とびっきり可愛い子
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トールの家に入って、リビングにある椅子に座るなり俺は告げた。
「……よし、おでこを出して二人共」
「「え?」」
「俺の名前を悪用した罰」
「「うえー」」
俺がハッキリとそう言うと、トールとアスモは露骨に顔をしかめ、おでこを出すどころか遠ざけた。
大人しく差し出さないならば、こちらからやりに行くまでだ。
俺は指でデコピンの構えをしながら指先で魔力を集める。そして、小さな透明状の球体を作ると、指を弾いてそれをトールとアスモのおでこにぶつけた。
「いてぇ! なんだ!?」
「な、なんか、衝撃が……」
弾いたそれがおでこに当たったのか、トールとアスモがうめき声を上げる。
これは無魔法のショックボールという初級の魔法だ。魔力を球状に圧縮して、それを解き放つもの。今まで使ったことはなかったが、意外と便利だな。
「俺の名前を語ってサボるのはちょっとやり過ぎだよ」
「……すまねえ」
「ごめん」
貴族の名前を語るのは、ちょっと悪ガキとしてのラインを越えている気がする。
さすがにその辺りの分別はついて反省しているのか、トールとアスモも素直に謝る。
何だかこいつらが素直に謝る姿は気持ち悪いな。ミュラさんやドロテアさんから相当厳しく怒られたのだろうな。
別に俺はそこまで気にしないけども、スロウレット家もそこまでのことをされると罰しなくてはいけなくなるからな。
「まあ、俺はそこまで気にしないけどね。どうせやるならバレないようにしてよ」
「お、おお! そういえば、アル! 領主様が言ってたけど、今年の収穫祭は貴族がくるんだよな!?」
俺が重い空気を振り払うように茶目っ気を効かせると、トールが身を乗り出して聞いてくる。
なるほど、今日俺をここに呼び出したのはその話を詳しく聞きたいがためか。
「そうだよ。シルフォード家、リーングランデ家、ミスフィード家から来る予定」
「おー、すげえな! 俺達貴族に初めて会えるな!」
「うん、そうだね」
「おい、ちょっと待て。貴族なら正真正銘目の前にいるでしょ」
俺がそう突っ込むとトールとアスモが元気に笑う。
これ、冗談とかではなく割と本気でそう思ってそうだから怖い。
「でよ、そのやってくる貴族ってどんな奴なんだ?」
「一人は俺達とほぼ同い年の男で、エリック――」
「バッカやろ! 男のことなんてどうでもいいんだよ! 令嬢のことだ!」
まずはとばかりにエリックのことを紹介しようとしたら怒られた。どうやら野郎のことなど眼中にはなく、女子について聞きたいらしい。
この女子について必死に探ろうとする感じ……飢えた男子高校生のような空気だな。
まあ、俺が逆の立場であれば令嬢が村に来るとなれば気になるしな。うちの姉であるエリノラ姉さんは令嬢にカウントできないし。
そんなことを言ったら、トールが噛みついてきそうなので黙っておくけど。
「はいはい、令嬢ね。それなら三人ほど来るはずだよ」
俺は頭の中でルーナさん、アレイシア、ラーちゃんを思い浮かべながら言う。
ナターシャさんは夫人なので、除外しても構わないだろう。
「可愛い?」
今度はアスモが真剣な眼差しで尋ねてくる。
ラーちゃんであれば、可愛いと即答できるが、ルーナさんとアレイシアを可愛いと評するのは違う気がする。あの二人は綺麗系だからな。
「とびっきり可愛いのが一人、綺麗なのが二人だ」
「「おー!」」
俺の言葉を聞いて、トールとアスモが顔を見合わせて喜ぶ。
「アル、俺達親友だよな?」
「親友の友達は俺達の友達でもある」
こちらに回り込んで肩を組んでくる二人。
こいつら、令嬢を紹介しろと言っているのだろう。
「……ごめん、喉が渇いたな」
「はい、果実ジュース!」
「ちょっとツマミが欲しい」
「ほいよ! クルーマメの塩炒めだ!」
俺が勿体ぶって注文つけると、アスモが果実ジュースを、トールが用意していたのかツマミを持ってくる。
こいつら、事前に打ち合わせでもしていたのだろうか? まったく無駄のない動きだったな。
二人を眺めながらクルーマメの塩炒めを食べる。
クルーマメ独特の甘みと、振りかけられた塩が絶妙にマッチしている。いい塩加減だ。
一つ食べると自然とまた手が伸びて止まらない。
ここにエールがあれば、本当にいいおつまみとなるだろう。酒が飲めない身体なのが本当に悔やまれる。
ポリポリとクルーマメを食べると、口の中が乾燥してきたので果実ジュースを飲む。
すると、程よい酸味と甘みが口の中を通り抜けていった。
「次は肩をお揉みいたしましょうか?」
「それとも足でも?」
そう言いながらトールが肩を揉んできて、アスモが膝をついてふくらはぎを揉んでくる。
あ、トールとアスモの癖に意外と上手い。上手い故に日頃からやり慣れていることが察せられた。
トールとアスモからマッサージを受けながら、どこの家庭でも弟はそれらのスキルが必須なのだとしみじみと思った。
これ以上、こいつらに世話をされても自分との境遇が重なって虚しくなるだけだ。
「二人の令嬢に会いたい気持ちはよくわかったよ……」
「っ! それじゃあ……っ!」
俺が威厳のある声を発すると、トールとアスモが期待に満ちた表情を向けてくる。
「全員を紹介できるかわからないけど、とびっきり可愛い子は紹介すると約束しよう」
アレイシアやルーナさんはどう行動するかわからない。普通に二人共エリノラ姉さんの所にずっといるかもしれないし、トールとアスモに紹介できるとは限らない。
でも、とびっきり可愛い子であるラーちゃんなら、俺が面倒を見るはずだ。
本当はこのようなラーちゃんの教育に悪そうな二人に合わせたくはないが、ここまで頼まれては仕方があるまい。
可愛い子や綺麗な人がいれば、話してみたいという気持ちは俺もわからないでもないからな。
「さっすがアル! 俺、はじめてお前の親友で良かったと思ったぜ!」
「可愛い令嬢を紹介できるなんて、やっぱり貴族だったんだね」
やっぱり、紹介するのやめていいだろうか? あと、親友も。
「エスコートなら俺達に任せていいんだぜ?」
「いや、それは俺の役目だから」
「ズルいぞ! それよこせ!」
「それが貴族という特権階級の強みさ」
こいつらにエスコートなんてさせるとロクなことにならないからな。
「ちょっと思ったんだけどよ、今年は貴族がくるってのにいつもと同じでいいのか?」
「んー、そこについては考え中みたい。ノルド父さんも、客人が退屈しないようにしたいって言っていたよ」
何せ今年は気難しい公爵家が二人だからな。
子供のラーちゃんや大人びたアレイシア相手では普通の収穫祭をやっていても退屈させてしまうかもしれない。
アレイシアは退屈でも態度や声に出さないかもしれないが、ラーちゃんがうっかりと退屈などと素直な感想を溢しかねない。
そうならないように俺がいるけど何事にも限界というものはある。
勿論、その気になればラーちゃんを退屈させないことはできるが、それは収穫祭とは全く関係ないリバーシやジェンガなどといった室内遊びでだ。
それは収穫祭の時期にやってきた意味はあるのかと言われるかと微妙だしな。
どうせならドール子爵のように、この村の良さを知って楽しんでもらいたいものだ。
「そっか。なんか新しいことができるといいよな!」
「うん、そうだね。毎回同じだと俺達も飽きるし」
ちなみに今年も恒例のリバーシ大会は開かれる。が、飽きっぽい子供にとっては新しいものはいくつでも欲しいもの。
「まっ、どうなるか知らねえけど、何か面白いことするなら教えてくれよな」
「わかった」
『ちょっと仕事辞めて実家に帰る~田舎ではじめる休活スローライフ』
カクヨムで現代スローライフの連載をしています。そちらもよろしくです。
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転スロ、次の更新は日曜日までに一回はします。




