アレイシアの絶望
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「ひとまず、広い部屋に移動しましょうか」
ラーちゃんだけでなくアレイシアまでやってきて遊ぶことになったので、ひとまず広い部屋への移動を提案した。
俺の部屋だって小さなものではないが、それでも公爵令嬢が過ごすにしては狭く感じてしまうだろうから
な。それにそっちの方が互いの精神的にも平和だろう。
「いいえ、ここでいいわ」
そんな気遣いもあっての提案であったのだが、何故かアレイシアに却下された。
「気を遣わなくて大丈夫ですよ。皆で遊ぶのであれば、広めの部屋の方が過ごしやすいでしょうし」
「気を遣ってなんていないわよ? 私は広さなんて気にしないし」
「いや、でも女性が夜に男性の部屋を訪れるというのは……」
「私は気にしないし、アルには迷惑をかけないようにするわ。下世話な噂を立てる人がいたら私が潰すから」
綺麗な笑みを浮かべながら穏やかではない台詞を口にするアレイシア。
リーングランデ家は攻撃してくる敵には容赦がない。ノルド父さんからそう聞いたからこそ、その言葉が冗談なんかではないというのがわかる。
一体、どうして俺の部屋に入ることに拘るのか。
ひょっとしてアレイシアって、エルナ母さんみたいに実は面倒くさがりなのだろうか。
「私もここがいい! アルの部屋って色々置いてあって楽しいから!」
「まあ、二人がいいっていうならここで」
アレイシアだけでなく、ちゃんと後ろにはメイドであるリムが影のように付き従っているし、ロレッタもいる。これだけの人数と監視の目もあれば、お茶会みたいなものとしてカウントされるだろう。
「それじゃあ、お邪魔するわね」
扉を開けて招き入れると、アレイシアとリムが入ってくる。
すると、アレイシアは部屋に入るなり玩具が並んでいるテーブルや棚の方へ移動。
「本当に色々な物が置いてあるわね。こっちはリバーシでこっちは将棋、それにこれは最近ラザレス商会で発売されたコマ。どれもアルが考えたものよね?」
「ええ、まあ」
大衆的にはスロウレット家が考案したということで通しているのだが、アレイシアは俺が考案したと知っているかのような口ぶりだった。
まあ、リバーシなんかは四歳ころに考えたからか、ノルド父さんが自慢するように喋っていたしな。それに俺も親しい何人かには、作ったことを喋っていたし。
徹底して隠しているわけでもないので当然か。
ラザレス商会についても、エルナ母さんの実家なので調べれば繋がりもすぐにわかる。
「ええ! そうだったの!? アル、すごい!」
「てっきり、シルヴィオ様かノルド様が考案したものかと……」
案の定、ラーちゃんとロレッタは知らなかったようだ。
スロウレット家がリバーシを考案した。そう言えば、ノルド父さんやシルヴィオ兄さんが作ったって勝手に誤解してくれるからな。
「あら? こっちには見慣れない物があるのだけど? 持ち手から糸が伸びて、玉がついているわ」
「ああ、それはけん玉ですね」
大量に商会に売りつけるとノルド父さんの仕事量が増えて、俺まで手伝うためになりかねないので売ることはしていないが、自分が遊ぶために玩具を作ったりはしている。
けん玉もその一つだ。
「けん玉? これはどうやって遊ぶの?」
全員で遊べるものを模索していたが、ここで説明をしないわけにもいかないな。
「簡単に言うと、玉を突起物にはめたり、皿に乗せたりする遊びですね。こんな風に」
そう言って、俺はアレイシアからけん玉を借り。ぶら下がった玉を振り子のように振って、けん先にはめた。よかった、一発で成功して。
「ええ? こんな小さな穴によく入るわね」
けん先に収まった玉を見て、驚くアレイシア。
その表情はいつものような愛想笑いではなく、どこか純粋さのある無邪気な表情だ。
「ちょっとやってみます?」
「ええ、こう見えても、こういう遊びには自信があるのよ」
俺が手渡すと、アレイシアは自信げな笑みを浮かべて、俺と同じようにけん玉を振るう。
振り子のように揺れた赤い玉は、空中で優雅な曲線を描いてけん先にハマる――ことはなく、持ち手に当たって弾かれた。
さっきまで自信満々そうであっただけに、どう言葉をかけていいのかわからない。
「……あ、あら? 意外と難しいのね」
「穴も小さいですし、けん先も細いですからね。ここにハメるのは結構難しいです。俺も何回も練習して安定的にできるようになりましたから」
「そうよね。でも、だからこそ面白いわ。もう一回!」
俺がフォローするとアレイシアがもう一度玉を振る。しかし、先程と同じように持ち手に当たって弾かれ
る。
それでも挫けずに続けるも、けん先に当たりはしたが穴にハマらなかった。
「……中々に難しいわね」
なんかちょっと意外だ。アレイシアって何でもそつなくこなすイメージがあったのだが、結構けん玉に苦戦している。まあ、けん玉は一人遊びでも難しい部類だし、そんなすぐにできるようなものでもないしな。
「こういうのは感覚ですからね。一度ハマって感覚さえわかればできるようになりますよ」
「私もやってみたい!」
アレイシアをフォローしていると、ジッと見ていたラーちゃんが手を挙げる。
「ええ、いいわ。結構難しいわよ?」
「大丈夫! 見てたからできるもん!」
アレイシアがにこやかに笑いながら手渡すと、ラーちゃんもこれまた自信げに言う。
そんなこと言ってると、できなかった時に恥ずかしくなるよー。またフォローの言葉を考えておかないとな。
などと思いながらぼんやりと眺めていると、ラーちゃんは器用に振って、けん先に玉をハメてみせた。
「できた!」
「え」
ラーちゃんが嬉しそうにこちらを振り向き、隣で何度もやってもできなかったアレイシアが固まった。
「できたよ、アル! エリック!」
褒めて褒めてと言わんばかりに、こちらに寄ってけん先にハマった玉を見せつけるラーちゃん。
多分、隣でずっとできなかったアレイシアに対する嫌がらせではないと思う。純粋にできたことを褒めて欲しいだけなのだろう。
ここで気を遣うのもアレなので、俺は思い切ってラーちゃんを褒めることにした。
「すごいね、ラーちゃん。一発でできちゃうなんて」
「お、おお。やるな、ラーナ嬢」
「えへへ、そうでしょ。もう一回やるね!」
「えー、さすがに次は失敗するんじゃない?」
「しないよ! 何となくわかったから!」
一回成功させただけで、そんなすぐにわかるものなのだろうか。
まあ、子供故の強がりであろうと思っていたが、ラーちゃんはまたもやけん先にハメることを成功した。さらに続けて、玉を振ってダメ押しとばかりにもう一度やって成功。
「ほらね! アレイシアも見た?」
目の前で何度も成功を見せつけられて、アレイシアの頬が少しだけヒクついた。
しかし、彼女はすぐにそれを隠すと、綺麗な笑みを浮かべる。
「え、ええ、見たわ。すごいわね。もう一度私に貸してくれる?」
「うん!」
どうやら自分よりも年下であるラーちゃんができて、自分はまったくできないのが気にくわないようだ。
アレイシアって、結構負けず嫌いなのだろうか。
ラーちゃんからけん玉を受け取ったアレイシアは、意を決した表情でもう一度振るう。
しかし、宙を舞い上がる赤い玉はけん先にハマることなく、虚しく音を立てて弾いた。
「そんな……あり得ないわ」
目の前の事実が受け入れ難いのか、アレイシアは信じられないというような表情をする。
「ちょっとエリックやってみて」
「は、はぁ……」
アレイシアからけん玉を受け取ったエリックは、戸惑いながらもけん玉を振るう。
すると、けん先にハマらず、持ち手に当たって弾かれた。
それを見たアレイシアは安心したような表情を浮かべる。
「そ、そうよね。すぐにできたラーちゃんがおかしいだけで――」
「お、できた」
などと言っていたアレイシアの目の前で、エリックが二回目にしたあっさりと成功させた。
これにはアレイシアも口を半開きにして、愕然としていた。
「わー、エリックもできたね!」
「お、おう。きっちりとハマると意外と気持ちがいいな」
「そうだね!」
エリックに空気を読めと言ってやりたかったが、本人もできたのが嘘のように驚いている。
恐らく悪気はないのだろう。だからこそ、質が悪いと思うけど。
「も、もう一回。もう一回よ」
アレイシアがエリックから返してもらって、もう一度けん玉を振るう。
さっきよりも力強く、勢いよく振られた玉は空に見事に軌跡を描いて――アレイシアのおでこに激突した。
「~~ッ!!」
痛みと衝撃でけん玉を落として悶絶するアレイシア。
これには俺とエリックもどうフォローしてもいいかわからない。笑えばいいのか、慰めればいいのか。
そんな中、ラーちゃんがアレイシアに近付いて屈託のない笑顔を浮かべた。
「アレイシアって不器用だね!」




