綺麗で食べられる小魚
コミカライズ20話、このマンガがすごい! Webで明日公開です! 内容はお風呂と走馬灯ですね。
遊びの実演が終わると、ノルド父さんは輪投げなどの道具を馬車に積んで村へと向かった。
どうやらそれらの遊びを収穫祭の催しとして喜んでもらえるか、やれるかどうかを相談するらしい。
それをするために俺にも同行して欲しい的なことを言われたが、もう一度丁寧に説明し直すのがとても面倒なので辞退した。
遊び方や道具の作り方は既にノルド父さんに説明して十分に理解してもらっている。わざわざ俺が出向いてまで説明してあげる必要もないだろう。
というかそういう細かい話し合いは領主あるノルド父さんの仕事だしな。
俺は、小魚すくいという催しについて詰めていかなければならないのだ。実際に実演をしてみないとノルド父さんとエルナ母さんから許可は下りないからな。仕方ないのだ。
そんな建前を使用して、結果的に俺は屋敷に残ることができた。
のんびりできるとはいえ、小魚すくいの制作を進めなければならない。
まずは小魚を入れる土台について。これについては問題ないな。
屋敷の庭で土魔法を発動。祭りで見たような長方形の水槽を象ってやると、あっという間にそれは完成した。
この程度の容器であれば、俺が魔法で作るだけでもいけるし、木製で再現するにしろ、四角い箱を作るだけなのでそれ程時間はかからないはずだ。
問題は魚とポイだな。
まずはコリアット村に生息している小魚を見に行くか。
「ちょっとシルヴィオ。ちゃんと正面に蹴ってよ!」
「ごめん、姉さん。でも、正面に蹴るのって難しくない?」
「つま先で蹴るから難しいのよ。こういうのは当てる範囲の広い足の横で蹴った方が真っすぐ飛ばしやすいわ……ほら」
俺のすぐ傍でボールを真っすぐに蹴るエリノラ姉さん。
サッカーを見たことも経験もない癖に、真っすぐ蹴るために効率的なインサイドパスに気付いている。
相変わらず身体を動かすことについては天才的だ。
ボールを踏みつけるようにトラップしたシルヴィオ兄さんは、エリノラ姉さんは真似するように蹴る。
「あっ!」
しかし、それは正面にいるエリノラ姉さんにではなく、ボンヤリとみている俺の方へ転がってきた。
「ごめん、アルー!」
「ちょうどいいわ。ボールよこしなさい!」
手を振りながらそう言う、シルヴィオ兄さんとエリノラ姉さん。
懐かしいな。小学校や中学校の頃は休み時間の旅に、皆で外に出てサッカーをして遊んだものだ。
俺はボールを足で持ち上げて、足の甲や太もも、頭などを使ってポンポンとリフティング。
昔、競い合うようにしてやった子供の頃を思い出しながら、そのままエリノラ姉さんにパスした。
「へー、器用なことするわね。見てなさいあたしだって……」
そう言うと、エリノラ姉さんは足を器用に使ってボールを持ち上げた。
子供時代、俺が三日かけてマスターした技を、一目見ただけで模倣されてしまった。ちょっとショックだ。
そのままエリノラ姉さんは浮いたボールを、インサイドで蹴って、足の甲でポンポンと蹴る。
「おっと!」
強く蹴り過ぎたせいか、ボールが遠くにいってしまうがエリノラ姉さんは自ら移動し、太ももで受け止めて衝撃を抑えてみせた。
不安定ながらも初心者とは思えないリズムで回数を重ねていく。
すごいな。もう十回越えちゃったよ。
なんてボーっと見てる場合じゃない。俺はコリアット村にいる魚を見に行くんだった。
真剣な表情でリフティングをしているエリノラ姉さんと、それを眺めているシルヴィオ兄さんをしり目に、俺は屋敷の外へ。
村へと続く一本道を程なくして歩くと、涼やかな小川の流れる音がした。
フサフサとした柔らかい草を踏みしめて、水面を覗き込むとそこには小さな魚がチョロチョロと泳いでいる。
ポイよりも小さくサイズ的には申し分がない。
しかし、上から見えた時に本当に真っ黒にしか見えない。
前世での魚といえば、金魚などのような見た目が鮮やかなもの。水槽を覗き込んだ瞬間、真っ黒の魚が蠢いているとなれば、ポイを使ってすくおうと気持ちが失せてしまいそうだな。
かといって、綺麗な魚を用意しても、すくった後どうするのかという問題だ。前世のように観賞用として水槽で飼う道具もないので持って帰ることはない。
すくった後に捨てられるのは悲しいし、商品と交換もしくは、そのまま食べられる小魚がいい。
綺麗な色味をしながら食べられる小魚を探さないと。理想を言えば、食べられる熱帯魚だ。
水面を指で突くと、小魚達は驚いたのか加速して逃げていく。
ポイを突っ込んだ瞬間、反応して逃げる小魚というのもダメだな。
できるだけ大人しい性格の小魚でないとな。
「綺麗な色味の小魚……綺麗な色味の小魚……」
立ち上がった俺は目的の小魚を見つけるべく、小川に沿って延々と歩いていく。
水面をじーっと見ていると、小魚や小さなエビはいるが、やはり色味に乏しい。
「うーん、場所を変えてみるか……」
見慣れたこの小川にそのような小魚がいた記憶はないので、素直に他の地点を回ることにする。
とはいえ、歩いていたら時間がかかってしまうので、今回は空間魔法だ。
周りに誰もいないことを確認すると、トールやアスモと遊んでいた川を脳裏に思い浮かべて、そこに転移。
すると、一瞬にして景色が切り替わって、川の岸辺に着地した。
この独特の浮遊感も、もはや慣れたものだ。
周囲には誰も人がおらず、ただ緩やかに水だけが流れていた。
誰もいない中、こうしてポツンと佇みながら耳を澄ますのはいいなぁ。よく耳を澄ませると、遠くで微かに鳥の鳴き声が聞こえてくる。
鼓膜を震わせる自然の音が心地良くて、俺は目を閉じてそこでボーっとしていた。
そうして、久しく瞼を開けてみると、随分と精神が落ち着いてきたように感じられる。
まるで座禅をした後のような感じ。
かといって、水面を除くと色鮮やかな魚がいる訳でもないけどね。
なんて苦笑していると、後ろから人の気配が感じられた。
しばらく佇んで待ってみると、道からは村人であるローランドがやってきた。
「おっ! アルフリート様じゃねえか。こんな所で何をやってんだ?」
「ちょっと魚を探して散歩。ローランドは魚獲り?」
「おうよ! ちょっくら晩飯のために罠を仕掛けにな!」
そう言って、小鉢のようなものを見せてくるローランド。
他に持っているのは魚を入れるバケツだけだ。
「それで魚が獲れるの?」
「ああ、この小鉢の中に餌を入れるんだ」
俺が尋ねると、ローランドは小鉢の内側にポーチから出した練り物みたいなものを塗っていく。
「後はこうして水の中に入れておくと魚が入ってくる。すると、こいつらは上から出るのが苦手なのか出られなくなるんだぜ。バカだろ?」
「へー、そうなんだ。ローランドと一緒だね」
「まったくだ。俺と一緒でバカって――ちょっと酷くねえ!?」
などと突っ込んでくるローランドを無視して、俺は水の中に入った小鉢を眺める。
すると、内側に貼り付けられた餌に吸い寄せられてか、川にいる魚がフラフラッと集まってきた。
小鉢から溶けている餌を食べると、もっともっととばかりに小鉢に入っていく。
「おお、あっという間に入ってきたね」
「ああ、後は十分な数が入るまで待つだけだ。その間に俺はいくつも仕掛けを置いておく」
そう言って、ローランドが少し上流と下流の方に同じようにして小鉢を置いた。
多分そこでも同じように魚が入ってきているのだろうな。
「どうだ? いっぱい小鉢に入ってきただろ?」
「うん」
ローランドが離れている間に、ドンドンと魚が集まって、小鉢の中は魚でいっぱいだ。
むしろ、蠢いていると形容した方がいいくらい。
「にしても、本当に出られないんだね」
「ああ、お陰で俺達は楽に獲れて助かるぜ」
カラカラと笑うローランド。
餌を塗った小鉢を置くだけなら子供でもできるし、便利な獲り方だ。
「おっ、そろそろ魚が満杯になったな」
ローランドがそう言って、小鉢を持ち上げると捕獲完了だ。
透明な小鉢の中で、魚が慌てるようにして泳ぎ回るが上部の穴から出ることはない。
そのまま小鉢をバケツへと傾けると、たくさんの魚が出てきた。十匹以上は獲れたな。
「へへっ、大漁だな!」
結果を見てローランドが嬉しそうに笑う。
これも魚の生態を知った、村人達の知恵なのだろうな。
これだけ便利な罠を仕掛けるのであれば、俺が探している綺麗で食べられる小魚をローランドは知っているかもしれない。
「ねえ、ローランド。この辺で綺麗な色をした食べられる小魚って見たことない?」
「んん? 綺麗で食べられる小魚か? こいつらみたいな魚じゃなく?」
「うん」
戸惑いながら尋ねてくるローランドに俺は頷く。
すると、ローランドは腕を組んで真面目に考え込み始めた。
まあ、食べられる魚を教えてくれならともかく、綺麗という条件が付いているからな。
結構無茶な質問をしている自覚はある。
「んー……ちょっと遠いが、東の森にある湖を越えた先にある――」
「もしかして、湧き水が美味しいところ!?」
そこならバルトロと一緒に水を汲みに行ったので、転移で一発だ。
「の、さらに奥にある山の川に、背中の色が青いオスの小魚と赤いメスの小魚がいたはずだ」
などと大きな期待をしていたが、どうやら違う山だったらしい。
期待していた分、裏切られた気分だ。そこだったら転移で一発だったのに。
とはいえ、背中の色が青と赤とは綺麗なものではないか。その色合いがどれくらい多いのか、ハッキリと鮮やかになっているのか気になるところではあるが見に行く価値は十分にある。
「それでそいつらは食べられる?」
「おう、食べられるな。生息してる場所が遠いから誰も獲って食べねえけど」
まあ、それもそうだな。目の前の川でこれだけ獲れるというのに、わざわざ綺麗なだけの小魚を獲りに行くような村人はいない。
「場所は川のどの辺?」
「上流から中流辺りだったな」
「そうなんだ。というか、よく知ってたね」
「ガハハ、子供の頃に水を汲みに行く時に山を間違えちまってよぉ」
感心を含めながら聞くと、ローランドが頭をかきながら苦笑いする。
うわぁ、山を一つ間違えて登っていただなんて想像もしたくない悲劇だ。お陰で貴重な情報が得られて助かったけど。
「なるほど、そうやって小鉢にいるバカな魚みたいに出られなくなったんだ」
「う、うっせえ! ちゃんと一人で帰れたし!」
そう言う割にはローランドの言葉は随分とまごついているように感じられた。
実は迷子になって母ちゃんとか、村の自警団の人に捜索されていたりして。
今度、ウェスタ辺りに聞いてみよう。喜んで教えてくれそうだ。
「あはは、とにかくありがとう。それじゃあ、そこに見てくるよ」
「おいおい、一人で大丈夫か? 姉ちゃんとかルンバとか連れてった方がいいんじゃねえか?」
「うん、ありがとう。そうする」
俺としては転移が使えるので、逆に誰かを連れていくと邪魔になる。
しかし、純粋に心配してくれているローランドを不安にさせる必要はないので、そう返事して離れた。




