輪投げ
ノルド父さんに説明を求められたので、俺は出したアイディアを簡単に説明した。
ただ、それらがどういった遊びかは理解できるが、具体的な面白さはわからない。特に輪投げや小魚すくいなどはそう言われてしまった。
確かにそれもそうだ。
輪っかを目的物に投げるだけの何が面白いのかと言われると言葉だけではピンとこない。なので、実際に中庭で実演することで、その面白さに触れてもらうことにした。
俺が中庭に出ると、ぞろぞろと家族の皆がついてくる。
俺は皆から奇異の視線を向けられる中、適当な砂地の場所で土魔法を発動。
簡単な正方形の板を作り出して、それが斜めに向くように支柱を作る。
「何あれ? 足を失くしたテーブルみたい」
すると、後ろからエリノラ姉さんの野次みたいなものが飛んでくる。足を失くしたとは例えが面白い。
確かにこの台を見て見れば、片側の足を失くして倒れてしまっているようにも思える。
エリノラ姉さんの感性にクスリと笑いながら、台を九つ状のマスに区切り、その中心点で支柱となる柱を隆起させる。
後はそのマスに左上から1、2、3と数字を掘ると、投げるための輪っかを土魔法で作ってあげれば完成だ。
「はい、できたよ!」
俺がそう言って呼びかけると、遠くで見ていた皆がやってくる。
「あっという間に土魔法で造形したわね。もうこの道で十分食べていけるんじゃないかしら?」
「僕もそう思うよ」
エルナ母さんとノルド父さんがそのようなことを言っているが、俺は働くつもりはない。
いくらその道に進めば有能な結果を残せたとしても、働いている時点で俺の将来設計から外れている。
俺はリバーシや卓球、スパゲティの収益のように何もせずとも、お金を稼げるのがいいのだ。
まあ、今回のように趣味で作ったものが売れるなどであればいい。ああ、付け加えておくと俺が売ることに対して働かないことを前提だ。
「で、この輪っかを柱に投げればいいの?」
「うん、柱に入ればその数字が自分の得点になるよ。一対一でやって、それが多い方の勝ち」
「へー、あたしがやってみるから相手しなさいよ」
「いいよ」
エリノラ姉さんが、自信満々に挑んでくるので俺が受けてやる。
というか、アイディアを出した俺がやらないとスムーズに進まないしな。
頷くとエリノラ姉さんは、俺の腕にある輪っかを半分持っていった。
何やかんや文句を言いつつも自分が先にやってみたいようだ。
エリノラ姉さんは台の前に移動すると、こちらに振り返る。
「これ、どこから投げるの?」
「うーん、五メートルくらいがちょうどいいかな」
俺も近付いて台との距離感を計る。
あまり近すぎても、離れすぎてもいけないしこのくらいが丁度いいだろう。
「ちょっと近いんじゃないの?」
「最初はこれぐらいがいいって。簡単だったらもっと後ろからやればいいだけだよ」
俺がそう言うと、とりあえず納得はしたのかエリノラ姉さんは五メートル離れた所に位置どる。
「じゃあ、五回投げていいよ」
公式なルールであれば九回ずつ投げたり、縦に揃えるように入れれば十五点などの細かいルールがあるようだが、今回は簡単なものにする。
九回ずつも投げると長いしね。
「じゃあ、やってみるわ」
エリノラ姉さんは輪っかを一つ持つと、水平にして飛ばす。
安定しながら飛んだ輪っかは、左上にある一点のマスに当たって弾かれた。
「ああっ! 弾かれた!」
「そりゃ、そんだけ勢いよく投げれば弾かれるでしょ」
手裏剣とかフリスビーじゃないんだから、そんな風に強く投げれば弾かれるに決まっている。
輪っかを投げることから、手首でスナップを効かせればいいと思いがちな輪投げであるが、実はそれは間違い。
身体の中心線の前辺りで持って、押し出すように投げるのがコツだ。
「そ、そう。じゃあ、次はもう少し加減して投げるわ」
さっきの失敗を踏まえて、エリノラ姉さんが加減をしながら投げる。
とはいえ、先程と同じく手首のスナップが効いているのは同じ。
輪っかは柱に当たらずに、何もないところに当たって弾かれた。
「あははは、自信満々にしていた割には外してるじゃん」
「……ねえ、もっと遠くからやってもいい?」
俺の挑発に地団太でも踏むかと思いきや、エリノラ姉さんは冷静にそう告げてきた。
「ええ、別にいいけど?」
遠くになれば的との距離が離れる上に、輪っかが大きく空気抵抗を受けることになるので難しくなる。遠くから投げることに意味などないはずだけど。
俺が疑問視している間にエリノラ姉さんは遠くへ離れる。
距離にして二十メートルはありそうだ。
そんな遠くから投げて入るものなのだろうか。
そんな疑問を抱いていると、エリノラ姉さんが先程同じモーションに入る。
凛々しい表情を浮かべながら、右手に持った輪っかを手首のスナップを効かせて飛ばす。
鋭く放たれた輪っかは、空中でふらつくことなく飛んで左上の一点の柱にストンと入った。
「入ったわ!」
「はぁ、なんだそりゃっ!?」
「何よ? 数字の書いているマスの柱に入れればいいんでしょ?」
「う、うん、そうだけど……」
俺の知っている輪投げと違う。
「あんな遠くから投げて入れるのは難しそうね」
「僕が投げても届かない気がする」
エルナ母さん、シルヴィオ兄さん、誤解しないで。
あれは正しい輪投げじゃないから。
「とにかく、これで一点ね! 次は得点の高い九点を狙うわ!」
エリノラ姉さんが右下にある九点を狙って、輪っかを投げる。
下手すれば地面や、他の柱に当たって弾かれてしまうかもしれない難しい場所。それでもエリノラ姉さんは綺麗に入れた。
そして、三つ目、四つ目と同じように入れていく。
まるでサーカスの曲芸でも見ているようだ。
手首のスナップを効かせてコントロールする方がよっぽど難しいはずなのに。
そして、最後の一投。
エリノラ姉さんの手から放たれた輪っかが真っすぐに飛んでいく。
そして、またもや見事に入るかと思いきや、既に収まっていた輪っかのせいか弾かれてしまった。
「あーもう! なんで弾かれるのよ!」
「遠くから投げると自然に威力も強くなるからね」
地団太を踏んで悔しがるエリノラ姉さん。
最後に入らなかったのが余程悔しいらしい。
輪投げを一番舐めていたようだが、やってみれば見事にハマっている様子だな。
「エリノラ、あなたが獲得した点数は何点かしら?」
エリノラ姉さんを見て苦笑していると、エルナ母さんが突然の計算問題。
「えっ…………二十八点よ」
「今、結構間が空いたわね?」
「きゅ、急に聞かれたからビックリしただけよ!」
にしては、結構な間があった気がするな。
エルナ母さんジトッとした視線を向けられて、少し焦り気味なエリノラ姉さん。
「じゃあ、次は俺の番だね」
エリノラ姉さんが五回投げ終わったので、次は俺の番だ。
とはいえ、柱に輪っかが残ったままだと邪魔なので、サイキックでそれを回収。
どこかそれを触りたそうにしているシルヴィオ兄さんに渡した。
すると、ソワソワしながら傍にいたノルド父さんやエルナ母さんも、こぞっと輪っかを触り出した。
大の大人が興味津々に輪っかを持っている様子が微笑ましいな。
準備ができると、俺は台から離れた五メートルの位置へ。
ここを基準とするために足で線を引いておく。
すると、後ろにいるエリノラ姉さんから不満そうな声が。
「そんな近くから投げるの?」
「普通はこのくらいの距離から投げるもんなんだよ」
バカみたいに遠投で入れるエリノラ姉さんがおかしい。というか、俺の提案する輪投げはそんなものではない。
右足を台に向けて、体の中心線の前で輪っかを持つ。そこから少し斜め上に向かって押し出すように放り投げる。
すると、俺の輪っかはふわっと飛んでいき、九のマスにストンと落ちていった。
後はそれを四回繰り返すだけ。
俺が放り投げると、全ての輪っかは吸い込まれるように九のマスに落ちた。
「はい、全部で四十五点。俺の圧倒的な勝利だね」
ふっ、昔から露店では輪投げばかりを極めて、玩具を確保していた俺だ。
運動神経がエリノラ姉さんよりも劣るが、輪っかを投げてきた経験というものが違う。
ドヤ顔を浮かべていると、エリノラ姉さんがこちらに詰め寄ってきた。
「ちょっと何よそれ! そんな簡単に入っちゃっていいわけ!? またサイキックとか使って小細工してるんでしょ!」
「使ってないよ。これが俺の実力だから」
まったく、魔法の力だと疑われるなんて悲しいものだ。俺は普段から正々堂々と勝負しているというのに。
「えいっ! あら、綺麗に入ったわ。六点よ」
「お、僕も。五点だ」
「あはは、僕は弾かれちゃった」
傍を見れば、エルナ母さん、ノルド父さん、シルヴィオ兄さんが輪投げをしている。
楽しそうにやっている限りでは反応は悪くない。
むしろ、輪っかを投げては取りに行って、どちらが多い点数が取れたか和やかに競い合っているようだ。
「輪っかを柱に投げるだけなんて最初は楽しさがわからないと思ったけど、こうやってやってみると意外と楽しいものだね」
「数字の計算も自然と身に着くし、村人の教養を上げる意味でもいいわ」
「これくらいなら小さな子供でもできるしね」
ふむ、そのような側面もあることも確かだな。
やはり、前世でも根強くあった遊びなので、様々な良さがあるのだろうな。
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