トラウマ回避
HJノベルスより4月23日に『邪神の異世界召喚』3巻が発売いたします! よろしくお願いいたします。
「バルトロ、ちょっといい?」
「わかったわかった。嬢ちゃん達のおつまみだな」
エリックのためにマヨネーズ料理を追加してもらおうとバルトロを尋ねると、いきなり料理を突き出された。
「え?」
「カブの鶏そぼろあんかけだ」
いや、そんなものは見ればわかる。
俺の目の前には汁が染み込んだ大きなカブがあり、とろみのあるタレと鶏そぼろが食欲をそそる。カブだけでなくしっかりと煮込まれたカブの葉も彩りがあってとても美味しそうだ。
「嬢ちゃん達のおつまみって、エリノラ姉さんのこと? 別に俺は何も言われてないんだけど?」
「ん? そうなのか? さっき嬢ちゃんが腹減ったから飯をくれって言って渡したから、そのお代わりかと思ったぜ」
次にやってきたのは俺なのに、何の疑問も抱かずにパシらされてるって考えるのがおかしい。いや、普段こき使われている様子を見れば、そう考えてしまうのは仕方がないのだろうか。
というか、お菓子じゃなく、おかずを要求するなんて……ああ、でもクッキーや揚げパンなどを食べるよりもこっちの方が健康にいいし、ヘルシーか。
「じゃあ、それはこっちに置いておいてくれ」
「いや、これは俺が食べるからいいよ」
「……そうかよ」
バルトロが料理を下げようとしたので、俺はひょいと持ち上げて自分の物アピール。
こんな美味しそうなものが目の前にあるんだ。ここで黙って見送るほど俺はバカではない。
ちょうど散歩から帰ってお腹が空いていたからな。
「ところで坊主、嬢ちゃんのパシりじゃなかったら何の用なんだ?」
「エリックがマヨネーズ好きだから、マヨネーズを使った料理を二品くらい出して欲しいんだ」
「ああ、坊主がマヨネーズを食わしたらハマったっていう少年か……だったら、エリンギのピリ辛マヨネーズ和えとチキンのマヨネーズ和えでいいか?」
「うん、そういうので十分だと思う」
既にこの日のためにメニューは決められていると聞いている。そこに割り込ませてもらうので、追加してくれるだけでもありがたい。
「それにしても、今日の料理は豪勢だね」
厨房の上には、今日の夕食で出すであろう食材が既にいくつか並べられている。
先程のカブの鶏そぼろあんかけの他にも、里芋の煮っころがし、スパゲッティなど肉料理、スープ料理など。
今日は人数が多いだけあって、厨房のテーブルの上がフルに使われていた。
「さすがに俺も、公爵なんてお偉い貴族に料理を作るのは初めてだからな。ちょっと緊張するぜ」
「不機嫌そうに料理人を呼んできてちょうだいとかアレイシアに言われたら怖いよね。あとラーちゃんにハッキリとマズいと言われるとか」
「や、やめろよな!」
俺が最悪の展開を言ってみると、バルトロが心臓を押さえながらビビる。
アレイシアの叱責はまだしも、純粋な子供であるラーちゃんにマズいと言われると一番胸に刺さるよな。
料理人にとっての悪夢だと思う。
「まあ、バルトロの料理ならそんなことは起きないけどね」
俺はバルトロの目の前で、先程のカブの鶏そぼろあんかけを食べる。
うん、とろみのあるタレがしっかりとカブに染み込んでいてとても美味しい。カブ本来の甘みがしっかりと引き立てられるようにできている。
「だって、こんなにも美味しいし」
ただのカブの鶏そぼろあんかけを作るのは誰でもできるけど、この味を最大限に引き出せるのはバルトロだけだと俺は思う。
「……坊主」
どこか感激した瞳を向けてくるバルトロ。
ふっ、少しは俺も貴族の次男として格を見せつけることができたんじゃないだろうか。
さすがにシルヴィオ兄さんほど真っ直ぐな台詞を言う事はできないけど。
「まっ、そんなことは俺が一番わかってるけどな! 王都の料理に比べて華やかさはねえけど、味は自信があるからな!」
「あっそう」
ガハハと笑って断言するバルトロ。
俺の励ましの気持ちを返してほしい。真剣に褒めたのがバカみたいだ。
そのまま背を向けて厨房を出ようとすると、俺はテーブルの上にどこかで見たことのある肉を目にする。
「ちょっと待ってバルトロ。この肉ってもしかして……」
「んん? 坊主も食べたことがあるだろ? ウサギの肉だぜ」
「ま、まさかピョン吉じゃないよね!?」
「ピョン吉ってどいつだ?」
「小川の傍にいる平原のウサギ!」
「ああ、安心しろって。あの辺のウサギは、坊主の他にも何人かの村人が可愛がってるから狩人も狩ったりしねえよ」
笑いながら言うバルトロの台詞に俺はホッとする。
「ならよかった。けど、夕食にウサギの肉を出すのはやめたほうがいいと思う」
「どうしてだ?」
不思議そうにするバルトロに、俺はさっきまで散歩をしていて外でウサギを可愛がっていたことを告げる。
すると、さすがのバルトロもタイミングの悪さに苦笑いをしていた。
「あー、そうだな。じゃあ、別の肉にしておくか……」
さっきまでウサギと戯れていたのに、夕食にはその肉が出てくる。何のホラーだろうか。
俺達はまだしも、特に可愛がっており名前までつけたラーちゃんにそんな仕打ちは可哀想過ぎるからな。
こうして俺は偶然にも、夕食で起こる悲劇を回避することができたのであった。
◆
用を済ました俺は、そのまま自分の部屋に籠りたいところであるが、このまま呑気に過ごしていてはブラムに平穏を壊されてしまいそうだ。
アレイシアの公爵パワーで今日の平穏は約束されたが、明日はどうなるかわからない。
というかブラムについては、エリノラ姉さんが相手をしてくれる話だったはず。
それなのに、どうしてか俺に絡んでくる。
「これはちょっとエリノラ姉さんに文句を言わないと……」
エリノラ姉さんを相手にするのは面倒くさいが、ブラムに絡まれる方がもっと面倒だ。
いざとなればエルナ母さんも味方になってくれるだろうし、エリノラ姉さんに文句を言ってやらないと。
そんな訳でエリノラ姉さんを探して歩くと、あっさりとリビングで見つかった。
「これは薄くしなって片刃だから、あたしたちの知ってる剣みたいに押し斬るんじゃなくて、引き斬るんじゃない?」
「……切れ味はありそうだけど、薄くてすぐに折れそう。こんなので斬り合える?」
「うーん、実物を見てないからそこら辺はわからないけど、剣みたいにあまりぶつけ合うものではないのかもしれないわね」
何をしているかと思えば、俺がカグラの土産で買ってきた木刀を見て考察しているようだ。
年頃の女子が二人いるのに武器の話とは華やかさがないな。
「あ、アル。ちょうどいいところにいたわ。これって刃のついた奴はないの?」
「あるわけないじゃん。危なっかしい」
そうやって、エリノラ姉さんが興味を示して使おうとするのが一番怖いのだ。
「木刀は買うのに刀は買わないって変なことするわね」
使えないとばかりにため息を吐くエリノラ姉さん。
「というか、刀なんていらないんじゃなかったの?」
「使いはしないけど、見て考えるのは好きなのよ」
ルーナさんもそれは同じなのか、木刀を食い入るように見ていた。
エリノラ姉さんの友人だけあって同類のようだ。
「あっ、いいもの持ってるわね。ちょっと一口寄越しなさいよ」
などと考えていると、エリノラ姉さんがカブの鶏そぼろあんかけに目をつけた。
当然のように手を伸ばすので、俺はそれを遠ざける。
すると、エリノラ姉さんが不満そうな顔をする。
「別に一口くらいいいじゃない?」
「その前に俺の話を聞いて」
「話って?」
「ブラムのこと」
首を傾げてエリノラ姉さんに言うと、わかりやすく顔をしかめた。
そして、無表情だったルーナさんはわかりづらいが、微妙に好奇心のこもった表情になっている。
「ずっと俺に決闘しろってうるさいんだよ。エリノラ姉さんが何とかしてくれる方向でこの間話が着いたよね?」
「それならちゃんと言ったわよ。アルと決闘しなくてもあたしと再戦してあげるって。でも、あいつが自分のプライドが許さないとか言って聞いてくれないのよ」
何だって!? まったく、これだからプライドが高い奴は! 大人しくエリノラ姉さんに挑んでボコボコにされておけばいいものを。
くそ、エリノラ姉さんの一声でどうにかできると思っていたが宛が外れた。
「……ああなったブラムはしつこい。一発ぶちのめした方が楽……あっ、これ美味しい」
「あ、あたしも」
ルーナさんの言う通り、さっさと相手をしてやって処理するのが一番なのかもな。
などと考えていたら、手元にあったカブの鶏そぼろあんかけが半分以上なくなった。




