アルがやってきた。一回仕事休み
NSTARで連載中の『おいでよ魔物牧場!~田舎ではじめるまったりスローライフ~』が書籍化します。
レーベルはMFブックスで発売日は2月25日。イラストレーターはかぼちゃ様です。
Amazonでも予約はじまっていますので、よろしくお願いいたします。
朝食が終わって二階に上がろうとすると、玄関を通りかかったミーナが声をかけてきた。
「あ、アルフリート様! 昨日トール君からお誘いがありましたよ! 家にきてくれーって」
昨日、ノルド父さんやエルナ母さんは収穫祭で貴族がくる故に、村長に説明や、村人へ注意を促しにいった。
ミーナもその時に付いていっていたので、その時にトールが言ったのだろう。
「へー、日程は?」
「今日です」
昨日誘って今日とは、あいつは俺のことを暇人だと思っているのではないだろうか。
まあ、時間に都合はつくからいいけど。
「時間とかは?」
「えーっと、聞く前に走り去ってしまったので……」
俺が尋ねると、ミーナが苦笑いしながら答える。
トールの事だ。適当に用件なり押し付けるなり、それで満足してしまったのだろう。
時間を指定していないということはいつでもいいということか。
だけど、遅くに行って文句を言われるよりも早めに行った方がいいだろうな。その方がトールも仕事を多くサボれるだろうし。
「わかった。それじゃあ、今から行ってくるよ」
「わかりました! いってらっしゃいませ!」
俺は二階へと上がるのをやめて、ミーナに見送られながら外に出る。
屋敷の庭に出ると、心地いい日差しが差し込んでくる。
少し前まではギラギラと焼き付けるような日差しであったが、九月を半ばに向かえたお陰か、それはとても穏やかなものになっている。
これならまだもう少し半袖でも大丈夫そうだな。だけど、寒がりな人によっては、早朝や夕方になると羽織ものが欲しくなる感じだな。
気温で季節が少しずつ移り変わっていくのがわかる。
綺麗に手入れされた中庭を通り抜けて、門を潜り抜けると一本道へ。
暑くもなく、寒くもないちょうどいい気温。やはり秋というのは素晴らしいな。
毎日の気温に一喜一憂することなく、安心して外に出られるのだから。
草原からは今日も気持ちのいい風が吹きつけ、草木がサーッと葉音を立てる。
今はまだ秋の始めだから、道端には鮮やかな花々で溢れている。
しかし、秋が深まり、徐々に冬に近付いていくにつれてそれらは枯れてしまう。
時が進むと、しばらくはこの綺麗な花々がしばらく見られなくなる。
それは少し残念であるが、季節は止まってくれたりしない。
だが、秋や冬にはそれぞれの良さがあるし、また春になれば花は芽吹いてくれる。
そうやって一年は過ぎ去っていくものだ。
変化があるからこそ日常は楽しい。
だけど、しばらく見られなくなってしまうのは寂しいので、今のうちにしっかりと目に焼き付けておかないとな。
景色や花々を観察しながら歩くと、徐々に黄金色に染まってきた麦畑が見えてきた。
もうすぐ収穫できるとあってか、それらを管理する村人もチェックに余念がないのだろう。
秋の収穫祭はゆっくりとだが近付いてくる。
一年の一度のお祭りとあってか、村人達の期待感も高い。
だが、それとは別に今日は浮ついた空気感があるような気がした。
畑の傍の木の下では、ローランドやウェスタといった男達が集まっている。
『やべえな、今年の収穫祭は貴族様がくるらしいぜ? しかも、令嬢! むさ苦しい男じゃないらしい!』
『マズいな、俺求婚とかされたらどうしよう? 貴族になるってことだよな?』
『あり得ないから安心しろって。お前が貴族になれるなら、とっくに俺は王族だ』
『んだよ? ちょっとくらい夢見てもいいだろうが。嫁がいるからといって調子に乗りやがって……』
なるほど、どうやら貴族が収穫祭にくると聞いて、村人達はその話題で持ち切りのようだ。
情報が回ったのは昨日であるが、さすがは田舎だけあって巡るのが早いな。
とはいえ、ウェスタ。やってくる令嬢は四歳と十二歳辺りだぞ? 手を出したら犯罪なんじゃ……いや、早期結婚が望まれるこの世界ではおかしなことでもないか。
とはいえ、どちらも有名な公爵家。間違ってもお前が求婚されることはないだろうな。
そんな事をしり目に思いながら、俺はトールの家に向かった。
◆
「おっ! さすがアル! お前なら俺の意図を組んで朝に来てくれると思ったぜ!」
トールの家の近くの畑を歩いていると、こちらに気付いたトールが大喜びで声を上げた。
案の定、仕事をやっているだろう朝に向かうと喜ばれた。
「あっ、アルフリート様、おはようございます」
トールの喜びように若干複雑な思いを抱いていると、エマお姉様が声をかけてくれた。
涼し気な青い髪をなびかせて笑顔を浮かべるエマお姉様が、今日も眩しい。
とはいえ、見惚れる前に挨拶だ。
「おはようございます、エマさん。今日は畑仕事ですか?」
「はい、今日は自警団の稽古も休みなので、畑仕事を手伝っています」
「自警団の稽古も大変で休日なのに、家の仕事を手伝うだなんて偉いですね」
エリノラ姉さんなんて稽古がないと、勝手に自主練をするか、俺やシルヴィオ兄さんを巻き込むかだ。もう少しエマお姉様を見習ってノルド父さんの仕事を手伝うとかして、大人しくしていてほしいものだ。
「いえ、そんなことは。畑を手伝うのは家族として当然ですよ」
「……嘘つけよ。サボろうとして、母ちゃんに尻叩かれた癖――いってぇっ!?」
トールが何かブツブツ言ったかと思えば、突然謎の奇声を上げ始めた。
「トール、お尻に泥がついているわよ? アルフリート様の前なのだし、もう少しちゃんとしないと」
「お、おう、そうだな」
優しいエマお姉様に諭されて、トールは慌てて土をパンパンと落とす。
確かに農作業をしていただけあってか、少し土がついていたからな。
それに比べてエマお姉様はほとんどついていない。
きっと、トールがバカみたいに叫んで接触してくる前に、衣服を叩いて土を落としていたのだろう。道理でエマお姉様の挨拶がワンテンポ遅れたはずだ。
さすがはエマお姉様、エリノラ姉さんよりよっぽど女子してる。
「ってことで、アルが来たから仕事は任せるな」
何となくもう少し会話をしたくて口を開こうとしたが、トールがそれを遮るように言う。
おい、こいつ何だよ。久し振りにエマさんに会ったから、もう少し会話を楽しみたかったのに。
「ええ、わかったわ。アルフリート様、何もない所ですが、ゆっくりしていってくださいね」
「はい、ありがとうございますエマさん」
こうなっては用件がない以上、会話を続けることもできやしない。
「行くぞアル。アスモを呼びに行こうぜ」
「もうちょっと会話させてくれてもよかったのに……」
「勘弁してくれ。お前が姉ちゃんと会話すると、俺のケツがもたねえよ」
はっ? どうして俺とエマお姉様が会話すると、トールの尻がもたないのだ? まったくもって訳がわからなかった。
疑問に思う間に、トールはせかせかと歩いていく。
「ねえ、俺ってば、別にトールの家で待っていてもいいんじゃ」
「それじゃダメだ。アスモを連れてこられない」
「なんで? 俺がいるってなれば、大概の仕事は免除できるんじゃなかったの?」
俺が訝しむとトールはバツが悪そうな表情をする。
怪しい。これは何かやらかしたな。
問いかけるように視線を向けると、トールは顔を逸らした。
「や、やめろ。その死んだ魚みたいな目で凝視するんじゃねえよ」
「死んだ魚の目とは失礼な!」
しつこく回り込んだ俺も悪いが、そのように暴言を吐かれる謂れはない。
「……お前、俺の名を騙って仕事サボっただろ?」
俺がそう言うと、トールは露骨に体を震えさせた。
「ま、まあ、そういうわけだな」
悪知恵の働くコイツのことだ。俺が遊びにきてもいないのに、遊びにきたといって仕事をサボったのだろう。
そして、何度かそれを繰り返すにつれて、ミュラさんやエマお姉様にバレたということだろう。本当にコイツは悪ガキだな。
「アスモの畑に着いたぜ! おーい、アスモ!」
俺が呆れの視線を向けていると、トールが空気を変えるように言った。
まあ、いいや。トールだし許してやろう。
トールの指さす畑に視線を向けると、そこにはアスモやシーラさんの姿が見えた。
どうやらこちらも姉弟で畑仕事の真っ最中のようだった。
「おっ、もう来てくれたんだ。ってことで、姉ちゃん。俺はトールの家に行くから」
「むー! アスモだけズルいー! 私もエリノラ様呼んで仕事サボりたい~!」
アスモが雑草抜きの手を止めて手袋を外すなり、シーラさんが頬を膨らませて八つ当たりのようにブチブチと雑草を抜く。
「俺は仕事を休むための便利アイテムじゃないんだけどね……」
「ま、まあ、これで三人そろったし家に行こうぜ!」
「う、うん、そうだよ! 今日のために木の実とか採ってきたし!」
俺はどこか微妙な気分を味わいながら、トールの家に向かった。
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