ブラムからの手紙
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翌日、俺は大量に干したスライムを見に向かう。
玄関を出ると清々しい朝の空気が流れており、澄んだ青空に溶け込むように乾燥されたスライムがたなびいていた。
なんともシュールな光景だと思いつつ、干されているスライムを手に取る。
「うん、ちゃんと乾いてるね」
この間、作ったスライムと同じようにパリッとしている。これならばポイとして使うのに問題ないだろう。
「すいませーん!」
そんな風に干したスライムを回収していると、屋敷の門の方からこちらを呼ぶ声がした。
「トリエラ商会のもので、手紙を届けにきました」
ふむ、届け物か。だったら、ちゃんと受け取らないとダメだな。
スライムを回収するのを中断して、門に向かうと見たことのある男性だった。
確かカグラに行く時に、船の中で何回か喋った。でも、名前までは知らない。
「あっ、アルフリート様。わざわざ取りにきて頂いてすいません」
「いや、いいよ。ところで誰から手紙?」
こっちは相手さんの名前を知らないので、迂闊な話題にならないように尋ねる。
手紙をひっくり消して紋章を見てみるも、見覚えがあまりない。エリックでもメルは伯爵でもユリーナ子爵とも違う。
一体誰からのものだろう?
「ブラム=バームラル様からのお手紙になります」
「ごめん、その手紙は受け取れないよ」
ブラムからの手紙なんて厄介ごとの匂いしかしない。
こうして受け取ったなどという事実さえなければ、後でどうとでも言い訳ができる。
「うえっ!? ちょっとどうしてですか? 受け取ってもらえないと後でトリエラさんに怒られるんで困るんですけど!?」
「大丈夫大丈夫。トリーなんて怖くないから」
トリーに怒られたところで怖さなんて何もない。
「いや、まあ確かにトリエラさんは怖くないですけど、秘書が怖いんですよ」
「言ったね。今度トリーにチクっとくから」
「うわあああっ! 本当にやめてくださいよ!」
「じゃあ、言わないかわりに手紙をそのまま持って帰って」
「うう、酷い! アルフリート様はフレンドリーだけど隙を見せると容赦ないって、トリエラさんの言う通りですよ」
なんだと。あいつ俺のことそんな風に思っていたのか。
今度その台詞を盾に交渉してやろう。きっと優位な条件が引き出せるはずだ。
「とにかく、そういう訳だから手紙を持って帰った帰った」
「いや、ブラム様からお金も貰って困るんで受け取ってください」
「いい加減にしないと護衛の人を呼ぶよ?」
うちに護衛なんていないけど、とりあえずそれらしい台詞を言って威圧してみる。
すると、俺の後頭部に衝撃が入った。
「うちに護衛なんていないわよ。朝から門の前で何を騒いでいるの?」
「ああ、エルナ様! アルフリート様が手紙を受け取ってくれないんです!」
「手紙なんて重要なものどうして拒否してるのよ」
呆れながら男性が差し出してきた手紙をしっかりと受け取ってしまうエルナ母さん。
「ありがとうございます! それではお手紙を渡したので俺はこれで!」
商会の男は、手紙が自分の手から離れるなり、そそくさと走り去っていく。
ああ、これで正式にこちらに手紙が渡ってしまった。
◆
乾燥させたスライムを回収した俺は、そのままエルナ母さんにリビングに連行される。
タイミングがいいのか悪いのか、そこにはブラムに縁のあるエリノラ姉さんもソファーで寛いでいた。
「あら? この紋章はバームラル家みたいね」
テーブルに座るなり、エルナ母さんが紋章を見て呟く。
それとなく関わりのありそうなエリノラ姉さんに視線をやるも、本人はまるで反応した様子がない。
バームラル家がブラムの家名だということを忘れているか、記憶にまったくないか、覚えていても興味がないといったところだろう。
ブラムの奴も可哀想にな。
「エリノラ、バームラル家に聞き覚えはある?」
「バーミリオンじゃなくて?」
「それは没落した鍛冶貴族よ。あなた逆によくそっちを覚えていたわね」
バーミリオン家は鍛冶の技術で成り上がった貴族であるが、戦争がなくなってから活躍できる場面も減り、衰退していって平民に降格してしまった鍛冶貴族のことである。
「剣を使うなら常識よ。バーミリオン家の剣は切れ味もよくて丈夫なんだから」
剣に関係する事であるならエリノラ姉さんは博識なようだ。
剣なんて稽古で振ったことしかないので、そこら辺の感覚はよくわからないな。
まあ、俺には必要ないし、必要になる場面に出くわすこともないからいらないけどね。
「今は剣の話しじゃなくて貴族の話よ。バームラル家を本当に覚えてないの?」
「覚えてない。どこの貴族?」
思い出す素振りも見せずに即答するエリノラ姉さん。
エリノラ姉さんに好意を寄せてくれる数少ない男性だというのに。
これにはエルナ母さんも少し頭が痛そうだ。
「あれだよ、ブラムの家だよ」
「ブラム? ……ああ、あの弱くて迷惑な男ね!」
俺が名前を出してやると、ようやくエリノラ姉さんの脳内で検索がヒットしたようだ。検索結果はむごいものであるが。
「もしかして、ブラムから手紙? どうして受け取っちゃったのよ」
「いや、俺は突っぱねたんだけど、エルナ母さんが受け取ったんだよ」
エリノラ姉さんが不満そうに睨んでくるので、俺は必死に弁明する。
「もう、どうせまたくだらない手紙でしょ。貸して、あたしが燃やすから」
「ちょっと待って。どうやら宛名はアルみたいだわ」
エリノラ姉さんがこちらにきて、手紙を奪い去ろうとするとエルナ母さんが静止させる。
ええ、俺宛てってどういうことだよ。
エルナ母さんに差し出された手紙を見てみると、確かに宛名に俺の名前が書かれてあった。
「ちょっと読んでみなさい」
エルナ母さんに言われて、俺は渋々手紙を開封。そこに書かれている文字を読んでいく。
そこに書かれている文字を読み込んでいくなり、げんなりする。
「なんて書いてたの?」
「ブラムも収穫祭にやってくるって」
「あら!」
「……それで?」
我が娘を好いてくれる奇特な男性の来訪情報にエルナ母さんは嬉しそう。だけど、当の本人は微塵も嬉しそうではなかった。明らかに嫌そうにしている。
「王都での俺との決闘が納得いかないから、改めて俺に決闘を挑むとか言ってる」
そう、これが一番の面倒くさいポイントだ。
エリノラ姉さん目当てで収穫祭を楽しみたいだけなら、俺が案内してやる必要もない。
望み通り、エリノラ姉さんに任せて俺はエリックやラーちゃんと遊ぶだけだからな。
「納得がいかないって、どんな卑怯な魔法で倒したのよ?」
エリノラ姉さんの中では、俺がブラム相手に卑怯な魔法で倒したことが決定事項のようだ。
まあ、魔法を使うのは当然だし、大体合っているんだけど正直にはいわない。ハメたとはいえ、結果としてはシェルカがブラムに攻撃したのだから。
「いや、ちゃんと一対一で倒したよ。ブラムが勝手に自滅しただけ」
「第三者の魔法攻撃が入ったから決闘は無効だって書いてあるわよ?」
冷静にそう述べるが、エルナ母さんがこちらを覗き込んで余計なことを言った。
「ちょっと、他人宛の手紙を勝手に見ないでよ」
「一対一の決闘で第三者の魔法攻撃があるっておかしくない?」
「別に第三者に協力を頼んだわけじゃないよ。自分の知略でそうできるように優位な状況を作っただけ。ほら、稽古でもノルド父さんが自分の得意な状況を作り出せって言っていたじゃん?」
だから、俺は悪くないし、やましくもない。
「そんな訳でブラムの相手はエリノラ姉さんに頼むね」
「はぁ? なんであたしなわけ?」
「元はと言えば、エリノラ姉さんが俺に押し付けてくるのが悪いんだよ」
「そうね。エリノラの問題だし、アルが対処するのはおかしい気がするわ」
「母さんまで!」
エリノラ姉さんの今後がかかっているからか、エルナ母さんも俺の味方。
いいぞ、この収穫祭を機会に距離を縮めてしまえばいいのだ。
不貞腐れるエリノラ姉さんを見つつ、俺とエルナ母さんは怪しく笑い合うのだった。




