ちょっと遊んでから
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夕食後、エリックがルーナさんから話を聞いたのか、木刀を見たいと言い出したので俺の部屋に入れてあげた。
「ほう、確かに剣とは全く違う形をしているな。片刃しかない」
興味深く木刀を眺めて呟くエリック。
俺はもう見飽きたので一緒に眺めるなんてことはしない。
「アルフリート、実際に刃がついているのはどんな感じだった?」
「……そういや、鞘をぶら下げているのは見たことがあっても刀身は見たことがないや」
エリックに尋ねられて俺も今気付いた事実だ。俺はカグラに行きながらも刀を一度も目にはしてない。
「異国に行っておきながら見たこともないのか!?」
「いや、だって刀を出すシーンって、危ない場面じゃん? 危ない場面を忌避する俺が目にする機会なんて早々ないよ」
抜く場面とか気にはなるけど、そのような事が起こり得ること自体が既に危ないのだ。
「では、鍛冶場や武器屋にでも行けばよかったではないか」
「……それは盲点だったよ」
武器を必要としていなかったので武器屋に行くという発想自体がなかった。
そもそも俺は戦わないし、もしもの時も武器を振り回すよりも魔法を使う方が断然やりやすいからな。
「まあ、今度行った時に覗いてみるよ」
今度転移で行った時は、暇つぶしに武器屋鑑賞をしてみるか。前世であった武器の展示会みたいな感じでいけば楽しめるかもしれないし。
「では、土産に刀を頼む」
「絶対高いから嫌だ」
前世でも刀は猛烈な値段がついていた。カグラでは主流な武器ではあるが、とても高いものに決まっている。気軽にお土産と称して渡せるようなものでもない。
トールの時のように刀を持っているゴブリンでも倒したら考えてやらなくもないけどね。
刀の会話が途切れるとエリックは十分に鑑賞したのか、礼を言って木刀を返す。
そして、木刀を壁にかけていると部屋の扉がノックされた。
ん? 誰だろう?
少し戸惑いつつも扉を開いてみると、そこにはラーちゃんがいた。
「アル、遊びにきたよ!」
満面の笑みを浮かべながら告げるラーちゃん。しかし、そこにはメイドであるロレッタがいない。
「あれ? ロレッタは?」
「さぁ?」
あ、これ、監視の目をかいくぐって遊びにきたパターンだな。
「おじゃましまーす!」
どうするべきか考えていると、ラーちゃんは脇を通って勝手に部屋に入ってしまった。
「ああ、エリックもいる!」
「お、おお」
突然入ってきたラーちゃんにエリックは戸惑い気味。
「あ、リバーシだ!」
ラーちゃんはそんなエリックにお構いなしで、部屋にある玩具を眺め始めた。
「……なあ、エリック。子供とはいえ、夜に女性が男性の部屋を訪れるのはいいものだっけ?」
ふと疑問に思ったことを尋ねると、エリックは腕を組んで難しそうな顔をする。
「大人であれば間違いなくアウトだが、ラーナ嬢はまだ道理の知らない子供。しかし、公爵令嬢という身分もあるし……」
「ええ、どっちなの?」
貴族のルールといったものの基本は押さえているが、このように部屋に女性が来る場合の時なんて知らない。
「俺も詳しくはないが多分アウト寄りだと思う。年齢が近く、そういうことが一切ない関係でも線引きはしておくべきだ」
「だよね」
「じゃあ、俺は寝室に戻る」
「ああ、お休み――って言うわけないだろうが! お前が部屋から出て行ったら完全にアウトかもしれないじゃないか!」
さり気なく部屋から退出しようとするエリックの腕を瞬時に掴む。
「くっ、離せ! またもや俺を面倒事に巻き込むつもりか! 俺はこれ以上、シェルカ嬢に恨まれるようなことは増やしたくない!」
「俺だってそうだよ。だから、この状況を穏便に解決する方法を探そう」
「……俺に協力するメリットがない」
「お前は既にこの部屋でラーちゃんと会って会話をしている。それだけで意味は通じるな?」
そう、お前は既にこの部屋の中でラーちゃんに目撃されて、会話までしている。
いざとなったら俺はエリックもいたと言い張り、また正直なラーちゃんはエリックもいたと供述してくれるだろう。
というか、ここで逃げるようであれば、何かあった時はエリックに罪を着せるつもりでもいる。
「外道め!」
「この状況で出て行こうとするお前に言われたくない!」
ひとまず、エリックは出て行くことを諦めたのかカーペットの上に腰を下ろした。
奴が逃げないように念を入れて鍵をかけたいことであるが、ラーちゃんを招いておきながら鍵を閉めるというのは致命的にアウトな気がしたのでやめておいた。
「ひとまず、ここは説得がいいだろう」
「そうだね。ここは頼りになる年上らしく優しく諭して戻ってもらえればいい」
まったく、俺は何を焦っていたというのだろうか。
俺は柔らかい笑みを浮かべながら、ラーちゃんに声をかける。
「ラーちゃん、そろそろ寝る時間なんじゃない?」
「お昼寝したから眠くなーい」
ああ、そうだった。ラーちゃんは散歩から帰ってきて夕食までガッツリ昼寝をしていたな。
というか、間延びした眠くなーいという声音が可愛い。聞いているこっちまでのんびりとした気持ちにさせてくれるな。
「そっか、眠くないかー」
「……気持ち悪い言い方をするな。説得はそれで終わりなのか? 年上らしい姿はどこにいった?」
「うるさいな。そんなこと言うなら、次はエリックがやってみろよ」
小動物のように動き回る可愛いラーちゃんを前にしたら、出ていけだなんてとても言えない。
俺は文句を言うエリックの背中を押して交代する。
「コホン。ラーナ嬢、いくら親しき仲といえど、このような夜更けに男の部屋に入るのは如何なものかと思うぞ?」
「どうして夜に男の子の部屋に入ったらダメなの?」
「…………」
エリックの説得が発動!
ラーちゃんは純粋な疑問を発した!
エリックは何も答えることができない!
「なんで?」
しかし、それでも物事がよくわかっていないラーちゃんは、純粋な疑問をぶつけてくる。
男女の関係を噂されたりするから。じゃあ、男女の関係って何?
などと言われたらチェックメイトだ。俺たちは彼女の純粋な心を汚すようなことはできない。それこそシェルカに殺されてしまう。
「よくよく考えれば何故だろうな?」
そして、問いかけられたエリックは惚けた。
「あー、エリック! 惚けた! パパが誤魔化す時と同じ顔!」
「そんなことはない。ほら、リバーシで遊ぼうではないか」
「えー、いいけど」
あからさまな話の逸らしだと気付いていながら、素直にリバーシの前に座るラーちゃん。
どうやらリバーシがやりたかったようだ。
というか、こいつ全然説得できてないじゃん。
俺が失敗した時は文句を言っていた癖に、自分から遊ぼうなどと誘ってしまっている。
これでは、もはやラーちゃんを穏便に返すのは無理だ。
とりあえず、少し遊んでから寝室に戻ってもらおう。
「あの、すいません。もしかしてこちらにラーナお嬢様がいたり――」
そう思って扉を閉めようとすると、ちょうどラーちゃんを探しにきたロレッタが顔を出した。
「いや、これは俺たちが連れ込んだわけじゃなくて」
「わかっていますよ。アルフリート様とエリック様がそんなことをする人ではないとご存知ですから。ラーナ様が退屈そうにしていたので、ここに遊びにきていると思っていました」
ロレッタの理解の良さと寛容さにホッとする、俺とエリック。
なんだ最初から恐れずにロレッタを呼んでおけばよかった。そうすれば、こんなにヒヤヒヤする必要もなかったな。
「ラーナ様、こんな時間に部屋に押し入っては相手に迷惑ですよ。寝室に戻りましょう」
「アル、迷惑なの?」
うるっとした瞳でこちらを見上げてくるラーちゃん。
そんな言い方をされたら断れるわけがない。
「迷惑じゃないよ」
「なら、ここにいてもいい?」
「いいけど、ちょっと遊んだらね」
「うん、わかった! ロレッタ、ちょっと遊んでから!」
「……わかりました。ちょっとだけですよ」
ロレッタに視線を送ると目礼をされた。
甘いかもしれないがこれくらいが落としどころであろう。
「どうせなら皆で遊べるものにしよう!」
「そうだな。リバーシは二人ずつだしな。全員で遊べるものがいい」
「んー、三人だと何がいいかなー」
「――いいえ、四人よ」
などと悩んでいると、またしても声が増えた。
扉の方を見ると、そこにはアレイシアが立っていた。
「何だかとても楽しそうな声が聞こえたから来たわ。私も混ぜてくれるかしら?」
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