貴族の晩餐
本日『邪神の異世界召喚』3巻が発売いたします!
書店などで見かけましたら、是非お手にとってみてください!
太陽が沈む頃。部屋のベッドで寝ころんでいると、扉がノックされた。
返事をすると、サーラが中に入ってくる。
「アルフリート様、夕食のお時間なのでダイニングルームの方へ。今回はノルド様の厳命です」
「わかってるよ。さすがに公爵家や伯爵家と一緒に食事をするっていうのに、二度寝をして遅れるようなことはしないって」
「そうですか。では、今行きましょう」
扉を全開にして俺に部屋から出るように促すサーラ。
何だかちっとも信用されている気がしない。そりゃ、サーラが出てちょっとしてから向かえばいいなんて思っていたけど釈然としないな。
どうやらサーラは俺が出るまで移動するつもりないようなので、仕方なく俺はベッドから起き上がる。
そして、部屋を出るとサーラが扉を閉めて、俺の後ろにピッタリと付いてきた。
信用がなさすぎる。
「……別に見張らなくてもちゃんと向かうよ」
「私もダイニングに向かう用事がありますので……」
などと言っているが、多分これもノルド父さんの厳命とやらだろうな。
まあ、それだけ失礼がないようにしたいのだろう。
どこか複雑な気持ちになりながら歩いて一階へ。
ダイニングルームに入ると、既にに家族全員が座っており、ノルド父さんとエルナ母さんが少しホッとした表情を見せた。
「心配し過ぎだよ。こんな状況で遅れるようなことはしないって」
「まあ、さすがにそうだよね」
「ですが、私が外に促すまで、まったくベッドから下りる気配がありませんでした。多分ちょっとゆっくりしてから下りるつもりだったかと思います」
「なんでわかっ――そ、そんなことはないよ」
にこやかにしていたノルド父さんの瞳が、じっとりとしたものに変わった。
サーラがあまりにも俺の考えを読み当てたものだから、ちょっとばかり驚きの言葉が漏れてしまった。
突き刺さる視線を敢えて無視して、俺は適当に下座に座る。
「ああ、アルは奥から二番目の席だよ」
「ええ、何でそんなところに?」
俺は下座に限りなく近い場所に座るのが正しいはず。
「アレイシア様とラーナ様を一番楽しませられるのはアルだからね。だから、隣にはエリック君も座る予定だよ」
確かにこの長大なテーブルに家格で並ばせると、ラーちゃん、ブラムや大人に囲まれるちょっと可哀想な位置取りになる。そうならないためのノルド父さんの配慮であろう。
俺はノルド父さんに言われるままに奥の席に座る。
マジか。ほぼ目の前でアレイシアが座って食べるのか。公爵令嬢の前で不作法なことは絶対にできないぞ。
何だか前世でやった接待を思い出すな。
まあ、全員が揃って食べるのは初日や翌日の朝くらい。それを過ぎると収穫祭がはじまったり、各々が部屋に運んでもらって食べたりと自由になる。
たった二回だと思って乗り越えよう。
ノルド父さんやエリノラ姉さんが下座の方にいるのが、いつもとかなり違ってちょっと新鮮だな。
そんなことを思いながらボーっとしていると、ミーナが扉を開けてシルフォード家の面子が入ってくる。
ノルド父さんやエルナ母さんが応対をして、それぞれを席へ。
エーガルさん、ナターシャさんが俺の左に座って、エリックが俺と同じような反応をしながら右側に座った。
「お前が隣か……」
「接待するためにね」
「にしても、この位置は……もしかしてアレイシア嬢が目の前にくるのでは?」
「そうなるね」
「おお!」
好きな女性が目の前にくると聞いて喜びを隠せないエリック。
わかりやすいくらいに浮かれるエリックに、俺は水を差してやる。
「でも、目の前ってことは厳しくテーブルマナーをチェックされるよ」
「なっ!? あ、姉上、席を変わってはくれないか?」
喜びよりも不作法による失態を恐れたのだろう。エリックが身を乗り出して情けないことを言う。
「……ダメ」
即答するルーナさんの言葉を聞いて、エリックは絶望の表情を浮かべた。
「テーブルマナーを見直すいい機会だな。頑張れ、エリック」
「……はい」
エーガルさんに笑顔と共にそう言われ、エリックは力なく返事した。
最初の時の浮かれようとは大違いだな。ちょっと罪悪感があるが、後で気付いて慌てられるよりもいいだろう。
不安がるエリックとテーブルマナーんの確認をしていると、次にブラムが執事を伴って入ってくる。
ノルド父さんに促されて席に座ると、ブラムは偉そうに腕を組んで俺を睨みつける。
「……お前、めっちゃ見られてるな」
「いい迷惑だよ」
敵意のある視線をヒシヒシと感じる。
今日はアレイシアの忠告があるから、大人しくしているだろうが明日の朝になれば一番にでも決闘を仕掛けてくるだろうな。
ああ、明日になったら収穫祭だからそういう物騒なことは無しにしましょう? とかアレイシアが提案してくれないだろうか。
でも、それはそれでアレイシアに借りを作ることになりそうだし怖い。
猛獣から視線を逸らしていると、扉が開いてアレイシア、リム、ラーちゃん、ロレッタさんが入ってくる。
アレイシアとラーちゃんはノルド父さんに促されると、上座である俺達の前にやってくる。
リムに椅子を引いてもらうと、優雅に腰かけるアレイシア。
さすがは公爵令嬢だけあってか所作は美しい。ドカッと座り込んで肘をついてしまうエリノラ姉さんに見習ってほしいな。
今は人前だからかお淑やかにはしているが。
続いてロレッタさんが椅子を引くと、段差と足置きを設置する。
ラーちゃんからするとテーブルは少し高いからな。しかし、そんな段差があってもラーちゃんはスカートが広がらないように綺麗に座った。
四歳児であっても公爵令嬢。こういうところの教育はしっかりされているようだ。
思わずよくできたね~、なんて孫を可愛がるような台詞が出かけたが、さすがに失礼だと思ったので堪えた。
ラーちゃんは席に座るなり、満面の笑みを浮かべる。
「どうしたの?」
「えへへ、アルとエリックと晩ご飯を食べられるのが嬉しい!」
楽しそうにしている理由を尋ねると、ラーちゃんは無邪気に答えた。
何この生き物、ちょっと可愛すぎるんじゃないだろうか。
「そうだね。俺も嬉しいよ」
そう答えると、ラーちゃんは嬉しそうに笑い、続いてエリックに顔を向けた。
俺が肘を入れてやると、腕を組んで黙っていたエリックが口を開く。
「……うむ、俺もだ」
「えへへ」
すると、にへらっと笑うラーちゃん。
「あら、私の名前が入っていないようだけど?」
「勿論、アレイシアも一緒で嬉しい!」
「そう、私も嬉しいわ」
隣にいるアレイシアまでも孫と会話をする感じになっている。
いつもの綺麗な笑みに比べると、随分と柔らかくて人間味があるように思えるな。
ラーちゃんは天然の人タラシだ。
「これで全員、揃ったね。サーラ、料理を運んできてくれ」
「かしこまりました」
ノルド父さんの言葉に一礼すると、サーラが扉を開く。
すると、ワゴンを手にして待機していたメイドがダイニングルームへと入ってくる。
その中にはうちのメイドであるミーナやメルは勿論のこと、エリックやアレイシアが連れてきた執事やメイドなどもいた。
ワゴンを押したメイドが丁寧な所作で食器類を置いていく。
その手つきだけでミーナではないというのがすぐにわかった。多分、アレイシアの家のメイドだろう。
すごく綺麗な顔立ちをしていて仕事ができるオーラが漂っている。多分、商人の娘かどこかの貴族の娘さんだろう。
教養などを積ませるために貴族家で奉公をさせる家もあると聞いたことがある。
こんなメイドに仕えてもらったら、男性ならば幸せと感じるかもしれないが俺は逆だな。
こんな優秀そうなメイドに仕えられたら、生活が窮屈に感じる。
うちがメイドを増員するなら、コリアット村から募集するのが一番だな。
テーブルの上に大皿のスパゲッティが置かれていく。秋のキノコとベーコンの和風スパゲッティ、ナポリタン、キノコのクリームスパゲッティ、ペペロンチーノと四種類。
今はキノコが旬の季節なので、具材にはキノコが多め。
今回は人数が十二人と多いので、そのボリュームもすごいことになっているな。
「あら、王都の店でも見たことのないスパゲッティがあるわね」
意外なことにアレイシアが興味津々になっている。
「スパゲッティは結構好きなんですか?」
「ええ、色々な味が楽しめる上に美味しいもの。女性の中で一番流行っている料理といっても過言じゃないわ」
確かに王都でもチラホラとスパゲッティのイラストが書かれている店を目にしたけど、そこまでの賑わいは思わなかったな。
「私も食べたよー! ミートスパゲッティが好きー!」
「おー、そっかー。ミートスパゲッティは出してないけど、赤色をしたナポリタンもオススメだよー」
「本当? じゃあ、ナポリタン食べる!」
ミートスパゲッティの味を好むのであれば、ナポリタンも好きになってくれるはずだ。
スパゲッティが並び終わると、今度は季節のサラダ、茹で野菜、カボチャスープ、カブの鶏そぼろあんかけ、キノコのマリネ、パン、グラタン、ローストビーフ、チーズハンバーグ、そして、ちょこっとエリンギ
のピリ辛和えと、ささみのマヨネーズ和えなどが置かれる。
やはり、今日はもてなす相手だけにメニューも豪華で多めになっているな。まあ、少ないと思われるよりも、色々置いた方が歓迎されていることは伝わるしな。
スープなどの個人で置かれている料理はあるが、そのほとんどは大皿に乗せられている。俺たちはそこから自分達の皿に好きに乗せていく、バイキング形式だ。
本当は少しずつ料理を出していくコースにしようかとも考えたが、アレイシアの色々なものを食べたいとの希望もあってこのような形になった。
俺としても堅苦しくコースを食べるよりも、こっちの方が慣れているし好きなのでありがたいことだ。
「うむ、ちゃんとマヨネーズも置かれているな」
傍に置かれたマヨネーズ皿を確認して、満足そうに頷くエリック。
「ちなみに目の前にあるのがマヨネーズ料理だからな」
「マヨネーズ料理!? そんなものがあったというのか!」
マヨネーズ料理を指さしてやると、エリックが予想以上の反応を見せる。
その興奮っぷりがちょっと怖い。
どうやら自分の家でもマヨネーズをつけたりすることはあっても、混ぜて料理にすることはなかったようだ。だとしたら、それらの料理はエリックにとっての新しい衝撃になるだろうな。
テーブルの上の料理が揃うと、ラルゴさんやブラム家の執事が回って、赤ワインなどを注いでいく。お酒を呑む者はワインなどを、呑めない者は果実ジュースなど。
当然、俺とエリックとラーちゃんは果実ジュースだ。俺としては赤ワインの一つでも洒落込みたいところであるが、こればかりはどうしようもないな。
エリノラ姉さんやルーナさん、ブラム、アレイシアなどは赤ワインを注いでもらっていた。
エリノラ姉さん、赤ワインなんて渋いだけで美味しくないとか言ってたのにカッコつけたな。
食事の準備が整うと、いつも通りに主催者であるノルド父さんが歓迎の言葉を述べる。
「それでは、アレイシア様。乾杯をお願いできますか?」
「ええ」
いつもよりも格式ばった長い挨拶が終わると、ノルド父さんは華であるアレイシアに音頭をパス。
アレイシアは動じることなく、堂々としながら涼やかな声で告げた。
「それでは乾杯」
「「乾杯」」
書籍発売日の25日も更新します。
7巻ではWEBでは登場していない、ゲイツの嫁なども新登場し、書き下ろしも二万文字程度あるのでオススメですよ!
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