催し物のアイディア
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トールの家から戻り、リビングのソファーで紅茶を飲みながらくつろいでいると、ノルド父さんとエルナ母さんが帰ってきた。
「お帰りー」
「アル、ちょっといいかな?」
呑気に挨拶をすると、ノルド父さんがマントを壁に掛けながら言う。
リビングには、エリノラ姉さんやシルヴィオ兄さんもいるというのに俺だけ呼び出しですか? 最近ちょっと多くないかな?
「また俺だけ?」
「どうせアルがまた何かしたんでしょ」
「……いや、エリノラやシルヴィオにも意見を聞きたいし、皆来てくれるかな?」
エリノ姉さんが呆れながら失礼なことを言ったが、ノルド父さんは少し考え込むとそのように言い直した。
ほら、俺は何もやっていない。
そこはかとなくドヤ顔をかましてやると、エリノラ姉さんがテーブルまで移動するとついで俺の頭を軽く叩いていった。
どうして俺が叩かれなきゃいけないというのか。
ここでグチグチと言い合いをしてもエルナ母さんとノルド父さんに怒られてしまう。俺は非難の声を上げることをせずに堪えて椅子に座った。
ノルド父さん、エルナ母さんが対面に座り、子供であるシルヴィオ兄さん、エリノラ姉さん、そして俺が手前側に座る。
家族全員で話し合う時のフォーメーションだ。
「皆も知っている通り、今年の収穫際では他の貴族がやってくる。彼らを楽しませられるような催しを何かやりたいんだけどアイディアはないかな?」
「「「…………」」」
ノルド父さんが本日の議題を言うと、何故か全員の視線が俺へと向かった。
「え? なんで皆俺を見るの?」
「だって、こういうのを考えるのはアルの得意分野じゃない」
「そうだね。リバーシとか将棋とかジェンガ、最近では卓球なんかもあったよね」
「そうかもしれないけど、俺は別に誰かを楽しませようとか思ったことはあんまりないんだけど?」
自分がその時に、それをやって遊びたいから作っただけだ。
自分が楽しく思えるのと他人に楽しいと思わせることは全く別のことだし、難易度も遥かに違う。
「まあ、アルが得意だからといって全てを任せていいわけじゃない。エリノラやシルヴィオも、どんなものがあれば収穫祭がより楽しくなるか考えてほしいんだ」
「こんなものがあれば、もっと楽しいのにって自分で思えることを言ってちょうだい」
ノルド父さんとエルナ母さんの言葉を聞いて、俺達は考え込む。
収穫祭であったら楽しいと思えるものか。
「自分が思うものでいいの?」
数秒ほど経過すると、エリノラ姉さんがおずおずと尋ねた。
「ええ、まずは自分が楽しいと思えないと、他人に面白さは伝わらないと思うからね」
「だったら王都でやってるような武道会をやったら面白いと思う! 腕に自信のある人が戦い合うの!」
すると、エリノラ姉さんは身を乗り出して語り出す。
ああ、エリノラ姉さんのことだから絶対そういうことを言うと思った。
「へー、それも悪くないわね」
年頃の娘が収穫祭であれば素敵なものとして一番に武道会と答えた。
その事実を目の前にしたエルナ母さんは苦笑いをしながら、目の前に置いてあるメモに一応記した。
「でも、扱う武器の差によってハンデがあるわね。剣術部門と魔法部門とかに分けるべきかしら?」
エリノラ姉さん、ここはコリアット村だよ? ほとんど農民なのに出場する人が集まるわけないじゃん。
王都のように騎士や衛兵、冒険者が多く在住している訳でもないし、人口のほとんどは農民だ。魔法部門に至っては出場者がいるかどうかも怪しい。
「まあ、そういう細かいところは色々案が出てから考えましょうね」
「……わかった」
エルナ母さんがそう言うと、エリノラ姉さんは不服そうにしながらも座る。
よっぽど、武道大会とやらをやってみたいらしい。
でも、コリアット村は平和で、戦いとかとは無縁だからそういう剣術による対決を見たいと思う人もいかもしれないな。
「シルヴィオは何かあるかな?」
「んー、僕は料理かな? 屋敷ではアルやバルトロが色々な料理を開発してくれているけど、村人はそのほとんどを知らないみたいだし。唐揚げなんて屋台で出したら喜んでくれると思う」
「なるほど、それは一理あるわね」
シルヴィオ兄さんの意見に感心しながらメモをするエルナ母さん。
そのメモをよく見ると、串揚げ、天ぷらもさり気なく書かれている。自分の食べたいものまでちゃっかり追記しているな。
にしても、さすがはシルヴィオ兄さんだ。
確かに祭りといえば、食べ物による屋台がかかせない。特別な催し自体なくても、屋台の料理さえ美味しければどうとでもなる気がする。
「甘味! 甘味もお願いしま――ふぐっ!?」
感心していると部屋で控えているミーナが興奮した様子で叫び、隣にいるサーラが口を塞いだ。
「いいわ、村人であるミーナの意見も参考になるし聞かせてちょうだい」
エルナ母さんがそう言うと、サーラがミーナの口から手を離す。
「プリンやミルクジェラート、揚げパン、パン耳スティックなどの甘味もお願いします! 村人は甘味に飢えているんです! というか、私達だけで食べていたら殺されちゃいます!」
どこか鬼気迫った表情で語るミーナ。
殺されてしまうとはどういうことだろうか。まさか村人が甘味を羨む余り暴動を?
「それはミーナが不用意に食べたことを自慢するからですよ」
「だって、あんなに美味しいもの食べたら自慢したくなっちゃいますよぉ」
サーラの突っ込みで大体状況は理解できた。
屋敷で食べたものをミーナが村で自慢しまくったのだろう。
そして、周りにいる家族や村人に収穫祭では甘味などを振る舞えと圧力をかけられているらしい。
「お願いします! 私の無事のためにも是非甘味の販売を!」
「そうね。全部を売れるかはわからないけど、屋敷で開発したいくつかを売り出してみましょうか」
「そうだね。収穫祭でしか食べられないようなものがあれば、より収穫祭が楽しみになるだろうし」
「ありがとうございます!」
シルヴィオ兄さんの提案とミーナの嘆願は受け入れられて、前向きに進むようだ。
エルナ母さんとノルド父さんさえ頷けば、大概何とかなる。
「はぁ、これで皆に殺されずに済みます」
「これからは不用意に食事のことを喋らないことですね」
ホッと息を吐くミーナに、忠告をするサーラ。
相変わらずどっちが先輩でどっちが後輩なのかわからないな。
「アルは何かあるかい?」
そんなことを思っていると、ノルド父さんがどこか前のめり気味に聞いてきた。
その表情を見ると、何か面白いことを考えてくれるのではないだろうか。そういった期待で満ち満ちている。
うん、一応考えならある。
元々収穫祭は屋台が出たり、催し物があったりして祭り的な側面が強い。
だったら、前世であったような夏祭りを再現してやれば纏まりもあって面白くなるだろう。
「じゃあ、食べ物は勝手に増えるだろうから別のものを。輪投げ、小魚すくい、キックターゲット、投球ターゲット、後は夜になったら魔法で花火とか――」
「待って待って。聞いたことのない催しが多すぎるよ!」
「……想像していたよりもポンポンと出てきたわね」
メモをとりながらエルナ母さんがどこか呆れている。アイディアを出せと言われたから出したというのに理不尽な。
「ねえ、キックターゲットと投球ターゲットって何よ?」
「僕は輪投げと小魚すくいが気になるかな」
身体を動かすのが好きなエリノラ姉さんはピンポイントでそれらに興味を示し、温厚なシルヴィオ兄さんは比較的に軽いものに興味を示した。わかりやすい。
「とにかく、一つずつ説明してくれるかな?」
えー? これ全部説明していくの? それはちょっと面倒くさいなぁ。
だけど、口に出してしまった手前、説明するのが面倒臭いとは言えないよな……。
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