有望な人足
河原から商店街へやってくると、カグラ人が爆発的に増えた。
海で獲れた魚を運んでいたり、港の方に荷物を持っていく一団がいたり。屋台やお店の方では店主や看板娘が盛んに声を上げて客を呼び込んでいる。
そんな大通りに出ると、やはり異国の証である茶髪や服が珍しいのか、いくつかの視線が俺へ突き刺さる。
ここにくるならいつもの服とかではなく、甚平にしておけばよかったかな。
でも、この肌寒い季節になると甚平は少し寒そうだからな。
走り回っている男性達を見ると、服装自体は作務衣や甚平のようだが、微妙に生地が分厚くなっていたり、長ズボンになっていた。
着物のようなカグラ服を着ているので、大きな変化は見られないが、微妙に羽織が増えたりと季節の変化は感じられるな。
やっぱり、カグラ服を着ている方が目立たないよな。でも、俺はここにポイに使うための和紙を見にきただけだし、それくらい気にしなくてもいいかな。
などと思い直して道を歩いていた俺だが、予想以上に視線を感じる。
これだけ視線を感じると、自分は何か悪いことでもしたのか、変な格好をしているのではないか、子供なのに目が死んでいるとか言われ指をさされているのではないかと気になってしまう。
まあ、多分どれも気のせいだろうけどカグラ服を着ている中で、異国の服を着ている子供がいれば気になるよな。
前回は俺よりも派手なイリヤとアリューシャがいたし、完璧に観光客の一団として移動していたから平気だったけど、一人でこれは堪える。
日本にやってくる外人さんもこんな気持ちを抱きながら観光にやってきていたのだろうか。ハートが強すぎる。
ハートの弱い俺は人々の奇異の視線から逃れるように移動。
早足気味に記憶を探りながら進むと、『和服屋 ふじ』という以前もやってきた服屋さんにやってきた。
店内に入ると、爽やかなお香の匂いと畳のような匂いが鼻孔をくすぐり、どこか懐かしい気分になった。
「いらっしゃいませ」
カグラ服を着ている女性店員が丁寧に頭を下げる。
相変わらずカグラ人は仕草がとても綺麗だな。そんな事を思いながら綺麗な女性向けのカグラ服を横目に、奥にある男性服のフロアへと進んでいく。
すると、そこには男性用のカグラ服が並んでいた。
季節が秋になったからだろうか。夏用の薄い生地のものはほとんどなくなり、秋、冬用の分厚い生地のものが増えていた。
渋いものから派手なものまで色合いがとても豊かだ。
さて、あまり高くない値段の冬服をさっさと買って着替えてしまおう。
そう思って歩き出すと、女性店員が話しかけてきた。
「今回はおひとりなのですね」
「え、覚えてるんですか?」
「はい、とても印象的な観光客でしたから」
驚きながら尋ねると、店員さんはにこりとした笑みを浮かべながら答えた。
常連といえるほど通っていないのに、一度の来店で顔を覚えられる。
それ自体はとても嬉しいことなのだが、どうも俺の場合はルンバやアーバインのお陰で悪目立ちして覚えられたようにしか思えなかった。
「冬用の服をお買い求めですか?」
「はい、この服じゃ目立ってしまうので……」
「お客様のお求めになる服はこの辺りかと」
などと会話をしていると、店員さんが案内。そして、自然に距離を置いてくれた。
服屋の店員さんって、ずけずけと踏み込んでくる印象があったのだが、ここの店員はそうは感じないな。
今だって、俺に見て選ばせるように距離をとってくれた。
こういう距離感を計るのが上手い店員だと、特に邪魔とは思わないものだな。
ここの店員さんのレベルの高さに感心しながら、俺は視線を子供用の服へ。
端の方を見ると、子供が着るとは思えないような豪奢な刺繍と羽織がついているカグラ服がかかってある。
勿論、俺が着るのはそのようなものではない。
人足の人が着ているような動きやすくて暖かいもの。
それを見つけた俺はすぐに紺色のそれを手に取る。うん、色合いも渋くていいな。
いかにもカグラ人の人足って感じがする。表示されている価格もそれほど高くなくて、手持ちのカグラの硬貨で十分に買える。
「これを試着してみます」
「試着室はあちらになります」
前と同じ試着室に入って着替えると、サイズはピッタリ。生地が少し分厚いからか、甚平に比べるとかなり暖かい。
鏡に写る自分を見てみると、どう見てもカグラ人の子供だ。
うん、これなら街を歩いても目立つことはないな。
満足げに頷いた俺は、カグラ服を着たまま試着室を出る。
「すいません、これ気に入ったのでくださーい」
「…………」
そう言ってフロアに戻ると、女性店員が驚いたようにこちらを見ていた。
「どうかしました?」
「……前の甚平といい、お客様は子供ながら大変渋いものが似合うのですね」
これは褒められているのだろうか? どうにも釈然としない気分だった。
◆
服屋さんでカグラ服を購入した俺は、買ったカグラ服をそのまま着て外に出る。
先程まで着ていた普通の服は、こっそりと物陰で空間魔法を使い。亜空間を開いてそこに収納してやった。
これで着ていた服が手荷物とならずに、手ぶらで街を歩くことができる。
いやあ、物を買っても手荷物にならないことのなんて素晴らしいことだろう。
買い物をする時に最大の敵は足の疲労と、買えば買う程増える荷物だからな。楽しい買い物の時間であっても、手荷物になることを考えれば億劫になったり、買う順番を変えたりしないといけないからな。
しかし、俺の場合はそれが不要なので、買い物をする時のストレスがほとんどないな。
新しい服を買っていることから、ちょっとしたるんるん気分で道を歩く。
これならば髪色さえ目を瞑れば、カグラ人として埋没することができるだろう。
それは俺の予想通り、遠目から視線が突き刺さることはかなり減った。
しかし、何故だろうか。近くにいるカグラ人が何気なく俺を見てから、驚いたように二度見をすることが増えた。
二度見をするということは、その人にとっての驚くことが何かあったはず。
とはいっても、俺はカグラ服を着ているだけで、驚かれる要素は髪色だけ。イリヤのような鮮やかなピンク色の髪をしているならともかく、地味な茶髪を見てそこまで驚くのだろうか?
自分や周りの姿を観察してみるも、その理由はわからない。
まあ、いいかと気を取り直して歩き出すと、前から近付いてきた人足が笑顔を浮かべる。
「坊主、ガキにしちゃあその服が似合ってるじゃねえか。将来は有望な人足だな!」
ガハハと陽気に笑いながら去っていく人足の男性。
どうやら俺は、この人足の大人が着ているようなカグラ服が似合っているために、人々から二度見をされていたようだ。
似合い過ぎて二度見してしまうとはいいことのように思えるが、人足の服が似合い過ぎる子供の貴族と考えると素直に喜べないな。
まあ、転移魔法で物資を瞬時にどこでも運べるので、有望な人足とも言えるが、まさかカグラに来てそんな事を言われると思わなかったな。
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