神社に転移
空間魔法で転移を発動させると光景が一瞬で切り替わる。
「よっと!」
いつもより強く視界が歪み、浮遊感も長かったせいでバランスを崩しかけたが問題なく着地できた。
長距離転移のせいだろうか、急に魔力が減ってしまって少し気持ち悪くなるが、魔力訓練で何度も経験しているので慣れたものだ。
顔を上げると、目の前には神社がある。
相変わらず神社は荘厳な雰囲気を漂わせている。
朱色で塗られた柱や、黄金色の水神様の装飾がとても綺麗だ。
やはり神社だけあってか、誰かが定期的に掃除をして管理しているのだろうな。そう思わせる程の美しさを神社は保っている。
にしても、一回で問題なくカグラまで転移でくることができたな。
だが、代償として体内にある魔力がごっそりと減ってしまっている。
一回の魔法の使用でこれとは、やはり大陸を越えるような長距離転移はかなり魔力を消費するようだ。
とはいえ、体内にある魔力に意識をやると、まだ余裕はありそう。
コリアット村からカグラまでの長距離転移を後二回は繰り返せるのではないだろうか?
帰還することを考えれば余裕ではあるが、帰る分を抜くと一回分しか余裕がないわけである。
俺の将来の転移計画では、好きな時に好きな場所に転移して、その土地の素晴らしい場所でのんびりしたり、美味しいものを食べたりすること。
つまり、いつでも気まぐれに転移ができる状態でなければならない。というかそうでないと俺の気が済まない。
最近は七歳にしては結構な魔力量があるのではないだろうか? などと自信を持っていた俺だが、どうやらまだまだだったらしい。
エリック家への訪問などの用事で魔力増量訓練をサボってしまう時もあったが、初心に返って毎日のようにやらねばならない。たとえ忙しくてもだ。
そして、もっともっと魔力を増やして、転移できる回数を増やさないとな。
心と魔力の余裕は生活にも余裕をもたらせる。
ポイの材料である和紙を見にきたつもりだったが、魔力増量という大きな課題を見つけられたな。これは大きな収穫だ。
さて、転移に対する考察はここらで終わりにしておこう。
せっかくカグラにやってきたのだ。いつでもできる考察ばかりをするのも勿体ない。
俺はこの神社からの景色を見にきたのだからな。
思考を切り替えた俺は、神社を背にして階段の方に歩き出す。
今いる場所の位置が高いからか、カグラの風景が一望できる。
遠くではカグラの街らしき和風な建物が見えており、遠目からも活気があるのがよくわかる。そして建物や道の合間を縫うように川が流れており、和船らしきものが小さく見えていた。
こうやって改めて見てみると、カグラの街には至るところに水が流れているのがわかる。
広大な海と面しているだけあって、カグラの街は水と密接に暮らしているのだな。
そこから視線を徐々に下げていくと、家々がまばらで田園地帯になり、ルンバと通った森が広がっている。
そして、さらに視線を下げていくとほぼ真下になり、見ているだけで気が遠くなりそうな階段があった。
うん、こうして見下ろすと階段の急な角度に怖さすら思えるな。
ジーっと眺めているとその段数の多さで頭が痛くなりそうなので、俺は即座に視線を切って階段に座ることにした。
石畳の上は少しひんやりとしていて気持ちがいいな。
ルンバに誘われて向かったら、ここに春と修一がいたんだったよな。
なんかおかしい二人だとは思っていたが、まさか国で一番偉い将軍家の娘と息子だったとはな。
水戸黄金ごっこで平民やトリー達を平伏させた光景は未だに懐かしい。
こうして思い返すと昨日のことのようであったが、実際には四か月以上も前なのだな。
春と修一にまた会いたいが、あいつらは将軍家だしな。
前みたいに会うことは難しいだろうな。
二人の事を知れて嬉しかったような、知れたからこそできない事に気付いて残念なような。
ちょっとだけ複雑な気持ちだ。
空や遠くの山やボンヤリと眺める。
そうしていると気持ちのいい風が吹き込んできて俺の肌を撫でる。
先程とは違い、街などの物体を見るでもなく、ただボンヤリと全体を捉えるように眺める。
これがいいのだ。ずーっと注視して何かを追いかけて見ていては目が疲れてしまうからな。
そのまま何を考えることなくボーっとすると、今度は上体を後ろに倒して仰向けになる。
すると、澄んだ青い空がいっぱいに広がり、真上に朱色の鳥居が重なった。
俺の指でカメラの枠のようなものを作って、フレームに収めてみる。
綺麗な青い空と朱色の鳥居の対比が中々にいい。
カメラなどがあったら、口角気味にして撮ってみたかった程だ。
心の中で写真を一枚保存した俺は、そのまま大の字になった。
何となく視線を動かすと、鳥居の傍に大きな岩が置かれているのを見つけた。
「おっ、俺が使っていた岩だ」
どうやらサイキックで俺が乗り物として使ってから、そのままになっているらしい。
結構な大きさの岩を使ったからな。人力で降ろすなんて苦労を考えれば論外だし、サイキックで降ろすしかないだろう。
邪魔になるのであれば俺がサイキックで降ろしておこうかと思ったのだが、近付いて見てみると、まるでしめ縄のように縄を巻かれている。
不思議に思ってぐるりと一周回ってみると、岩の傍には石段が作られていて、その上に花や団子らしきものがお供えされていた。
「んん? どういう事だろう?」
この岩がご神体代わりにされているのだろうか? よくわからん。
よくわからない以上、下手に動かすと面倒な事になりそうだし、こうしてお供え物もされていると祀られている可能性もある。
ここで祀るとなるとやはり水神様だろうな。
でも、それだと丸い岩というのはどうもご神体らしくないな。どうせなら神社に装飾されている龍みたいな形に掘ってあげればいいのに。
何となくイメージが湧いたので、俺は目の前で土魔法を発動。
小さな球体を作ると、神社の龍を見ながら変形。
しかし、具体的な部分までは描かれていなかったりするので、そこは独自に海の荒々しい水龍をイメージしてみる。
すると、程なくしてモンスターを狩るゲームのような大迫力の龍ができてしまった。
神社に既存の水龍のデザインがあったので、さほど苦労することなく作れたな。
サイズは手の平に乗るようなものなので、さほど恐怖心は感じられない。
だけど、これが岩くらいのサイズで掘られてしまえば大分怖いだろうな。
そんなことを想像してしまって俺は笑う。大きな岩で再現してしまいたい悪戯心が湧いたが、さすがに祀られているものを勝手に弄るのはマズいので打ち消す。
代わりとして水龍を模して作った土フィギアを、石段の上にお供えとして置いておくことにした。
それから軽く手を合わせて、また春や修一と遊べる時がくるのを祈ることにした。




