、次の番で頑張ればいいのだが、先程のように宣言した手前一発で結婚マスに行かなければとても情けない。
それにこのゲームは結婚マスを強制ストップにしていないので、次で止まれる可能性も低い。
さて、エリックは八分の一の確率で綺麗に結婚マスに入ることができるのか。
俺達がジッと見守る中、ルーレットに針が当たって減速していく。
ゆっくりと数字が動いていき、五、六……そして――。
「……あら、八ね」
アレイシアが器用に片眉を上げて、感心の声を上げた。
「すごいエリック! ちょうど結婚マスだね!」
「フフッ、これも俺とアレイシア嬢の縁というやつだろう」
澄ました表情をしているがかなり顔がニヤけている。実際はかなり嬉しいのだろうな。
あの宣言をして、きっちりと結婚マスを手繰り寄せた。
これは遊びだし、ただの運によるものであるが、ちょっとだけエリックをカッコいいと思った。
「じゃあ、早くルーレットを回しちゃって」
「そうだな」
ここに残っている異性はアレイシアのみ。ラーちゃんは俺の奥さんになっているので、ルーレット上で結婚できる確率は八分の六。七が回し直しで、八が結婚回避。
まあ、この確率で外すということはないだろう。
エリックも自信満々の表情でルーレットを回す。その表情は笑みに満ちていて、既に疑似的な結婚生活に思いを馳せているようだ。
遊びの中でぐらいは幸せになってもバチは当たらないしな。
どこか微笑ましく思いながらルーレットを見つめていると――
「……また、八だな」
「…………」
ポツリと言葉を漏らすブラムと、言葉を失くしたエリック。
さっきまでの嬉しそうな笑顔とは一転して、この世の終わりのような顔をしている。
八分の一の幸運を掴めるということは、八分の一の強運を掴むことができるというわけか。
「ということは、結婚は無しってことね」
「これもエリックとアレイシアの縁だね」
アレイシアとラーちゃんの無慈悲な言葉が、エリックに突き刺さった。
■
「これで終了かしら?」
「はい、財力もスピードもぶっちぎりの一位です」
最初に駒がゴールしたのはアレイシア。
その次に俺とラーちゃん、エリック、ブラムという感じになっており、財力も同じ順位だ。
アレイシアはゴールできたスピードも一番だけど、何より驚異的なのはその財産だ。
貴族であり、夫婦である俺とラーちゃんが金貨四十枚とかなのに、アレイシアは一人で百枚以上も積み上げている。
商人ルートだけバグってるんじゃないかと思えてしまうほどだ。本当はもうちょっと博打気味なルートなはずなのに。
調整をしようかなという気持ちになるが、これはアレイシアの引き運が異常なだけだしな。
次はメイドとかにやらせてみて、感想や結果でも聞いてみることにしよう。
「……んん、もう終わり?」
どこか舌足らずな口調で尋ねてくるラーちゃん。
すっかりはしゃいでいたために体力が消耗したのか、今ではかなり眠そうだ。
目元を擦りながら俺に寄りかかってウトウトとしている。
「うん、全員がゴールしたからね」
「そっかぁ。楽しかった……」
ラーちゃんはそんな感想を言うと、目を閉じた。
こうして大人しい姿を見ると、さっきまで元気な声を上げて、はしゃぎ回っていたのが嘘のように思えるな。
スースーと寝息を漏らすラーちゃんを、ロレッタが慣れた手つきで抱き上げる。
「夜遅くまでラーナ様の相手をしてくださってありがとうございます」
「こちらこそ一緒に遊べて楽しかったですよ。ちょっとって言ったのに長い間付き合わせてしまって申し訳ありません」
本来ならば、短い時間で過ごせる遊びを一回やって、寝室に戻ってもらう予定であったが、俺の思い付きで長時間を拘束することになってしまった。
明日は収穫祭もあるというのに、申し訳ないことをしてしまった。
「いえ、ラーナ様もすごく楽しんでいらしたので。この遊びを見守っていると、ラーナ様がアルフリート様に懐く理由がわかった気がしました」
ロレッタは微笑みながらそう言うと、深く礼をして退出していった。
ミスフィード家のメイドさんに良い印象を持たれたみたいで何よりである。あそこには俺を敵視しているシェルカがいるので、味方になってくれそうな人ができたのは嬉しいものだ。
長い遊びが終わったからだろうか、どこか弛緩した空気が漂う中、アレイシアは無言で盤面を眺めていた。
「納得いかないわね。これじゃあ、今の人生とさほど変わらないじゃない」
何か囁いているのだが、かなり小声故に上手く聞き取れない。
もしかして、何か不愉快になるような点があったのだろうか。
「どうかしましたか?」
「……いえ、何でもないわ。そろそろ夜も遅いし、私も寝ることにするわ」
恐る恐る尋ねてみると、アレイシアは何でもないと首を横に振って立ち上がった。
今まで部屋の壁で気配を消していたリムも、自然とそれに従う。
アレイシアは部屋を出る前に、こちらに振り返ってブラムと俺を見る。
「いいの?」
アレイシアの言う意味は、さっきから部屋を出るつもりのないブラムのことだ。
ブラムは意地でもここを動かないとばかりに腕を組んで、どっしりと座っている。
多分、俺やアレイシアが何を言おうとも、理由をつけてここに居座り、決闘の約束を取り付けるつもりなのだろうな。
「ええ、自分で何とかします」
「そう、今日はありがとう。とても楽しかったわ。明日の収穫祭も楽しみにしているわね」
俺が頷くとアレイシアはリムと一緒に優雅に去っていった。
そして、エリックが気を利かせて立ち去ろうとする前に、俺は先に口火を切る。
「ブラム様、明日の朝食後に決闘でいかがです?」
俺、自らそう告げるとブラムは驚いたように目を見開き、そして笑みを浮かべた。
「遂に腹を決めたか! 俺は問題ないぞ! むしろ、願ったりだ!」
「悪いけどエリックには審判をお願いできる?」
「……面倒だがマヨネーズの仮もあるし引き受けてやろう」
よかった。下手にエリノラ姉さんやノルド父さんに介入されたら厄介だからな。
味方であるエリックを引き込んでおくに限る。
「今度はすっぽかすなよ? すっぽかしたら追いかけてでもやってもらうからな?」
「わかっています」
「では、明日を楽しみにしているぞアルフリート!」
ブラムは用は済んだとばかりに立ち上がって、部屋を立ち去っていく。
「ハハハ、ようやく屈辱を晴らせる!」
「申し訳ありません。夜も遅いので大声を上げるのは控えてくださると……」
「…………すまん」
夜中にも拘わらずに高笑いをすれば、見回りをしているサーラも注意せざるを得ないよね。
「……いいのか? あんな約束をして?」
「しないとしつこいから」
何せ、人の領地にまで殴り込みをかけてくる奴だからね。ずっとアレイシアとラーちゃんの権力で押さえつけるのも限界がありそうだ。
「まあ、お前から仕掛けるくらいだ。ロクな方法では戦わないのだろうな。俺を審判にしたのもそれが理由だろう?」
「さすがはエリック。わかってるじゃん」




