結婚マス
原作小説8巻発売決定です!
コミック3巻共々、よろしくお願いします!
『商売で大儲け! 金貨十枚を得る』
「あら、またお金が手に入ったわ」
「すごいですね。金貨十枚です」
「ありがとう。偽物のお金とはいえ、こうして資金を積み上げていくのは楽しいわね。私も父上のように自分で商会を作ってみようかしら?」
土魔法でできた金貨を積み上げてご満悦な表情のアレイシア。
人生ゲームに影響されて、さらりとすごいことを言っているが大丈夫だろうか?
リーングランデ公爵家なら、商会の一つや二つ程度簡単に作ってしまうほどの資金力とコネがあるだろうな。
あれから順当にマスを進めた結果、今の俺達の職業はこのような感じになっている。
アレイシア、商人
ラーちゃん、魔法使い
俺、貴族(男爵)
エリック、近衛騎士
ブラム、見習い騎士
幸運なことに大体の人が最初に望んでいた通りの職業になれている。
アレイシアは商人となって順調にお金を稼いでおり、ラーちゃんも魔法の道を極めながら、研究結果を発表したり、魔物を退治したりと順調っぷりを発揮。
俺はといえば、主に領民からの税収でコツコツとお金を貯めている。特に何のしがらみに縛られるでもなく、大きな面倒ごとにも巻き込まれない素晴らしい平和な貴族ライフ。
現実もこのように不労所得でのんびりと頑張っていきたいものだ。
そして、エリックは騎士ルートに入って、順調に戦果を残して駆け上がり近衛騎士にまでなった。最初は財布を忘れたり、不幸なマスに止まって中々進めないでいたが見事な躍進ぶりだ。
そして、この中で唯一満足のいく職につけていない男が一人……
『騎士団に混ざって稽古。筋肉痛で一回休み』
「筋肉痛で休みなどとはふざけているのかお前は!」
「そんなことを言われましても。たまたまブラム様の止まるマスが悪いだけですよ」
こうやって変なマスに止まる度に、俺はブラムに怒られている。
そりゃ、マスの内容は書いたのは俺だから、怒りたくなる気持ちもわかるけどマス運だけはどうしようもない。
「隣のマスで止まれたら、騎士に昇格できていたというのに残念ですね。まあ、見習い騎士らしく泥臭く頑張ってください」
「……ぐぬぬぬ、何故栄えある伯爵家の俺が見習いで、田舎貴族のお前なんぞが近衛騎士の座についているのか」
近衛騎士になれたエリックが少し偉そうに言うと、ブラムは面白いくらいに悔しがっていた。
いいぞ、そのままエリックに煽ってもらって、ブラムのヘイトをそちらに溜めてもらいたい。俺に理不尽な言葉が飛んでこないようにね。
ブラムを煽って満面の笑みを浮かべているとエリックは、そのままルーレットを回す。
出た数字は三マス。エリックは自分の駒を取って悠々とマスを進める。
『近衛騎士団に混ざって稽古。筋肉痛で一回休み』
「筋肉痛で休みなどとはふざけているのか貴様は!」
何故か機嫌が良さそうにしていたエリックにまで怒られてしまう始末。
「ええ? 厳しい稽古の後は大概筋肉痛になるでしょ? そうなると次の日は動けないから一日中家で休むものだよね?」
「たわけ! そんな腑抜けた騎士がいるものか!」
「そうだぞ! 筋肉痛くらいで稽古を休む情けない騎士がいてたまるか!」
俺としては至極当然な理論でマスの内容を書いていたつもりなのだが、騎士を目指しているエリックとブラムから大バッシング。
そ、そんなバカな。全身が痛で苛まれる中、稽古をするだなんて騎士は皆ドMなのだろうか? 理解ができない。
まさか、稽古は毎日やるものとかいうエリノラ姉さんの狂った理論が正しいとでもいうのか?
とはいえ、この人生ゲームではそのマスに書かれた文字が絶対のルール。二人が文句をつけてこようが変更するつもりは毛頭ない。
「何だか騎士の方は楽しそうね。私の方も何か変化が起きてくれると嬉しいのだけれど……」
アレイシアがそう言いながらルーレットを回す。
出た数字は三。
『発明品がヒット! 金貨十五枚を得る』
「…………」
「はい、金貨十五枚になります」
「嬉しいけれど、ただ黙々とお金を積んでもね……」
俺が粛々と土魔法で作った金貨を渡すと、アレイシアはどこかつまらなさそうに金貨を積み上げた。
もはや、この人生ゲームの中で断トツの財力の持ち主である。
これは商人が特別に強い職業かと言われるとそうでもない。
隣のマスだと商売で失敗して赤字になるマスもしっかりあり、割と博打的な要素も含まれている。
しかし、アレイシアはそれを一切踏むことがない。
お金に愛されているということだろうか。
「じゃあ、次は私だね!」
ラーちゃんが元気よく身を乗り出してルーレットを回す。
勢いよく回されたルーレットはよく回り、最大数である八が出た。
「やった、いっぱい進める!」
ぐいーっと駒を進めるラーちゃんを微笑ましく見つめていると、とんでもないマスで止まってしまったことに気付いた。
「うん? 結婚マス? アル、これ何?」
マジか。よりによって、ラーちゃんがそのマスに入ってしまうのか。
「それは結婚マスって言って、異性と強制的に結婚するマスだよ」
「強制的に結婚だと!?」
ラーちゃんではなく、傍で聞いていたエリックが興奮した声を上げる。
誰との結婚を狙っているかは察しがついているから落ち着いてくれ。
「えー! 私、結婚するの!? 誰と!?」
齢四歳にして結婚することになってしまい、驚きを隠せない様子のラーちゃん。
幼くても女の子なだけあってか、結婚には興味津々のようだ。
「もう一回ルーレットを回して、その数字に対応する異性とだね。この場合だと一~二が俺。三~四がブラム様。五~六がエリック。七がもう一度回す。八で結婚回避って感じだね」
「アルがいいから一か二を出すね!」
無邪気な笑顔を浮かべながら即答するラーちゃん。
多分、そこに異性としての好意などは微塵もないだろうが、小さい子に懐かれているのはとても嬉しいことである。
俺も将来はラーちゃんみたいな無邪気で可愛い子がお嫁さんにきてくれたら、きっと楽しく過ごせるだろうな。
そんな風に思いながら回るルーレットを眺めていると、何と一で止まった。
「わーい! アルと結婚だ!」
「ほ、本当だ。結婚することになったね」
俺の腕に抱き着いてきて喜びを露わにするラーちゃん。
前世からの精神年齢を考えると、俺はとっくにアラサーであるが故に四歳の幼女と結婚となると犯罪にしか思えない。
「……幼女と結婚か」
「やめろよ、その言い方!」
隣でボソリと呟いたエリックの声が何故だかクリアに聞こえてしまった。
幼女と結婚するという事態になって、過敏になってしまっている。
「アル、私と結婚して嬉しくないの?」
俺の左腕を掴みながらどこか不安そうにこちらを見上げてくるラーちゃん。
その大きくて可愛らしい瞳には、どこか雫がたまっており今にも泣き出してしまいそうだ。
「そんなことないよ! ラーちゃんと結婚できて嬉しいよ!」
「よかった! えへへ!」
俺がハッキリと喜びを露わにすると、ラーちゃんは嬉しそうに笑った。
そんな姿をメイドであるロレッタさんが複雑そうにこちらを見ている。
大丈夫、これは人生ゲームであり、遊びなんだ。
だから、何もやましいことはない。俺は自分にそう言い聞かせた。




