紳士的で優雅な屋台
輪投げの実演と説明を終えて、次はキックターゲットや投球ターゲット。
俺が土魔法で的をそれぞれ用意。
キックターゲットのボールは布で固めたクッション性のあるものをサッカーボールに。
投球ターゲットのボールは、投げやすいようにそのまま土魔法でボールを作った。
そして、意気揚々とやってくれるエリノラ姉さんにやらせてみたら……
「アル! このキックターゲットと投球ターゲットってやつ凄くいいわ! あたし、これは絶対に盛り上がると思う!」
見事にこの食いつき。
先程の輪投げでは物足りなかったのだろう。運動能力をバリバリ使う、この遊びをエリノラ姉さんは大変気に入ったようだ。
「シルヴィオ、もう一度やるわよ! アルは、魔法で的を付け直して!」
一通りやり終わった今でも、エリノラ姉さんはもう一度やるために催促してくる。
キックターゲットといえば、醍醐味は自分の蹴ったボールでパネルを落とす爽快感。
勿論、それをわかっている俺は、土魔法でパネルの部分だけを脆弱にし、衝撃で落とせるようにしているのである。
なので、誰かがパネルを落とすと、俺がもう一度魔法でパネルを付け直さなければいけないのである。
俺は土魔法を使って、穴の開いたパネルに落ちてしまったパネルをはめる。
枠から微妙に外れやすい絶妙な加減だ。中途半端に着けるというのはやったことがなかったので、これを意図的にやるとなると微妙に難しい。
脆弱過ぎれば風に吹かれただけで落ちてしまうし、逆に強すぎればボールを弾くことになる。
風で倒れるほど弱くなく、ボールを弾き返すほど強くてもいけない。微妙な塩梅だ。
「はい、これでできたよー」
「ありがとうー」
俺の魔法のお陰で楽しくできていると理解しているのか、エリノラ姉さんが珍しく無邪気な笑顔で礼を言ってくる。
いつもそれくらい素直に礼を言ってくれればいいのにな。
そんな俺達の光景を見て、ノルド父さんが感想を言う。
「これも面白いけど、このままじゃアルがずっといないと面白みが減ってしまう気がするね」
確かに。このままでは俺が四六時中張り付いて、魔法を行使しなければけないことになる。
収穫祭でそんな駄々働きはごめんだ。
何か誰でもできるように作ってもらわないと。
「んー、木で作ればいいんじゃないかな?」
「できるだろうけど、パネルは外れるのかい? まあ、パネル部分は布でも代用できるように思えるけど……」
なるほど、確かにパネル部分を布で張り付ければ、いちいち取り外しすることなくできるな。
「えいっ!」
ドゴッ!
「やったわ! 九点のパネルを落としたわよ!」
俺達の目の前で、プロサッカー選手並みにシュートをして、パネルを落とすエリノラ姉さん。
あれだけ楽しそうにしていると布だけでは物足りないように感じるよな。
実際、俺もやるならパネルを落とせる方が、やっていてワクワクしたし。
やはり、キックターゲットといえば、狙って蹴って、それを撃ち抜いた達成感がないとな。
「……パネルを着ける部分に凹みを入れれば、なんとか衝撃で落ちるようになると思う。あまり板が薄すぎたらすぐに壊れるし、分厚過ぎたら抜けないから絶妙な薄さ加減が大事で、いくらか消耗品になるけど」
「なるほど、それならアルがずっと魔法を使わなくてもいけるかもしれない。投球ターゲットもこれと同じ要領でいけるね」
大したコストがかかることなく、村人だけでもできる目途が立ったからか、ノルド父さんが非常に満足した表情を見せる。輪投げも言わずもがな。木製で再現できる。
うん、これで俺も魔法でパネルを嵌め直すという労働をやらなくて済みそうだ。
木工師であるエルマン達は、収穫祭までかなり忙しくなるだろうけどね。
「一番です! 今度こそ一番を撃ち抜きます!」
何気なく投球ターゲットの方に視線をやると、そこではミーナが意気込むようにして叫んでいる。
傍でエルナ母さんがいることから、興味津々で見ていたメイド達を引き込んだようだ。
俺達貴族よりも、村人が主に楽しむものなので彼女達の感想も必要だろうな。
もっとも、楽しそうな声を上げている様子から、その感想は聞くまでもない気がするけど。
「ははは。んなこといって、どうせまた穴の開いた所に入るんだろ?」
「オチが見えてます」
「いーえ、今度こそは一番なんです! 見ててください!」
メルやサーラに茶化されるも、ミーナは負けることなく言い張って投げる。
まさにそれは一般女性の投球モーション。
いきなりプロ野球の投手ばりの、ワインドアップを繰り出すエリノラ姉さんとは大違いだ。
微笑ましく思いながら眺めていると、ミーナの投げたボールは1のパネルに――向かうことなく、穴の開いた真ん中に綺麗に吸い込まれた。
相変わらずオチを外さぬミーナだ。
「ははは、ほら見た!」
「あー!? なんでですかー!?」
野球なら見事なストライクであったな。でも、投球ターゲットでは真ん中に放り投げる技術よりも、巧みにコントロールする技術の方が必要。
「ミーナ先輩は動物的ですから、きっと無意識に穴の空いたパネルを狙ってしまうんですよ」
「なんですかそれー?」
ミーナは懐疑的な声を上げているが、何となくサーラが言いたいことはわかるな。
一般的な女性と言い難いエリノラ姉さんだけでなく、村人でもあるミーナやサーラも楽しんでやってくれていることから、キックターゲットや投球ターゲットは盛り上がりそうだ。
などと満足げに思っていると、エルナ母さんがこちらにやってくる。
「ねえ、アル。輪投げもキックターゲットも楽しくていいのだけど、アレイシア様やラーナ様が落ち着いて楽しめるものもないかしら?」
直訳すると、貴族令嬢らしいお上品な遊びということか?
確かに言われてみれば、キックターゲットも投球ターゲットも令嬢には似つかわしくない遊びのように思える。ラーちゃんは喜んでやりそうだけど、アレイシアとかかなりお嬢様っぽいし、こういう激しく身体を動かすのは苦手かもしれない。
輪投げなら大丈夫かもしれないが、品があると言われれば微妙だしな。
紳士の遊びである卓球も分類は運動だし。
女の子でも、落ち着いて楽しめる遊び……。
「まだ、見せてもらってないけど小魚すくいとかはどうだい? アルの話を聞いていたようでは、大分落ち着いた感じだったけど」
俺が考え込んでいると、隣にいるノルド父さんが言う。
おお、そういえばそれが残っていたな。
金魚すくい――じゃなくて、小魚すくいであれば、アレイシアとかでも落ち着いて参加することができるだろう。
うん、水槽で泳いでいる小魚をすくって遊ぶとか、貴族の遊びっぽいし。
「うん、確かにそれなら落ち着いて楽しめるかも。ただ、魚とか準備しないといけないから……」
水槽に入れる魚の確保は勿論のこと、何よりもすくうポイを作らないといけない。
枠はエルマンに頑張って作ってもらうとして、問題は和紙だ。
前世のような薄い和紙はさすがに、この世界にはない――いや、ありそうな国があったな。そういえば、カグラには障子があったので、和紙が実際にあるはず!
これはいけそうだぞ。ちょっと後でカグラに転移して和紙を見てくるか。
「うん、でも作れそうだし、近いうちに作ってみるよ」
「そうかい? なら、準備ができたら見せてくれ」
ノルド父さんの言葉に俺は頷く。
多くの屋台に小魚すくい……随分と祭りらしくなってきたのではないだろうか。
前世でも夏祭りといったものは大好きだったので、少しだけ気合いが入る。
小魚すくいとか是非ともやってみたいしな。
エリックやアレイシアは知らないが、ラーちゃんは喜んでくれるかもしれないな。
俺は収穫祭で遊ぶのを楽しみにしながら、小魚すくいの計画を考えた。
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