姉弟の交渉
コミカライズ19話公開されました。詳しくはこのマンガがすごいWEBで!
エリノラ、エマ、シーラと山にピクニックに行く話です。
「ねえ、今年の収穫祭はシルフォード家以外にも貴族がくるって耳にしたんだけど本当?」
エルナ母さんとノルド父さんから今年の収穫祭は貴族がくる。
そんなことを聞いて、自室で面倒だなーと考え込んでいるとエリノラ姉さんがノックも無しに部屋に入ってきた。
その後ろにはシルヴィオ兄さんが苦笑いをしながらも続く。
どうやらノックを咎める間もなかったようだ。
エリノラ姉さんにもはやノック云々は咎めまいよ。
「エルナ母さんとノルド父さんから聞いてないの?」
「貴族がくるってことしか。二人とも軽く話すなり急いで外に出て行ったわ」
「うん、詳しくはアルに聞いてくれって……」
別に俺よりもエルナ母さん達に聞けばいいと思ったのだが、どうやら二人共出かけてしまったようだ。
多分、貴族がくることになったから、村長の家に行ったり、情報を周知することにしたのだろうな。
去年は貴族がいることは伏せ気味だったけど、今年はそうはいかない。
何よりも公爵家が直々にやってくるのだ。
ノルド父さんの友人である、メルナ伯爵やユリーナ子爵のようになぁなぁにはできないだろうな。
公爵家を不快にさせないような配慮が色々と必要だ。
色々と準備とか大変そうだけど、俺にできる仕事はほとんどないだろう。
「そうだよ。ミスフィード、とリーングランデ公爵家だって」
「うええ!? どっちも公爵家じゃないか」
「……あんた何をしたのよ?」
俺がきっぱりと答えてやると、シルヴィオ兄さんが驚き、エリノラ姉さんがジットリとした目を向けてくる。
「どうして、俺が何かした前提なの?」
突然、公爵家がやってくる。それを聞いて驚くのは無理もないが、俺が何かしたかのように疑うのは止めてほしい。さっきもエルナ母さんとノルド父さんに問い詰められたばかりだ。
「だってこういう事が起きる時って大概アルのせいじゃない。シルフォード家に行くことだったり、ドール子爵がやってきたり」
そう言われると確かにそうだった。
こういう突然の出来事が起きる場合は大概俺が絡んでいる。俺としては別にそのようなつもりは全くないのに。
「いや、でも、エリノラ姉さんだってブラムの件を俺に擦り付けたりしなかった?」
「一回だけだし、それはもう終わったことよ」
「ズルい!」
「まあまあ、具体的には二つの公爵家の誰がくるのかな?」
俺とエリノラ姉さんがそんな言い合いをしていると、シルヴィオ兄さんは諫めるように間に入ってくる。
俺は手紙を読んだ限りで、推測できる人物の名を上げる。
「アレイシアとラーちゃん」
「「ラーちゃんって誰?」」
「……ラーナ嬢です」
王都の時でも、ラーちゃんと呼んでいたから素で出てしまった。
「ふうん、そっちは知らないわね。シルヴィオは?」
「シェルカさんの話しなら噂でなら聞いたけど、ラーナ様は知らないね」
どうやら二人共ラーちゃんの方がご存知ではないらしい。
「俺が王都の交流会に出た時が、顔見せみたいだったからね」
ラーちゃんは四歳。もう、五歳になっているかもしれないが、まだまだ幼い。
エリノラ姉さんやシルヴィオ兄さんが知らないのも無理はないだろう。
「というか、シルヴィオ兄さん、シェルカのことは知ってたんだ」
「まあ、ミスフィード家は魔法の名門だからね。その中でもシェルカ様は飛び級で魔法学園に入学を果たしたから結構有名だよ」
パンツを見られて魔法をぶっ放してくる危険な女で腐女子だったが、アレでもかなりの有名人であるらしい。
思い出して感慨深く思っていると、エリノラ姉さんが口を開く。
「そんなことよりも、問題は誰が誰の面倒を見るかよ」
なるほど、それが一番気になっているという訳か。
俺もその事について、どうするべきか悩んでいるところだった。
こういう事は押し付けられる前に、早いこと意見を言ってしまう方がいい。
「じゃあ、俺とシルヴィオ兄さんでエリックとラーちゃんの相手をするよ。エリノラ姉さんはルーナさんとアレイシアをよろしくね」
「えー、あたしアレイシア苦手なんだけど……」
順当な提案のつもりだったのだが、エリノラ姉さんは露骨に嫌な態度を見せた。
苦手って女子でいう嫌いっていう意味合いだよね? と、問いたいけれど俺としてもその気持ちはわからないでもない。
アレイシアはとても綺麗な人で物腰も柔らかいが、どこか腹に一物あるというか本音が見えてこないんだよな。
エリックやらトールやらアスモだったり、性根が腐っていてわかりやすい奴等を相手にしている俺からすれば非常にやり難い。
「ルーナから聞いたけどエリックの好きな人なんでしょ? そっちに混ぜてあげた方がいいんじゃないの?」
エリノラ姉さんはあくまで善意としてアレイシアを押し付けてくる。
というか、ルーナさん。エリックの大事な情報を教えちゃっていたんですね。お陰でエリノラ姉さんが珍しく知恵を利用してきている。
「でも、エリノラ姉さんやルーナさんの方が年齢近いよね? それにエマさんとかシーラとも行動するだろうし、同性が多くいる方がいいんじゃない?」
アレイシアの年齢を具体的には知らないが、多分十二歳から十四歳くらいだと思う。
だとしたら、ほぼ同じ年代であるエリノラ姉さん達と一緒の方がいいはず。
そう、あくまで俺は女子を慮っているだけだ。別にどう扱っていいかわからないから押し付けているわけではない。
実際その方が女子も喜ぶものではないだろうか。
俺が逆の立場であれば、あまり親しくない異性のグループよりも無難に同性のグループを選ぶ。
「そうかしら? 女子の場合は親しくもないと一緒にいるのは辛いものよ? 男子と違ってすぐに仲良くなれるわけでもないし」
エリノラ姉さんの切り返す言葉には、どこか重みがあった。エリノラ姉さんも女子同士だと苦労したりしてるのだろうか。
まあ、実際男子と女子では仲良くなる難易度が違うと思う。
男子なんて適当にバカなことをしたり、下ネタを言っていればいつの間にか友達になっているから単純なものだ。
とはいえ、俺だって異性のアレイシアの相手をするのは疲れる。
ラーちゃんと違って、なぁなぁで済ませられるものでもないし。
「んー、だったらその時に本人に選ばせてみるのはどうかな? 結局は本人がいたいところにいるのが一番だろうし」
しばらく悩み込んでいると、シルヴィオ兄さんが提案をしてきた。
なるほど、それもそうだな。相手は公爵だし、好きな方を選ばせてあげるのが一番いい。
向こうが決めたのなら、俺とエリノラ姉さんも遺恨を残すこともなく割り切れる。
「わかった。それにしようか」
「まあ、あたしもそれでいいわ」
「それじゃあ、アレイシア様の相手は、その時に選んでもらうってことで」
シルヴィオ兄さんが決まりとばかり手を打つと、エリノラ姉さんは用が済んだのか部屋から出て行った。
「さすがはシルヴィオ兄さん、話を纏めるのが上手いね」
「そ、そうかな?」
俺が褒めると、シルヴィオ兄さんは照れくさそうに笑う。
互いの落としどころを上手く見つけて、そこへと持ち運んでいる。
これが領主としての資質というやつだろうか。
「エリノラ姉さんは嫌なものは嫌と言う。俺は面倒事を嫌がる。……うん、スロウレット領を継ぐのは、やっぱりシルヴィオ兄さんだね」
「……わかっていたのなら、もうちょっと歩み寄ってよ」
きっぱりとそう言うと、シルヴィオ兄さんがどこか疲れた声音で答えた。
問題を理解はできてはいても、譲りたくない気持ちもあるのだ。
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