山に転移
このマンガがすごい! Webでコミカライズ20話が公開されました! チェックよろしくです。
ローランドから有益な情報が得られた俺は、バルトロと一緒に行った湧き水のある山へ転移してきていた。
そこには、以前やって来た時と変わらず静謐な空気が漂っている。
目の前には透明な美しい湖があり、繁茂している苔が色鮮やかに見える。
頂上地点なので視線の位置はとても高く、振り返れば山から森や平原を睥睨することができた。
遠くでは自分の屋敷らしい建物がぼんやりと見えている。
バルトロが苦労を越えた末に、見える景色はより綺麗に見えると言っていたが、転移してきた今でも十分に綺麗だな。
うん、以前の苦労が霞むようだが、それがあってこそ転移ができたというもの。決して以前の苦労は無駄なんかではない。そう思うようにしよう。
ひとまずは目の前に綺麗な水があるので、両手ですくって飲む。
ひんやりとした自然の水が喉を通って、乾いた喉を潤す。
「ああ、美味しい」
屋敷を出てから地味に水分を補給していなかったので、意外と喉が渇いていたようだ。
そのまま、二回、三回とすくって飲むと、ようやく身体が満足してくれた。
さて、ローランドが言っていた山は、これよりさらに一つ奥のもの。
コリアット村とは反対方向を見ると、そこにはまた一つ巨大な山がある。
大きさとしてはこの山よりも大きいだろう。こちらは頂上付近にいるというのに、少し見上げなければいけないくらいだ。
だけど、十分に視認ができる。視認ができるならば転移は可能だ。
このまま肉眼で見てイメージを焼き付けても転移はできるが、くっきりと見てやった方がいい。
瞳に魔力をゆっくりと集めると、双眼鏡でも見ているかのように遠くがハッキリと見えるようになった。
聞いていた小魚は上流から中流の川にいると聞いたので、まずは川を見つけたい。できれば山の中を探して歩き回るのではなく、川の傍に転移して楽をしたい。
必死になって視線を動かす。しかし、軽く見たところ見つからない。
もしかすると、もう少し奥に川があるのかもしれない。
そう思って、さらに魔力を集中させて木々の奥まで目を通していく。
すると、微かに水らしきものが流れているのが見えた。
「あった!」
そこから徐々に倍率を下げていくと、それがどこにあるのかわかる。
近くの転移しやすいような平地を探して、そこを凝視してイメージを焼き付ける。
それが終わると空間魔法を発動して、身体を魔力で包み込む。
「よし、転移!」
そう呟いた瞬間、視界がぐにゃりと切り替わり、気が付けば俺は山の中にいた。
目の前には透明な湖はなく、反り立つような長い樹木と地面だ。
ふと、視線を前に向けると、そこには俺がさっきまでいたであろう山が見えている。
あちらは頂上から水が溢れるように流れているので、どこに川があるかわかりやすいな。
なんてことを思いながら、振り向いて反対側に歩き出す。
さっき遠視して見た限りでは、ここを真っすぐに進めば川があった。
ただ真っすぐと歩いていれば、川が見えてくるはず。
やや足場の悪い道をテクテクと進むと、程なくして水の流れる音が聞こえてきた。
そのまま足を速めて音がする方向に進むと、見事な清流があった。
上流の方は流れが急になっていて岩場が多いが、俺がいる辺りはちょうど流れが落ち着いている。
「こっちの川も綺麗だな」
湧き水のあった山の水も綺麗だったが、こちらも負けていない。
遠目に見ても、水が透き通っており底にある石や泳いでいる魚の姿がくっきりと見える。
やはりコリアット村にある水脈は、とても澄んでいて綺麗なのだろうな。
今日だけで四か所も川を潜ったので、なおさらそう思う。
「さてさて、ローランドが言っていた魚はどこかな?」
確か背中が青や赤色になっている小魚だ。
これだけ透けて見えればすぐにわかるはず。
そう思って視線を巡らせるが、イワナのような魚が見えるだけでそれらしき魚は見当たらない。
岸辺付近にはいないのだろうか?
とはいっても、川の幅が結構あるせいで岸付近の魚しか見えない。
真ん中の方は差し込んでくる光でキラキラと反射して、眩しい程。
こんな時に役立つのはシールドだ。
俺は透明な長方形の魔力盾を作り出してそれを平面に連続展開。
水面に固定してシールドの橋を作り上げる。
そこに足を乗せると、あら不思議。俺は落下することなく水面を歩くことができるのだ。
水面に展開したシールドの上を優雅に歩いて、俺は水中を観察。
すると、そこに赤や青といったものが動いているのが見えた。
新たな足場を展開して進んでみると、そこには色鮮やかな青や赤が動き回っている。
よく見てみると、金魚のような大きさをした小魚がすいすいと泳いでいた。
体表は背中から腹にかけて青い個体と、背中から腹にかけて赤い個体がいる。
恐らくこれがローランドの言っていた小魚だろう。
こうやって眺めているだけでも色鮮やかで綺麗だ。
形や大きさも金魚とよく似ているし、これなら小魚すくいの魚として十分にいけるな。
俺は水魔法を発動して、小魚を含むように水球を作った。
水球を持ち上げると、目の前では水の中を悠々と泳いでいる淡い小魚。
こうして眺めているだけでも綺麗だな。さらにすくった後は食べられるとなると、捨てられることもないだろう。
「うん、これなら小魚は問題ないかな」
そう満足げに呟いて、俺は水球を下ろして小魚を優しく放流。
水槽、小魚と揃えば、後はポイだな。
枠は土魔法や木材でできるとして問題は和紙だ。
そして和紙といえば障子などで使っていたカグラだな。
そこならば和紙が安く売っているかもしれない。
早速カグラに転移しようとカグラの光景を思い浮かべようとして、脳裏に出てきたのは春や修一と遊んだ神社の景色だった。
どうやら俺の記憶の中で、あそこは随分と印象強く残ったようだ。
カグラでの出来事を思い出したら笑えてきて、そして懐かしく思えてきた。
神社の場所は商店街から距離も離れているし、目的地としてはそぐわないな。
しかし、無性に神社からの景色を見たくなったので、俺はそこに転移することに決めた。
「思えばカグラまでの転移は初めてだな。エスポートとか中継してみるのもありだけど、ここはいっちょカグラまで一気に行ってみるか……」
魔力が足りなければ失敗して不発になるだけだろうし、別にビビる必要はない。
むしろ、転移の研究として試してみるべきだろう。
カグラに着いた瞬間、魔力切れとかになったらヤバいけど、王都へ転移した感触では大分余裕もあったしいけるだろう。
そう思って、俺はそのまま神社の光景を思い浮かべながら転移を発動した。
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